Volume 04, No.4 Pages 20 - 22
4. 原研・理研・R&Dビームライン/JAERI・RIKEN・R&D BEAMLINE
産業界専用BMビームライン(BL16B2)の現状
Present Status of Industrial Consortium BM Beamline for Materials Research
日本電気㈱ 基礎研究所 Fundamental Research Laboratories, NEC Corporation
- Abstract
- Beamline BL16B2, together with its sister beamline BL16XU, is designed and constructed by an industrial consortium of 13 companies to characterize various materials developed for industrial purposes. The main experiments on this beamline are XAFS and X-ray topography, and in some cases X-ray diffraction and X-ray fluorescent analysis. The energy range from the titanium K-edge to the thulium K-edge is covered.
1.はじめに
ビームラインBL16B2は、13社が参加した産業用専用ビームライン建設利用共同体(以下「共同体」という)により、隣接する挿入光源ビームライン(BL16XU)とともに計画、建設された。広いエネルギー範囲でのX線吸収分光(XAFS)およびX線トポグラフィーなどの精密X線光学実験を行うことを目的とし、1998年秋にインターロック試験後、立ち上げ、調整作業を進めている。
2.ハッチ
ハッチ構造はBL16XUと一体となっており(図1)、BL16B2の光学ハッチはホールに面している部分がない。光学ハッチへの出入りは実験ハッチ上流パネルに設置した自動扉から、光学ハッチへの物品搬入等はBL16XUの光学ハッチとの間の手動扉から行うようになっている。そのため、手動扉のステータスはBL16XUとBL16B2の両ビームラインのインターロックに取り込まれている。また、安全対策として酸素センサーを取付け、上流及び下流側からモニターテレビで監視できるようになっている。光学ハッチへの入室は自動扉であっても一般ユーザーには制限されている。
図1 実験ハッチ外観(右手がBL16B2で、左手のBL16XUと一体構造になっている。)
3.光学系の現状
光学系は、輸送部に偏向電磁石ビームライン用標準型2結晶単色器およびベンド式円筒後置ミラーを配置している。
単色器は共用ビームラインで使用されている可変傾斜型単色器を採用しているが、単色器用結晶としてSi(111)結晶とSi(311)結晶を用意し、実験によって交換して使用できる。Si(311)結晶では可変傾斜機構を利用することが可能である。X線のエネルギー範囲は、産業界で特に重要なチタンの吸収端をカバーして4.5keV〜60keVのX線が利用できる。
高調波除去および集光用にX線円筒ミラーを配置し、湾曲機構も装備されている。実験に応じてミラーをビームパスからはずすことが可能である。標準的な使用においては、ミラーへのX線の入射角が5mradで、光源から41m地点に集光する設計になっており、13.5keVまでのエネルギーのX線に対して3次光を除去することができる。ミラーの挿入に伴なうビームパスの変化に対応するように、ミラーより下流では傾斜架台によってビームパスを上下するようになっている(図2)。そのため、光学ハッチと実験ハッチをつなぐビームパスは放射線の遮蔽を保ったまま可動できる構造になっている。ミラーの入射角を浅くすることで、集光点はずれるが、より高いエネルギーのX線に対しても高調波除去が可能である。金属箔による予備的なXAFS実験において、十分な高調波除去が確認されている。
図2 傾斜架台(左)と光学ハッチと実験ハッチをつなぐ可動型ビームパス
4.実験ステーションの現状
実験ハッチ内には、大型定盤が設置され(図3)、XAFS、X線トポグラフィーを含む精密X線光学実験、および反射率測定といった多種類の実験が可能な多機能実験装置を配備している。精密ゴニオメーター系とXAFS光学系を同一定盤上に装備し(図4)、実験に応じて架台の上下および水平移動が可能である。検出器はNaI検出器、SSD、イオンチャンバー(IC)などを備え、広いエネルギー範囲に対応できるように8系統のガス配管を装備している。
図3 実験用定盤(中央は水平2軸精密ゴニオメーター)
図4 下流側から見た実験装置光学系(両側のゴニオメーターおよび中央にイオンチャンバーと試料冷却装置が見える)
ビームパスはXAFSおよびX線トポグラフィー実験で、同一にも、ずらすことも可能であり、必要に応じてヘリウムを導入できる(図5)。反射率測定用ステージなど各種の実験に対応できる試料ステージ/ホルダーを備えており、XAFS測定用として試料冷却装置も標準で装備されている(図4)。
機器制御はLabview上での制御ソフトで行い、XAFSおよびX線強度測定(ロッキングカーブの測定など)が可能である。
図5 ヘリウムパス(ミラー挿入に対応して、角度をつけて上下移動できる。)
5.実験装置立ち上げ状況
立ち上げ期間中であり、十分な調整は完了していないが、標準的な試料によるテスト測定を試みている。
XAFSは銅箔およびチタン箔を用い、透過法および蛍光法での測定を行った。ミラーによる高調波除去の効果が顕著にみられ、さらに低温(8K)での測定では振動強度の増強が観測されることを確認した。
精密X線光学実験のうち、ゴニオメトリーは問題なく実験可能であったが、トポグラフィーでは、単色器結晶の歪や上流のBe窓の研磨跡によると思われる縞が観測された。今後のR&Dで改善を図っていく。
6.おわりに
現状では、必ずしも本ビームラインの実験課題に対して満足できるビーム特性が得られているわけではないが、実用的な面で産業界が必要とする材料評価のかなりの部分に適用可能なレベルのビームが得られた。
今後、実用に近い試料を用いたテストを行い、実験装置の操作手順書を整備して、1999年10月より各社の利用を開始する予定である。と同時に、平面波トポグラフィーに対応できるビーム特性の改善も必要であり、JASRIの研究スタッフのご協力をお願いしたい。
本ビームラインの建設・利用に関し、ご指導いただいている上坪所長をはじめ、関係各位に厚く御礼申し上げます。
泉 弘一 IZUMI Koichi
日本電気㈱ 基礎研究所
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FAX:0298-56-6137
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略歴 昭和57年東京大学工学部物理工学科卒業。昭和61年東京大学大学院博士課程中退。東京大学工学部助手を経て、平成8年より現職。工学博士。日本物理学会、日本放射光学会会員。