Volume 03, No.4 Pages 25 - 27
4. 原研・理研・R&Dビームライン/JAERI・RIKEN・R&D BEAMLINE
理研ビームライン II(BL44B2)の現状
Present Status of RIKEN Beamline II (BL44B2)
理化学研究所 播磨研究所 RIKEN Harima Institute
- Abstract
- RIKEN beamline II (BL44B2) has been designed and constructed by RIKEN Structural Biology Group at RIKEN Harima Institute. BL44B2 supplies narrow bandpass, rapidly tunable X-rays for XAFS experiment and protein crystallography, and wide bandpass, intense white X-rays for time-resolved Laue crystallography as well.
1.はじめに
理研ビームラインII(BL44B2)は、生体試料を対象とした構造研究を行うために建設された理研の偏向電磁石ビームラインである。研究対象として、以下の3つが柱となっている。
・希薄溶液、表面等を対象とした蛍光及び吸収XAFS測定(担当:谷田)
・蛋白質結晶の単色X線回折測定(担当:足立)
・白色X線を利用した蛋白質結晶の時間分割ラウエ回折測定(担当:足立)
本稿では、1998年5月現在でのBL44B2の現状について報告する。
2.BL44B2の概要
BL44B2は3つのハッチからなっており、最下流のハッチまで白色X線が導入されるために、3つのハッチの放射線遮蔽性能はすべて光学ハッチ仕様となっている。便宜上、上流から順に、光学ハッチ、XAFS実験ハッチおよびDiffraction実験ハッチと呼称している。図1に光学系と各実験ステーションの配置図を示す。XAFS測定と回折測定の両方を対象とするために、XAFS測定で要求されるエネルギー分解能、エネルギースキャン中のビーム位置・強度安定性、高調波除去率を実現しつつ、回折実験に必要な二次元集光されたビームを得る必要があり、どちらの要求も満たすことのできる光学系の仕様となっている。
図1 光学系と各実験ステーションの配置
光学系は、第1スリットの下流に二結晶分光器があり、その下流にベントシリンダー型ミラーを置く配置になっている。二結晶分光器は当面Si(111)面のみを使用するため、傾斜可変機構を持たないタイプの分光器である。ベントシリンダー型ミラーはXAFS実験時には高調波除去のために0〜5.5mradの間で設置され、回折実験時には最適な集光点を得るために3.3mradに固定して使用される。どちらの場合も試料への入射方向は、はね上げ方向の斜入射となる。また、白色回折実験時には二結晶分光器の第一結晶を鉛直方向移動機構を用いて入射ビームから外し、ミラーによってDiffraction実験ハッチ内に白色X線の集光点を得ることができる。
3.立ち上げ状況
BL44B2は1998年2月の冬期シャットダウン明けからコミッショニング(試験調整運転)を開始した。2月下旬から3月上旬にかけて行なわれたハッチの漏洩試験に合格した後、分光器とミラーの立ち上げ調整を行った。分光器の固定出射位置調整、エネルギー分解能測定、ミラーの集光性能測定、反射率測定を行った後、3月下旬から理研ユーザーによる試験運用を開始し、4月中旬から理研ユーザーによるXAFSと単色回折の利用実験を開始した。白色回折実験については単色実験から少し遅れてスタートし、4月下旬にミラー集光した白色X線を使ったラウエ回折実験を行った。
以下、各ハッチの立ち上げ及び利用実験状況について述べる。
(1)光学ハッチ
二結晶分光器は1998年1月に光学ハッチ内に設置された。第一結晶は直接水冷式のフィンク—リング結晶、第二結晶は間接水冷式である。第一結晶のロッキングカーブ幅はほぼ計算値に近く、現状の蓄積電流値では熱負荷による影響を殆ど受けていない。しかし100mA運転時には第一結晶の冷却機構が重要になると考えられる。
ミラー調整装置はベント機構をもつ1m長ミラーシステムである。ミラー本体の材質はSiであり、1000×90×50mmtの母材を用いてサジタル方向の曲率半径61.13mmのシリンダー形状に加工されている。ミラー本体の側面を間接水冷しており、表面はPtコートである。第一スリットの開口幅が10mm(H)×1mm(V)(角度発散0.38mrad(H)×0.038mrad(V))でミラーをベントさせた時、XAFS実験ハッチ内のミラー集光位置での集光サイズをスリットスキャンで見積もったところ、0.25mm(H)×0.18mm(V)(FWHM)という値が得られ、ray-tracingの結果に近い良好な集光像を与えている。
(2)XAFS実験ハッチ
XAFS実験ハッチ内には、上下の移動と傾斜機構をもつ定盤(シグマ光機製)が設置され、その上に光学レールを固定して、4象限スリット、イオンチャンバー、SSD検出器、クライオスタット等が設置される。測定方法はイオンチャンバーを用いた吸収法とSSD検出器を用いた蛍光法が可能である。SSD検出器はセイコーEG&G社製の19素子型であり、検出回路系としてXIA社のDXP(4ch)ボードを採用している。クライオスタット(Austin Scientific Company製)は10Kから室温までの温度コントロールが可能である。測定系の制御はすべて、PCベースのLabVIEW(Ver4.0)で開発したソフトウエアを使用している。
19素子SSD検出器がまだ手元に届いていないために、これまでは吸収法測定に限って実験を行っている。すでに、 我々が主な測定対象としている6〜25keVにK吸収端をもつ試料について良好なスペクトルが得られることを確認した。ただし、測定を行うエネルギー領域によっては、エネルギースキャン中の入射ビーム強度の安定性に若干の問題があり、スキャン中にロッキングカーブのチューニングを断続的に行うことにより対処している。
(3)Diffraction実験ハッチ
Diffraction実験ハッチには、2軸の並進機構と2軸の回転機構をもつ定盤(Huber製)が設置され、その上に光学レールを固定して、シャッター、コリメータ、ダイレクトビームストッパ、検出器が設置されている。検出器はイメージングプレートを使用したオンライン型読み取り装置(リガク製)であり、光学レールを使用して、結晶−検出器間の距離を140〜430mmの間で変更できる。1枚のイメージングプレートの読み取り、消去の1サイクルに要する時間は約5分であるが、一方、X線の露光時間は現状で既に5分以下であり、100mA運転ではさらに露光時間が短縮される。したがって、今後、検出器読み出しの高速化が必須である。検出器を含めた測定系の制御は、読み取り装置付属のソフトウエアを使用している。試料温度は液体窒素を使用するクライオ冷却装置(Oxford Cryosystem社製)を使用して、室温から100K程度まで設定が可能である。試料が遷移金属より重い原子を含む場合、吸収端測定のために1素子SSD(Si(Li))検出器(セイコーEG&G製)が使用できる。このSSD検出器は検出部の先端が16mmφと非常に小さいために、試料から10mm程度まで接近することができ、計数率を稼ぐうえで有利である。また波高分析によって蛍光X線成分のみ取り出せるので、通常のシンチレーションカウンタによる測定より高S/N比の測定が可能である。
また、時間分割ラウエ回折実験のための装置として、高速シャッター、パルスレーザー、顕微分光装置を備えている。高速シャッターは、ガルバノシャッター機構により1.8ミリ秒以上の単発動作が可能なものと、10マイクロ秒以上のパルスを断続的に切り出す回転式チョッパーの2種類があり、切り出したいパルス幅によって単独または組み合わせて使用される。パルスレーザーは数ナノ秒幅のYAGレーザー励起色素レーザー(Continuum社製)であり、色素の変更により可視部全域にわたる波長のチューナビリティーがある。YAG基本波の1パルス当たりのエネルギーが1.2Jであるため、クラス4レーザー指定であり、現在、実験ハッチに安全管理上必要な装備の設置を行っている。高速シャッターおよびレーザーのタイミング系は回路開発室の工藤氏によるタイミングモジュールにより制御され、このモジュールは上記の測定プログラムにより動作制御が可能である。顕微分光装置は結晶試料の可視吸収スペクトルの測定を目的としており、現在設置中である。
これまでに単色および白色回折の立ち上げおよびユーザー利用実験を行っている。単色実験では、0.6〜2.0Åの波長で回折データ収集が可能であり、通常0.7Åで実験を行っている。鉄の吸収端波長(1.74Å)において、分子中に1個の鉄原子を含むタンパク質結晶(結晶サイズ0.1×0.2×0.01mm、分子量約17,000)の回折データ収集を100Kで行った結果は良好であり、すでに解釈可能な電子密度図を得て、解析を進めている。また波長0.6〜0.7Å、カメラ距離150〜200mmの設定で1.0Å分解能程度の回折データ収集を比較的簡便に行うことができ、すでに2、3のタンパク質結晶の高分解能回折データ収集が行われている。白色実験では、ミラー集光した白色X線(0.4〜2.0Å)を使って実験を行い、ガルバノシャッターを単独で使用することにより、2.0ミリ秒の1回露光でラウエ回折像が得られた(図2)。レーザーを組み合わせたpump & probe実験は98年夏のシャットダウン以降に予定している。今後、高速回転型チョッパーとレーザーの繰り返し発振を同期させることにより、マイクロ秒オーダーの時間分割ラウエ回折測定が可能になる予定である。また秒から分オーダーの比較的遅い反応系の実験システムについても今後充実させて行きたいと考えている。なお、白色回折実験に限って、一部のビームタイム(現状で全ビームタイムの25%)がJASRIに供出されている。
図2 露光時間2.0ミリ秒で測定したラウエ回折イメージ(試料はヘモグロビン結晶)
蓄積電流:18.5mA、波長範囲:0.4〜2.0Å、最高分解能:1.6Å
4.謝辞
このビームラインの建設準備は約3年前からスタートし、その間、植木龍夫利用促進部門長、石川哲也主任研究員をはじめとする、理研放射光構造生物グループ関係者、共同チーム関係者の方から多くの助言、支援を頂いた。また、昨年まで我々のメンバーであり、現SESの小口拓世氏にはビームラインの立ち上げ時期を通じて御助力を頂いた。この場をお借りして感謝致します。
足立 伸一 ADACHI Shin-ichi
(Vol.3,No.2,P50)
谷田 肇 TANIDA Hajime
昭和42年3月6日生
理化学研究所・播磨研究所
生体物理化学研究室分室
〒679-5143
兵庫県佐用郡三日月町三原323-3
TEL:07915-8-1833
FAX:07915-8-2818
e-mail:tanida@spring8.or.jp
略歴:平成7年大阪大学理学研究科博士課程修了、理学博士。平成9年7月より理化学研究所協力研究員。
最近の研究:XAFSによる陰イオンの溶媒和構造の研究。