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Volume 04, No.4 Pages 44 - 45

6. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第17回ICFA Beam Dynamics Workshop on Future Light Sources (WFLS) に参加して(その1)
Report of the 17th ICFA Beam Dynamics Workshop on Future Light Sources (Part-1)

田中 均 TANAKA Hitoshi

(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 加速器部門 JASRI Accelerator Division

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 第17回ICFA Beam Dynamics Workshop on Future Light Sources(WFLS)が、アメリカのArgonne National Laboratory で、本年の4月6日から9日にかけて開催された。この会議は、1992年にStanfordで開催されたWorkshop on 4th Generation Light Sources に端を発し、今回で3回目になる。会議の目的は、名前が示すように、第三世代以後の新しい光源の方向性を模索するものである。アメリカでは、次(四)世代放射光光源に関する科学政策が、今、まさに議論されているところであり、この会議は、今後一年に及ぶ、「第四世代で何をするのか」、「第四世代で必要な実験技術とは何か」を決定していくプロセスのスタートとして位置づけられていた。参加者は約160人、日本からは、SPring-8の北村と田中(均)、KEKの平田、大見、坂中の3氏、分子研の浜氏、京大の山崎氏、Bessyの佐々木(茂)氏の計8人が参加した。
 Workshopは、Plenary Session、表1に示す個別グループでの議論と個別グループサマリーの3つで構成され、2日目の夕方にAPSのツアーも組まれていた。開会挨拶の後、J.L.Laclare(SOLEIL Project)による前回WFLS(Grenoble)のサマリーに引き続いて、9つのレビュートークが発表された。タイトルと講演者のみを以下に示す。Ring-based Sources Overview (V.Litvinenko), Overview of SASE Theory and Planned Experiments (Pellegrini), Overview of Gun and Linac FEL Experimental Results (Nguyen), Advanced Insertion Device Practices and Concepts (H. Kitamura), Plasma-based X-ray Lasers (L. DaSilva), Femtosecond X-ray Science at the ALS (Recent Results and Future Plans) (R. Schoenlein), Research with Coherent X-Rays at the Mainz Microtron MAMI (H. Backe), UV Science with a 4th-Generation Light Source (E. Johnson), X-ray Science with a 4th-Generation Light Source (G. Materlik)。

表1 WFLSのワーキンググループ構成


リーダー                    グループ名

Group I         : D. E. Moncton    Scientific Opportunities for Coherent X-ray Sources
Group II        : I. Ben-Zvi     Linac-Based High-Gain FELs
Group III         : M. E. Couprie    Ring-Based Sources
Group IV          : J. Bahrdt     Insertion Devices for Future Light Sources
Group V           : A. Freund     Photon Optics for Future Light Sources
Group VI         : W. Leemans    New Ideas Employing High-Power Lasers
Group VII        : G. Neil    Photon- and Electron-Beam Characterization


 会議全体を通して、次世代光源は、Linac Based Self Amplified Spontaneous Emission(SASE) という方向性を強く打ち出そうとしている印象を受けた。既存の第三世代放射光源に比べ、平均で5桁、ピークで10桁高い輝度(これはSASEで得られる高輝度X線の目標性能)を有し、空間コヒーレンスのあるX線を用いれば、原子サイズの分解能を持つホログラフィ、非常に速い過渡的現象の時分割測定(Pump & Probe Experiment)、非線型光学現象の測定、相関等を用いた高分解能分光実験が行なえるが、その一方で、試料のダメージが深刻な問題となり、生物実験では、第四世代を疑問視する声が上がっていたのが印象に残っている。Opticsでは、空間コヒーレンスの保存、高パワー密度の処理が大きな問題であり、技術開発が必要とのことであった。以下に、筆者らが会議に出席して感じたことを思いのままに綴ってみる。
 今回、筆者は、Group Ⅲ: Ring-Based Sourcesのグループリーダー、M. E. Couprieから、彼女のワーキンググループに参加してくれるよう事前に要請されていたので、自動的にGroup Ⅲに入ることになった。Group Ⅲでは、通常の高輝度リングとRing Free Electron Laser(RingFEL)に関し、既存リングの性能改善と現状を打破する新しいアイデアを議論する予定であったが、目新しいアイデアは見当たらなかった。自分にアイデアがないのに、他人にそれを期待するのは、確かに虫の良い話である。明るい話題としては、トリエステの蓄積リングの高品質電子ビームを利用したRingFELプロジェクトが、ヨーロッパでスタートしたというものがあった。また、分子研の浜氏は、RingFELで安定なFEL発振を行なうには、高モーメンタム圧縮係数+高RF電圧が必要であるという興味深い計算結果を示していた。
 さて、筆者は、ここで、SPring-8に長直線部を導入するリング改造に関する話と垂直面内で回折限界に到達した一次元回折限界X線ビーム生成の話を行なった。後者の話は、SPring-8の垂直エミッタンスが、非常に小さいことを最大限に生かしてという筋書きのものであるが、これは、話をする前から物議を醸すと予想されていた。というのも、WFLSの直前に行われたニューヨークのParticle Accelerator Conference '99で、SPring-8蓄積リングの垂直エミッタンスの評価に関し、European Synchrotron Radiation Facility(ESRF)の加速器屋から異議が唱えられていたからである。筆者の同僚から話を聞いてみると、ESRF側は、「SPring-8蓄積リングでは、垂直エミッタンスを表す水平-垂直結合比(カップリング)が、単一共鳴近似と良くあっているというが、単一共鳴近似は、近似であって正しくない。現に、ESRFでは、Skew4極電磁石を用いて、単一共鳴近似では、垂直エミッタンスゼロの極限状態を実現したが、測定してみると垂直エミッタンスは小さくなっていなかった。」といっているらしい。話を聞いているうちにだんだん頭にきてしまい、「絶対負けないケンカに、どうして負けて帰ってくるのだ。」と同僚を怒ってしまったのだが、彼はまことに気の毒である。上の話は、一見、もっともらしいが大きな矛盾がある。つまり、ESRFとSPring-8は、別のリングであるという基本的な点と、単一共鳴近似は、摂動の最低次数の近似であるから、それが良いモデルになり得るのは、エラーソースが小さい場合だけであるという基本を無視しているからだ。ESRFのようなエラーソースの大きいリング(ESRFのカップリングを最初に補正したのは筆者とJ.L.Laclare,L.Farvacque,A.Ropertであり、その時は筆者の作ったプログラムを使用した)では、元来、摂動的にリングのカップリングを記述するのが難しい。しかも、大きく励起された共鳴を少数の補正電磁石で制御しようとする場合、それ以外の共鳴をさらに大きく励起することになり、ますます難しい事態になる。同僚から、相手の攻撃パターンを教えてもらったので、WFLSの発表では、その点を考慮して説明を構成したが、やはり最後は泥試合になってしまった。その後も、L.Farvacqueと長時間議論したが、どうしてもSPring-8の結果を認めない。そこでSPring-8の蓄積リングのカップリングが、補正電磁石なしで0.1%以下であれば、筆者の勝ち、そうでなければ彼の勝ちということで賭けをすることにした。SPring-8の垂直ビームサイズの直接測定で、私たちの評価の妥当性を証明し、早くおいしいフランス料理と高級ワインをグルーノーブルで口にしたいものである。
 ここで、筆者の個人的印象として、北村氏のPlenary Sessionでの話がかなり刺激的であったことを記しておく。内容は、真空封止型挿入光源開発の歩みと今後の展開を示すものであり、戦略的色彩の濃い北村氏ならではのものであった。これからは、たとえ中規模施設であっても真空封止型アンジュレータとこれに最適化された低エミッタンスリングを用意すればESRF, APS, SPring-8に匹敵する高輝度X線が得られるであろう。そのモデルケースとしてSwiss Light Source があるというエンディングは、心に残るものであった。私の前の列にSwiss Light Sourceの加速器屋が、たまたまESRF の加速器屋連中の隣に座っていたが、北村氏の話の後に何が起こったかは、読者の想像におまかせしよう。



田中 均 TANAKA  Hitoshi
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0851 FAX:0791-58-0850
e-mail:tanaka@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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