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Volume 05, No.1 Pages 23 - 27

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

BL28B2の試験調整運転状況
Trial Run of BL28B2

山崎 裕史 YAMAZAKI Hiroshi[1]、近浦 吉則 CHIKAURA Yoshinori[2]、梶原 堅太郎 KAJIWARA Kentaro[2]

[1](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 ビームライン部門 JASRI Beamline Division、[2]九州工業大学 工学部 Kyushu Institute of Technology

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1.はじめに
 汎用白色偏向電磁石ビームラインBL28B2は平成10年6月の補正予算により整備されたビームラインのひとつである。平成11年第8サイクルにビームラインに放射光が導入され、第9サイクルから供用開始されている。第12サイクルまでは、白色トポグラフィを主目的とした実験ステーションの立ち上げ、周辺装置の整備、および性能評価が行われている。
 本稿では、ビームラインの概要、実験ステーションの概要、準備状況を含めて報告する。


2.ビームラインの構成
 本ビームラインは白色放射光の汎用的な利用を目的としているため、他の単色ビームラインとはビームライン構成が異なっている。ビームラインの仕様の詳細は先の報告[1][1]後藤俊治 他:「平成10年度整備偏向電磁石ビームライン」SPring-8利用者情報Vol.4, No.3 (1999)53-64.を参照して頂きたい。本ビームラインの輸送チャンネルの構成を図1に示す。輸送チャンネル内には分光器やミラー等の光学機器を含まず、非常に簡便な構成になっている。単色ビームラインとの相補的な利用や、実験ハッチ内に各種モノクロメーターを置くことで、更に高度な利用が可能になると考えられる。





図1 ビームラインの構成


 水冷スリットは放射光の形状を整形する機器であるが、放射光による熱負荷対策に重点がおかれている。偏向電磁石ビームラインでも放射パワーは極めて大きく、熱負荷が機器に与える影響を考えればマイクロビームを形成するほどの分解能は期待できない。精密なスリットは実験ハッチ内に設置し、余剰な放射光を水冷スリットで落とすのが現実的な使用法であると思われる。なお、水冷スリットを全開にした場合、実験ハッチ内のガンマストッパの位置におけるビームサイズは縦10mm、横54mmに及ぶ。
 スクリーンモニタは放射光の位置確認用に設置されているが、ビームライン立ち上げ時に数回使用しただけである。本ビームラインには光学素子が含まれないため、放射光が実験ハッチまで導入されない事態は考えにくい。通常はインターロックにより使用が制限されている。
 水冷ベリリウム窓は、輸送チャンネルの真空セクションと大気を仕切っている。図中には示されていないが、ベリリウムの酸化による劣化を防止するため、大気側にヘリウムガスを流し、流量をインターロックにより監視している。水冷ベリリウム窓は実験ハッチ内に設置されているため、付近での作業の際は注意して頂きたい。
 実験ハッチの大きさは光軸方向に7m、光軸に垂直に3mである。ビーム中心の床からの高さは1400mmに設計されている。


3.実験ステーションの概要
 現在、白色トポグラフィを主目的とする実験ステーションの整備が進められている。白色トポグラフィは放射光によるトポグラフィ技術のひとつであり、外部環境の影響による結晶の時間変化等を継続して観察するための有力な手段である。例えば、温度に依存した結晶成長過程や応力場での格子欠陥挙動の観察が挙げられる。熱や応力により回折条件が変化するが、白色光であれば回折条件を満たす条件が存在し、変化に関わりなく容易に観察を継続できるという原理的なメリットがある。この特徴は格子欠陥等の時間変化を観察するのに非常に有利である。
 白色トポグラフィを行うための装置類一式が実験ハッチ内に整備される。図2に示すようにアブソーバー、高速シャッター、前置光学系、およびメイン回折計が配置される。また、回折計の付属品として、高温環境下における試料の観察を行うための高温試料ステージも用意している。各装置の詳細を以下に述べる。




図2 実験ステーション



3-1.アブソーバーと前置光学系
 白色トポグラフィは白色光を入射して試料の変化を測定する。白色光の使用により回折条件に関する制約は大幅に緩和される。しかし、回折にあずかりイメージングに寄与するX線以外は試料に熱負荷を与え、不要な散乱X線の増加はイメージクオリティの低下につながる。また、白色故の高次反射や、高エネルギーγ線対策などの問題も解決すべき課題となっている。したがって、幅広いエネルギー域をもつ白色シンクロトロン放射光から、観察に必要なエネルギー域のX線だけを取り出して、試料に照射する必要がある。このために、実験ハッチ内にはエネルギー帯域選択の機能を有する各種モノクロメーター、アブソーバー等が必要になる。これらは試料や測定条件に応じて選択される。現在、実験に不要な低エネルギーX線は複数のアブソーバーの組み合わせにより除去している。また、希望のエネルギー幅を得るために、シリコン結晶や格子定数の大きな結晶を微小振動させるモノクロメーターを併用している。これにより通常、エネルギー分解能E/ΔEは0.01〜0.001程度になる。振動の振幅を大きく取れば、測定時間が多少増加するが、0.1〜0.01程度も可能であると考えている。加えて、エネルギー分解能0.5を実現するためのW/Si多層膜によるブラッグ反射や透過ミラーの開発を進めている。
 また、微小領域の観察のために、白色マイクロビームを形成するための精密スリットの製作も進んでいる。


3-2.メイン回折計
 メイン回折計の写真を図3に、各軸の名称および仕様を図4に示す。本体は光軸調整架台に乗せられ、回転中心と光軸を一致させられるようになっている。その上に検出器用の2θステージと、試料の回転の第1ωステージが配置されている。試料の方位を調整するための軸として昇降ステージ、XY並進ステージ、二軸スイベルステージがこの順に取り付けられている。これらのステージの耐荷重は100kgであり、図5のように高温試料ステージ等の重量物を取り付けることが可能である。2θステージの上にはχステージ、並進ステージ、第2ωステージがあり、検出器の位置の調整が自由に行える。ディテクターアームの耐荷重は20kgであり、ほとんどの2次元検出器が搭載できる。




図3 メイン回折計




図4 メイン回折計の各軸名称と仕様




図5 高温試料ステージの取り付け



3-3.検出器、高速シャッター
 回折線の観察は2次元イメージング技術により行われるが、時分割測定を行う上でその分解能は重要な要素である。本ビームラインでは0.02秒の時間分解能のX線テレビを用意している。また、高速な時間変化を伴う過程の撮影を行うために、高速シャッターを開発している。シャッターの開閉はロータリーソレノイドにより行う。シャッターの回転の加減速によるX線の照射ムラをキャンセルするために、3段の遮蔽板を使用している。このような設計で、シャッターの開時間は最速0.002秒と見込まれている。
 また、光学顕微鏡とCCDカメラを組み合わせたシステムも整備されており、フィルムや原子核乾板で撮影された像を拡大処理し、デジタルデータとして保存・加工することも可能である。


3-4.高温トポグラフィ試料ステージ
 X線トポグラフィ用高温試料ステージは、温度に依存した結晶成長過程や熱による結晶構造の変化等を観察するため、メイン回折計に取り付けて使用する(図5)。加熱方法は非接触式の赤外線照射を採用し、試料形状の制限が比較的少なくてすむ。最高到達温度は1500℃であり、室温から1分強で到達することが可能である。温度コントロールは実験ハッチの外からリモートで行うことができ、プログラム運転も可能である。
 高温試料ステージにも試料の方位を調整するための各種ステージがある。試料に近い側からX軸回転(-5〜45°)、Y軸回転(360°)、X方向の並進(±10mm)となっている。各軸の方向は図4と同じである。X軸並進のみ手動であり、他2軸は5相ステッピングモータにより駆動される。
 試料は石英製の試料ホルダに取り付けられ、さらに石英製の治具であおりステージに固定される。試料ホルダは複数個用意してあり、あらかじめ試料を取り付けておくことで、試料交換に要する時間が短縮される。
 高温試料ステージへのX線の導入、および回折線の取り出しはベリリウム窓を通して行われる。導入用にICF70フランジ、取り出し用にICF203フランジ2個が取り付けられている。図5で検出器用アーム付近にある大きなフランジが取り出し口のひとつであり、2θで22〜58°の回折線を取り出せる位置に固定されている。図中では隠れて見えないが、他の取り出し口では94〜130°に固定されている。
 高温ステージ内はドライスクロールポンプとターボモレキュラ・ポンプで真空排気され、2時間で1.8×10−6 torrの到達を確認している。
 装置には10箇所以上のICF70フランジが取り付けられ、いくつかは赤外線導入ポート、リミットセンサ導入ポート、X線ストッパとして使用している。その他のフランジは予備ポートとしている。
 試料ステージ周辺の温度上昇を防ぐため、試料周りは水冷されている。異常な温度上昇、漏電、および冷却水量の低下を検知する安全回路が装備されており、作業の安全性を高めている。


3-5.制御
 ほとんどすべてのモータの駆動は5相ステッピングモータにより行われ、SPring-8標準のモータドライバが接続されている。LabVIEWによる標準制御ソフトの製作もほとんど完成しており、GUI(Graphical User Interface)による操作が可能になっている。


3-6.その他
 本ビームラインでは、実験装置間にパイプを通し、真空排気またはヘリウム置換を行っている。低エネルギー成分の空気による吸収を抑え、空気散乱によるイメージクオリティの低下を防ぐことが主目的であるが、白色放射光によるオゾンの発生を防ぐのにも有効な手段である。


4.準備状況
 現在、実験ステーションの整備が進められている。メイン回折計や高温試料ステージの性能評価は既に完了している。前置光学系ではモノクロメーターを乗せるゴニオメータ部分が完成している。性能評価の際、シリコン結晶等のラウエトポグラフを撮影し、結晶内の不純物の観測も行った。第12サイクルでは、高温試料ステージを使った回折実験を予定している。現在製作中の高速シャッターおよび前置光学系を加えて、白色トポグラフィの実験ステーションが完成する。


5.おわりに
 以上述べたように、本ビームラインの試運転は順調に進み、実験ステーションとしての体裁が整いつつある。ここに至るまでに、多くの方々のご協力を頂きましたので、関係各位にこの場を借りて感謝します。特に、ビームライン建設にあたられたSPring-8の利用系スタッフの皆様、実験ステーションの立ち上げの主体となったトポグラフィサブグループのメンバー、様々な協力を頂いた事務の方々、度重なるX線の漏洩検査を快く引き受けてくださった安全管理室の皆様に深く感謝致します。




[1]後藤俊治 他:「平成10年度整備偏向電磁石ビームライン」SPring-8利用者情報Vol.4, No.3 (1999)53-64.




山崎 裕史 YAMAZAKI  Hiroshi
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 ビームライン部門 光学系グループ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2806 FAX:0791-58-2810
e-mail:yamazaki@spring8.or.jp



近浦 吉則 CHIKAURA  Yoshinori
九州工業大学 工学部 物質工学科 材料計算工学講座教授
〒804-8550 福岡県北九州市戸畑区仙水町1-1
TEL・FAX:093-884-3362
e-mail:chikaura@e-lab.kyutech.ac.jp
略歴:
1973年 東京工業大学大学院 理工学研究科 博士課程修了(工学博士)
1988年 九州工業大学工学部教授
専門:回折結晶学とその応用
現在の研究テーマ:新しいX線画像計測法の開発



梶原 堅太郎  KAJIWARA  Kentaro
九州工業大学 工学部 物質工学科 材料計算工学講座 博士課程
〒804-8550 福岡県北九州市戸畑区仙水町1-1
TEL・FAX:093-884-3362
e-mail:kajiwara@e-lab.kyutech.ac.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794