Volume 03, No.3 Pages 28 - 30
5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
専用施設検討委員会の検討状況
Activities of the Contract Beamline Committee
1.まえがき
専用施設検討委員会(主査:佐藤繁)は放射光利用研究促進機構・財団法人高輝度光科学研究センター(以下JASRIという)諮問委員会(委員長:高良和武)の専門委員会としてSPring-8が受け入れる専用ビームライン計画を審査し、諮問委員会に推薦する委員会である。
平成9年度は、2回委員会を開催し、専用ビームライン設置者が機構に提供するビームタイムの目安について意見を取りまとめるとともに、台湾放射光研究所(SRRC)から申請のあった専用ビームライン設置計画趣意書2件の検討評価を行った。
2.専用ビームライン設置者が機構に提供するビームタイムの目安について
マシンタイム(加速器の運転時間)は年間5,000時間以上を目標とし、その10%は加速器の調整運転やマシンスタディに使用される。従ってマシンタイムの90%の約4,500時間がビームライン1本あたりのビームタイム(放射光利用実験時間)となる。
このビームタイムについては、「専用施設の設置及び利用に関する基本的考え方について」(諮問委員会第3号答申:平成7年12月1日)[1]におい「専用ビームライン設置者は専用施設の内容に応じて、ビームタイムの一定割合を機構に提供する。」とし、また航空電子等技術審議会第20号答申(平成8年3月29日)においても、「機構の放射光に関する研究開発を着実に実施するため、SPring-8のビームタイムの一定割合を、機構の研究開発等のために確保することが必要である。」とされている。
専用施設検討委員会で設置者が機構に提供する具体的なビームタイムの目安及びその運用管理等について検討した。その結果は2月に開催した諮問委員会から上記の諮問委員会第3号答申に対する追加の意見として、財団会長に具申された。その概要は、以下のとおりである。
(1)専用ビームライン設置者は機構にビームタイムの一定割合を提供する。その割合は、当面、ビームタイムの20%程度とする。実施時期及び具体的な割合は、機構と設置者との協議により柔軟に運用する。
(2)機構は、責任をもって上記のビームタイムを運用し、次の各項目の実施に利用する。
①当該ビームラインの安全性・健全性の検査
②SPring-8ビームラインの高度化等に必要な研究開発
③機構の自主研究及び共同研究
④共用ビームラインあるいは他の専用ビームラインユーザーによる緊急研究への対応等
(3)機構は、上記のビームタイムを適正に運用するための仕組みを機構内にもうける。利用状況については、適宜、諮問委員会に報告し、その評価を受ける。
(4)共用ビームラインについても上記と同様の措置を講ずることが重要である。原研、理研ビームラインについても同様の措置が講じられることが望ましい。
3.専用ビームライン計画の受入状況
3.1 専用ビームライン計画の検討評価
日本原子力研究所及び理化学研究所以外の者によってSPring-8に設置され、設置者が利用する専用ビームライン計画については、「設置計画趣意書」及び「設置実行計画書」の2段階の審査がJASRI諮問委員会(専用施設検討委員会)によって実施される[2]。「設置計画趣意書」は、主に計画の科学的技術的内容について、また「設置実行計画書」は専用ビームラインの建設体制・スケジュール・予算、維持管理計画及び安全管理計画、利用計画、並びに技術的実行可能性等についてそれぞれ審査される。
国外からは初めての提案となる専用ビームライン設置計画趣意書2件が台湾放射光研究所(Synchrotron Radiation Research Center:以下SRRCという)から申請された(平成10年1月7日付受理)。これらの計画について専用施設検討委員会及び諮問委員会において検討評価が行われた結果、いずれの計画も専用ビームライン設置の意義が認められることから、設置計画趣意書を受け入れることとした。
SRRCビームラインは
(1)SRRC BMビームライン
(2)SRRC IDビームライン
の2本で構成される先進的な硬X線放射光実験施設を整備し、新素材や構造生物学研究等を目指すものである。
設置計画趣意書の受入通知後3年以内に次の段階である実行計画書を提出し、専用ビームライン設置計画受入の最終審査を行うことになるが、SRRCビームラインについては平成10年6月までには実行計画書が提出される予定である。
施設利用研究における国際交流の促進については特定放射光施設の共用の促進に関する法律(法律第78号平成6年6月22日)にも明記されているところであり、SRRC専用ビームライン計画の推進が国際協力、特にAPECにおける国際協力を推進するものとして期待される。
また、インドの専用ビームライン計画についてはSPring-8側とこれまでに数回の会合が持たれてきたが[3、4]、平成10年2月には設置計画趣意書の作成に必要な技術的事項等についてSPring-8において打合せが行われ、平成10年5月上旬にはインドから専用ビームライン設置計画趣意書の提出が予定されている。
これまでの検討評価の結果、第1段階の設置計画趣意書が受け入れられた専用ビームライン計画(第2段階の設置実行計画書が提出されたものを除く)はSRRC専用ビームライン計画を含め全体で表1の4件になる[5]。また、第2段階の設置実行計画書が受け入れられた専用ビームラインは全体で表2に示す5計画である[6、7]。
表1 計画趣意書が受け入れられた専用ビームライン計画
機 関 名 | ビームラインの名称 | 光源の型 |
京都大学化学研究所 | 京都大学先端光科学ビームライン | 垂直ウィグラー |
科学技術庁金属材料 技術研究所 |
超精密材料解析ビームラインⅠ | X線アンジュレータ |
SRRC(台湾) (Synchrotron Radiation Research Center) |
SRRC BMビームライン | 偏向電磁石 |
SRRC IDビームライン | 真空封止アンジュレータ又は リボルバー型アンジュレータ |
表2 設置実行計画書が受け入れられた専用ビームライン計画
機 関 名 | ビームラインの名称及び設置場所 | 光源の型 |
科学技術庁無機材質研究所 | 広エネルギー帯域先端材料解析 ビームライン BL15IN |
真空封止リボルバー型 アンジュレータ(予定) |
大阪大学蛋白質研究所 | 生体超分子構造解析ビームライン BL44XU |
真空封止アンジュレータ |
兵庫県 | 兵庫県ビームライン BL24XU |
真空封止アンジュレータ |
産業用専用ビームライン建設利用共同体 | 産業用専用BMビームライン BL16B2 |
偏向電磁石 |
産業用専用IDビームライン BL16XU |
真空封止アンジュレータ |
3.2 設置契約の締結等
第2段階の設置実行計画書が受け入れられた専用ビームライン計画については、2年以内にJASRIと専用ビームラインの設置に関する契約を締結し、ビームラインの設置が行われることとなる[2]。
専用ビームラインの設置契約の締結状況は以下のとおりである。なお、これら以外の専用ビームライン[8、9]についても設置に向けて準備が進められている。
(1)産業界専用ビームライン(ID及びBM)
産業界専用ビームライン[10]は平成9年3月に設置実行計画書の受入を決定し、平成10年3月に産業用専用ビームライン建設利用共同体(産業界13社)とJASRIとの間で設置契約が締結され、平成10年度の利用を目指して近く建設が開始される。
(2)兵庫県ビームライン(ID)
兵庫県ビームライン[11]は平成8年10月に受入を決定し、平成9年8月に兵庫県とJASRIとの間で設置契約が締結され、12月にはビームラインの設置が開始された。平成10年5月からは、コミッショニングが予定されている。
(3)レーザー電子光によるクオーク核物理ビームライン(BM)
蓄積リングの8GeV電子を利用するレーザー電子光によるクオーク核物理ビームライン計画[12]は専用施設検討委員会とは別に諮問委員会に特別に設置した専門家で構成する評価委員会(委員長:中井浩二)において計画趣意書の検討評価が行われた。その結果、平成7年12月に「見なし専用ビームライン」として計画趣意書の受入を決定した。平成10年度中には大阪大学核物理研究センターとJASRIの間で設置に係る協定を締結し、建設が開始される予定である。
参考文献
[1]SPring-8利用者情報Vol.1, No.1(1996)34
[2]SPring-8利用者情報Vol.1, No.5(1996)1
[3]植木龍夫:SPring-8利用者情報Vol.1, No.4(1996)45
[4]原見太幹:SPring-8利用者情報Vol.2, No.2(1997)36
[5]石黒武彦:SPring-8利用者情報Vol.1, No.1(1996)32
[6]SPring-8利用者情報Vol.2, No.3(1997)23
[7]SPring-8 Beamline Handbook(1997)
[8]月原冨武他:SPring-8利用者情報Vol.2, No.5(1997)28
[9]福島整他:SPring-8利用者情報Vol.2, No.6(1997)25
[10]古宮聰:SPring-8利用者情報Vol.2, No.4(1997)18
[11]松井純爾他:SPring-8利用者情報Vol.2, No.2(1997)29
[12]藤原守:SPring-8利用者情報Vol.1, No.3(1996)38