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Volume 03, No.4 Pages 31 - 32

4. 原研・理研・R&Dビームライン/JAERI・RIKEN・R&D BEAMLINE

理研物理科学ビームラインBL29XUの建設について
Construction of RIKEN Physics Beamline BL29XU

石川 哲也 ISHIKAWA Tetsuya

理化学研究所 X線干渉光学研究室 Coherent X-Ray Optics Laboratory, RIKEN Harima Institute

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1.はじめに
 理化学研究所は、2本の構造生物学研究用ビームライン(BL45XU、BL44B2)をSPring-8での専用施設として建設し、既に利用研究を開始している。これらに加えて、平成9年度から10年度にかけて、物理科学研究用ビームラインの建設が認められ、平成10年秋の利用開始を目指した準備が進んでいる。本ビームラインは、第三世代放射光源としてのSPring-8の最大の特徴である「可干渉性」を活かした新しい計測方法の開発を主目的とするものであり、将来長直線部を利用した本格的可干渉X線光源が実現する日に備えて、様々な基盤的技術開発の場となる。
 このような、萌芽的研究開発を目的とするビームラインでは、概ね確立された既成の方法論に基づく研究が展開されるビームラインとは異なり、ある程度の試行錯誤が繰り返されることが予想される。また、でき上がった装置ではなく、汎用的でかつフレキシブルな装置を目的に応じて組み替えながら新しい方法を追及していくことが必要となる。慧眼な読者は、このコンセプトは筆者が15年程前にフォトンファクトリーに於て、「放射光の特性を活かす新しい方法論の開発」のために建設し、いまだにPF−BL15Cで利用されている水平多軸精密回折計[1]と同一であることに気づかれたであろう。まさしくその通りであり、今回は「放射光」が「可干渉性放射光」と変わっただけである。

2.ビームライン設計指針

 本ビームラインは、放射光の可干渉性そのものを問題とする研究に利用されるため、光源は、当然アンジュレータであり、標準型真空封止アンジュレータが採用された。可干渉性の劣化の原因となる可能性のあるビームライン要素は可能な限り排除する必要があるが、これを突き詰めると結果として最小限のビームライン要素で構成されるシンプルな物となり、BL47XUと同様なミラーを用いない標準X線アンジュレータ輸送チャンネルが採用された(図1)。将来的に、アンジュレータ光の芯を比較的大面積で取り出して空間的可干渉性を利用した新しい計測方法を展開すること、スプリットした二光束を長距離の間飛ばす干渉計の開発研究等の可能性を考慮して、ビームラインの設置場所としては将来長尺ビームラインへの延長が可能なBL29INとしたが、平成10年度には実験ホール内に留まる普通尺のビームラインを建設する。 
 
 
 
図1 BL29XUの輸送チャンネル構成 
 
 図2にハッチの鳥瞰図を示すが、実験ホール内に於て光軸方向に約15mの光学ハッチと、光軸方向5m、幅3mの実験ハッチによって構成されている。 
 
 
 
図2 BL29XUハッチ鳥瞰図 
 
3.ステーション機器
 可干渉X線の応用研究においては、X線領域の波長に対応する位相の安定性が不可欠であり、機械的安定性は勿論のこと環境要因による系の変動にも十分に気をつけなければならない。ステーション機器としては、最初に問題となる可干渉X線光学研究に対処するための水平多軸超精密X線回折計(図3)の建設が進んでいる。これは、10ナノラジアン分解能の超精密ゴニオメーターを最大5台用いて、種々の多重結晶光学系に対応するものであり、以前フォトンファクトリーで建設された同種装置[1−3]の発展型と言って良い。個々のゴニオメーターは、光軸方向、水平面内で光軸に垂直な方向、垂直面内で光軸に垂直な方向の3次元平行移動を行うキャリア上に搭載され、試料と光軸の調整を容易化している。
 目標としては、多重結晶光学系の中でも最も安定性が要求される分離型X線干渉計実験が円滑に行い得る安定性と再現性を持つことを念頭に置いている。このために、光学素子や検出器・スリット等の取り付け調整時に他の調整済の光学素子との干渉が起きないように、ビームを通す位置を定盤の端部とし、定盤に触れることなく上記の作業を行い得るようにした。また、検出器・スリット等の位置の微調整を円滑に行い、光学素子の調整を崩さないように、検出器・スリット等を独立なキャリア上に搭載可能な構造とした。 
 
 
 
図3 水平多軸超精密X線回折計・概念図 
 
 また、実験ハッチ内のステーション機器の周囲には断熱シールドを設置し、内部の温度変化を1/100℃以下に抑える予定である。機器の駆動にはステッピングモーターが使用されるが、そこからの発熱が最小限となる駆動方式が検討されている。
 検出系としては、調整用としてごく一般的なイオンチェンバー、NaI検出器、Ge半導体検出器を準備しているが、X線領域での干渉縞の実時間測定のための高分解能X線撮像管が検討されている。

4.今後のスケジュール
 本年夏のシャットダウン時に、ビームラインハードウェアの建設を終了し、秋以降調整に入る予定である。順調に進めば、冬のシャットダウン明けには利用研究が開始される。

参考文献
[1]T.Ishikawa, J.Matsui and  T.Kitano: Nucl.Instr.Method,A246(1986) 613-616.
[2]T.Ishikawa,Y.Yoda,K.Izumi,C.K.Suzuki, X.W.Zhang,M.Ando and S.Kikuta: Rev.Sci.Instrum.,63(1992) 1015-1018.
[3]T.Ishikawa,K.Hirano,K.Kanzaki and S.Kikuta: Rev.Sci.Instrum.,63(1992)1098-1103.



石川 哲也 ISHIKAWA  Tetsuya
(Vol.3,No.2,P12)



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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