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Volume 04, No.2 Pages 17 - 18

2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

課題審査を終えて −分光分科会−
– Spectroscopy Division –

藤森  淳 FUJIMORI Atsushi

東京大学大学院 理学系研究科 Graduate School of Science, Tokyo University

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 一昨年、SPring-8利用課題選定委員会の分光分科会の主査を仰せつかり、最初は慣れずに戸惑うことが多くありましたが、JASRIのスタッフの方々、分科会の方々に助けられ、これまで何とか役目を果たしてきました。共同利用が開始されたばかりにもかかわらず、応募課題数が400件近く、採択数が250件余りに上っているということは、これから多くの成果がSPring-8から生まれて行くことを意味していますので、たいへん喜ばしいことと思っています。これだけ多くの数の利用課題を公正に審査・選定し、効率的にビームタイムを配分していくことは、実は非常に大変な作業です。しかも、これからも新しいビームラインが建設されていくわけで、将来も見越して共同利用体制を整備して行くことも課題選定委員会に課せられた重要な任務であると思います。課題申請、課題選定、ビームタイム配分の仕組みについては、SPring-8利用者情報11月号に太田委員長が詳しく紹介されているので、ここでは、分光分科会から見た利用課題選定委員会の様子、感想を述べさせていただきます。


 課題選定を始めてまず最初に印象深かったことは、委員は評定結果を審査用のWebサイトを通じて事務局に提出することになっていたこと、その後の事務処理が非常に能率的になされていたことでした。これは、植木先生をはじめとするJASRI利用促進部門のスタッフの「利用課題募集から実験までの時間をできる限り圧縮したい」という熱意の現われと感じられました。しかし一方、課題選定委員会の方では、時間圧縮のために委員にかかる負担が非常に大きいことが幾度となく話題となってきました。外部レフリーに査読を依頼せず、各委員が数十通の申請書を短期間の間に審査しなければならないからです。外部レフリーに依頼しないこと自体は、外部レフリーに委嘱する場合にレフリーによって基準がまちまちになりがちなのに比べて、審査の公平性の点からみるとむしろ公平だったと思います。しかし、少ない委員数(分光分科会の場合4~5人)ではカバーしきれない分野も多く、そのような場合に本当に公平な審査がなされたかどうかはそれほど自信はありません。


 上記のような多くの課題のなかで、分光に分類された課題数は実は4分科会の中では最も少なく、最近の公募でも35件でした。その点では、分光分科会の委員の負担は比較的軽かったと言えます。一方、「分光(Spectroscopy)」のキーワードでカバーされる領域の広さは、当初想像していたもの以上でした。通常の意味で分光に分類されている光電子分光、磁気円二色性、原子・分子分光、表面の他に、コンプトン散乱、核分光(メスバウアー分光、核共鳴散乱)、蛍光X線分析なども分光に分類され、分光分科会で審査されました。分光分科会の選定委員は主に極紫外・軟X線を用いた固体および表面の光電子分光・発光分光・分析化学の専門家で構成されていましたので(辛 埴氏、佐々木貞吉氏、馬場祐治氏)、これには戸惑いました。また、同じ光電子分光であっても、原子・分子の分光をカバーできる専門家がいなかったために苦労しました。これらの問題点が1回目の課題選定終了後に反省され、その後の課題審査では、課題の一部を散乱・回折へ移動したり、原子・分子の専門家(小谷野猪之介氏)に加わっていただくなど、少しずつ選定委員のカバーする分野と分光分科会に分類される申請課題のバランスが改善され、より適切な審査が効率良くされるようになってきました。しかし今後心配なのが、任期により委員が交代する時、分光分野内を広くバランス良くカバーする人を選び続けることができるかどうかです。選定委員の仕事は雑誌のレフリーと同じくコミュニティへの奉仕として誰かが引き受けなければならないものですが、もう少し負担の軽減を考えないと引き受け手がいなくなる恐れがあるかもしれません。


 最後に、いろいろな研究課題申請書に目を通して、いくつか気付いたことを挙げてみます。課題選定委員が課題の審査を行うには、基本的に課題申請書の記述に頼るほかありません。その意味で、課題申請書の重要性は非常に大きいと言えます。我々は委員の能力の許す限り、学問的な内容や期待される成果の大きさを基準に課題選定を行ってきたつもりです。ビームラインや装置の立ち上げに関連した実験、新しい手法を用いた実験など、開発的な要素の強い申請課題については比較的高い評価がなされてきたように思います。また、学会で話題となっている新物質の研究も、申請課題として審査委員の目に魅力的に映りました。しかし、そのような申請課題でも、学問的意義がはっきりと書かれていないもの、半年の課題有効期間のうちに何をしたいかが具体的に書かれていない申請書で、その価値を判断できずに高い評価をつけられないことがありました。申請課題の学問的価値や研究計画が選定委員によく伝わり、適切に評価されるような申請書を書いていただけることを切に希望します。



藤森 淳 FUJIMORI Atsushi
東京大学大学院 理学系研究科
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
TEL:03-5800-3325 FAX:03-5800-3325
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Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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