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Volume 04, No.6 Pages 17 - 20

2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

BL・フロントエンド専用冷却水循環装置の工事概況
Construction of the Cooling Facility for the BL-Front End

鈴木 威男 SUZUKI Takeo、大谷 弘 OHTANI Hiromu

(財)高輝度光科学研究センター 施設管理部門 JASRI Facility & Utilities Division

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1.はじめに

 フロントエンドとは、ビームラインのうち光を取出してから実験ハッチに送りだすまでの間、つまり蓄積リング引きだしポートの終端以降で光学ハッチベリリウム窓までの間の部分を指す。フロントエンドの熱負荷は、挿入光源の性能が向上したことにより、当初の計画に比べて増大している状況にある。現設備においては、フロントエンドの冷却水系は電磁石や真空系と共通の系統になっているが、本工事は新たにフロントエンド専用の冷却水系を設けることにより、二つの系統を分離するものである。これにより、SR電磁石系の冷却水温度への外乱を減少させて電子ビームの安定化を図り、合わせて冷却能力の増強を図ることを目的としている。この工事は、高輝度で優れた指向性を有する挿入光源の特質を生かす上で必須のものと位置づけられている。

 本装置や工事の技術的位置づけについては、既刊のSPring-8利用者情報[1]において、北村、望月両氏によって詳しく紹介されている。本報は主としてその後の工事の進展について報告する。


2.設備の概要

 装置の製作及び据付け工事のための詳細設計は、平成10年10月に着手し、平成11年5月に完了した。系統の基本的な構成(図1 系統図参照)は既存の冷却系とほぼ同様であるが、本設備においては、蓄積リングマシン冷却系の運転経験を反映させて、設備の維持管理を合理的に行うための改良や、より高度な放射光利用のための改良が行われている。代表的なものとしては、温度安定性の向上をめざした運転制御系の改良、ビームの安定性を高度に維持するためのポンプの振動防止対策などがある。(写真1~3に例示)。また、本設備は、既設の建屋の中にいわば割り込む形になることから、現場調査を繰返し実施して細部の調整を行い詳細設計に反映した。





図1 フロントエンド専用冷却水循環装置 系統図(Aブロック)



写真1 振動対策を施したキャンドポンプ



写真2 ストレーナー(メンテナンス性向上のため二重化)



写真3 インバータ制御の冷却塔

 設備としては、屋外に設置した冷却塔によって二次冷却水を作り、プレート型熱交換器を介して一次冷却水を冷却するものである。能力アップの程度については一概にいえないが、冷却水流量で現状のおよそ数倍あり、将来の増設にも対応できる除熱能力を持たせてある。また、一次冷却水系は純水を冷却材としていること、銅材が使用されている個所もあることなどを配慮して、シール材等の接液部の材料選定は慎重に行った。一番の特徴は、冷却塔ファンの制御をインバータ制御にしたことである。ランニングコストが低減できるのもさることながら、従来のダンパー制御に比べてきめ細かい運転制御ができるので、将来、温度制御の高度化が求められた場合にも適応できると期待している。


3.工事概況

 蓄積リングの冷却系はA、B、C、Dの各ブロックにそれぞれ独立して設置されている。フロントエンド冷却水系も各ブロック毎に設置する計画であり、すでにAとDブロックは今年の夏に完成した。残りのB及びCブロックは来年夏に完成させる計画である(表1 工事工程表参照)。工程の設定にあたっては、ビーム利用研究に影響を与えないよう留意する必要があり、主たる工事は冬期、5月、夏期の停止中に効率良く集中的に実施するなどの工夫を施した。

 平成10年12月に着工した工事は順調に進み、本年8月には計画通りA、Dブロックが完成、運用を開始している。この間、作業工程を工夫してユーザータイムを極力長くしたいとの方針から、何度か工事工程を見直している。この夏の停止期間中の工事についても見直しを行い2週間の短縮を実現した。工程の短縮は、土日返上といった単なる実働時間のやり繰りだけでなく、配管製作をプレハブ化するなど、工事の手順、工法についても工夫した。また、夏期停止期間は、本工事だけでなくいろいろな工事が一斉に行われるので、現場の安全確保のために事前の工程調整が重要になる。各部門の協力により、工程調整がスムースにいったことも本工事が円滑に遂行できた要因の一つである。



表1 フロントエンド専用冷却水循環装置 工事工程表



4.工事の遂行と安全確保

 工事の工程は、まずSPring-8全体の基本的工程の中で位置づけられる必要がある。すでに述べたとおり、収納部内の大きな工事や作業は、夏期長期停止期間のように運転停止中に限られるので、いろいろな作業がこの期間に集中することになる。短い期間の中で、工事の安全を確保しつつ整然と効率よく作業を推進するためには、関連部門との綿密な調整が不可欠である。この調整は計画管理グループが招集する冬期及び夏期の「長期停止期間中作業打合せ」などにおいて行われた。

 本工事の推進に係る調整は、関係者間の連絡調整のために設置した「調整会議」において実施した。調整会議は、品質保証や工程管理の観点から三つの会議体に分かれており、月例、週間、デイリーの打合せとして設定されている。

 本工事は、運転を継続している既設の建物(マシン冷却機械室など)の中に新規の設備を増設するものであることから、既設の機器との交差を回避し新設設備のスペースを確保しながら、いかに効率的に工事を進めるかが鍵であった。後から作る設備の宿命として、どうしても配管やダクトなどの振り回しが多くなり、継手(接続部)が増える。この問題に対しては、現場採寸を詳細に行い、工場で中間段階まで製作したものを搬入して組立てるいわゆるプレハブ工法を採用した。配管の工事はほとんどこの工法によっている。これにより、工場と現場での工事の同時進行化がはかられ、工期の短縮が可能となった。工程を短縮する上で悩ましかったのは、試験・検査、機器調整および試運転に係る期間の短縮である。これらは、規模と工数からある程度決まってしまうため、工夫の余地が少ないからである。特に設計・製作・据付け結果の総合的検証である試運転は、2週間、昼夜連続作業も含む工程で乗り切ることになった。計画工程を確実に遂行するために、日々の作業は計画内容の完遂をもって終了と定めたことも、工程を着実に進めることになったと考えている。

 工事を推進する上で安全はすべてに優先する。これには労働安全と設備の安全との二つの側面があると考える。労働安全衛生については法律に基づく規制もあり、事例研究も進んでいることから、一般的に企業や従事者の意識も高くなっていると思われる。しかし、本工事の特色として、運転中の蓄積リング収納部天井での作業も多くあり、放射線安全の観点から、安全管理室と連携して作業の安全を確保した。一方、我々の使命を考えるとき、設備の安全、つまり放射光利用研究に支障をきたさないようにすることも重要な事項になる。建屋内での火器の使用や振動、騒音、発塵、漏水等が発生する恐れのある作業については、事前に要領を定めるなど、作業安全だけでなく施設保全に係るルールが共通認識となるよう徹底化をはかった。

 これまで無事故、無災害でこれたことは大変喜ばしいことである。今後もこの記録を延ばすよう関係者一同気を引き締めている。


5.今後の計画

 この8月3日にA、Dブロックの機器据付けが完了したことを受けて、同19日に無負荷での機能試験を、9月7日には冷却対象機器を接続した負荷運転を実施し、所期の性能が得られることを確認した。9月29日からの第9サイクルより、A、Dブロックのフロントエンド専用冷却水系は運転に供されている。これにより、SR電磁石系の冷却系は、従来まかなっていたフロントエンド系の分だけ流量に余裕ができることになるが、現在はバイパス流としている。流量の再配分はリング全体の負荷バランスを考える必要があることから、B、Cブロックも完成した後にA~D合わせて実施される。

 B、Cブロックについては、収納部内の配管取付を除き工事は大方終了した。残工事と試運転調整については、次の5月及び夏期停止期間に実施し、平成12年8月末には全ての調整を完了する予定である。


6.むすび

 これまでの工事工程を振り返って見ると、難工事にも拘わらず順調に進んでいる。理化学研究所および財団関係部署各位のご尽力によるところと感謝している。工事を請負った日揮株式会社にも難しい注文を聞いていただきました。改めて謝意を表したいと思います。今後も、来年夏の完成に向けて安全に、着実に計画を進めて行きたいと考えています。引き続き関係者の皆さまのご理解とご協力をお願い致します。


参考文献
[1]SPring-8 利用者情報Vol.4,No.1,Jan.(1999)11-13


鈴木 威男 SUZUKI Takeo
(財)高輝度光科学研究センター 施設管理部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0865 FAX:0791-58-0876
e-mail:takeo@spring8.or.jp


大谷 弘 OHTANI Hiromu
(財)高輝度光科学研究センター 施設管理部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0869 FAX:0791-58-0880
e-mail:otani@spring8.or.jp


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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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