Volume 04, No.2 Page 15
2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
課題審査を終えて −散乱・回折分科会−
– Diffraction & Scattering Division –
これまでにSPring-8では、3回の利用研究課題の公募が行われているが、私自身は第2回および第3回の課題審査に散乱・回折分科会の主査として関与した。その時の経験を基に個人的な私見も含めて、多少感想を述べることにする。個人的には他の施設の課題審査に関与したこともあるので、無意識のうちに他の施設の課題審査と比較していることがあるかもしれないが、お許し願いたい。どちらが良くてどちらが悪いという問題ではなく、課題申請者も、それぞれの施設における運営形態の特徴を理解されるほうが、相互理解が深まり、施設にとっても利用者にとっても良いのではないかと思う。また、第1回から第3回までの、利用研究課題公募に関する統計的数字は、JASRI利用業務部が公表している(SPring-8利用者情報Vol.3,No.6,p10~11)ので正確を期すために、それを参考にした。
SPring-8に対する申請課題数は、PRC(Proposal Review Committee:利用研究課題選定委員会)主査大田先生の表現を借りれば(SPring-8利用者情報Vol.3,No.6,p17)「予想に反して申請数は鰻登りに上昇し」、「審査委員一人の平均審査課題数が約50件、多い分科会では80件以上と大変な数になってしまい、悲鳴をあげています。」と言う状態になっていた。ここで言う多い分科会というのが散乱・回折分科会である。このような事情を勘案してくださり、幸い、散乱・回折分科会は、第3回の課題審査の際には、第1および第2分科会に増えたので事態は、幾分改善されたが、各審査員が60件程度の課題を審査しなければならない事情に変化はない。公募数が増えることは、これまでSPring-8に関係してきた者として、大変喜ばしいことだと思っているが、審査の方法も、その影響を受けざるを得ない。
審査員の立場からすると、SPring-8の課題審査は正に短期集中方式である。各審査員は1週間位の間に、50件以上の課題申請書を読み評価を下さなければならない。当然のことながら、1件、1件の申請書を読む時間は限られたものになる。また、申請書を書く負担を少しでも軽くしようとの配慮からだと思うのだが、研究目的などの研究内容を書く部分が、SPring-8の申請書では意外と少ない。私自身も申請書を書く身であるから、これはこれで大変結構なのだが、審査をする立場からすると評価を下す情報が限られることになる。非常に多くのレフリーが、評価に関与する分散方式とは違い、誇張した表現をすれば、審査員は時間と勝負をしながら評価を下している。分かりやすい申請書は、大歓迎である。私の個人的好みであるのかもしれないが、正確さを多少犠牲にして簡略化してでもストレートな表現で簡潔に研究内容を書いて欲しい。研究内容を出来るだけ具体的に理解したいので、図や表など理解を助ける書き方があれば、大いに活用して欲しいと思う。私自身の申請書が、簡潔明瞭に書かれている自信はないので、以上は理想論として聞いてください。逆に、回りくどい言い方で、良く読めば正しいことが分かるような申請書や、あまりに一般的なことが書かれていて、一体何をしたいのか、直ちには理解できないような申請書は、審査員泣かせである。散乱・回折分野に限って言えば、第2回公募での採択率は、80%(96/120)で第3回公募の採択率は、60.5%(92/152)であった。今後、申請課題数が順調に伸び、採択率がそれほど高率にならなければ、難解な申請書は競争力を失うことになるだろう。
もうひとつ触れておきたいことがある。ご存知のように、SPring-8では採択された課題申請は、半年間のみ有効である。現在のところ、SPring-8全体が全て軌道に乗ったとは言いがたく、継続課題も数多く存在するが、原則として、全ての課題を半年単位で採択し、半年後には全ての課題が期限切れになる。このような課題採択の形態の良否は、一概に述べられるものでもないし、私の意図するところではないが、このような形態がSPring-8における課題採択の非常に大きな特徴になっている。この点に関して、施設側と利用者側の共通理解が得られることは非常に重要だと思う。各ビームラインについても利用形態が異なり、現在の方式が向くビームラインもあれば、他の方式の方がベターと考えられるビームラインもあろう。SPring-8のような巨大な施設では、課題採択に関しても今後色々なアイデアが求められてくるのだろう。
要請により、主査という立場上、散乱・回折分科会の課題審査について、一言述べた。多少なりとも、課題申請されるユーザーの参考になれば、大変幸せです。
坂田 誠 SAKATA Makoto
名古屋大学大学院 工学研究科応用物理学専攻
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