Volume 03, No.4 Pages 40 - 41
7. ユーザー便り/A LETTER FROM SPring-8 USERS
サブグループ立ち上げ実験記
First Impression of SPring-8
北海道大学 大学院理学研究科 Division of Biological Sciences Graduate School of Science, Hokkaido University
「西播磨の山奥に強力な新しい放射光施設が建設されている。」という話を聞いたのは何時のことだったか…? そのころ筑波で大学学部生をしていた私が何よりもまず最初に感じたのは、「またも、陸の孤島か?!」ということでした。放射光施設として最も身近な存在であったPFのある現・高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所は、筑波研究学園都市の北の端にあり、交通の便が決して良いとは言えません。実験に行っても自動車がないとどこへも行けない様なところです。それでも最近は徒歩圏内(?)にコンビニエンス・ストアが出来るなど、PFユーザーにうれしい変化が起こりつつあります。もっとも、街灯も無く真っ暗な歩道をただ黙々と歩く侘びしさは今も変わりありませんが…。さて、私が初めてSPring-8を訪れたのは昨年の12月のことでした。岡山空港からレンタカーでたどり着いた私を、SPring-8はあらゆる意味で驚かせてくれたことを覚えています。まず、周囲に何もないのは私の想像を遙かに越えておりました(夜中の測定の合間に摂る補食を調達する為の最寄りのコンビニはSPring-8から気持ちよいワインディングを北に下ることなんと7km!)。姫工大が近くにあるので、学生相手のコンビニや食堂が近所に点在していても良さそうなのですが…。営業が始まったらすぐに行かないと、メニュー選択の余地すらなくなってしまう食堂(そうとは知らず遅くに利用した私はカレーか素ウドンのみという状況に陥り、育ち盛りゆえ、妙な組み合わせでしたがその両方を選択したのでした)。しかしSPring-8の魅力はそれらの不満点を補って余りあるものでした。近代的な規格で設計されている、設備の整った非常に快適なユーザー宿舎!(実験の都合上、その素敵な宿舎で休めたのがわずかな時間でしかなかったのが悔やまれます?)。そして何よりも、高輝度のリングがもたらす快適な実験環境です。100mのビームラインがひける設計だという広々とした実験ホールで、利用したビームラインは蛋白質結晶構造解析用のBL41XU。BLの管理をしていらっしゃる方々の指導の下、高輝度ビームの威力を生かした迅速なデーター収集を進めることが出来ました。蛋白質の結晶構造解析分野における高輝度ビームの利点は、露光時間を短くすることができ、データー収集を高速化できる他、露光時間短縮により、結晶がX線から受ける損傷を低く押さえることが出来るという点です。これにより必要とされるデーターを一つの結晶からより多く得ることが出来るようになります。また、これまで実験室系の測定器はもとより、PFでは満足な反射が得られなかった様な小さな結晶からデーター収集が出来る可能性があります。SPring-8の登場は蛋白質X線結晶構造解析に多くのメリットをもたらしてくれるでしょう。ユーザーの一人として、新世代の放射光施設SPring-8への期待は高まる一方です。
伊藤 啓 ITOU Hiroshi
北海道大学 大学院理学研究科
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