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Volume 03, No.3 Pages 16 - 19

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

理研ビームラインI(BL45XU)の現状
Present Status of Riken Beamline I BL45XU

山本 雅貴 YAMAMOTO Masaki、藤澤 哲郎 FUJISAWA Tetsuro

理化学研究所 播磨研究所 構造生物物理研究室 RIKEN Harima Institute Structual Biophysics Laboratory

Abstract
At the SPring-8, RIKEN beamline I has been designed and developed for structural biology research by the Institute of Physical and Chemical Research (RIKEN). RIKEN beamline I consists of two experimental stations, protein crystallography (PX) and small-angle X-ray scattering (SAXS). Both experiments can be carried out simultaneously. The SAXS branch uses the monochromatized undulator beam that enables us to obtain the data under various conditions. The PX branch has been designed based on a "trichromatic concept" to optimize for the MAD data collection.The construction of RIKEN beamline I had been progressed satisfactorily until June 1997. The commissioning successfully provided the branched undulator beams with a beam splitter, and the three different monochromatized undulator beams were successfully observed with the trichromator.
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1.はじめに
 理化学研究所では大型放射光施設SPring-8 を利用して構造生物学研究を推進するために2本の構造生物学研究用ビームライン(BL45XU・BL44B2)の建設を進めている。今回報告する理研ビームラインI(BL45XU)1)は、小角散乱と結晶構造解析の2つの実験ステーションでの同時利用を想定した、アンジュレータを光源とする分岐ビームラインである。
 小角散乱では、生物試料に特殊な処理を必要とせずにそのまま測定ができるという利点があり、その真価は“酵素反応や構造形成での蛋白質の姿の変化をみる”という点に集約される。小角散乱ブランチは、温度、圧力等物理的パラメーターの摂動をかけたときの溶液中での立体構造変化あるいは基質と反応させたときの構造変化より、蛋白質立体構造の構築原理や機能の発現原理の究明を目標にしている。また、小角散乱ブランチはSPring-8 唯一の小角散乱実験ステーションとして共同利用実験にも協力し、昨年10月より共同利用ユーザーの受け入れを始めている。平成10年度は全ビームタイムの約27%について共同利用実験に協力する予定である。
 構造生物学において、原子レベルでの立体構造の解明は大きなウェートを占めており、X線結晶構造解析はその重要な手段のひとつである。結晶構造解析ブランチでは、より簡便に生体高分子の未知構造を解析するために、多波長異常分散法(MAD:Multiple wavelength Anomalous Diffraction Method)2)3)に最適化した“Trichromatic Concept”と名付けた新たなビームラインデザインの開発をすすめている。


2.ビームラインの現状
 理研ビームラインIの実験ホールでの建設は、平成8年8月より開始された。放射線遮蔽ハッチの設置を手はじめとして、ビームライン要素の並べ作業、インターロックシステムの設置・調整、制御システムの構築などを経て、分光器等の光学系の最終調整と作業を進め、平成9年7月からは、蓄積電流1mAにおけるビームラインへの放射光導入作業を開始した。また、9月以降も立ち上げ作業を継続して行っている。
 理研ビームラインI(BL45XU)はFig.1に示すように光源は1.5m長のアンジュレータを2台直列(タンデムアンジュレータ)に並べて各アンジュレータを独立に制御することにより、2つの実験ステーションでの異なるエネルギーを使用した実験に対応可能である。また、2台のアンジュレータはダイヤモンド結晶を使用した水平分岐に対応して、垂直偏光仕様である。タンデムアンジュレータからの放射光は、小角散乱用の透過型2結晶ダイヤモンド分光器をビームスプリッターとして使用することにより、水平方向に分岐して分光成分を小角散乱ブランチに、透過成分を結晶構造解析ブランチに導く。 




Fig.1 Bird's eye view of RIKEN beamline I for structural biology.


3.小角散乱実験ステーションの現状
 小角散乱ブランチは、ブラッグ配置のダイヤモンド(111)面を透過型の分光結晶として用い、KB配置の2枚の湾曲平板ミラーにより実験ハッチ内に集光して実験に使用する。ミラーはRh蒸着したSiO2ミラーで4mradの反射角で垂直方向2.3:1、水平方向2.5:1の縮小率で集光する。また、小角散乱実験では頻繁に光学素子、モノクロメーター、ミラー、スリットの調整を必要とするため、輸送チャンネル内に3個所PIN photo-diodeを用いた強度モニターを設置しており、Labviewをベースとしたプログラムにより調整可能である。
 第12サイクルの時点で、波長は1.0Å固定で運転しており、焦点位置でのビームサイズは0.6mm×0.3mm、フラックスは5×1010 photons/sec程度である。
 実験ハッチ内では試料位置は固定としカメラ長の変更は検出器架台(1.2m×2m)を移動させ真空パスを付け替えることによりおこなう。現在、カメラ長は2m、1.5m、0.9m、0.5mに可変であり、最終的に10mカメラにしたときの小角分解能は500nmになる。
 検出器には、最終的にMSGC(Micro Strip Gas Chamber)を想定してR&Dを進めており、初期段階として、X線イメージインテンシファイアーと高速冷却CCDカメラを組み合わせて使用している4)。CCDカメラを、高速モードで使用すると最短36ミリ秒の時間フレームまで計測可能である。筋肉ファイバー、紫膜など回折像やlysozymeなど蛋白質溶液の散乱像のテストパターンを記録している。Fig.2に典型的な小角散乱プロファイルを、Fig.3に筋肉の繊維写真をしめす。



Fig.2 The small angle scattering pattern of the Lysozyme solution.



Fig.3 The fiber diffraction pattern of a muscle.

 なお、理研ビームラインIの小角散乱ブランチに関して共同利用課題を申請する場合は、事前に実験ステーション担当者(藤澤)に御相談下さい。


4.結晶構造解析ブランチの現状
 結晶構造解析ブランチは、小角散乱用モノクロメーター(ビームスプリッター)を透過したタンデムアンジュレータからの光を、ダイヤモンドトリクロメーターに導き3波長同時に分光する。トリクロメーターは、3ペアーの二結晶ダイヤモンド分光器を同軸上に配置したもので、ダイヤモンド結晶には(100)面を表面とする高純度合成ダイヤモンド5)を採用し、(400)反射を使用して7keVから15keVのエネルギー範囲を分光可能である。トリクロメーターにより分光された光は、光源から40mの地点にあるRh蒸着した円筒面湾曲ミラーにより高調波成分を除去しながら、擬似的に2次元集光して実験ハッチに導かれる。
 平成9年7月に、トリクロメーターによる3波長同時分光に成功し、初めてアンジュレータ光の3波長同時使用の可能性を切り拓いた。トリクロメーターの初期立ち上げ作業には、厚さ1mmのダイヤモンド結晶を、現在は0.3mm厚のダイヤモンド結晶を用いており、10keVでの半値幅は共に4秒程度であった。Fig.4に厚さ1mmのダイヤモンド結晶のロッキングカーブを示した。9月以降、実験ハッチ内への3波長同軸出射の調整を進め、現在、3波長を自由に組み合わせて結晶からの回折像を得ることが可能である。Fig.5に試験的に3波長を同時に使用した回折像をしめす。



Fig.4 Rocking curve of (4 0 0)diamond crystal at 10keV.



Fig.5 Close up view of the first multi-spots image of protein crystal with three different wavelengths.
The sample crystal is Lysozyme.

 結晶からの回折データの収集には、実験ハッチ内に設置した5軸回折計と理学電機社製のイメージングプレート検出器RAXIS-4を組み合わせて使用する。また、回折強度測定の効率化をめざした高速2次元検出器であるMCCDXシステム6)の開発も同時に進めており、将来的にはイメージングプレートからCCD検出器に置き換える予定である。
 付帯装置には、試料の劣化を抑えるための低温吹き付け冷却装置、蛍光測定による吸収端測定用のシンチレーションカウンターが使用可能である。Fig.6に蛋白質結晶から得られた蛍光XANESスペクトルを示した。



Fig.6 The fluorcent spectrum of a protein crystal,which included Zn-atom.


5.終わりに
 現在、理研ビームラインI(BL45XU)は、ダイヤモンド結晶によりアンジュレータビームラインにおいて、はじめてビーム分岐が可能になった段階であり、両ブランチ相互影響による光強度の長時間安定性・両ブランチでの運転モードのすり合わせ等の技術的・運転上の課題が多く残されている。分岐ビームラインとしての理想形をめざして今後とも調整を進めていく予定である。

 最後に、理研ビームラインIは植木龍夫前主任研究員の指揮のもと、小角散乱ブランチは藤澤を中心に井上勝晶(理研)八木直人・岩本裕之(JASRI)猪子洋二・岡俊彦(阪大)により、また結晶構造解析ブランチでは山本を中心に熊坂崇(理研)森山英明(東京工業大学)、山下栄樹(大阪大学)により立ち上げ作業を進めている。本稿では小角散乱ブランチに関する記述は藤澤が、結晶構造解析ブランチに関する記述は山本が担当した。
 本ビームラインの設計・建設・立ち上げを進めるに当たり、大変なご援助を頂いた石川哲也・北村英男両氏はじめSPring-8・共同チームならびに御協力頂いた皆様に感謝します。




参考文献
1)M. Yamamoto et.al., Rev. Sci. Instrum. 66,1833-1835(1995)
2)Y. Amemiya et.al., Rev. Sci. Instrum. 66,2290-2295(1995)
3)J. Karle, Int. J. Quant. Chem. 7, 357-367(1980)
4)W. A. Hendrickson et.al., Proteins 4, 77-88(1988)
5)T. Uruga et.al., Rev. Sci. Instrum. 66 2254-2256.(1995)
6)T. Kumasaka et.al., SPring-8 Annual Report 1996 210-212.(1997)




山本 雅貴 YAMAMOTO Masaki
昭和38年9月5日生
理化学研究所・播磨研究所
構造生物物理研究室 (兼)放射光構造生物学研究推進グループ
〒679-5143
兵庫県佐用郡三日月町三原323-4
TEL:07915-8-2815
FAX:07915-8-2816
e-mail:yamamoto@postman.riken.go.jp
略歴:平成3年9月大阪大学大学院理学研究科修了、理学博士。同年10月より理化学研究所研究員現在に至る。日本生化学会会員、日本化学会会員、日本結晶学会会員、日本放射光学会会員。
最近の研究:新しいビームライン。
趣味:いろいろなところを散歩すること。




藤澤 哲郎 FUJISAWA Tetsuro
昭和37年2月18日生
理化学研究所・播磨研究所
構造生物物理研究室 (兼)放射光構造生物学研究推進グループ
〒679-5143
兵庫県佐用郡三日月町三原323-4
TEL:07915-8-1844
FAX:07915-8-2816
e-mail:fujisawa@spring8.or.jp
略歴:平成元年大阪大学大学院基礎工学研究科生物工学専攻博士課程修了、工学博士。同年米国エール大学博士研究員を経て、平成2年10月より理化学研究所研究員、現在に至る。平成7年度日本生化学会JB論文賞。日本生物物理学会会員、日本生化学会会員、日本農芸化学会会員、日本高圧力学会会員、放射光学会会員。
最近の研究:高圧下のX線溶液散乱、超分子蛋白質構造体の小角散乱
趣味:温泉、食べ歩き。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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