Volume 04, No.2 Pages 26 - 29
3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE
高温構造物性BL04B1実験ステーションの現状
High Temperature Research BL04B1 Experimental Station
[1](財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門 JASRI Experimental Facilities Promotion Division、[2]日本原子力研究所 関西研究所 放射光利用研究部 Dept. of Synchrotron Radiation Facilities, JAERI Kansai Research Establishment
1.はじめに
BL04B1は、高温、高圧の極限状態下における物質の構造や物性を研究することを目的に建設された白色光専用の偏向電磁石ビームラインで、大型高圧プレスによる40GPa、2000℃までの地球深部領域の実験を主体とする高圧地球科学サブグループと、2000bar、1650℃までの高圧ガスによる超臨界領域の実験を主体とする高温サブグループの2つの実験ステーションが相乗りする共用ビームラインである。BL04B1は、いわゆるSPring-8第一陣のビームラインのひとつで、1997年10月から一般ユーザーへの共同利用実験を開始した。ビームラインの計画・立ち上げから共同利用開始までについては、本誌Vol.1,No.3,p30、およびVol.2,No.5,p24に掲載されているので参照していただきたい。共同利用開始以降、光学系ならびに実験装置の整備はほぼ順調に進んでおり、ユーザー利用回数も年々増加してきている。本稿では、1999年2月の時点でのBL04B1の現状について紹介する。
2.ビームライン光学系
BL04B1は、光源から最後方の壁までの距離が約20mのビームラインで、上流から順にそれぞれ光学ハッチ1、光学ハッチ2、光学ハッチ3の3つのハッチから構成されている。光学ハッチ1は、いわゆるビーム調整を行うためのハッチであり、偏向電磁石からの白色光を実験ステーションへ輸送するためのコンポーネント類が並んでいる。図1にBL04B1の光学ハッチ1内の構成を示す。BL04B1は、放射光を分光することなく、そのままの輝度、エネルギー(〜150keV)のまま実験に使用する。このため、輸送チャンネルとしてはミラーやモノクロメーター等は一切なく、ビームの位置をモニターするためのビューポートとビームサイズを成形するための固定マスク(開口幅は10mm×10mm)、および水冷4象限スリット(Ta製5mm厚ブレード)しかない(SPring-8で一番単純な光学系である)。共同利用実験において、光学ハッチ1の輸送チャンネルのうち、ユーザーが操作するのは水冷4象限スリットのみで、ハッチ外部のユーザー用PCのGUIからいつでも操作可能である。通常、スリット幅は0.3mm程度に設定している。
図1 BL04B1光学系の模式図(光学ハッチ1)
3.実験ステーション
3. 1 高圧地球科学ステーション
BL04B1の光学ハッチ2は、高圧地球科学サブグループの実験ステーションで、最大荷重1500トンのマルチアンビル型高圧発生装置(SPEED−1500、SPring Eight Energy-dispersive Device with a 1500ton press)を中心に、それに付随するX線回折装置が設置されている(図2)。本ステーションは、上流側から入射光学系、高圧発生装置、受光光学系の3つのセクションから構成される。
図2 高温高圧X線回折装置(光学ハッチ2)
入射光学系は、水冷4象限スリットからの白色光をさらに絞るためのスリットが設置されている。スリットは、厚さ10mmのW合金製の固定式で、水平、垂直方向ともに0.05、0.1、0.2、0.3、0.5mmのサイズが用意されている。現在、より微小試料の実験に対応するために、最大で0.02mmまで絞ることが可能な自動4象限スリットの導入を計画しており、本年7月を目処に設置を予定している。
高圧発生装置、SPEED−1500は、高さ3m、総重量約20トンで、全実験ステーションの中でもその図体が一際目立つことから、今やSPring-8の観光名所のひとつになっている。装置本体は、XYZ方向への並進移動およびφZ回転の機構をもっており、回転以外の移動についてはすべてハッチ外側のPCにより1μm単位の位置制御が可能である。SPEED−1500の高圧発生の基本は、4本の支柱で支持された上部油圧ラムより6個のDIA型第1アンビルに荷重をかけて、内部に置かれた8個の立方体第2アンビルを加圧する、いわゆる6−8型と呼ばれる2段式加圧である。通常の実験では、第1アンビルに50mm角のマレイジング鋼製、第2アンビルに26mm角のWC製のものが使用され、第2アンビル部分は共同利用ユーザーに準備していただくことになっている。これまで先端サイズ1.5mm〜12mmまでのWC製アンビルが使用され、常温で30GPa、2000℃で25GPaまでの実験が行われている。また昨年から岡山大伊藤グループにより、第1アンビルに27mm角のWC製、第2アンビルに14mm角の焼結ダイヤモンド製を用いた実験も開始され、40GPa以上の圧力発生が可能であることも確認されている。
受光光学系は、X線回折測定を行うための水平、および垂直ゴニオメーターとコリメーター、受光スリット、Ge半導体検出器から構成される。それぞれのゴニオメーターの可動範囲は、垂直が±25°、水平が−5〜+15°であり、どちらも0.001°の再現精度で制御される。現在、立ち上げが終了しているのは水平ゴニオメーターのみである。水平ゴニオメーターを用いた場合、高圧プレス加圧時の第1アンビル間の水平方向のギャップが約1mm程度にまで狭くなるため、回折測定に必要な回折角(2θ)を確保するための溝穴を、X線の入射および透過するX方向に開けている(図3)。これにより、2θが最大で15°までの回折測定が可能である。またコリメーター、受光スリット、Ge半導体検出器は、X方向への自動並進移動ステージ上に設置されており、コリメーターを第1ガイドブロックの溝穴を通して、できるだけ実験試料に近づけて測定することができる。コリメーターは、φZ回転およびYZ並進移動ステージ上に設置されており、マニュアル操作によりコリメーター位置を最適な位置に調整することができる。コリメーターの種類は、先端0.05、0.1、0.2mm幅のものが用意されている。現在さらに小サイズのコリメーター(0.025mm)と自動コリメーターステージの設置を計画中で、本年度中に改造を予定している。受光スリットについては、入射スリットと全く同じで水平、垂直方向ともに0.05、0.1、0.2、0.3、0.5mmのサイズが用意されている。またGe半導体検出器には、CANBERRA社製の10mm厚の純Ge素子のものを使用しており、約100keVまでのエネルギー範囲において、良質なX線回折データが得られている。半導体検出器は、CANBERRA社製のPCソフトにより制御されており、ユーザーは実験データをFDまたはMOにより保存、取得できる。本年中には、さらに100keV以上の高エネルギー対応のGe半導体検出器(20mm厚)も用意する予定である。
図3 第1ガイドブロックの溝穴にコリメーターを通して回折X線を検出する様子(手前はGe半導体検出器)
3. 2 高温ステーション
BL04B1の光学ハッチ3は、高温サブグループの実験ステーションで、流体構造研究用の高圧ガス容器と、それに付随するX線回折装置が設置されている(図4)。高温ステーションでは、実験に高圧Heガスを扱うため、装置の周囲は厚さ5mmの鉄板製防護壁が張り巡らされている。装置は、上流側から入射4象限スリット、高圧ガス容器、水平ゴニオメーター、受光4象限スリット、Ge半導体検出器から構成される。入射および受光4象限スリットにはマイクロメーターが付いており、0.01mmの精度でスリット幅をマニュアルで操作する。
図4 流体構造研究用高圧ガス容器ならびにX線回折装置(光学ハッチ3)
高圧ガス容器は、外径105mmφ、内径50mmφのシリンダー内部に圧縮Heガスを充填し、上下蓋の外側をフレームで支える仕組みになっている。実験試料は、あらかじめ回折線を出さないように方位決定された単結晶サファイア製の特殊セルの中に封入され、シリンダー内に設置された内熱型のヒーターにより高温高圧状態にする。このシステムでは、2000bar、1650℃までの実験を行うことが可能で、この温度圧力領域までのその場X線観察実験の行えるビームラインは、世界中でBL04B1だけである。また高圧ガス容器には、X線の通過するための入射用1ヶ所と測定用4ヶ所(2θ=5、10、20、33°)にBe窓が設けられており、並進・回転ステージにより水平ゴニオメーターの回折中心と実験試料とを合わせるように調整することができる。水平ゴニオメーターの可動範囲は−60〜+145°、再現精度は0.02°であり、ハッチ外のPCによって制御される。実験試料からの回折線は、水平ゴニオメーターに搭載されたGe半導体検出器(CANBERRA社製、純Ge素子10mm厚)によって計測される。検出器関連のモジュール類は、高圧地球科学ステーションと兼用しているため、制御PCおよびソフトも兼用で使用される。また、本ステーションの実験装置は、広島大田村グループとSPring-8との共同で管理しており、高圧ガス容器の使用にあたっては、SPring-8内規の高圧ガス装置保安管理体制に基づいて行われる。
4.おわりに
共同利用開始から1年半が経過し、BL04B1は「何があるビームラインなのか」から、「何ができるビームラインなのか」が問われる段階に入った。しかし内部事情は、実験に必要な最低限度のものがやっと準備できたところで、装置の周辺機器や制御ソフトウエアの整備など、まだまだ課題がたくさん残っている。また一方で、昨年からX線回折測定の他に、CCDカメラを使った高温高圧X線ラジオグラフィーや、高圧容器ならぬ高温容器を用いた高温X線その場観察実験が開始されるなどBL04B1の利用方法も変わりつつある。内部スタッフとしては、このような新規の実験をできる限り取入れ、それに伴うビームラインの高度化は積極的に進めていくつもりである。またBL04B1では、マシンタイムや調整以外の期間にできるだけユーザーに実験装置を開放している。特に今までSPring-8で試したことのないような実験を行うときや、初めてSPring-8へ来られるユーザーにはこの期間を積極的に利用していただきたい。
最後に、BL04B1の立ち上げにご協力くださった高圧地球科学サブグループならびに高温サブグループの旧建設メンバーの方々、実験装置調整にいつもお手伝いいただいている愛媛大学理学部入舩研究室、広島大学総合科学部田村研究室の方々に、本文をまとめるにあたり感謝の意を表したい。
舟越 賢一 FUNAKOSHI Ken-ichi
(財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町三原323-3
TEL:0791-58-1843 FAX:0791-58-0830
e-mail:funakosi@spring8.or.jp
内海 渉 UTSUMI Wataru
日本原子力研究所 関西研究所 大型放射光開発利用研究部
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町三原323-3
TEL:0791-58-0831 FAX:0791-58-0830
e-mail:utsumi@spring8.or.jp