ページトップへ戻る

Volume 03, No.5 Pages 7 - 10

2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

平成10年度建設開始予定のビームラインについて
Beamline Construction Schedule in the 1998 Fiscal Year

石川 哲也 ISHIKAWA Tetsuya

(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所所属 JASRI Research Sector
Download PDF (90.55 KB)


1.はじめに

 SPring-8は平成9年10月の供用開始以来順調な立ち上がりを見せている。供用開始時には共用ビームライン8本、R&Dビームライン1本、理研ビームライン1本の合計10本のビームラインでのスタートであったが、その後2本の共用ビームラインが稼働状態に入り、また原研ビームライン2本、理研ビームライン1本、兵庫県ビームライン1本、マシン診断用ビームライン1本の利用が開始され、平成10年7月現在で17本のビームラインで利用研究が行われている。SPring-8全体でのビームライン取り出し口の総数は61であることから、既に全体の1/4以上のビームラインが利用されていることになる。

 共用ビームラインは、平成6年度から平成9年度にかけて第I期10本の建設が行われ上記の様に既に順調な利用が開始されているが、平成9年度に第2期共用ビームライン建設の魁として、医学利用中尺偏向電磁石ビームライン(BL20B2)の建設が認められ、平成10年度後半の完成を目指して現地建設作業が始まっている。これは、蓄積リング棟外に出るビームラインとしては、RI棟に入る原研ビームライン(BL23SU)に続くものであるが、蓄積リング棟と医学利用棟を繋ぐかなりの距離を持つ輸送部の建設を伴うものであり、今後の中尺・長尺ビームライン建設のモデルとなるものである。同じく平成9年度から、原研ビームライン(BL11XU)、理研ビームライン(BL29XU)の建設が始まり、これらも平成10年度後半の完成を目指して作業が進んでいる。平成9年度には、この他にも産業界ビームライン(BL16B2, BL16XU)、大阪大学蛋白質研究所ビームライン(BL44XU)、大阪大学核物理研究センタービームライン(BL33B2)の建設が開始され、いずれも平成10年度内の完成を目指しての建設作業が進んでいる。従って、平成10年度内に7本のビームラインで新たに利用研究が開始されることになり、年度末での稼働中ビームラインの総数は24本となることが予想される。

 平成10年度には当初予算に於て、3本の共用ビームラインの建設と無機材研ビームライン建設のI期分が認められていたが、6月の補正予算に於て新たに4本の共用ビームライン建設予算の追加、理研ビームライン1本の新設、無機材研ビームライン2期分の前倒しが認められた。また、台湾SRRCも2本のビームライン建設提案を行っている。無機材研ビームライン計画に関しては既に本誌にも詳細な報告があるので[1]、ここでは共用ビームラインと理研ビームラインについて、執筆時点までに纏まっている建設計画を報告する。


2.全体配置

 平成10年度の当初予算では、原研担当分として「高エネルギー分解能非弾性散乱ビームライン」、理研担当分として「高輝度ビームライン」、「医学利用中尺挿入光源ビームライン」のいずれも挿入光源ビームラインである合計3本の共用ビームラインの新設が認められた。また、補正予算では後年度負担を発生させない単年度での建設という予算当局の意向を受けて検討した結果、今まで複数年度の予算を想定していたビームライン建設の内、標準的な偏向電磁石ビームラインは今後単年度建設に変更可能であるとの見通しのもとに、原研担当分として「粉末回折ビームライン」、「汎用白色偏向電磁石ビームライン」の2本を、また理研担当分として「汎用単色偏向電磁石ビームライン」、「高エネルギー単色偏向電磁石ビームライン」の2本、計4本の共用ビームラインの新設が認可され、平成10年度建設開始共用ビームラインの総数は合計7本となった。従って、昨年度建設開始の1本を含めると、第2期共用ビームライン10本の内の8本の建設が既に始まったこととなる。

 これらの新設ビームラインの設置場所の検討に際して、第I期ビームライン建設時の様々な反省を行い、特に個々のビームライン建設が後年度のビームライン建設時に障害要因を作らないこと、すなわち具体的に言えば単一セルから2本のビームラインを設置する場合の場所の取り合いを考慮して、本年度のビームライン設置位置は今後のビームライン増設に伴って建設作業の困難度の増大が予想される既設ビームラインと同一セルからの取り出しを優先的に考慮することとし、一方で同一セルからの2本のビームラインの同時着工の可能性を考慮した。その結果、「粉末回折ビームライン」をBL02B2に、「高エネルギー単色偏向電磁石ビームライン」をBL04B2にアサインしたが、これらは既設のBL02B1、BL04B1の裏側の比較的狭いスペースでの建設を行うものである。また、「高輝度ビームライン」と「汎用単色偏向電磁石ビームライン」は同一セルからのBL40INとBL40B2に配置することとし、後年度の困難を多少とも解消することとした。同様に、「汎用白色偏向電磁石ビームライン」と「高エネルギー分解能非弾性散乱ビームライン」をBL28B2とBL28INに隣合わせに建設する案が検討されたが、「高エネルギー分解能非弾性散乱ビームライン」は比較的広いスペースが必要であるため、BL35INに設置することになった。「医学利用中尺挿入光源ビームライン」は、関係者の間での議論の結果、アンジュレータビームラインとして建設することとなり、BL20INに設置されることとなった。

 共用ビームライン以外では、長直線部を利用する理研ビームラインが補正予算で認められた。これは、SPring-8内部での検討の結果BL19ISに設置することになった。また、台湾SRRCから偏向電磁石ビームライン、アンジュレータビームライン各1本の建設提案があり、このための設置場所としてBL12IN、BL12B2を確保することとした。稼働中及び予約済のビームラインはここまでに挙げたものに加えて、マシン診断用1本、R&D1本があり、合計37本である。これらの結果を纏めた全体配置図を図1に示すとともに、残っているビームライン設置可能場所のリストを表1に示す。特殊な場所が多くなっていることに注目されたい。




図1 ビームライン全体配置



3.各ビームラインの概要

(a)粉末回折ビームライン(BL02B2)

 平成10年度単年度で建設する偏向電磁石を光源とするビームラインであり、光学系としては垂直上振り湾曲平面ミラー、標準型偏向電磁石光源用二結晶分光器の組み合わせによる平行単色ビームを実験ステーション装置に導入するものである。既設のBL01B1、BL02B1の光学系から第二ミラーを除き、またミラーでの振り角を固定とするためビームライン傾斜架台は設置しない。5~30 keVの単色放射光利用を想定する。実験ハッチは単一であり、ステーション機器としては、粉末回折計、結晶構造解析用真空カメラ等が想定されている。


(b)高エネルギー単色偏向電磁石ビームライン(BL04B2)

 平成10年度単年度で建設するビームラインであり、横振りの湾曲結晶分光器により高エネルギーX線を実験ステーションに導入し、エネルギー半固定で利用する設計となっている。半固定の意味は振り角を固定し、結晶面を変えて離散的にエネルギーを変えるということである。30keV以上のエネルギーの単色X線利用が想定されている。実験ハッチは単一であり、ステーション機器としては、二軸回折計とイメージングプレート回折計のタンデム設置が予定されている。


(c)汎用白色偏向電磁石ビームライン(BL28B2)

 平成10年度単年度で建設するビームラインであり、偏向電磁石からの白色放射光が利用できる。実験ハッチは単一であり、ステーション機器としては、白色X線トポグラフィ実験装置が想定されている。


(d)汎用単色偏向電磁石ビームライン(BL40B2)

 平成10年度単年度で建設するビームラインであり、光学系は標準型偏向電磁石光源用二結晶分光器の下流側に垂直下振り湾曲シリンドリカルミラーを置いた二次元集光ビームラインである。5~30keVの単色放射光利用を想定する。実験ハッチは単一であり、ステーション機器としては、小角散乱実験装置及びイメージングプレートを検出器とする蛋白結晶構造解析装置のタンデム設置が予定されている。


(e)高エネルギー分解能非弾性散乱ビームライン(BL35XU)

 平成10年度~11年度に建設するビームラインであり、標準型真空封止アンジュレータを光源とする。光学系は、標準二結晶分光器を前置分光器として、ビームライン最後部に背面反射高分解能分光器を置き、折り返されたビームを実験ステーション内の非弾性散乱実験装置に導入する。エネルギーアナライザーにも背面反射結晶アナライザーを利用し、meV以下のエネルギー分解能での非弾性散乱研究を行う。


(f)高輝度ビームライン

 平成10年度~11年度に建設するビームラインであり、真空封止型ヘリカルアンジュレータを光源とする。分光器を用いずに、カークパトリック・バエズ配置の二枚の湾曲平面ミラーで二次元集光することによってアンジュレータのスペクトル幅全体を用いて、微小空間領域に集光する光学系を作成し高フラックスビームラインを実現する。実験ハッチは単一であり、ステーション機器としては、とりあえず小角散乱実験装置が予定されているが、広く高フラックス利用に供されるものである。


(g)医学利用中尺挿入光源ビームライン

 平成10年度~12年度に建設するビームラインであり、標準型真空封止アンジュレータを光源とする。蓄積リング棟実験ホール内の光学ハッチ内に標準型二結晶分光器を設置し、単色化されたX線を医学利用棟に導く。医学利用棟内部の実験ステーションには、医学イメージング実験装置が設置される。


4.おわりに

 本稿では、本年度から建設が開始されたビームラインの配置計画を示し、その内の共用ビームラインについては概要と実験ステーション計画について述べた。長直線部利用の理研ビームライン及び台湾ビームラインに関しては、まだ最終仕様が固まっていない段階であるためここで紹介することは控えたが、近い将来本誌上にて概要が報告されよう。

 ここで述べられた共用ビームラインのステーション機器については、多数の共同利用研究者の協力を仰いで最終的な仕様確定作業が進められている所であり、ご協力頂いた皆様に感謝したい。また、挿入光源、基幹チャンネル、輸送系・光学系、制御系に関しては、JASRIビームライン部門を中心とした多くのSPring-8スタッフの努力により順調に発注作業が進行していることを報告し、あわせて関係各位に感謝したい。



参考文献 [1]"無機材研ビームライン(BL15IN)について"、SPring-8利用者情報Vol.2,No.6,pp.25-31(1997)

石川 哲也 ISHIKAWA Tetsuya
本務先:理化学研究所播磨研究所・X線干渉光学研究室

   〒679-5143 兵庫県佐用郡三日月町三原323-3

TEL:07915-8-2805
FAX:07915-8-2807
e-mail:ishikawa@spring8.or.jp


Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794