Volume 03, No.4 Pages 33 - 34
5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第1回SPring-8マシンスタディ報告会
The First Meeting on Machine Studies of SPring-8
第1回SPring-8マシンスタディ報告会が、98年4月9日にSPring-8中央管理棟講堂にて行われた。今回は、97年12月から98年3月までの期間に実施されたマシンスタディについての報告がなされた。この報告会は、マシンスタディの結果を自由な討論を通してより理解を深めるとともに、加速器を専門とする人達以外にもSPring-8加速器の現状を知っていただこうという目的のために開催された。当日は、SPring-8関係者のみならず、姫路工業大学、大阪大学、京都大学、岡崎国立共同研究機構分子科学研究所、理化学研究所などの外部研究機関からの研究者の参加もあり、活発な議論が行われた。
以下に、報告会のプログラムとともに、各報告の内容について簡単に紹介する。
第1回 マシンスタディ報告会 プログラム
1998年4月9日
中央管理棟講堂
10時00分〜10時10分
「はじめに」
熊谷 教孝
「マシンスタディ報告会開催にあたって」
大熊 春夫
10時10分〜12時10分
座長 熊谷 教孝
「CODBPM電流依存性の測定」
佐々木茂樹
蓄積リングの閉軌道(COD)測定用ビーム位置モニター(BPM)では、ビーム電流の変化に応じて信号処理回路のゲインを変更して測定を行っている。このゲインの変更によりビーム軌道の測定値がわずかにズレてしまうという現象が起こっている。蓄積電流を変化させて、信号処理回路のゲイン変更に伴う「見かけのビーム位置のズレ」を系統的に調べた。
「蓄積リング加速空洞内HOM測定」
川島 祥孝
蓄積リングのビームを安定に保つためには、加速空洞内の高次モード(HOM)を抑制することが重要である。蓄積リングを12バンチで運転し、HOM用可変チューナーの位置を変えながら加速空洞のピックアップ信号に現われるHOMの強度を測定し、通常運転時のHOMチューナーの設定位置が適切であることを確認した。
「挿入光源のギャップとエネルギー損失の測定」
大島 隆
偏向電磁石や挿入光源でシンクロトロン放射として失った蓄積リングのビームのエネルギーを、加速空洞内の高周波電磁場により補っている。挿入光源の磁場強度を変えながら、加速空洞内でのエネルギー損失とシンクロトロン振動数とを測定し、挿入光源内でのシンクロトロン放射によるビームのエネルギー損失を求めた。
「ビーム寿命とベータトロン結合、加速電圧」及び
「タウシェック効果で決まるLifetimeのピーク電流依存性」
高雄 勝
蓄積リングを単バンチで運転した場合のビーム寿命を決める重要な要因として、電子密度に依存するタウシェック効果がある。電子密度は、ビームのサイズと電流値に依って変化する。ベータトロン結合度を変えることによってビームサイズを変えて、ビーム寿命の変化を測定した。また、通常の結合度のもとで、単バンチビーム寿命の電流依存性を測定した。
「蓄積リング誤差分布のシステマティックな解析」
田中 均
蓄積リングにおける誤差磁場の分布をシステマティックに解析するために、レスポンスマトリクスを全周に渡って測定した。レスポンスマトリクスとは、各(軌道)補正電磁石によりビームをシングルキックすることによって生じたCOD(を各ビーム位置モニターで測定した値)と、そのキック量とを関係づける行列である。レスポンスマトリクスの測定結果を元に、誤差磁場をモデル化してベータ関数と位相進みを求めた。
13時15分〜16時15分
座長 米原 博人
「シングルバンチ試験」
鈴木 寛光
現状のSPring-8のシングルバンチ運転は、シンクロトロンにおいてRFKO法によって不要なバンチを除去した後に、蓄積リングにビームを入射している。1パルス入出射モード、8パルス入出射モードの各場合について、最適なRF-KOパラメータをサーベーした。また、各モードでの最適RF-KO波形によって、単バンチビームを蓄積リングに入射し、ビームラインBL09においてフォトンカウンテイング法により単バンチ純度を測定した。
「エミッタンスのビーム電流およびフィリングパターン依存性測定」
高雄 勝
挿入光源からのシンクロトロン放射の特性は、電子ビームのエミッタンスに応じて変化する。蓄積リングのベータトロン結合度を変化させる等を行い、エミッタンスを変化させた時にビームラインBL47においてアンジュレータからのシンクロトロン放射のスペクトルと鉛直方向角度分布とがどのように変化するかを調べた。
「ビームを用いた蓄積リングBPMの校正」
早乙女 光一
ある4極電磁石の中でビーム軌道が磁場中心と一致している場合には、この4極電磁石の強度を変えてもビーム位置が変化しない。SPring-8蓄積リングにおいては長直線部に設置された40台の4極電磁石の強度を独立に変えることが可能である。これらの4極電磁石のうちの数台に対してビームが磁場中心を通るように補正電磁石の励磁量を変化させる。このときの直近のビーム位置モニター(BPM)の測定値からBPMの位置を校正することができる。これらについて試験的な測定を行った。
「蓄積リングRF位相フィードバックの広帯域化試験」
川島 祥孝
蓄積リングのクライストロン電源リップルにより508.58MHzの基本周波数の位相と振幅とが変動している。これらの変動は加速空洞をとおして電子ビームに影響を与え、エミッタンス増大の原因となりうる。基本周波数の位相と振幅の変動をフィードバックコントローラの調整によりどこまで抑制できるか調べた。
「新シングルバンチ用パルサーでの電子銃エミッション電流試験」
小林 利明
線型加速器のシングルバンチ運転用として新たにグリッドパルサーを開発した。新しいグリッドパルサーを用いて電子銃からのエミッション電流のグリッドパルサー電圧の調整による可変範囲等について調べた。
「線型加速器ビームダンプ周辺放射線分布の測定」
浅野 芳裕
線型加速器のビームダンプ(BD-L1、BD-L2)に、それぞれ0.25GeV、0.96GeVの電子ビームを入射し、その時のビームダンプ周辺の中性子、ガンマ線線量、及び遮蔽壁外での中性子、ガンマ線エネルギースペクトルを測定した。
「蓄積リングRF中心周波数の決定方法」
田中 均
現在、SPring-8蓄積リングのRF中心周波数は、水平方向CODをフーリエ解析して得られる0次成分(CODの平均値に対応)と48次成分(分散部と非分散部とでのCODの差に対応)の振幅が最小となるように調整している。一方、クロマティシティーを通常の運転点を中心に正負に振り、RF周波数を変えながらベータトロン振動数を測定すれば、中心周波数のところではモーメンタムのオフセットΔp/pがゼロとなるので、クロマティシティーにかかわらずベータトロン振動数は同じ値になるはずである。クロマティシティーを振ってベータトロン振動数を測定した結果からRF中心周波数を求め、CODのフーリエ成分から決めた中心周波数との比較をし、両者が一致していることを確認した。
16時35分〜18時48分
座長 横溝 英明
「蓄積ビームのサイズ測定」
早乙女 光一
SPring-8蓄積リングの入射部では、ビームダクトの水平方向の開口が他の部分に比べて狭くなっている。この部分に水平方向DCバンプ軌道を作り、バンプの大きさを変え、パルスバンプ電磁石によりビームの一部をビームダクトで削ることによるビーム電流値の減少率を観測すると、水平方向のビームサイズがわかる。この方法を用いて蓄積リングのビームサイズを測定し、エミッタンスが約7nm・radであるとの結果を得た。
「電磁石初期化の再現性」
熊谷 桂子
蓄積リングの4極電磁石、6極電磁石、ステアリング電磁石の初期化手順の違いが、ビーム軌道、チューンに及ぼす影響を調べ、電磁石初期化の手法についての知見を得た。
「シンクロトロン・バンプ軌道の調査及び最適化」
鈴木 寛光
マシンスタディ「シングルバンチ試験」において8パルス入出射を行ったときに、シンクロトロンの電流値変化を測定したところ、バンプ軌道が設計と異なるために出射効率が低下していることがわかった。これを改善するために、バンプ軌道を調整し、8パルス出射の効率を改善することができた。
「線型加速器シケインの立ち上げ」
水野 明彦
線型加速器では、ビームエネルギーの分布、安定度などを測定するために、最終加速管の後に「シケイン」を設置した。シケインは、4台の偏向電磁石によりビーム軌道を横に1m平行移動させるものであり、設計値のデイスパージョン関数の値は1mである。今回、初めてシケインにビームを通しシケインが設計どおりに設置されていることを確認した。
「可変偏光アンジュレータ(ID23-1)の調整運転」
島田 太平
ビームラインBL23に新たに設置された可変偏光アンジュレータの調整運転を行った。