Volume 03, No.3 Pages 1 - 3
1. ハイライト/HIGHLIGHT
試行期間を終えて
Commissioning of Experimental Stations and Public Use in the Latter Half of 1997
平成9年10月からの試行期間の共同利用はこの3月をもって順調に終了した。SPring-8の状況、利用研究課題の選定とビームタイム配分、トピックスおよび今後の予定などを報告する。
1.SPring-8の状況
施設の状況については、本誌Vol.3,No.1(1998)に加速器部門部門長の熊谷氏が「蓄積リングのビーム性能」と題して平成9年10月の施設供用開始時点などでの蓄積リングの状況を報告している。特記すべきは、
・蓄積リングの蓄積電流は当面20mAであるが、Full-fill(2436バンチ)モード運転でのビーム寿命は100時間を超える。21バンチモードでの運転でも15時間位である。
・蓄積リングへの入射時間は、蓄積ビームへの「追加入射」の場合、Full-fillモードでは1分程度、21バンチモードでも20分程度である。
・蓄積リングの軌道安定性は、初期の段階での数値は±20ミクロン/週となっている。精密測定のための装置の開発と安定性の高度化が今後の課題である。
少数バンチ運転のための入射は、蓄積リング電流100mAで運転するときビーム寿命が短くなる可能性があることもあって、短縮することがのぞまれる。現在、単バンチ入射用の電子銃の準備が進められている。また、蓄積電流を100mAとする作業が5月の連休明けに開始される予定である。
2.試行期間(1997B、平成9年度下半期)利用研究課題の選定、ビームタイム配分と共同利用の成果について
10月からの試行期間の利用研究課題の公募、審査およびビームタイムの配分については、SPring-8 利用者情報Vol.1,No.4(公募、1996)、Vol.2,No.3(課題の審査結果、1997)、Vol.2,No.6(ビームタイム配分、1997)にJASRI 利用業務部によって報告が行われている。詳細は利用者情報を参照されたい。
ここでは、配分されたビームタイム(実行されたビームタイムではない)について、ビームライン毎の課題数、平均シフト数などを表1にまとめる。試行期間中で、ビームライン(実験ステーション)立ち上げの段階であることから、立ち上げグループにかなり集中的にビームタイムの配分を行っているビームラインが多い。したがって、平均シフト数などは試行期間での参考的なデータであると考えていただきたい。本稿ではふれないが、平成10年度上半期(1998A)のデータが今後のビームタイム配分の問題を提起しているものと考えられる。
表1 試行期間(1997.10~1998.03)中のビームタイム配分
試行期間での蓄積リングの運転はFull-fillモードで始められたが、11月から12月にかけては21バンチモードでの運転が行われた。
試行期間中の利用研究の成果は、1月の日本放射光学会・放射光科学合同シンポジウム(兵庫県、播磨)の特別セッション、3月の日本物理学会(千葉県、船橋)でのSPring-8シンポジウムでまとめて報告されている。その他、いくつかの新聞紙上をにぎわしたことも記憶に新しい。
3.1998A (平成10年度上半期)の共同利用
試行期間を受けて、平成10年上半期の共同利用の利用研究課題の公募が行われた(利用者情報、Vol.2,No.6(1997))。審査結果の詳細などについては、利用者情報・本号に掲載されることとなっている。
ここで、SPring-8 での共同利用の考え方を簡単に説明しておこう。他の放射光施設で共同利用を行ってきた研究者にとって、課題の申請が6ヶ月毎であり、その有効期間が継続の申請をしない限り6ヶ月であることなどについては、慣れるまでに若干時間が必要であると感じている。このSPring-8での共同利用のやりかたは、
・申請課題に対して6ヶ月の期間中にビームタイムが配分され、装置の故障などの場合を除いて、実験が確実に実行されること。
・研究課題を古くしないために、6ヶ月の間に課題についての実験が遂行され、研究課題を終了、場合によっては完成させることを目標とする。
したがって、採択する課題数を限定して配分シフト数を多くしたい。
・継続課題が多くなると新規課題の採択が減少するなど影響を受けるので、自動的な継続は行われない。
この方式の弱点は、
・課題申請が、その実験期間の間に締め切りとなるので、継続申請が必要になる場合には期間の前半に行われた課題のみが実験を参考にして申請が可能である。
・応募課題数の多いビームライン/実験ステーションでは、当然ではあるが、ビームライン/実験ステーションの増設が必要である。
といったことである。
平成10年度上半期までの採択された課題の割合はかなり高いのが現状である。表2に示すようにESRFの採択率(平均43%)はかなり厳しい選択が行われていることを示している。このような「6ヶ月」で課題を仕上げるためには、準備/予備実験に万全を期してSPring-8での実験に臨まれるようにお願いしたい。
表2 ESRFでの1997年後半の課題採択とシフト数
なお、1998Aの共同利用は、公募の時点では、平成10年4月から9月までとした。しかしながら、年度で区分する供用期間の設定ではその中間に「夏期および冬期シャットダウン」がはさまることになり共同利用期間の継続上あまりよいことではない。したがって、この共同利用期間はシャットダウン間に移動させることとし、1998Aは移行段階として4月から10月末までとした。
3月のSPring-8 シンポジウムでのユーザーからの希望として、ビームタイム配分時期について最終決定までの間に各ユーザーに相談してほしいとの意見があった。しかしながら、上記のように、「6ヶ月」方式を円滑に運用するためには、ユーザーの意見を採り入れるのにかなりの時間が必要である。JASRIとしては、利用研究課題申請時に、所要シフト数の欄に「特記事項」として実験希望時期もしくは不都合な時期を記入していただくことで、みなさんの要望をできるだけ取り入れることとしたい。
4.今後の予定
平成10年度下半期のSPring-8の共同利用は、移行期間のため、平成11年上半期(1999A)と同じであり、11月に始められ「冬期シャットダウン」を挟んで来年7月の「夏期シャットダウン」前までとする予定である。利用研究課題の公募は、SPring-8利用者情報、学会誌およびWWWなどに掲載されることとなるが、募集開始が6月上旬、募集締め切りが7月中旬といったスケジュールで検討が進められている。4月および5月の利用研究課題選定委員会で決められる予定である。8月と9月を通して選定作業が想定されているが、夏期の国際学会およびお盆の休暇期間が選定スケジュールを若干窮屈にしているようである。課題選定の結果は9月末までに申請者に通知され、11月からの共同利用のための手続きが始められる。
共用ビームラインの建設は、平成10年度予算の中で、
・高フラックスビームライン(日本語では「高輝度」とされた)
アンジュレータを光源とし、高光子数ビームを利用した時間分割実験
・高エネルギー分解能ビームライン
アンジュレータを光源とし、高エネルギー分解能を必要とする実験
・医学利用挿入光源ビームライン
アンジュレータもしくはウィグラーを光源とするビームラインで、その利用計画とビームラインの詳細は「SPring-8医学利用検討準備委員会」(仮称)でその詳細を検討中
の3本が進められることとなっている。加えて、予算成立後新聞紙上をにぎわしている平成10年度補正予算で、何本かの偏向電磁石を光源とするビームラインが建設されるかもしれない。詳細はこのSPring-8利用者情報が印刷される頃には決まっていると良いのですが…。
といったように、平成10年度も、JASRIを中心とする利用系の研究者および技術者は引き続いて共用ビームラインの建設と専用ビームラインの建設協力で忙しい年度となりそうな気配を感じている。
植木 龍夫 UEKI Tatzuo
(Vol.1,No.4,P30)