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Volume 04, No.6 Pages 1 - 3

所長室から
From the Director’s Office

上坪 宏道 KAMITSUBO Hiromichi

(財)高輝度光科学研究センター 副理事長、放射光研究所長 JASRI Vice President, Director of JASRI Research Sector

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1.供用開始2周年:運用の概括

 去る10月6日でSPring-8は供用開始後2周年を迎えた。そこで簡単にこの2年間の共同利用の概要を纏めてみた。
 97年10月6日から99年6月末までの期間に、蓄積リングは8140時間余り運転され、実験に供されたユーザータイムはそのうち5612時間(68.9%)である。その他の時間は夏期と冬期の長期シャットダウン後のマシン/ビームラインの立ち上げ調整(800時間余)及び各サイクル開始時の立ち上げとマシンスタディ(1700時間余)であった。なお、99年に各サイクルでユーザーにビームを引き渡す時間を一日繰り上げたため、各サイクルで立ち上げ/マシンスタディに使われた時間は98年の平均89時間から99年には61時間に減っている。因みにこの期間の暦日は15200時間余で、蓄積リングの総運転時間はその53.6%である。また、ユーザーの実験中に何らかの故障でビームの止まった「ロスタイム」の総計は僅かに175時間(ユーザータイムの3.1%)であった。
 この期間中に加速器を停止したのは、新しいビームラインをマシン収納部に設置した夏期/冬期の長期シャットダウン時、ゴールデンウィークと各サイクルの切り替え時である。各サイクルは原則として3週間を単位とし、最初の週の月曜、火曜に点検およびクライストロンなどのエージングを始め、水曜にマシン運転を開始する。その後昼夜連続運転して、翌日(木曜)からユーザータイムを開始し、最後の週の金曜17時に停止する。ユーザーの増加に伴って加速器の運転時間を増やすには、ゴールデンウィークの運転と各サイクルの切り替えを翌週の月曜朝にすることが考えられるが、そのためには現在でさえ不足している運転員だけでなく、シフト当番、ビームライン当番の要員などJASRIスタッフ(研究者/技術者)の増強が必要である。
 蓄積リングは当初目標にしていた仕様値を超える性能を達成し、極めて安定に稼動している。最大蓄積電流は、コミッショニング時に設定した20mAから98年10月に70mAまで増やし、99年6月から設計仕様の100mAになった。ビーム寿命は100mAで60時間以上であり、通常1日に1回入射している。なお、この秋から蓄積リングビームのオプティックスを変更して、アンジュレータに最適化した運転を行っている。
 少数バンチ運転は当初21バンチで行われたが、現在は主に短寿命核種の実験には174バンチ運転、核共鳴非弾性散乱実験等には(14train×21)バンチ運転が行われている。バンチ純度も比較的良く57Feの実験には十分であるが、短寿命核種の実験には更なる改善が必要である。一方、少数バンチ運転はビーム寿命が短く他の分野のユーザーにとっては不利であるため、(10+1/12 filling)等の運転を実施してビームを長寿命化したり、複数のビームラインで平行して核共鳴実験を行えるようにして、少数バンチ運転の時間を減らしたりしている。しかし、この分野の発展性やナノ秒領域の時分割計測の展開も考えると、トップアップ運転技術を開発して、少数バンチ運転を定常化する必要があろう。
 供用開始直後には、共用ビームライン(BL)8本と理研BL及びR&D BLが稼動していたが、98年には共用BL2本、原研BL2本、理研BL、兵庫県BLが新たに稼動した。さらに、年次予算及び補正予算を得て共用BL9本の建設が開始され、すでに5本が完成してこの秋の1998B共同利用から立ち上げ実験に利用されている。また、理研BL2本(1km長尺並びに長直線部BL)と原研BL1本の建設も始まり、長直線部BLを除く2本が稼動し始めた。一方専用施設では、99年に阪大蛋白研BLと核物理研究センターBL及び産業コンソーシァム(産業界13社)ビームライン2本が完成して稼動し始めたほか、無機材研BLと台湾BL2本が建設中である。さらに最近、R&D BLを新たに2本増強することが認められて、その整備が進められている。
 なお、前号でも紹介したように、99年度第2次補正予算に4本のBL(表面・界面、X線分光分析、産業利用の共用BL3本と原研BL)を要求している。
 供用開始後2年間の共同利用は、立ち上げ時期であったにもかかわらず、比較的順調に進められた。利用研究課題の募集に応募した課題総数は895件で、そのうち実際に実験が行われた課題はその70%に当たる642件である。因みに既に採択の終わった99年後期(1999B)では、期間が短く利用可能なシフト数が少なかったために、平均採択率は57.1%になっている。そのうえ課題採択率はビームライン毎に大きく異なってきていて、例えばユーザーの多いXAFS、結晶構造解析、生体高分子結晶構造解析の3ビームラインについてみると、99年前期の採択率がそれぞれ71%、66%、81%であったのに対して、99年後期には35%、42%、77%になっている。
 過去2年間に共同利用実験に参加した研究者は延べ人数で3500名に達している。(このうち2200名余りが旅費支援のユーザーであった。)一方、SPring-8で放射線作業従事者の登録を行ったユーザーは99年3月末現在で1038名で、この数字が共用BL、専用施設や原研・理研BLで昨年度1年間に実験に参加した外部ユーザーの実数である。なお、原研、理研、JASRIの職員の登録者数は461名で、ほぼ1500名の研究者/技術者が実際にSPring-8で研究開発に従事したことになる。なお、SPring-8では毎年放射線作業従事者の登録を再申請して頂いているので、97年10月の供用開始以後に実際に実験に従事した研究者の実数はこれより多い。また、SPring-8利用者懇談会の加入者数は99年9月末現在で1307名である。
 最後に成果の発表について述べると、この2年間に発表されたSPring-8の成果に関する論文は99年9月までに報告のあったものが51編で、そのうち34編がユーザーの論文である。なおSPring-8より2年余り早く稼動し始めたAPSの2年前の論文数は57であった。




2.SPring-8 におけるCOE研究と特定利用制度

 放射光施設のような共同利用施設では、施設に常駐する研究者によって行われる恒常的な研究開発が施設性能を常に最先端に保ち、ユーザーに新しい研究の場を提供することが多い。とくに新しい測定手法の開拓や実験技術の開発には、インハウススタッフが主要な役割を果たしていることは明らかで、国内外に多くの例を見ることができる。
 現在SPring-8では第2期共用BLの建設が順調に進み、共同利用も軌道に乗ってきている。しかし、今後はこれまでほど順調にBL建設予算を得ることは難しく、SPring-8は建設フェーズから利用フェーズに移っていると考えてよい。従って、施設内研究者が先端的利用技術の開発やその先導的利用研究を実施して、SPring-8を最大限に活用する段階に来ていると判断される。
 そこで原研、理研、JASRIが共同して、SPring-8の持っている特長を最大限に生かす新しい研究に挑戦する「高度利用技術研究開発(COE研究)」が計画された。本年度になってから3者の関係者が集まって検討を重ね、ときには科技庁大型放射光施設利用推進室長も参加して討議した結果、大まかな研究の枠組みが纏まり来年度予算に要求している。
 内容を説明する前に3者が共同して行う意味を簡単に述べておく。94年10月に施行された「特定放射光施設の供用の促進に関する法律」には、共用施設の建設および維持管理とともに、SPring-8を用いて試験研究を行う者の共用に供することを原研/理研の業務とし、後者を放射光利用研究促進機構(JASRIが指定されている)に行わしめると明記している。しかし同時に法律は、施設利用研究の促進に資する試験研究も機構の業務としていて、JASRIは放射光の提供、利用者支援などの共同利用に対するサービスと共に、研究開発の業務を負うことになっている。
 SPring-8の供用開始に伴い、それまで協力して建設を進めてきた原研・理研「共同チーム」は解散して、原研、理研はユーザーに徹し、JASRIが施設の運転、維持管理、高度化の業務を遂行することになった。同時にSPring-8キャンパス内に原研関西研究所放射光利用研究部と理研播磨研究所が設立されて、それぞれ材料科学の研究、構造生物学並びに放射光物理の研究を推進している。
 COE研究はSPring-8建設時の経験を生かし、3者が密接に協力して行うことにしている。それぞれが研究の力点を材料科学(原研)、生命科学(理研)及び実験技術・手法(JASRI)に置いて、SPring-8の特長を最大限に発揮させ活用する先端的利用技術開発と、新しい利用分野を開拓する先導的利用研究を実施する。しかも建設時の「共同チーム」のように、一体感を持ちリーダーシップのある研究体制をとることを目標にしている。
 具体的な研究計画は現在「高度利用研究開発委員会(菊田委員長ほか6名)」が検討中であるが、SPring-8の特長を生かす研究の方向として、高エネルギーX線の利用、マイクロ(サブミクロン)ビーム技術の開発と利用など、多くのテーマがリストアップされている。しかし、ビームラインや実験ステーションの高度化の一部も含めて、ステップ・バイ・ステップに進めていくのが望ましく、できれば本年中に活動を開始する方向で準備している。一例として、理研で進めている新しい連携研究「ストラクチュローム」がCOE研究に参加し、JASRIで計画している蛋白質のリアルタイム高速データ解析処理システムを共同で開発することも考えられる。何れにせよ現在具体的な計画を検討中で、必要予算は原研、理研はそれぞれの固有予算を使い、JASRIの分は来年度予算に要求中である。
 一方、ユーザーが行うプロジェクト的研究として、新しく「SPring-8特定利用制度」が発足することになった。この制度は従来の6ヶ月有効の課題採択に加えて、新しく長期に亘って計画的にSPring-8を利用することを可能にするもので、長期的、計画的な利用でSPring-8の特長を十分に生かし、学術的あるいは産業技術的にブレークスルーを生み出すような研究成果を得ることを目的にしている。具体的な実施方策は諮問委員会が今年度中に纏めることになっており、すでに諮問委員会委員並びに利用研究課題選定委員会分科会主査などで構成する特定利用制度特別検討部会(主査:村田利用研究課題選定委員会主査)で検討を開始している。この制度でも、ユーザーからの提案にJASRIの研究者/技術者が参加して、建設で培った学問的・技術的な蓄積と経験を生かして、創造的研究の遂行に寄与できればと願っている。




3.国際協力

 SPring-8は、建設開始後、ESRF、APSと3極協力を進めてきた。毎年1回3極ワークショップを開いて、加速器、ビームラインや光学系等の第3世代X線光源の技術開発を中心に情報交換や討論を行って来た。今回はSPring-8が開催する番で、準備を進めている。
 この他に、ここ数年の間にJASRIと海外研究機関との間で国際協力が進展しているので、その一端を紹介する。既に建設の始まっている台湾ビームラインに関しては、具体的な設計作業が進む中で実質的な研究協力が進められてきた。しかし実際にビームラインの建設作業が始まる前には専用施設設置契約が必要である。そこで、既に利用者情報誌でも報告されているように、昨年末に関係機関である亜太科学技術協会とJASRIの間で協力協定が結ばれた。今秋、台湾ビームラインの研究者がSPring-8に常駐し始め、専用施設の建設を開始した。
 スイス放射光源(SLS、Swiss Light Source)との協力も進展している。昨年来、PSI(Paul Scherrer Institute)のA.Wrulrich SLSプロジェクトリーダーとの間で協力の可能性が検討されてきた。この協力はSLS建設に際して、高性能光学素子、検出器、真空封止型挿入光源、バンチ幅拡張システム、トップアップ運転などの研究開発に関して、両研究所が研究協力を実施するもので、去る6月に協力協定が結ばれた。その最初の活動として11月28、29日の2日間、第1回合同シンポジウムがSPring-8で開催される。
 浦項放射光源(Pohang Light Source)を有する韓国浦項工科大学付属加速器研究所とJASRIとの間でも、協力協定が結ばれた。日韓の間ではPLSの建設が始まった時期に合同シンポジウムを毎年開催し、主に加速器とビームラインに関して情報交換を行ってきた。今回はPLSのビームラインを増強、高度化する計画に関して改めて協力を密に進めることになったもので、真空封止型挿入光源の試験および開発と、光学素子の評価およびビームラインの技術開発が協力の中心課題である。
 中国では上海放射光施設(Shanghai National Synchrotron Radiation Center)の建設が実現に向かって動き出し、近く正式に認められるとのことである。最近、プロジェクトリーダーのProf.Chenから連絡があり、この秋にSSRCから施設グループの7名、ビームライングループの5名が2週間、入射器グループの1名が2ヶ月SPring-8に滞在して関係部署のJASRIスタッフと協議することになっている。



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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