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Volume 04, No.1 Pages 14 - 17

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

結晶構造解析BL02B1実験ステーションの現状
Current Status of Crystal Structure Analysis BL02B1 Experimental Station

池田  直 IKEDA Naoshi[1]、野田 幸男 NODA Yukio[2]

[1](財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門 JASRI Experimental Facilities Promotion Division、[2]東北大学 科学計測研究所 Research Institute for Scientific Measurements, Tohoku University

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1.はじめに
 BL02B1はBending Magnetのビームラインで、4つのサブグループ(SG)によって、建設ならびに共同運用が行われている。4つのグループの代表者と分担領域は以下の通りである。野田幸男・東北大:千葉大より転任(構造相転移SG)、虎谷秀穂・名工大(粉末回折SG)、大嶋建一・筑波大(散漫散乱SG)、田中清明・名工大(化学反応SG)。BL02B1は、SPring-8のなかでは一番最初にハッチができ、最初の放射光が観測されたところである。立ち上げからのこのグループの奮闘は、本利用者情報誌の Vol.2 No.5(1997)p17.の記事を参照していただきたい。
 その後、1997年10月から課題申請の実施(ただし試用期間)が始まった。この期間の運用形態には2種類あったといえる。1つは、装置の立ち上げに専念する、もう1つは、ユーザーの教育期間としてできるだけ多くのユーザーに装置を体験してもらいつつ他のユーザーの指導ができる人間を育てていくという考えである。BL02B1は4つのSGの混成部隊であり、総合的な責任は構造相転移SGが持ったので、千葉大が主となり各アタッチメントを立ち上げた。この試用期間は教育期間と割り切り、多くのユーザーを受け入れた。このためそれぞれの実験日数は各SGとして4〜5日が数回であり、立ち上げ作業も、課題実験のなかで2日程度が数回というものだった。このような運営を行った結果、BL02B1では、課題申請を各SGごとに分類してそれぞれのSGがその期間の面倒を見る体制が確立している。1998年4月以降はこの体制を維持していて、専任の担当者も着任し、運営は順調である。

2.どのような光を使えるか?

 入射X線は、5keVから70keVまでの範囲で使えることがすでにテスト・確認されている。現在、25〜30keV付近が一番ユーザーに使い込まれている。入射X線は、ミラーを使って垂直方向に高さ0.1mm(半値幅)に集光することができる。水平方向の集光はまだできていないが、この状態(水平方向は平行光のまま)で、幅1mm、高さ0.1mm(集光状態)の試料位置領域に、一番明るい30keV付近で1010photons/secの光が来ることが測定からわかっている。
 入射X線のエネルギーは、ユーザー側からオンラインで変更が可能であり、EXAFSやブラッグ点などの逆格子空間での強度のエネルギー依存を測定することができる。エネルギー分解能は2eV程度である。図1に最近の例として、Fe酸化物での超格子点の入射エネルギー変化の例を示す。 
 
 
 
図1 Fe酸化物での超格子点強度の、X線エネルギーに対する変化 
 

3.何ができるか?
 BL02B1は、結晶構造解析と構造相転移の観測のために設計された装置である。この広範な領域をカバーするために様々なアクセサリーが用意されている。以下にそれらを列記する。 
 
1)7軸回折計
 HUBER社の5020型という、大型の4軸回折計が設置されている。通常の4軸回折計に比べ、短い2θアームと長い2θアームの2本が取り付けられていて、7軸回折計となっている。長いアームにはアナライザー結晶を載せることができる。このアナライザーは高分解能実験や蛍光などのバックグラウンドを落とすために用いられる。また偏光解析用のアナライザーもあり、偏光解析も可能である。長短どちらのアームにもシンチレーションカウンターがついている。また、長いアームには、SSDを装着することができる。
 この7軸回折計は結晶構造解析を念頭に設計されている。短いアームのシンチレーションカウンターを用いる場合、マックサイエンス社のmxcという4軸制御ソフトを利用することができる。これにより比較的高速にブラッグ点強度を集めることができる。図2は回折計に冷凍機を載せて測定を行っている例である。 
 
 
 
図2 7軸回折計に装着された冷凍機 
 
 長いアームを利用する場合は、mxcとは別の独自にインストールしたソフトで逆格子空間のスキャンや強度のマッピングができる。散漫散乱などの観測やブラッグ点のプロファイルを観測したい場合等には、長いアームの方が適している。長いアームの2θ角度分解能は0.0001°である。この7軸回折計には、1100Kまで使える電気炉、10Kまで下がる大型試料用冷凍機、15Kまで下がる構造解析用の冷凍機、高圧用のDiamond Ambill Cellが用意されている。図3に1100Kで測定されたNdNbO4の逆格子空間でのスキャンの例を、また、図4に0.8GPa・8.6KにおけるCePの逆格子でのスキャンの例を示す。温調用に、伝統的なTEMCONをWINDOWS98に移植した物も用意されている。 
 
 
 
図3 左:回折計に取付けた電気炉。右:1100Kにおける、逆格子空間でのマッピングスキャンの例。 
 
 
 
図4 8.6Kにおける、0.8GPaでの逆格子スキャンの例  
 
 この装置は、放射光の常としてX線のコリメーションがよすぎるために結晶のモザイクが明瞭に観測されてしまう。その結果、結晶の軸出しに時間がかかることがある。また現在の所、温調のリモート操作のプログラムができていないことも課題である。これらの解決に向けてノウハウの蓄積中である。 
 
2)低バックグラウンド真空カメラ
 Imaging Plate(IP)を円筒状に配置し、その内部を真空排気する事で、低バックグラウンドでの振動写真を撮影できる真空カメラが利用可能である。IPの読みとりはマックサイエンスの装置を用いて行い、ワークステーション上でipf形式のファイルとして保管、取り扱う。読みとったIPのデータを処理するために、画像処理ソフト“DENZO”を立ち上げてある。これはLINUXマシンにインストールしてあり、読みとったipfデータをethernetで転送して処理する。このカメラの2θ半径は75mm、IPの最小画素サイズは100μm×100μmである。この装置で撮影した例を図5に示す。 
 
 
 
図5 低バックグラウンド真空カメラを用いた撮影例 
 
 この装置の現在の課題は、IPの真空カメラへの取り付けと取り外しが自動になっていないことである。2台目の装置として、現在この一連の作業を自動化した低温用真空カメラを姫工大の鳥海氏が制作中である。 
 
3)粉末回折計
 粉末測定では回転平板試料台と、回転ガラスキャピラリー台が用意されている。検出器にシンチレーションカウンターを用いるときは、長い2θアームにコリメータか長尺ソーラースリット、あるいは高分解能実験ならアナライザーを載せて用いる。高分解能の実験例を図6右に示す。ブラッグピークの半値幅が0.008°という驚異的な値が得られている。電気炉と冷凍機に粉末試料を設置する場合は、試料の回転機構は使えない。図6左には、h-BaTiO3の構造相転移に伴ってブラッグ反射が分裂する粉末回折データの例も示されている。この実験は、高分解能だから見えたものである。また当然ながら、真空カメラのIPを用いて粉末回折パターンを測定することも可能である。 
 
 
 
図6右 粉末回折パターンでのブラッグピーク半値幅の回折角依存
図6左 低温から室温にかけての粉末回折データの例 
 
4)ワイセンベルグカメラ
 低バックグラウンド真空カメラとは異なりIPを大気中に露出するが、ソーラースリットと層線スリットを組み合わせて使えるワイセンベルクカメラが用意されている。IPはソーラースリット後部に湾曲したまま装着する。粉末回折実験でのテストにより、非常によい再現性が確認されている。本来、単結晶の試料を用いて極端条件下での写真法に使われるように設計したものだが、現時点ではまだテストされていない。

4.課題時間配分がどうなっているか?

 98年秋以降(1999A)の課題に対する時間配分は、1ユーザーのビームタイムをできるだけ長く配分するというSPring-8の意向のために、課題採択率が60%程度になっている。今までは、90%程度の採択率で1日だけと言うビームタイムがたくさんあったが、今後は最低でも2日、低温や高圧などの時間のかかる実験で評価の高いものは5〜6日となっていくであろう。また、今回から、20%の時間が別枠としてとられ、光軸調整のための時間、装置の開発、ビームダンプ時の対策、緊急課題用、スタッフの研究用などに使うようにされている。実際いくつかのビームタイムには、光軸調整の時間が8時間確保されている。しかしそれでも、4SGの共同運営ビームラインの悲しさで、各ユーザーが充分な時間をもらうという状況には未だなっていない。

5.実験前にどんな準備をしてきて欲しいか
 上述のように皆さんに充分な時間を配分できてない以上、いろいろな工夫が必要である。たとえば4軸でその結晶に初めてX線を通すといった測定を行うのは、軸立て(UB matrixの決定)に時間がかかりすぎる。前述したように良い結晶を持ってくるとモザイク幅が0.002°くらいになるため、ピークサーチで引っかけられないことがあるからである。48時間くらいもがいたユーザーの例も実際にある。なるべく手近の4軸回折計で方位を決定してきてほしい。また、どの回折計もそうだが、ソフトには良くなれておく事が必要であり、この装置に全く初めて触る方は、BL担当者に予め連絡して、ご自分の実験に近いチームのところで予行演習をかねた丁稚奉公に入ることをおすすめする。

6.最後に

 BL02B1は多くの結果を出せる段階にきている。だが未解決の課題として、前述した問題の他に、ミラーのサジタルフォーカスができるようにすること、混雑を緩和させること、一般ユーザーが気楽にアクセサリーを使用できるように整備することなどがある。
 
池田 直 IKEDA  Naoshi
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町三原323-3
TEL:07915-8-2750 FAX:07915-8-2752
e-mail:ikedan@spring8.or.jp

野田 幸男 NODA  Yukio

東北大学 科学計測研究所
〒980-8577 仙台市青葉区片平2-1-1
TEL:022-217-5352 FAX:022-217-5404
e-mail:ynoda@rism.tohoku.ac.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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