Volume 03, No.5 Pages 35 - 36
6. ユーザー便り/A LETTER FROM SPring-8 USERS
SG立ち上げ実験記−BL08Wの場合−
Short Note on Starting of BL08W Experimental Station
姫路工業大学 理学研究科/理研 Junior Research Associate Faculty of Science, Himeji Institute of Technology / RIKEN Junior Research Associate
BL08Wは主にコンプトン散乱測定を想定した高エネルギービームライン(BL)でして、〜300keV(@ 実験ハッチA)、〜100keV(@実験ハッチB)の円偏光した高エネルギーX線を使用するために、挿入光源(ID)がウィグラー、またモノクロにはじまる多くの光学コンポーネントが非標準型である、まさに“特注”ビームラインと言えます。実験装置の立ち上げには苦労はつきものですが、このBLの立ち上げも例に漏れず、他のBLと同様(あるいはそれ以上に?)、大変な苦労がありました。以下にその幾つかを紹介したいと思います。(BL08Wの他のユーザーの皆さんがBLに苦情がある時でもこの記事を読んで、立ち上げメンバーの苦労を理解して頂き、ぐっとこらえて頂ければ幸いです。)
光学コンポーネントの設置
このBLの設計の時点から、高エネルギーの散乱X線の遮蔽に設計者はかなり気づかったらしく、そのため全てのコンポーネントが非常に重く、またモノクロの周辺には局所遮蔽体、光学ハッチの最終壁にはビームストッパーとして数百kg級の鉛ブロックが密に設置してあります。当然、図面上ではそれらは干渉しないことになっていますが、実際それらが図面どおりに配置できるわけはなく、不具合が生じる度にそれらを移動させ、時には削りました。これらの作業にはJASRI周辺技術グループの皆様の尽力を頂きました。(ひとの良い周辺技術グループの皆様ですが、“ほとけの顔も三度まで”、最後には、不具合の度に我々は彼等に無言の叱責を頂くことになりました。)
300keV BL(実験ハッチA) ビーム確認
BL08WのIDのミニマムギャップは20mmですが、諸般の事情から現行は30mmで運転されており、そのため300keV付近のX線の強度は一桁以上も減少しています。この事も手伝ったせいか、蛍光板は全く感光せずビーム確認には難航を極めました。蛍光板の裏に銅や鉛の板を張り付けたりしましたが、全く感光せず。次に光軸を再確認したり、モノクロ結晶の面方位を確認したりしましたが問題はありません。最後に実験ハッチ内に銅板をおいて、その散乱光をSSDで観測することで、やっとバックグランドに紛れていたそれらしき微小なピークが観測できました。そのバックグランドは強烈な白色光を受けたモノクロ結晶からのコンプトン散乱光だったらしく、スリットで切る事により300keVの光のみを取り出すことができました。光を確認するのに4日間、皆で頭を悩ませました。
100keV BL(実験ハッチB) ビーム確認
300keVの光に対し100keVの光は蛍光板に感光したので、容易に見つけられましたが、その評価には苦労させられました。このハッチでは高分解能な測定が行われる予定ですから、入射光のエネルギー幅を明確にするため、ウランのK吸収端(115keV)スペクトルを得る必要がありました。その際、モノクロ結晶の角度を変えていく訳ですが、一結晶モノクロの場合、それに同期させてスリット、サンプル、検出器を動かさなければなりません。XAFSの様な測定に対し、コンプトン散乱測定ではエネルギースキャンは必要でないため、このようなシステムをBLに新たに加えるのは容易ではありませんでした。マシンタイム終了2時間前で最適条件をみつけ、その光の像、分解能、フォトン数を得ることができました。(さすがにその状況下では、マシンタイム終了の一時間前に起こったビームダンプには焦りました。)
結果
ここまで苦労したBLですから、立ち上がった喜びはひとしおと言うべきところですが、残念ながら現状はそうハッピーではありません。前述した様に、IDギャップ、リングカレントが改善されないと、BL08Wは本来の1/100の性能しか発揮してないのです。しかし、手応えは十分あります。一刻も早いIDギャップとリングカレントの改善を願って、またその時BLが期待通りの性能が発揮できることを願って、その日まで最高の喜びはとっておきたいと思います。
平岡 望 HIRAOKA Nozomu
姫路工業大学理学部 物質科学科博士課程
〒678-1279 兵庫県赤穂郡上郡町金出地1479-1
TEL:07915-8-0101(ext431) FAX:07915-8-0146
e-mail:hiraoka@sci.himeji-tech.ac.jp