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Volume 05, No.2 Page 127

6. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTER FROM SPring-8 USERS

SPring-8利用者懇談会からのお知らせ
From the SPring-8 Users Society
新サブグループ「コヒーレント軟X線」の立ち上げについて
The Introduction of the Subgroup; Coherent Soft-X-ray

宮原 恒昱 MIYAHARA Tuneaki

東京都立大学大学院 理学研究科 Department of Physics, Tokyo Metropolitan University

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 標記のサブグループは、近い将来、長直線部分に30m級の軟X線アンジュレータが建設されることを展望して作られたサブグループです。蓄積ビームのエミッタンスは低エネルギーの軟X線の回折限界に近いことから、このアンジュレータ光は特にコリメートしなくても1次コヒーレンスが十分にあると予想されます。またバンチのピークに対応したピーク・ボーズ縮重度は103 を越えることが予想されます。また、将来もし適当な変換物質が見つかれば、ボーズ縮重度を一桁くらい犠牲にしても全コヒーレントに近い軟X線が得られるかもしれません。
 本サブグループでは、ほぼ完全な1次コヒーレンスと高いボーズ縮重度を生かした研究計画について議論しています。今まで議論されてきた利用計画の提案の主なものは以下の通りです。
①バルク敏感軟X線角度分解光電子分光(微少スポットにより角度分解能を飛躍的に向上させる)可能ならばスピンも分解する。
②非線形量子光学(複数ビームの変調により、誘導ラマン効果、多光子励起などの非線形効果を検出する)
③発光分光(これまで微弱で検出不能であったものにチャレンジする)
④レーザーと放射光を組み合わせた分光研究
⑤多光子光電子分光(電子状態の局在性・遍歴性の定量的評価)
⑥光子統計の評価と多光子相関実験

 光源は非対称8の字アンジュレータを用いて種々の偏光状態を得られるようにすることが検討されています。このとき偶数次の光は近似的に円偏光になります。
 ビームラインとしては結晶分光器のライン1本の他に回折格子分光器を用いたライン2本(そのうち1本はTrichromator)を建設することが検討されています。後者は3種類の異なる光子エネルギーの光を供給するもので、それぞれのスポットをピエゾ素子をもちいて試料上で重ねたりずらしたり変調して、わずかな非線形効果を抽出する実験方法にも利用されることを展望したものです。
 このような高輝度光の利用には、多くの場合、顕微鏡的な光収束技術が要求されますが、ゾーンプレートを用いる方式と、ミラーを用いる方式の両方が検討されています。
 試料上で小さい光スポットに収束するので、複数の装置の入れ替えにはミクロンオーダーの再現性を要求されます。そのため、アンジュレータのギャップ開閉に用いるような高精度・高耐荷重のリニアガイドで装置を移動することも検討されています。装置の入れ替えは別のブランチが光を利用しているときに行えるので、つなぎの短管部分だけの真空立ち上げが必要ですが、PFなどで従来しばしば行われていた(架台のボルトを数人で回しながらの)軸あわせなどがほとんど不要になることを目指しています。
 回折格子のラインはそれぞれ3種類の実験装置の常駐が可能と見積もられていますが、リニアガイドを用いたそれらの装置移動によって、臨時に別の装置を設置する空間をつくることも可能になるような配置が検討されています。
 現在、サブグループのメンバーは35名程度で第1回の会合を昨年12月3日と4日に持ちました。これからも多くの提案を歓迎したいと思います。また、実際の設計に入るには実働部隊が必要です。仮に、回折格子分光器ビームラインが2本、装置を6種類作るとするとかなりのマンパワーが必要ですのでサブグループへの積極的参加をお願いします。


宮原 恒昱  MIYAHARA Tuneaki
東京都立大学大学院 理学研究科 物理学専攻 
〒192-0397 東京都八王子市南大沢1-1
TEL:0426-77-2494 FAX:0426-77-2483
e-mail:miyahara@comp.metro-u.ac.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794