Volume 04, No.3 Pages 77 - 79
4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
海外施設調査団参加報告
On Participating in the Delegation of Promotion Conference for the Industrial Use of SPring-8
SPring-8利用推進協議会主催(共催(社)関西経済連合会、(財)高輝度光科学研究センター)による海外施設調査団に利用推進協議会メンバーの一人として参加した。
厳冬期の欧米訪問で心配したが、日本の寒気をよそに、訪問先はどこも10℃前後の異常な暖かさで、SPring-8からSpring「春」を運んできたと歓迎され、予想以上に順調に情報交流が出来た。
本稿は調査の概要を述べるものである。
1.目的
1)海外の大型施設を見学する機会を設け、SPring-8産業利用の拡大につなげる。
2)各施設の産業利用に関する対応の実態を調査し、今後SPring-8産業利用活性化の方策検討の参考とする。
2.参加メンバー、期間、日程、訪問施設
1)参加メンバー
石川団長(富士通研究所 常務取締役)以下、大阪大学、関経連、関西電力、川崎重工業、住友電気工業、ダイセル化学工業、三菱化学、JASRI等の団体・企業からの参加者 13名
2)期間 平成11年1月31日〜平成11年2月10日
3)日程、訪問施設等(下表)
訪問日 | 訪問先 | 内 容 | 先方の主たる対応者 |
2/1 | DARTS | 討論及び施設見学 | R. J. Cernik(Asst. Director) |
2/4 | ESRF | シンポジウム及び施設見学 | Y. Petroff(Director General) W. E. A. Davies(ADM. Director) J. Doucet(Relations with Industry) |
2/5 | 〃 | シンポジウム及び運営に関する討議、 質疑応答 |
|
2/8 | APS | 討論及び施設見学 | G. K. Shenoy (Experimental Facility Div. Director) |
3.調査結果概要
今回訪問した施設では、いずれも大学、研究機関と企業の共同研究等の形が主ではあるが、全体の20〜25%の利用実験で産業界が参加しており、SRの産業利用は活発であると感じた。
また、ポリマーの製造工程の一部をモデル化して実験ハッチに持ち込み、構造を即時調査しながら、製造技術の改善情報の収集を行うなどIndustrial ModelingによるIn−situX線分析等も行われており、産業応用への真剣な取り組みがうかがわれた。
3. 1 DARTS(Daresbury Analytical Research and Technology Service of CLRC)
英国の独立行政法人であるCLRC(Central Laboratory of the Research Councils)の一部門であり、傘下のダレスベリー研究所にある放射光施設(SRS)を利用して、有料の分析・解析サービスを行うことを目的として、1997年5月に発足した。これにより、放射光技術の専門家を持たない民間企業でも放射光を利用した研究が容易になり、SRの産業応用の活性化が進んでいる。
1)施設概要(SRS)
蓄積リング :2GeV 200mA 周長 96m
ビームライン:12本(実験ステーション数41)
年間予算 :約20百万ポンド(約40億円)
うち95%は国家予算
2)事業展開:問題解決型技術支援。顧客から持ち込まれる個別の課題に対し、担当スタッフがTailor madeで解決を支援。
3)料金 :受託形態はビームタイムの切り売りから分析を含むフルサービスまで3ケース。固定した料金表は無く、案件毎に見積もりするシステム。ただし相談は無料。
4)売上高 :約8000万円(1999年度見込み)SRS予算の約2%を賄っている。
5)主な分野:製薬産業(35%)、石油産業(20%)、塗料(10%)
SRSは2000年以降に3GeVの新放射光施設を建設する計画(DIAMOND計画)を推進中。
軟X線領域での高輝度化をめざし、ESRFや現施設との棲みわけを行う計画。
3. 2 ESRF(European Synchrotron Radiation Facility)
欧州12カ国(現在15カ国)が共同出資して建設した第3世代の共同利用放射光施設。フランス東南の中核都市グルノーブルにあり、フランス法制下の民間非営利企業()として運営されている。
ESRFにおいてはシンポジウムを行い、双方より産業利用に関連する研究成果及び産業利用に関する取り組みの報告を行った。また、成果専有課題の取り扱い、産業界へのアプローチ等に関し事前に日本から送った質問状に基づきラウンドテーブルミーティングを実施した。
1)施設概要
蓄積リング :6GeV 200mA 周長 844m
ビームライン:共用BL 30本
CRG*1 専用BL 10本
年間予算 :約4億フラン(約80億円)
98年度は殆どが運営費。
*1 CRG:Collaborating Research Group
2)産業利用の状況
大学と企業の共同研究等産学協同の形が主であるが、全ビームタイムの約20%程度が産業利用に供されている。ESRFは基礎研究が主目的であるため、産業利用については必ずしも積極的ではなかったが、1998年の評議会で産業利用促進のためのポリシーが決定され、下記のような推進策が行われている。
・製薬業界の緊急利用実験のために、毎週月曜日にビームタイムを確保
・産業利用専用の共用ビームラインID27の建設
(30cmシリコンウェハーの不純物分析:
MEDEA program)
3)成果専有課題について
成果専有の利用は、’98年実績91シフトで全ビームタイム比1%程度であるが、上記推進策などにより数%にまで伸ばし、将来的には事業として独立させることもありうるとしている。
・利用料金:28,000FF/シフト(約56万円)で、ESRFメンバー国は割引がある。
・審査 :テーマ審査時は安全性のみのチェックであり、不干渉。
・緊急課題:緊急課題については、バッファ時間を活用することで、申請から実施まで1〜2週間と短期間で対応可能。
3. 3 APS(Advanced Photon Source)
APSは合衆国イリノイ州シカゴ郊外の米国アルゴンヌ国立研究所(ANL)にある第3世代放射光施設で、1997年に稼動した。ANLは米国エネルギー省(DOE)の所管下にあり、APS等施設の管理を行い、運営はシカゴ大学に委託されている。
APSは共同利用施設であるが、APS自身が運用する共用ビームラインは無く、すべてCAT*2 と呼ぶ共同組織体が運用するいわゆる専用ビームラインとなっている。CATは特定の研究目的をもって、大学、研究所、企業などで編成したチームであり、ビームラインの建設から運営まで、資金調達を含めて、すべてCATの責任において行っている。ただしCATとAPSの間には基本契約があり、設置の認可、以後の運営状況の監視はAPSにより行われている。
*2 CAT:Collaborative Access Team
1)施設概要
蓄積リング :7GeV 100mA 周長 1,104m
ビームライン:稼働中 31本
CAT :現在17CATs
(セクター数現在20 将来34)
年間予算 :約8200万ドル(約95億円)
2)産業利用の状況
利用課題のうち約25%に産業界からの参加があった。分野別には生物/生命科学:49%、材料:21%、高分子:8%、計測:8%などで、今後環境関係が増加するとみている。
17CATのうち14のCATには企業がメンバーとして参加しており、特に製薬会社12社がコンソーシアムを組むIMCA−CATでは、蛋白解析で産業利用が活発に行われている。
また建設中のCOM−CAT*3 は英国DARTSのように産業利用の促進を目指すものとして注目される。
*3 COM−CAT(Commercial CAT)
産業界のために実験から分析解析を含めたフルサービスを行う為の専用ビームライン。
建設・運営の資金調達は実質イリノイ州が行っており、いわば兵庫県BLに相当。
3)成果専有課題について
’97年からの実績累計は18課題31シフトでごく僅か。殆どの実験は製薬会社による生体分子結晶分析であり、全てCATメンバーである。
課金はシフト(8h)単位で ’99年レートは$1,545 (約18万円/1シフト)。
成果専有課題は各CATのDirectorのみが審査することで、機密が保持されている。
4.おわりに
今回の調査により欧米各国でそれぞれのやり方は異なるものの、SRの産業利用の推進に意欲的に取り組んでいることを実感できた。SPring-8においても同様の取り組みがなされることを期待したい。
なお詳細については、後日正式報告書が発行される予定である。
11日間のあわただしい旅であったが、個人的には中世名残の美しい街チェスターでの朝の散策やパリの小さなシャンソン小屋の家族的な雰囲気など、仕事の合間の楽しい思い出も作ることができた。
この機会を与えていただいた協議会他関係者の皆様に感謝の意を表したい。
神保 健作 JIMBO Kensaku
スプリングエイトサービス㈱
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