ページトップへ戻る

Volume 03, No.6 Pages 16 - 18

2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

課題選定を終えて
After the Proposal Review Committee Meeting

太田 俊明 OHTA Toshiaki

東京大学 大学院理学系研究科 Dept. of Chemistry, School of Science, the University of Tokyo

pdfDownload PDF (29 KB)


 SPring-8が共同利用を始めて1年が経過しましたが、それを遡る平成8年4月、(財)高輝度光科学研究センターの諮問委員会の下に利用研究課題選定委員会(通称PRC(Proposal Review Committee))が設置されました。私は第1期と2期の主査という大役を仰せつかりましたが、本委員会では、諮問委員会によって定められた「共用施設の利用研究課題選定に関する基本的考え方」(SPring-8利用者情報Vol.1, No.1, P.22, 1996)に基づいて課題選定のルールを決め、そのルールに則って3回の選定を行ってきました。ここでは、これまでの経緯と具体的にどのような流れで選定作業を行っているか、そして、今後、SPring-8を皆さんに上手に利用していただくために申請書の書き方について、課題選定委員会からの要望を述べたいと思います。


(1)公平な提案機会の確保について

 諮問委員会の「基本的な考え方」の重要なポイントは、SPring-8を多くの人に公平に、しかも、透明な手続きのもとに利用してもらうことです。したがって、利用研究課題の提案は公募になっており、公募案内は最近では「SPring-8利用者情報」、「放射光」などに、締め切りの約3ヶ月前に掲載されています。申請にはビームライン・実験ステーションの仕様、性能、運転スケジュールに関する技術情報が必要ですが、これらに関しては「SPring-8ビームラインハンドブック」((財)高輝度光科学研究センターに問い合わせれば、無料で送付してもらえます。)、また、最新情報をインターネット(http://www.spring8.or.jp/)でみることができるようになっています。応募は国内外、大学、研究所、民間企業を問わず、どのような人(グループ)も可能です。民間企業でも純粋に科学的な研究課題であれば大学などと同等に利用の機会が与えられます。このことは、従来の放射光施設と比べて画期的な進展であると思います。しかし、これには成果発表の義務が伴うわけで、もし、成果を発表しないというのであれば有料で「成果専有」というカテゴリィも設けてあります。


(2)課題申請手続きの簡素化、迅速化

 手続きの迅速化はPRCの最も腐心したことです。フォトン・ファクトリーの方法と対比して説明しましょう。フォトン・ファクトリーはご存じのように年2回の公募ですが有効期間が2年間となっています。ここでの最大の問題は申請書を出して、認められるまで4ヶ月から5ヶ月かかること、実際のマシンタイムをもらえるまでにはさらに2~3ヶ月かかるわけで、申請してから半年以上、1年と待たなければ利用できないことにあります。何が律速になっているかというと、レフェリー制度であろうと思われます。つまり、締め切り後仕分けして、それぞれの課題について事務局がレフェリーを選定し、書類をレフェリーに送付して一定期間内に審査してもらうわけです。しかし、選ばれた人が必ずしも期間内に都合が良いとはいえず、ある程度の猶予期間(数週間)をもうけねばならず、多くの審査の中で一人でも遅れればそれが律速となってしまうことになります。これらのレフェリー審査を整理して(これも1週間以上かかる作業ですが)、課題選定委員会(通称、PAC)にかけます。更にその結果を、運営協議会にかけて最終的な承認を得た後で、採択が決定されます。ビームタイムの配分は更にその後で、各ビームライン担当者に希望期間と実験の諸条件を連絡して、最終的に利用が決まるという、長いプロセスがあるためです。
 PRCではこの問題を解決するために、レフェリー制度を採用せず、原則として課題選定委員が審査して決めるという制度を採用しました。これによって大幅な時間短縮が可能となりますが、逆に、課題選定委員に多数の申請を短時間で審査するという大きな負担をかけることになります。また、委員がカバーしきれない領域もできるという問題もあります。前者を解決するために、PRCの下に分科会を設け、少なくとも3名の委員が審査する事にしました。3名でカバーできない課題はPRCが適当なレフェリーに委嘱することにしましたが、幸い、そのケースはこれまでほとんどありません。分科会としては、生命科学(L)、散乱・回折(D)、XAFS(X)、分光(S)、実験技術・方法(M)の5分科を設けました。しかし、予想に反して申請数は鰻登りに上昇し、分科会を設けて審査しても審査委員一人の平均審査課題数が約50件、多い分科会では80件以上と大変な数になってしまい、悲鳴をあげています。もっと分科会を増やさなければ対応できないというのが現状です。
 各期間で利用可能な全ビームタイムに対して、採択されたそれぞれの課題に対するビームタイムの割り当ても同時に行っています。その後、施設側で安全審査、技術審査を行い、これらの結果を基に課題選定委員会を開催して審議し調整を行います。これらの全ての作業を申請書提出の締め切りから約1ヶ月間という短期間で済ませるのです。これにはJASRIのスタッフと審査委員の献身的な努力が不可欠です。そして、採択と同時に施設側で申請者の希望日程に合わせてビームタイムの調整を行い、連絡が申請者に届くことになります。
 審査の公平性、透明性の一つの現れとして、審査委員名は「SPring-8利用者情報」に掲載されています。審査委員の任期を4年にし、2年で半数を入れ替えることで、委員の負担軽減と判定の不公平感の解消になると思います。一方、簡素化のために、申請書のフォーマットをコンピューターで簡単に入力できるようにしてあります。


(3)申請、有効期間半年制度と継続課題申請の導入

 フォトン・ファクトリーと異なり、半年の運転期間に対する申請です。このことに関してユーザーから戸惑いと不満の声を聞くことがありますが、半年単位で区切ってビームタイムを割り当てることは迅速な対応のためには必要なことのように思われます。実際、ESRFやAPSなども同様な方式を採用しています。このために半年ごとに申請書を書くということになりますが、「継続課題」としての申請方法もあります。継続課題申請は、目的、意義、期待される成果等については変更部分のみを記述するにとどめ、それまでのSPring-8で割り当てられた(実行した)シフト数、得られた実験結果および継続を必要とする理由を詳しく述べることが求められます。ただ、この場合、まだ実験をしていないのに次期の申請をしなければならないというケースが生じることがあります。将来、定常的な運転になると、申請から採択までの時間の短縮化と施設側のビームタイム割り当て時の配慮によってそのようなケースが少なくなると思われますが。一回一回のビームタイムを大切に使ってもらうためにもこの半年制度は意味があるように思いますのでこの制度に慣れていただければと思います。


(4)利用研究課題選定の基準について

 SPring-8は世界でも最も優れた放射光施設であり、これを用いて世界に誇る利用実験をしなければなりません。優れた申請課題を選ぶことがPRCの最も重要な仕事になるわけですが、選定には、それぞれの分科に分けて、分科会で科学、技術としての重要性、貢献度、発展性を基準にして行います。これまでは、立ち上げのビームラインが多く、性能評価に関する課題を優先して採択してきましたが、そろそろ、純粋に科学的に評価して採否を決める時期になってきました。一方、技術的に実施可能か、また、安全は確保されているかなどの審査も行います。特に現在立ち上げ時期でまだ用意されていない装置や方法を用いる申請は技術審査によってチェックされます。申請の前に、SPring-8のホームページにある「利用者の皆さんへ(お知らせ;SPring-8ユーザーガイド)」、「施設情報(ビームライン)」などを良く読むか、ビームライン担当者に相談して状況を良く把握して書いて下さい。安全の記述に関してはなおざりにされがちで、施設担当者が判断できないケースが多く見受けられます。特に危険な化学薬品を用いる場合や安全の配慮を要する装置や器具を用いる場合、施設担当者が安心できるよう(必要以上と思われるくらい)丁寧に記述して下さい。タンパク質構造解析の場合には対象試料が異なるだけですので、特定のフォーマットを作って記入漏れを防ぐことも考えています。


(5)「研究課題申請書」書き方の一般的な注意

 これまで3回の審査を行ってきましたが、いくつか気づいた点を挙げます。まず、一番多く見受けられる点は、申請課題名が包括的で漠然としているものです。原則として半年単位の申請ですから、課題名は具体的なものにして下さい。場合によっては副題をつけることも良いかもしれません。研究の意義、目的、特色、期待される成果なども、限られたスペースですからあまり一般論に終始しないで、簡潔でかつ、具体的に記述していただくことが重要です。また、ビームタイム要求の根拠を明示してない場合も多く見受けられます。状況が判らないのでどの程度のビームタイムが必要か判らないという方も多いかと思いますが、その場合はビームライン担当者か利用経験者に相談することも有効でしょう。
 また、実施希望時期、あるいは、都合の悪い時期を明示していただかないと、せっかく割り当てられたビームタイムが使われなくなってしまうことになります。割り当て期間は申請書の記述のみを参考にし、原則として事前相談はしないということはフォトン・ファクトリーの場合と異なりますので注意して下さい。
 どんなにすばらしい申請も不適切、あるいは、不十分な記述の為に不採択になっては意味がありません。皆さんは是非とも上記のことに十分に注意を払って申請書を書いて頂きたいと思います。SPring-8はまだ運転を始めて1年で、立ち上げのビームラインも多く、いろいろなことが過渡期であり、課題採択のルール、申請書の書き方などについても、まだ十分に完成されたものとは言えません。もし、このことに関してご意見やご要望があればどしどし事務局にご連絡していただければ幸いです。



太田 俊明 OHTA Toshiaki
東京大学大学院理学系研究科
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
TEL&FAX: 03-3812-1896
e-mail:ohta@chem.s.u-tokyo.ac.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794