Volume 04, No.3 Pages 40 - 42
2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
緊急課題、ボーナスシフト課題等への対応状況
Urgent Proposals at SPring-8 Public Beamlines
1.緊急課題
平成9年10月の供用開始以来、SPring-8の半年毎の共同利用期間の研究課題の募集は3回行われました。「緊急課題」はこの定期募集とは別に随時受け付けており、これまで第2回利用期間に1件、現在実施中の第3回利用期間に10件の計11件の応募がありました(平成11年4月1日現在)。
緊急課題は通常の審査基準の他に「緊急でかつ極めて重要」(諮問委員会:基本的考え方)という条件に該当することが必要であり、審査の結果第2回利用期間分及び第3回利用期間分の各1件は不採択となりました。また、緊急課題にはJASRI保留分のビームタイムを充てることになっているため、第3回利用期間分で審査に合格した内の1件については、配分すべきビームタイムが確保できないため不採択となりました。したがってこれまで採択された緊急課題は第3回利用期間の7件となります。
採択された緊急課題
課 題 番 号 | 分 野 | B L 番 号 | 実 験 責 任 者 | 所 属 機 関 | 国 |
1999A0393-UL-np | 生命科学 | BL41XU | 福山 恵一 | 大阪大学 | 日 本 |
1999A0394-UL-np | 生命科学 | BL08W | 中井 泉 | 東京理科大学 | 日 本 |
1999A0396-UD-np | 散乱/回折 | BL10XU | 川村 春樹 | 姫路工業大学 | 日 本 |
1999A0404-US-np | 分光 | BL25SU | 関山 明 | 大阪大学 | 日 本 |
1999A0408-UL-np | 生命科学 | BL41XU | Lawrence Michael | Biomolecular Research Institute | Australia |
1999A0412-UD-np | 散乱/回折 | BL10XU | 高田 昌樹 | 島根大学 | 日 本 |
1999A0418-UD-np | 散乱/回折 | BL10XU | 森 嘉久 | 岡山理科大学 | 日 本 |
2.追加採択課題
第3回共同利用の課題選定の際、不採択とされた申請者からの問い合わせにより、1件の課題の技術審査において、必要な機器の準備について誤解があったことが判明し、改めて再審査を行った結果採択とされ、次に述べるボーナスシフト時にビームタイムが配分されました。
追加された採択課題
課 題 番 号 | 分 野 | B L 番 号 | 実 験 責 任 者 | 所 属 機 関 | 国 |
1999A0026-UD-np | 散乱/回折 | BL39XU | 橋爪 弘雄 | 東京工業大学 | 日 本 |
3.ボーナスシフト課題
夏期及び冬期の長期運転停止期間直後のサイクルは、加速器やビームラインの立ち上げ調整及び総合試験を行うため、これまではユーザーにビームタイムを配分していませんでした。しかし、今年の冬期運転停止期間後の最初の運転サイクルである第99-1サイクルは、施設側の習熟や作業手順の合理化等により、サイクル後半の4日間程度(各ビームラインで最大12シフト)をユーザーに提供できる見通しが得られたため、ボーナスシフト(マルチバンチ運転)として、過去に採択された課題でビームダンプや測定装置の故障などのため実験ができなかった課題や、各ビームラインの立ち上げ課題に類するもので緊急に実施する必要がある課題等の実験に提供することとし、臨時に課題募集を行いました。
審査方法は、新規課題は通常の分科会審査を行いますが過去の採択課題については分科会審査は省略することとし、ビームタイムが競合する場合はJASRIの放射光研究所長が過去の経緯等を考慮して優先順位を決めることとしました。
締切までに15件の応募があり、13件が採択されました。なお、このボーナスシフトの期間には、前記の緊急課題のうち2件及び追加採択課題1件も併せて実施されました。
採択されたボーナスシフト課題
課 題 番 号 | 分 野 | B L 番 号 | 実 験 責 任 者 | 所 属 機 関 | 国 |
1999A0395-BD-np | 散乱/回折 | BL08W | 坂井 信彦 | 姫路工業大学 | 日 本 |
1999A0398-BD-np | 散乱/回折 | BL02B1 | 野田 幸男 | 東北大学 | 日 本 |
1999A0399-BL-np | 生命科学 | BL41XU | 今田 勝巳 | 科学技術振興事業団 | 日 本 |
1999A0400-BD-np | 散乱/回折 | BL04B1 | 武田 信一 | 九州大学 | 日 本 |
1999A0401-BD-np | 散乱/回折 | BL09XU | 伊藤 正時 | 慶応義塾大学 | 日 本 |
1999A0402-BX-np | XAFS | BL01B1 | 丹羽 幹 | 鳥取大学 | 日 本 |
1999A0403-BS-np | 分光 | BL25SU | 藤原 裕司 | 三重大学 | 日 本 |
1999A0405-BD-np | 散乱/回折 | BL02B1 | 田中 清明 | 名古屋工業大学 | 日 本 |
1999A0406-BX-np | XAFS | BL01B1 | 芳賀 孝吉 | 住友電気工業㈱ | 日 本 |
1999A0409-BUL-np | 生命科学 | BL41XU | 神谷 信夫 | 理化学研究所 | 日 本 |
1999A0410-BL-np | 生命科学 | BL41XU | 佐藤 和彦 | 姫路工業大学 | 日 本 |
1999A0411-BL-np | 生命科学 | BL41XU | 甲斐 泰 | 大阪大学 | 日 本 |
1999A0413-BUX-np | XAFS | BL01B1 | 高橋 昌男 | 大阪大学 | 日 本 |
4.これまでの共同利用研究課題実施状況のまとめ(H11.4.1現在)
第 1 回 | 第 2 回 | 第 3 回 | 備 考 | |
利用期間 | H9.10~H10.3 | H10.4~H10.10 | H10.11~H11.6 | ( )内の数字は応募数を示す 前回未配算分及び繰越はBL25及びBL27の整備遅れに伴う調整分 |
当初採択数 | 128(190) | 229(305) | 258(392) | |
追加採択数 | 2(8)(遅着インド分) | 4(前回未配算分) | 1 | |
緊急課題数 | ― | 0(1) | 7(10) | |
追加・繰越 | 6(次回へ繰越) | 6(前回から繰越) | 13(15)ボーナスタイム | |
中 止 数 | 30 | 5 | 2 | |
実 施 数 | 94 | 234 | 277(予定) |
5.和歌山カレー毒物事件試料分析の経緯
新聞等で話題になったSPring-8を利用した和歌山カレー毒物事件試料の分析は、研究者から緊急課題として申請があり、採択されて実施されたものです。
(1)実験の概要
重い元素の微量分析はこれまで20keV以下のX線を用い、主にLX線(当該元素のL殻にある電子を放出したときに出る蛍光(特性)X線)を測定して行ってきましたが、周期律表でカルシウムから臭素までにある元素が不純物として含まれている場合、これらの元素のKX線(K殻の電子を放出したときに出る蛍光X線)が重元素のLX線に重なってきて正確に定量できないことがあります。一方、KX線を測定する場合、エネルギーの近いX線を出すものが無く測定精度が大幅に向上します。このため、SPring-8の100keV以上の高いエネルギーのX線を用い、各種試料の蛍光X線分析を行い、亜ヒ酸に含まれる不純物の同定を行いました。
(2)科学技術的妥当性の検討
SPring-8でしか実現できない100keV以上の高エネルギーX線による極微量分析という研究手法的に新しい部分があること、及び申請者が後日学会などで成果を発表することを明言していることから、通常の成果公開課題として選定するのが妥当と判断されました。
(3)SPring-8の必要性の検討
この測定のためには100keV以上のX線が必要であり、これが可能なのはSPring-8だけです。
(4)緊急性、重要性の検討
申請書に「捜査当局の依頼により」との補足説明があり、当該事件が社会的に関心が高く重要な事件であったことから緊急課題に該当すると判断されました。
(5)技術的可能性の検討
SPring-8の「高エネルギー非弾性散乱ビームライン(BL08W)」により100keV以上のX線を利用できます。
(6)実験の安全性
試料は微量で、かつ非破壊測定であり、飛散などのおそれはなく、また、実験の性格上終了後全ての試料を持ち帰るので安全性は確保できます。
(7)ビームタイム配分の可能性
本番実験を行う前に、BL08Wを用いて極微量分析ができるかどうかのテスト実験を行う必要があります。「緊急課題」であることから、共同利用実験課題の切り替え時を利用して短時間のテスト実験を行い、本番実験は共同利用実験終了直後のJASRIがマシンスタディを予定している時間を利用して行うこととしました。
(8)実験の実施経過
テスト実験を予定していた日の前日に、BL08W実験ステーション内の超電導磁石の冷凍機が故障し、その修理に約5日間かかることが判明しました。このため当該時間にビームタイムを割り当てられていた実験チームが実験の中止を決め、ビームタイム辞退の申し出があったため、急遽、テスト実験に引き続き本番実験をそのまま継続して行うこととなり予定した全ての実験を終了しました。
その後申請者から試料の一部について追加実験の希望があり、当初予定していたマシンスタディの時間を利用して追加実験を行いました。
6.終わりに
和歌山カレー毒物事件での試料分析の場合のようにSPring-8をご利用いただくことはSPring-8の使命の一つであり、今後も利用者の方々にSPring-8の色々な活用方法を研究していただきたいと思います。
SPring-8の利用に関して技術的な質問等がありましたら、JASRI放射光研究所利用促進部門(TEL:0791-58-2750、FAX:0791-58-2752)までお問い合わせ下さい。
また、SPring-8をご利用いただく場合、現在はSPring-8では放射光と一般的な実験測定機器を提供するだけであり、特殊な機器や測定・分析を行う要員は依頼者側で準備していただく必要があります。これについても、将来は利用者から試料をお預かりし、分析結果をお返しする分析サービスをSPring-8でも行えるように検討を進めております。