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Volume 03, No.4 Pages 41 - 42

7. ユーザー便り/A LETTER FROM SPring-8 USERS

高圧地球科学SG BL04B1立ち上げ実験記
Short note on starting of high-pressure geoscience group at BL04B1

桂 智男 KATSURA Tomoo

岡山大学 固体地球研究センター Institute for Study of the Earth's Interior, Okayama University

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 私が所属する岡山大学固体地球研究センターは、SPring-8から車で2時間の距離に位置しており、SPring-8を利用するのに非常に便利な場所にあります。また、スタッフメンバー12名中5人は超高圧実験を主な研究手段としてきた人間で、みな意欲的にSPring-8を活用して研究を進めていこうとしています。このように、我々のグループはSPring-8の大型プレス、SPEED1500の強力な使い手になるポテンシャルをもっているはずなのですが、大きな欠点もいくつか持っています。そのひとつは、超高圧その場X線回折実験の経験のある人間がほとんどいなかったことです。ラジオグラフィーで仕事をしたことのある者は一人いましたが、他は放射光実験のすべてにまったくの素人でした。もう一つは、学生がいないため、研究グループの平均年齢が40歳と、大学としてはかなり高いことでした。
 このような条件のもと、我々がとった立ち上げ期の実験方針は、他の研究グループの方々がこれまでに培った手法はできるだけ使わずにおいて、これまであまり採用されていない手法を試そうということでした。BL04B1は白色X線のラインなので光学系としては何も問題はないはずであり、高圧装置自体も実績のあるものなので、これからの問題は高圧セルの中身であろうと考え、ここにできるだけ新しい工夫を施すことを試みました。我々は超高圧その場X線実験に関して何の財産も無いのですから、それをばねにして新しい手法を試せるだけ試し、その結果、超高圧その場X線実験の進歩に少しでも寄与できればと考えました。
 昨年10月初めに試行期間が始まると、ありがたいことに10、11、12月にそれぞれ約3日ずつと、合計するとかなり長いビームタイムをいただくことができました。おかげで、計画どおり高圧セルのアセンブリを色々工夫して試してみることができました。
 まずヒーターとして、レニウムとランタンクロマイトの円筒ヒーターを試しました。今までのその場観察用の高圧セルでは、広い領域をみることができるように、X線に対して透明なグラファイトの円筒ヒーターか、入射線と回折線に平行なシート状のヒーターの2種類が主流でした。けれども回折角度が5〜6°と小さいので、ヒーターをX線に平行な配置にし、ヒーター内部を透明にしておけば、重元素を含む材料からなる円筒ヒーターを用いても、試料の観察は可能であろうと考えました。試してみたところ、レニウムは多数の回折パターンを収集できるほど長時間はもちませんでしたが、ランタンクロマイトは結構上手く行きました。ランタンクロマイトは制御が難しいので、岡山大の高圧装置用に製作した超高圧実験用加熱システムをSPEED1500に移植することによって、安定に加熱できるようにしました。ただし、ランタンクロマイトは当たり外れがあって、駄目なときは全く働かないことが現在でも問題になっています。
 圧力媒体の材質としては、ジルコニア単独とマグネシア+ジルコニア複合型を試しました。高温高圧実験では加熱によって圧力が抜けるようなので、できるだけ断熱を良くして圧力低下を防ごうと考えました。ジルコニアは断熱材の代表格だけあって、高温では加熱に伴って圧力が落ちるどころか、圧力はかえって上がっていきました。ただし、逆に低温領域で圧力が上がらないのが欠点であることも明らかになりました。現在はマグネシア+ジルコニアの複合型を使っていますが、どのような形で組み合わせるのがベストか、まだ結論が出ていません。
 このほか、熱電対の配置の仕方、試料の前処理法、試料の置き方、圧力マーカーの種類、圧力媒体のサイズ、ガスケットのサイズなど色々試したのですが、書き出すと本当にきりがないので実験法自体についてはこのくらいで置いておきます。
 実験法と平行して、他のことも色々学びました。一つは実験メンバーの編成です。試行期間ということもあって人をたくさん呼んだのですが、人数が多すぎると現在の状況の飲み込めない人が出てきたりして、メンバーが多すぎるのは考え物だと感じました。けれども、高圧実験は一つのランが長時間かかるにもかかわらず、規則上8時間ごとに交代しなくてはいけませんので、やはり交代人員が必要です。また、中高年の集中力には限りがあって、疲れてくると日ごろは全くしないようなミスをすることも痛感しましたので、交代要員は多数用意しなくてはならないというジレンマも出てきました。そこで、アセンブリ作成係とオペレーション係は基本的に分け、さらに、オペレーターは技量ごとに3つのクラスに分けて、各クラス内でしっかりローテーションを組むようにしました。このように書くと簡単なことのようですが、自分が苦労して作成した高圧セルでの実験をオペレーションできないのは、人情として非常に辛いものです。またその他の人も、どうしても実験の行方を見ていたいため、非番になってもずっと残って見ていることが多く、ローテーションは破られがちでした。
 試行期間を振り返ってみると、素人集団にしては良くやったかなという気もしますが、やはりちょっと無謀な方針だったと少々反省しています。ですが、今回の我々のtry-and-errorが無駄にならず、SPEED1500での高圧その場X線観察実験の進歩に寄与できるよう、これからも努力していきたいと考えています。



桂 智男 KATSURA  Tomoo
〒682-0193 鳥取県東伯郡三朝町山田827
岡山大学固体地球研究センター
TEL:0858-43-3754(居室)、3882(高圧実験室)、1215(代表)
FAX:0858-43-2184, 3450
e-mail: tkatsura@misasa.okayama-u.ac.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794