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Volume 04, No.2 Pages 54 - 55

6. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTER FROM SPring-8 USERS

新サブグループ「ランダム系物質高エネルギー散乱」の紹介
The Introduction of the Subgroup ; High – Energy X-ray Scattering Studies on Disordered Materials

梅咲 則正 UMESAKI Norimasa

大阪工業技術研究所・光機能材料部 Department of Optical Materials, Osaka National Research Institute

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 ガラスや溶融塩などの複雑なランダム系物質は、短距離構造において大まかな秩序を適度に保ちつつ、中距離構造から長距離構造にかけて適度に無秩序になっている。この様なランダム系物質の構造は、結晶状態で保持していた原子配列の周期性が消失しているので、結晶と同様の方法で構造を記述できない。そこで、ランダム系物質の構造を記述するために、通常、動径分布関数〔Radial Distribution Function, r.d.f. =4πr2ρr)あるいはρr)/ρ0r)〕という概念を導入して調べるのが便利である。r.d.f. からランダム系物質の原子レベルでの微細構造を精密に計測・評価するためには、逆格子空間で高い散乱ベクトル(Q=4πsinθλ)値まで測定する事が不可欠となる。
 現在までに、ランダム系物質の構造解析には、主にX線や中性子線が使用されてきた。通常、X線で使用されている波長範囲(λ=0.1〜2.5Å)は、中性子線(λ=0.1〜20Å)に比べると限られているために、X線回折から得られる構造情報は精度が落ちる。この理由のために、ランダム系物質の構造研究は、現在、パルス中性子を用いた構造解析が主流となり、X線を用いる場合は、パルス中性子回折では十分カバー出来ない高温状態や少量の試料など肩身の狭い思いをしている。しかしながら、周期的な構造を持たないランダム系物質では、多くの構造情報から構造モデルを構築していかなければゴールにたどり着けない。現在、やっと中長距離構造の議論が盛んになってきた段階で、ゴールは未だ遥か彼方である。このために、われわれランダム系物質の構造を調べてきた者にとっては、X線と中性子線を用いた構造解析が同レベルの精密さで構造解析が出来るのを切望してきた。最近、エネルギーの高いシンクロトロン放射光X線源を用いて、ランダム系物質の構造解析を行なうと、実空間で高分解能なr.d.f.が得られることが分かってきた。そこで、高エネルギーX線を用いた構造解析を確立することは、複雑な構造を持つランダム系物質の構造科学の進歩に大きな貢献をすることが期待できる。しかしながら、現在までに、わが国の放射光施設においては、ランダム系物質の精密構造解析が可能な高エネルギーX線回折装置は整備されていなかった。
 SPring-8では、平成10年度の補正予算で、「高エネルギー単色偏向電磁石ビームライン(BL04B2)」の新設が認められ、このビームラインで単色化高エネルギーX線を用いたランダム系物質専用の回折装置が世界で最初に整備されることが決まった。この様な理由を背景に、昨年夏ごろより、国内外のランダム系物質の構造を調べている研究者と連携して『ランダム系物質高エネルギー散乱』グループ結成を夢見て、SPring-8利用者懇談会に新SGとして提案させて頂いた。この提案は、昨年10月末の運営委員会で承認され、晴れて『ランダム系物質高エネルギー散乱(A−17)』SGとして発足する事になりました。本SGは、国内外のランダム系物質の構造解析を行なっている研究者と連携を保ちつつ、このビームラインの開発に協力をして、ランダム系物質の構造科学の構築に貢献をすることを目的とした集まりです。積極的にSG活動を展開して行こうと思っておりますので、関心の有る方は、是非入会して、ランダム系物質の構造科学の構築の一翼を担いましょう。 
 
 
 
図1 動径分布関数r.d.f. の概念[1] 
 
参考文献
[1]J.M.Ziman:“Models of Disorder”,Cambridge Univ.Press (1979) 809. 
 

梅咲 則正 UMESAKI  Norimasa
大阪工業技術研究所・光機能材料部
〒563-8577 大阪府池田市緑丘1-8-31
TEL:0727-51-9536 FAX:0727-51-9631
e-mail:umesaki@onri.go.jp 
 
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Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794