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Volume 05, No.2 Pages 76 - 77

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

SPring-8の産業利用への取り組み
Promotion of the Industrial Use at SPring-8

(財)高輝度光科学研究センター 企画調査部 JASRI Planning Division

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 SPring-8による利用研究の成果は、21世紀の新産業の創出に貢献するものとして強く期待されており、このため、国内の大学、国公立試験研究機関のみならず産業界による共用ビームラインの利用を促すとともに、産業界による専用ビームラインの設置が進められることが必要である。産業界による専用ビームラインとしては、平成11年度に2本が稼働し、産業用専用ビームライン建設利用共同体の構成企業13社による利用研究が進められている。しかし、共用ビームラインを利用する研究については、応募及び選定された課題に占める産業界の割合が大学等と比較して低く、その改善についてJASRIとしても努力を重ねてきた。例えば、SPring-8を十分利用できていない理由の一つとして、競争的環境下では、各企業が、研究内容や結果を他社に知られたくないという考えもあるため、このような懸念に対しては、成果非公開の「成果専有利用制度」を整備して、第4回の利用期間(1999B:平成11年9月~12月)から対応したところである。また、産業界からの利用が少ないその他の理由としては、●放射光利用の経験が少ない、●SPring-8の能力が産業界の研究開発等に適用できるかどうか十分理解されていないということも考えられる。これらに対しては、「ビームライン検討委員会」での検討を経て、汎用性の高い共用ビームラインである「産業利用ビームライン」が11年度の補正予算で認められ、その建設が進められているほか(詳細は、別稿「産業利用ビームライン(仮称)計画」を参照)、平成12年度予算で、産業界等の利用拡大支援の費用としてコーディネーターの新規採用、様々な講習会の開催費用等が計上されており、第2節、第3節で述べる支援の拡大で対応したいと考えている。したがって、平成12年度には、産業界等の利用の拡大に向けたソフト面の整備を図ったうえ実行に移し、ハード面の整備が完了する13年度以降でさらなる進展が図られるものと確信している。
 以下にその概要を示す。


1.大放射光施設における産業利用の現状

(1)APS
 APSでは、産・学が集中的に研究開発を行うシステムCAT(Collaborative Acceess Team)において、特定の研究課題を積極的に推進している。その一つとして、イリノイ州の地域振興策として、産業界のために実験から分析解析を行う専用ビームラインであるCOM-CAT(Commercial CAT)が建設され現在はコミッショニングが行われている。

(2)ESRF
 ESRFにおいては、産業界の利用は全ビームタイムの約25%程度であり、1995年からは産業コーディネーターも配置されている。さらに今後の利用拡大を見込んで産業利用専用の共用ビームラインが建設され、2000年度には供用が開始される予定である。

(3)SPring-8
 SPring-8では、産業界の利用状況は全ビームタイムの4~7%程度とESRFやAPSの20%台と比較してかなり少ない。このことは、産業界利用推進体制が未整備であることを示しており、欧米の状況を勘案すると、ハード・ソフトの充実を図ることによって産業界の利用拡大が見込まれ、将来の大きなユーザーになることが予想される。


2.SPring-8における産業界利用のハード面からの支援

 SPring-8の産業利用の現状を踏まえ、施設者の立場から、共用ビームラインの整備に関する技術的重要事項を検討評価する「ビームライン検討委員会」に対して、利用者層の拡大の観点から「産業界による放射光利用の促進を目指したビームライン」を提案し、ビームライン整備の有用性も含めた検討をお願いした。
同検討委員会において、21本目以降の共用ビームラインの整備に関する検討の中で「産業界による放射光利用の促進を目指したビームライン」の検討も併せて行われ、その結果、平成11年10月4日に、特定放射光施設連絡協議会議長に対して答申が行われた。
 答申の概要は次のとおりである。


【答申の概要】
 SPring-8には一般産業界の利用の促進に適したビームラインが整備されていないことから、産業界のニーズに対応して、初心者の技術習得や様々な研究開発に使用できるような汎用性の高い共用ビームライン、例えば材料の種々の機能を重点的に評価できるビームラインを整備することが有用である。さらに、このようなビームラインを整備することにより、産業界による放射光利用の促進だけでなく、産業界における物性研究分野の進展に結びつくことが期待できる。
 なお、産業界と大学との共同研究も有効であることから、SPring-8において、そのような共同研究を希望する産業界と大学との間に橋渡し役ができる人材を確保・育成することが今後の課題となる。
 さらに、産業界に対する技術サポートだけでなく、他の実験手法を含めた助言ができる人材を確保・育成することも今後の課題となる。



3.SPring-8における産業界利用のソフト面からの支援

 SPring-8において産業界からの利用は、産業界における放射光の応用範囲は広いにも関わらず、大手の半導体・電機メーカー、医薬関連企業など放射光に詳しい一部の企業に偏っている。そこで、ビームライン検討委員会での検討・答申も踏まえ、放射光利用研究を産業界の幅広い分野、研究者に広め、産業界等の放射光利用を促進するために、平成12年度から、国の「特定放射光施設利用研究支援等交付金」を受けて、以下のような、新たな施策を実施することとしている。

(1)コーディネーター、技術的指導員の配置

 産業界のニーズ、企業の研究戦略を熟知し、豊富な放射光研究のノウハウ・経験を生かし産業界との橋渡し役を果たすためのコーディネーターを配置する。コーディネーターの行う具体的な業務は、次の内容で検討を行っている。

①産業界からの利用のコンサルティング
②企業等からの技術的問い合わせ、相談の対応
③放射光利用研究のプロモーション
④放射光の産業利用研究促進のための施策の企画、検討
⑤産業界の発展に有用な放射光利用分野の検討、開拓
⑥産業界のニーズに基づくインフラ整備等のSPring-8への情報提供
⑦他の放射光施設との連携

 また、ビームラインの利用の際に、放射光利用経験の少ない民間企業の研究者に対し、技術的支援、利用研究のアドバイスを実施する技術的指導員も配置する。技術的指導員の具体的な業務は、次の内容で検討を行っている。

①ビームライン利用のアドバイス
②技術的サポート
③利用研究のサポート

(2)講習会、実地研修の実施

 さらに、放射光利用による効能、有用性について、産業界を含み幅広く浸透させるために、講習会、実地研修を行うこととしている。
 講習会は、放射光の基礎から応用研究までの中から適宜テーマを設定して開催する予定である。
 また、実地研修は、放射光の分析性能、効能をビームラインを使って体験する一般研修と、実際に材料を持ち込み、測定データ習得、データ解析を行い、放射光の研究手法を習得する応用研修に分けて行うこととしている。

 以上のようなハード・ソフト両面に渡る整備によって、今後産業界によるSPring-8の利用が拡大し、産業活性化や国際競争力強化の一端を担えればと考えている。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794