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Volume 04, No.5 Pages 1 - 3

所長室から From the Director’s Office

上坪 宏道 KAMITSUBO Hiromichi
(財)高輝度光科学研究センター 副理事長、放射光研究所長 JASRI Vice President, Director of JASRI Research Sector
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 本号からSPring-8利用者情報誌に、「所長室から」の欄を新設しました。SPring-8は我が国では法律で規定された唯一の共同利用施設であり、その運営に関しても基本方針が決められています。なかでも共同利用に関わる重要事項は、内閣総理大臣の認可を受けて任命される委員で構成される諮問委員会で審議され決定されることが明記されており、現在実施されている共同利用の仕組みは全て諮問委員会で決められています。「SPring-8利用者情報」は、SPring-8共同利用に関する情報の公報的な性格を有していますので、必要な情報を正確に伝えることを主眼にして編集されて来ました。そのため、既に決まっていることの報告が主で、「現在施設者側で何が問題にされており、どのような検討がなされているか」の情報はあまり載せていません。
しかし、SPring-8が優れた成果を上げていくためには、ユーザーと施設者側の幅広い協力が必要になります。そのためには、検討中の計画や施設者側で問題にしている事項をユーザーに紹介し、忌憚のない意見交換ができるようにすることが大切でしょう。その一環として、「所長室から」の欄を設けることにしました。本欄ではSPring-8の現状に関して、進行中のことも含めてできるだけ多くのことを伝えたいと思っています。




1.使用可能なビームタイムと共同利用の多様化

 課題審査を伴う共同利用が使用するビームタイム(BT)は、各共用ビームライン(BL)のBTの80%と、原研BL、理研BLのBTの各20%と決められている。最近の例では、1999年前期(1999A)で約250シフト、1999Bでは約140シフトのBTが共同利用に割り当てられている。一方、1998年の場合には、新BL建設のための長期マシン停止期間を夏期及び冬期にとったので、年間の総運転時間は約4400時間であった。2000年にも夏に長直線部にアンジュレータを建設する計画があり、同様の長期シャットダウンが予定されている。しかし、それ以降は年間5000時間の運転時間を確保したいと考えている。
 なお、共用BLのBTの20%と専用BLのBTの20%はJASRIに任され、JASRI の研究者による利用と緊急課題の実施に用いられる。 SPring-8の共同利用は、主に大学、国公立研究機関などの研究者によって行われ、産業界による利用は極めて少ない。そこで、産業界のSPring-8利用を促進するために、成果専有及び実施時期指定の共同利用をこの秋から実施することになった。具体的には、各共用BLについて80%枠内に、最大で10%のBTを割り当てること、課題審査は妥当性、技術的実施可能性、安全性について、秘密保護を厳守しながらJASRIが責任を持って行うことになり、課題募集の結果、5件が採択された。
 最近、諮問委員会で、長期にわたって同一課題の研究にビームタイムを確保する新しい制度の導入が認められた。「SPring-8共同利用における特定利用制度」で、具体的な実施方法を次回の会合(11月に予定)迄に、諮問委員会委員及び課題選定委員会委員を交えて検討することになった。
 一方、ビームライン検討委員会(原研、理研、JASRIの3者が共同で設置した委員会)と諮問委員会は、これまで性格が曖昧であったR&D BL(BL47XU、BL46XUおよび最近追加されたBL38B1)を共用BLとして位置づけ、その特別運用(BTの70%程度を施設者が中心になって利用する)を認めた。SPring-8の性能を極限まで利用するためには、BLの高度化、新しい実験手法の開拓などで長期にわたるR&Dが必要であり、その推進を図るための措置である。なお、その具体的な運用方式はJASRIで検討中である。




2.SPring-8の運転計画

 SPring-8全体の運転計画は毎月開かれる「スケジュール会議(議長;所長)」で決めている。いかに多くのユーザータイムを確保するかがこれまでの主な検討事項で、夏期、冬期の長期マシン停止期間の作業内容と日程、マシン・ビームライン調整期間の長さ、サイクルの長さ、最大蓄積電流の増加(20mAから100mAへ)、運転モード(少数バンチか多バンチか)などをこの会議で決めている。少数バンチ運転は核共鳴散乱の研究には不可欠で、超高分解能実験など新しい研究領域の開拓に重要な役割を果たしている。しかし、ビーム寿命が極端に短くなり、蓄積電流の積分値も低くなって、一般のユーザーにとっては歓迎すべきことではない。そこで、BL09XU以外のビームラインでも平行して核共鳴散乱実験を行えるようにし、一般ユーザーへの迷惑を最小限にしながら、多バンチ運転時間を多く確保することにした。トップアップ運転もこの問題の解決の方法として検討している。
 なお、SPring-8では挿入光源が殆どアンジュレータになっている。その性能を高めるために、蓄積リングを1999Bからhigh βモードで運転することにした。また、これまでは供用開始当時に用いたオプティックスで蓄積リングの運転を行ってきた。これは運転条件の違いで生じる光軸のずれを避けるための措置であり、蓄積リングが最高性能を発揮する条件ではない。今回、オプティックスを変更して、エミッタンスがより小さくなるようにオペレーティングポイントを設定した。従って9月の立ち上げ調整期において、全ビームラインで光軸のアラインメントを行うことになっている。
 SPring-8の具体的な運転計画は、毎サイクルの初めに開かれるスケジュール調整会議(議長;マシン運転グループリーダー)が決めている。しかし、BL毎のBT(シフト数)の割り当ては課題採択委員会が行っており、JASRIはBTの割付けなどのスケジュールを決めている。
ユーザーから「BTが少なく実験効率が上がらない」との不満を聞くことが多い。それには今の課題採択方式の見直しも必要であるが、少ないBTで良いデータを効率よく得る実験ステーションに変えていく努力も大切である。




3.夏期停止期間の作業と立ち上げ

 今回の夏期停止期間中に、BL35XU(高エネルギー分解能)、BL40XU(高フラックス)およびBL15IN(無機材研)の挿入光源が蓄積リングに設置された。また、これら3本とBL12B2(台湾BM)のフロントエンド(FE)部の建設も順調に進んでいる。一方この期間中に、BL43IR(赤外)用偏向磁石チェンバーの交換取り付けと、放射光取出しミラー、クロッチの蓄積リングへの取り付けが行われた。
蓄積電流100mAに伴う措置として計画されたFE冷却系の増強工事は、A、Dゾーンについて完了した。これは冷却能力を増強するため、FE部冷却系を蓄積リング冷却系から切り離す工事で、残りのB、Cゾーン増強工事は来年夏に行う予定である。
 加速器関係では通常のメンテナンス以外に、加速器ビーム診断用ビームラインBL38B2の整備、高周波加速系Aステーションの新設、蓄積リングへのskew電磁石24台の組み込みのほか、来年夏に行う30m長直線部の設置に必要な電磁石架台のためのベースプレートを設置した。
 BL38B2には実験ホールに光学ハッチを建設し、可視光からX線まで広い波長範囲の放射光をビーム診断に利用する。skew電磁石は縦方向ディスパージョン補正とカップリング補正のために導入するもので、これを用いてさらに細かいビームサイズの調整や低エミッタンスの実現が可能になる。




4.今後の予定

 共同利用1999B期は9月第2週のマシン及びビームライン調整で始まる。実際には9月1日から線型加速器、シンクロトロンの加速を開始し、次いで蓄積リングの運転調整を行い、9月16日頃からビームライン調整を始める予定である。全てが順調に進めば、第9サイクルを9月27日の週から開始する。その後、第9、10、11サイクルは3週間運転、第12サイクルは4週間運転を予定していて、全体で174シフト、共同利用に提供するBTは139シフトである。なお、少数バンチモード運転は第12サイクルに実施する。
 この冬には長期マシン停止期間を予定していないので、2000Aは1月中旬から開始されるが、マシンの調整を行うため、ユーザータイムは2月初めの第2サイクルからとなる予定である。
 1999Bで使用可能なBLは、既に共同利用の始まっている共用BL、原研BL、理研BL、R&D BL及び兵庫県BLの18本と、コミッショニング中で立ち上げチームによって調整が行われている共用BL5本{BL02B2(粉末結晶構造解析)、BL04B2(高エネルギー構造解析)、BL20B2(医学利用)、BL28B2(白色X線回折)、BL40B2(単色BM)}及び少し遅れる共用BL2本{BL43IR(赤外)、BL40XU(高フラックス)}である。また、専用BL 4本{BL16XU(産業界ID)、BL16B2(産業界BM)、BL33LEP(阪大核物理)、BL44XU(阪大蛋白研)}も既にコミッショニングを行っていて、1999B期間には使用可能になる。
 予算化されていてまだ完成していない共用BLは、BL35XU(高エネルギー分解能)、L20IN(医学利用ID)である。また、BL46XU(R&D2)、BL38B1(R&D3)の2本は現在施設者側で整備中であり、部分的利用をできるだけ早く開始したいと考えている。更に長尺ビームラインBL29XUの1000mの長尺部分及び長直線部のビームラインBL19ISが理研BLとして建設中である。




5.ビームラインの新設と高度化

 共用BLは全部で30本建設する計画になっていて、これまでにビームライン検討委員会が答申した20本のうち、既に17本が稼働中又は稼働間近であり、2本が建設中である。そこで次に予算要求すべきBLを決める必要が生じている。ところで共用BLの場合、ビームライン検討委員会の推薦に基づいて原研、理研が予算要求し、建設が認められたBLを原研、理研、JASRIの3者が協力して建設することになっている。なお、前回答申のうち積み残したBLは表面・界面ビームラインである。
 最近、原研、理研の諮問を受けて、ビームライン検討委員会が20本以降のビームライン計画を検討した。その結果をもとに平成12年度に向けてBL新設の予算を要求したが、国の厳しい財政事情もあり、認められていない。
 これまでは年次予算及び補正予算を受けて、相当数のビームラインが建設されてきた。しかし来年度以降はBL建設予算の確保にも困難が予想されている。そこで既存BLを重点的に高度化し、光源の優れた性能を十分に活用し、実験効率の上がるBL・実験ステーションに転換することで、成果のスループットを向上させる必要がある。たいへん残念なことに、過去2年間の共同利用の実績を他と比較すると、成果の生産性でかなりの差があるBLが多い。重点的な高度化をどのように進めるか、今後の検討課題である。




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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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