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Volume 04, No.5 Pages 49 - 50

7. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTER FROM SPring-8 USERS

サブグループの労と果実 −研究の停滞を打破するために−
The Efforts and the Fruits of the Sub-Groups – To Break the Stagnation of the Researches –

今田 真 IMADA Shin

大阪大学大学院 基礎工学研究科 Graduate School of Engineering Science, Osaka University

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 拡大世話人会の出席者は、前日に開かれたSPring-8懇親会にもご招待いただいた。7年前から毎年、SPring-8関係者と地域との交流の場をかねて行われているとのことで、初めて出席させていただいた私はその盛大さには面食らった感があった。バーベキュー大会だったわけだがあいにくの雨で、半分以上の人は食堂の中にいたが大変な混みようだった。あらためてSPring-8という組織の大きさに驚かされるとともに、地域との関係を大切にしている姿勢を感じることができた。
 さて、今回の拡大世話人会のテーマは「ユーザーモードでのサブグループ及び世話人の役割」であった。SPring-8で建設期を終えて利用実験期に入ったの多くのビームラインで、利用者懇談会のサブグループや世話人の果たすべき役割は、当初のビームラインを提案してそれを建設し立ち上げるための集まりというのとは異なるはずだというのが発想の原点である。
 利用実験期におけるサブグループの役割としてまず挙げられたのは、ビームラインや実験ステーションの維持や高度化についてユーザーが話し合う場ということである。ビームラインの維持管理は既にSPring-8の職員の任務と認識されていると思う。しかし、ビームライン及び実験ステーションのさらなる改善や高度化についてはユーザーの要望で行われるべきであるし、どのように高度化するかについてのユーザーの意見をまとめる必要はある。これについてはサブグループ毎に具体的な事情や程度の差はあるものの、共通の認識であったように思われる。
 もう一つ挙げられた可能性は、コミュニティの成果をまとめる母体としての役割である。すなわち、同じ手法を用いている研究者が1〜2年に1度定期的に集まって研究会などを開き、その分野のSPring-8での成果を取りまとめることである。しかし一方で、利用実験課題の申請がサブグループとは全く独立に、サブグループに属さない研究グループからも出されているので、サブグループで研究成果の取りまとめをすることは不可能であるし適当ではないとの意見も強かった。SPring-8としての成果の取りまとめという意味では、実験終了後60日以内に提出する利用報告書がUser Experiment Report としてまとめられている。ただ、ユーザーとしても、アニュアルレポートへの投稿やSPring-8シンポジウムでのポスター発表を積極的に行ったり、実験成果を学会発表・論文発表した時には論文発表連絡表の提出を怠らない、といった、成果を施設側にフィードバックする不断の努力が必要であろうと反省も含めて感じた。
 さて、サブグループの役割に関連して話題に上り、今回の拡大世話人会の中でも重要な議論だったと思われるのが、「建設グループとして立ち上げに払った多大な労力が報われておらず、当初予定した研究が停滞している」という次のような声であった。『実験ステーションの(場合によってはビームラインについても)設計から立ち上げにあたっては、各サブグループの中の有志が多くの日数と力を割き、研究室の主力をSPring-8に送り込んできた。しかしながら、SPring-8から優先的に認められたのは、純粋に「立ち上げのための」ビームタイム即ち立ち上げ課題だけである。実際、半年から長くても1年に満たない立ち上げ課題は、装置の立ち上げと調整に費やされ、実際の研究成果はほとんど出なかったビームラインが大多数である。立ち上げ課題が終わると、立ち上げメンバーもそれ以外の研究者も同じ土俵で課題申請をし、全く平等に審査される。満足の行くといわないまでもある程度のビームタイムを確保するためには、何件もの力のこもった課題申請書を半年毎に書かなければならないし、立ち上げメンバーの課題が全く通らないこともある。これでは意図していた研究が進まない』。このような意見はこれまであまり表に出なかったが、グループによって程度の差こそあれ、建設グループの間の共通の認識である。これに対し、SPring-8としては、建設グループの課題を優先的に採択するといった創業者利益的なことは認められないとのことであった。もちろん、「創業者利益」の行き過ぎは良くないが、「現状は創業者不利益だ」との声に代表されるように、立ち上げの労力が不当に低く評価されかつメンテナンスや性能向上への期待だけがのしかかってきていると言わざるを得ない。
 それでは、利用者懇談会としてSPring-8に対してどのような要望をすればよいか。上のような意見を踏まえて私が提案させていただいたのは、「実験ステーションの立ち上げ及び高度化は利用研究と一体のものとして3年程度有効な特別課題として取り扱う」ことである。そもそもビームラインや実験ステーションを立ち上げたり高度化する目的はそこでしかできない研究を遂行することであるから、立ち上げや高度化は利用研究と切り離すことができないはずである。それが切り離されているところが現状の問題の中心である。このような特別課題の形を取れば、建設グループの士気も自然と上がるし、当初予定されていた研究が確実に遂行され、成果も着実に上がると期待される。その特別課題が走っている間でも、ビームタイム全部を独占するのではなく一般の利用研究課題を平行して行うのは言うまでもない。
 もう一つ付け加えさせていただくとすれば、利用研究課題選定委員会のプロセスの中で、サブグループや建設グループの意見も聞かれるべきであると思う。課題選定にあたってはビームライン担当者の意見も聞かれていないと理解している。もちろん課題選定の結論は選定委員会が出すべきであるが、そのビームライン及び実験ステーションで何がどこまでできるかを一番良く理解している建設グループやビームライン担当者の意見が、課題選定プロセスの中で少なくとも参考にされるべきである。課題選定のプロセスには、このほかにも問題が含まれるように思うので、利用者懇談会の場で一度徹底的に議論することを提案したい。
 今回の拡大世話人会では、サブグループからの率直な意見が多数出たと思う。利用者懇談会が今後ともこのような雰囲気を大切にし、ますます活発な議論の場を提供することを期待したい。 
 
今田 真 IMADA  Shin
大阪大学大学院 基礎工学研究科
〒560-8531 豊中市待兼山町 1-3
TEL:06-6850-6421 FAX:06-6845-4632
e-mail:imada@mp.es.osaka-u.ac.jp
略歴:1991年9月 大阪大学大学院 理学研究科 物理学専攻修了。
1991年10月 大阪大学 基礎工学部教務職員。
1992年 6月 同助手。
1997年 4月 大阪大学大学院 基礎工学研究科講師。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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