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Volume 03, No.6 Pages 50 - 51

6. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

XAFS10報告
Report on XAFS 10

西畑 保雄 NISHIHATA Yasuo

日本原子力研究所 関西研究所 JAERI Kansai Research Establishment

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 今年8月10日から14日にかけて、米国シカゴにおいて第10回X線吸収微細構造国際会議(XAFS10)が開かれた。この会議は、XAFSに関連するあらゆる領域の研究を網羅し、2年ごとに開催されるものである。午前中は基調講演と招待講演、午後からはオーラルセッションとポスターセッションが開催された。基調講演ではX線磁気円二色性(XMCD)のCo/Cu/Ni多層膜への応用や、触媒の分野へのAXAFS(Atomic XAFS)を適用した研究などが紹介された。またIXS(国際XAFS学会)賞受賞講演としてLytleによる講演があり、1913年のde Broglieによる最初の吸収端の観測以降のXAFSの進展の歴史に関するものであった。招待講演では新しい実験技術に関して2日、環境問題(または環境科学:放射性物質、汚染物質、表面界面での構造および反応、高温高圧下での構造などを雑多に含む)に1日、理論の発展に関して1日のセッションが割り当てられた。
 第3世代大型放射光施設に関するパネルディスカッションがあり、ESRF、APS、SPring-8からの話題提供者が、それぞれの施設で行われている特徴的な研究について紹介し議論を行った。ESRFからは、テーパードアンジュレータビームラインで行われているエネルギー分散型の光学系を用いた、時分割XAFS実験の進展について紹介があった。APSからは環境汚染物質や生物試料の1μm以下のサイズの領域からのマイクロXAFSの測定について紹介があった。SPring-8からは40keV以上での高エネルギー領域でのXAFSの測定について紹介された。どれも第3世代の放射光の特徴を生かしているといえるが、ESRFとAPSでの研究が高輝度光源の特徴を生かして小さいサイズのX線を実現する光学系を積極的に建設しているのに対して、SPring-8では(XAFSの研究者によってXAFSのビームラインで)そのような努力が積極的になされているわけではないのが対照的であった。特筆すべきはESRFの時分割XAFSの研究レベルは、光学素子や検出器の開発等を含めて相当進んでいることである。筆者が2年前に訪問していた時よりもかなり進展しているという印象を受けた。日本ではPFやSPring-8で、そのような時分割XAFSの実験装置が具体化していないのは残念なことである。
 今回の会議の特徴は、APSで精力的に行われようとしている研究分野を反映してか、環境科学、生物学へのXAFSの応用に関連した発表が多かったこと(このような分野への応用はまだ日本では少ないのではないだろうか)。また従来の標準的なXAFSの手法のみならず、XMCD、DAFS、時分割XAFSなどの新しい実験手法や他の関連した手法が数多く現れ、発展途上にあるということである。オーラルおよびポスターセッションの分類で、研究対象と研究手法の分類が混在して大変分かりにくかったという意見もあるようだが、私としてはこのように好意的に解釈したいと思っている。
 筆者はSPring-8で測定された高エネルギー領域のXAFSスペクトルの報告を行った。今まで30keVないし40keV以上の高エネルギー領域でのEXAFSの研究はほとんどなされていなかった。その理由は①高いエネルギー領域では内殻電子の励起寿命が短くてEXAFS信号がぼやけてしまうことが理論的に予想されていた、②そもそも40keV以上でEXAFS測定をする施設がなかったこと、である。そこでSPring-8のXAFSビームラインBL01B1でPtのK吸収端(78.4keV)のEXAFSを測定し、内殻励起寿命の影響を検討して、このような高エネルギーでも吸収原子の周りの局所構造を評価することが可能であることを示した。一方、ESRFのグループでもWのK吸収端(69.5keV)のEXAFSの測定を行い、K吸収端での高波数データの解析による精度の向上を発表していた。
 紙面が限られており、他の報告についての詳細は割愛せざるを得ないが、この会議では若手研究者を対象に5つの優れたポスター発表が選ばれた。日本人ではただ一人、理研の鈴木基寛さんがIUCr(国際結晶学会)の名により表彰された。SPring-8にとっても大変明るい話題であり、心からお喜びを申し上げたい。
 会議終了後、アルゴンヌ国立研究所内にある大型放射光施設APSを訪問した。2年前に滞在していた時から比べると、多くのビームラインでハッチ建設は完了していた。ハッチ内の実験装置もよく揃ってきており、いよいよ本格的なデータ測定が始まろうとしているのを感じた。なお、次回の国際会議XAFS11は2000年(又は2001年?)に日本で開催される予定である。その時には参加者が充分に満足できるような素晴らしい会議の運営がなされることを願っている。 
 
 
 
SPring-8のビームラインBL39XUを用いての円偏光変調法XMCDの研究(本誌40頁参照)で、国際結晶学会(IUCr)の “Best Poster from a Young Scientist”賞を受賞した理化学研究所の鈴木基寛さん(左から3人目)
 

西畑 保雄 NISHIHATA  Yasuo
日本原子力研究所 関西研究所 構造物性研究グループ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町三原 323-3
TEL:07915-8-0921 FAX: 07915-8-0830
e-mail:yasuon@sp8sun.spring8.or.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794