Volume 04, No.2 Pages 50 - 51
5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
日本放射光学会年会報告
Joint Symposium on the 12th Annual Meeting of Japan Synchrotron Radiation Science
1月7日から9日にかけて、第12回の日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウムが、つくばの高エネルギー加速器研究機構で開かれた。この学会は放射光施設を利用するという名の下に様々な分野の研究者が集合しており、個々の研究や適切な全体観を述べることは私の能力を越えているので、気のついた事、印象に残った事を幾つか述べることにとどめる。
初日は恒例のように幾つかの研究施設の利用者懇談会にあてられていた。私はSPring-8利用者懇談会に出席した。そこでは今年度新しくスタートしたサブグループの紹介があった。詳しくは本誌の他のページに紹介があるはずなので参照されたい。また新聞でも大きく報道された、和歌山カレー事件の鑑定のための実験についての経過説明があった。不純物として含まれていたBiの100keV近くもの高エネルギーでの蛍光測定という、科学的にも新しい領域であり、SPring-8でしかできない実験であるということや、ちょうど他の実験グループの都合によりビームタイムが利用できたことが幸いし、緊急課題として比較的早期の実験が実現したようである。当の中井先生に限らず「SPring-8は良くやってくれた、すばらしい。」という年賀状が届いた研究者があったという話しも少なからず聞く。また数十億円の宣伝費に匹敵するだろうという科学技術庁のコメントもあり、SPring-8の面目躍如と言ったところであろう。
2日目は「高輝度放射光に関する加速器研究者とユーザーとのコミュニケーション」と題して、加速器の「ビッグサイエンス」と放射光利用の「スモールサイエンス」の対話がテーマであった。パネラーは神谷(東大物性研)、下村(SPring-8)、柳下(PF)、熊谷(SPring-8)、小林(PF)の各先生方で、それぞれ放射光利用側と加速器側を代表して発表があった。放射光利用(ユーザー)側ではBe窓によるスペックルパターンの観測や、FZPによる集光、ダイヤモンド移相子による円偏光の変換などの放射光源の特性を生かした実験やその問題点の紹介があった。一方、加速器側からは蓄積リングの高輝度化の改造や今後の課題(ビームの寿命や輝度、エミッタンスと光軸の安定度など)が話された。装置を調整改良する際に、相反する多くの条件の中で、どの性能を向上させるのかという議論は、ユーザーがどのような実験をしようとしているのかという理解が不可欠である。これは加速器側がユーザーがどのような光を欲しているのかということを理解することと同時に、ユーザー側が放射光の基本的な性質をある程度理解していることも重要である。また議論の途中に、実は加速器側とユーザー側の間で、ビームラインを扱うビームラインサイエンティスト集団と光学素子の専門家集団の役割も大変重要であるということが出てきたように思う。加速器側から見てユーザー側の多様な研究テーマの一つ一つを完全に理解することは困難であろうし、逆に末端のユーザー側から見て巨大な加速器の問題点を個別に指摘するのは実際上不可能である。加速器とユーザーをうまく中継ぎできていないビームラインはきっとうまく行かないに違いない。パネラーによる一つ一つの話は大変分かりやすいものではあったが、議論するための時間が十分でなかったのが残念であった。このような企画は学会の性格上、毎回企画されても良いのではないかと思った。
3日目は新しい研究として軟X線発光分光の企画が興味深かった。これは高輝度の放射線源の出現によって研究が容易になった分野の一つである。内殻電子を閾値近傍に励起したときの発光スペクトルはXAFSスペクトルと密接な関係を持っているが、通常のXAFS測定では分離できない遷移を別々に観測することができる。またこのような研究を押し進めていくと、物質の電子状態だけではなく、内殻励起状態における格子緩和・電子緩和の仕組みが明らかになることが期待される。
施設報告としてはポスター形式で、PF、東大物性研、UVSOR、SPring-8、電総研、自由電子レーザー研、立命館大、広島大からの報告があった。また計画段階のものとしては、名大NSSR、東北大TSRF、放医研、なのはな計画、日本大からの紹介があった。また企業展示も40社のエントリーがあり大変盛況であった。
最後にバスに関して一言。予稿集に載せられていたバスの時刻表は古いもので、それを信じた私は予定していたバスに乗れず、初日はタクシーを呼んでもらうはめになってしまった。東京や大阪のような大都会ならいざ知らず、PFもSPring-8もバスの便がいいとは言えないので、何百人もの会合を開く場合は細心の注意が必要だと思う。それでも2日目の懇親会の後、私は用意された2台目の観光バスに乗って貸し切り状態なのに気づき(本当に一人だった)、感謝しながら旅館に戻った。
西畑 保雄 NISHIHATA Yasuo
日本原子力研究所 関西研究所 放射光利用研究部
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