Volume 03, No.5 Pages 30 - 32
5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
SPring-8第2回マシンスタディ報告会
The 2nd Meeting on Machine Studies of SPring-8
第4サイクル(4月上旬)〜第8サイクル開始時(6月下旬)に行われたマシンスタディについての報告会が7月17日に行われた。これは4月に行われた第1回に続くものである。第1回では加速器の初期性能、基本特性の測定が主であったが、今回はそれをふまえての、新たな装置、手法の開発、ならびにより詳細な測定についての発表が主となった。また、蓄積リングの電流値も第1回では平均電流20mA、バンチ電流2〜3mA/バンチに押さえられた状況下での報告であったが、4月終わりに100mAでの運転許可が得られ、実際に100mA近くでの運転が行われたこと、またクロマティシティ調整により10mAを越えるシングルバンチ電流が安定して得られるなど、当初予定の設計値が達成されたことにより、それらに付随した現象に関する報告もなされた。以下では簡単な紹介をするが、詳細な内容については今後、SPring-8 Annual Report 等で発表されてゆくことになるのでそれらを参照ねがいたい。
線型加速器エミッタンスの測定(柳田 謙一)
線型加速器中の数点における、スリットとワイヤースキャナによる電子の位相空間分布の測定ならびにそれを4極磁石の強さを変えて行うことによる Twiss パラメータの決定。
シングルバンチビーム加速試験(バンチャー出口まで)(堀 利彦)
線型加速器シングルバンチ化試験(堀 利彦)
これから需要が増すであろうシングルバンチ生成をより効率的に行うため、線型加速器の入射系において電子銃本体やグリッドパルサを交換して短パルス(250ps〜1ns)高ピーク電流(〜A)のビームを生成しているが、その加速部でのビーム特性をパルス長を変えて試験。さらにそのビームをシンクロトロンに入射し、主バンチに対し、電子銃のグリッドエミッション等により生じる10−4 程度の不要なバンチをRFノックアウト法を用いて蹴り落とし、蓄積リングでの10−6 の純度のシングルバンチを生成。
8パルス入射試験(鈴木 寛光)
シングルバンチでの蓄積リングへの入射速度向上のため、上記の方法により生成されたバンチをシンクロトロンにおいて8バンチを蓄めたのち一度に加速し、次々と取り出して蓄積リングのシングルバンチへ入射する方法のテストを行い、入射時間を1/5程度に短縮。
ナチュラルクロマティシティの測定と補正(深見 健司)
以上の事柄を確実にコントロールするためにも、加速中の電流の損失を押さえるためにも知っておかねばならないパラメータである、入射時のシンクロトロンのクロマティシティの値、およびその時間変化の測定およびその設計値からのずれの原因の追究。
実ビームによるDCセプタム電磁石の周回軌道上への漏洩磁場測定(島田 太平)
DCセプタムの付近で蓄積ビームの軌道を変え、それぞれの位置で今度はセプタムの磁場を変えて漏洩磁場によるCODの変化を測定し、漏洩磁場の分布を測定。
4極電磁石および6極電磁石の励磁のステアリング電磁石に与える影響(妻木 孝治)
4極、6極およびステアリング電磁石の発生する漏れ磁場が互いの磁石のヒステリシスに影響し合い、独立した初期化では再現性が得られずCODの源となっていることが判明。それを最小化するための初期化の手順を工夫。
CODBPM改造予備機のビームテスト(佐々木 茂樹)
ボタン電極型ビーム位置モニタのCOD測定用回路をビームの状態等によらないより安定度の高いものへと変更するため、その予備機を用いて試作した回路のビーム試験、およびビーム状態への依存性が抑制できたことの確認。
ビームを用いた蓄積リングBPMの較正(早乙女 光一)
いわゆるbeam—basedアラインメントによるQ磁石の中心とその近辺のBPMの位置との相関を測定。長直線部のQ磁石は独立に強度可変であるのでこれを用い、ステアリングでビームをQ磁石の何点かを通し、各点でこんどはQ磁石の強さを変えて生成されるCODを測定し、そこからQ磁石の磁場分布をもとめ、その近辺でのBPMとの位置の相関を測定。
蓄積リング誤差分布のシステマティックな解析(田中 均)
蓄積リングでの磁場、位置等の誤差分布を含めたモデルを確立するための一つとして、いくつかのステアリングをもちいて発生するCODを測定し、得られたベータトロン関数や位相を再現するように、ここで仮定しているモデルのパラメータをフィッテイングして求めた。
軌道の安定化への試み(田中 均)
蓄積リングでの電子軌道を長期に安定させるため、COD補正の周期、手法をテスト。結果として数μm/5h程度の安定度を達成。
カップリング補正のテスト(田中 均)
蓄積リングのベータトロン結合を補正するため、スキュー4極磁石を2台設置し、その電流値に対する Touschek寿命の変化を測定。Touschek寿命はバンチの体積、すなわちベータトロン結合による垂直エミッタンスに依存するので、そこから結合度を推定し、結合度が10−4と1/3程度に減少したことを確認。またx、yのベータトロン振動数を離すことによりそれからまた1/2程度、減少させることができた。
ビーム寿命とベータトロン結合、加速電圧(高雄 勝)
Touschek 寿命はバンチの体積、すなわちベータトロン結合による垂直エミッタンスに依存するので、これを結合度を変えて測定することにより、ベータトロン振動数測定から得られる結合度と比較し、そしてその方法では値づけが困難なより小さい結合度での測定を行った。
エミッタンスのビーム電流およびフィリングパターン依存性測定(高雄 勝)
アンジュレータからの光を用いてその角度発散を測定し、ビームのエミッタンスを測定する手法をより精密化するための実験。鉛直方向の光の発散をベータトロン結合度を変えることにより変化させて測定し、測定系の応答を調べた。
クロマティシティの調整範囲の確立(中村 剛)
シングルバンチ不安定性の閾値電流のクロマティシティ、加速電圧依存性(中村 剛)
クロマティシティを4から8程度とすることにより、12mA/バンチを越えるバンチ電流が安定して得られた。クロマティシティが0付近では2〜4mAで横方向不安定性が発生。クロマティシティを−4とすると0.5mA/バンチで正の時とことなる様相をしめす横方向の不安定性が発生。これらのシングルバンチ不安定性の閾値等はシミュレーションとほぼ一致。
X-BPMとID rf-BPMの電流依存性の測定(原 徹)
X−BPM(アンジュレータからのX線を用いたビーム位置モニタ)およびID rf−BPM(挿入光源部のボタン位置モニタ)の蓄積電流値依存性の測定。詳細なテストは次回以降となる。
シンクロトロン振動の測定(大島 隆)
この測定によりRF加速電圧の校正、クライストロン間の位相調整を行った。それと共に、RF加速電圧に対する量子寿命からコンパクションファクターを見積もった。また、シンクロトロン振動数の蓄積電流、チューナー位置依存性を測定。
蓄積リングRF位相、振幅フィードバックの高帯域化試験(高島 武雄)
クライストロン出力のリップルノイズ等を、ビームが敏感に応答するシンクロトロン周波数の2kHz の領域で打ち消すため、クライストロンのRFの位相、振幅フィードバックをより高帯域化し、シンクロトロン周波数近辺で−数dB抑制。
RF位相、振幅フィードバックの特性測定(中村 剛)
平均蓄積電流60mA以上で発生したシンクロトロン振動の原因の解析と対策。および対策後、十分な安定度が得られていることを確認。
これらのテーマを見ても、定格運転においても特に重大な問題なく運転されていることがわかる。すなわち、線型加速器ならびにシンクロトロンはシングルバンチを含めて多様なビームを安定して供給している。蓄積リングは電磁石の製作、設置、運用がよくなされていることから他の同等の施設に比べ遥かに小さなベータトロン結合度が当初より達成されている。加速空洞等における対策により100mAの定格運転においてもなんらバンチ結合ビーム不安定性は観測されていない。シングルバンチ不安定性についても真空槽のインピーダンスが低く押さえられているのでクロマティシティを正の値に振ることにより10mA/バンチ以上(設計値5mA/バンチ)が安定して得られている。真空系は定格運転においても高真空を安定して保持している。モニタ系も位置モニタ回路の改良、バンチ純度モニタの整備などが進められている。
したがってマシンスタディではもっぱらビームの高安定化、高品質化などの高度化に向けての研究に取り組むことができていることは評価されるべきであろう。
中村 剛 NAKAMURA Takeshi
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