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Volume 03, No.2 Page 55

7. ユーザー便り/A LETTER FROM SPring-8 USERS

ユーザーの声
A Letter from a SPring-8 User

小澤 芳樹 OZAWA Yoshiki

姫路工業大学 理学部 Faculty of Science, Himeji Institute of Technology

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  「西播磨の山中にUFO基地を見た」私がはじめてこの科学公園都市を訪れたのは今から6年ほど前のある秋の夕暮れ時でした。もちろんそのときは、 SPring-8のかげも形もなく(テクノ中央から先の道路さえもなかった!)国道2号線から細い道に入り、十数キロ走ってトンネルを抜けると、山の中にだだっ広い道路と煌々と光るナトリウムランプの街路灯の列があらわれ、その向こうにライトアップされた姫路工大の校舎が見えただけでした。今やその先には巨大なドーナッツSPring-8が出現し、人工衛星からながめればほんとうにそれらしく見えることでしょう。

 さてそのドーナッツの中のBL02B1(結晶構造解析)共用ビームラインで、ユーザーグループの一員として、実験ステーションの立ち上げに参加してきました。私自身はこれまでフォトンファクトリ-(PF)どころか放射光実験施設を利用したことがなく、いわばしろうとが始めから実験ハッチが構築されていくところを体験させていただけたのは非常に勉強になりました。供用開始前のBL02B1の実験ステーションの立ち上げに関しては、Vol.2, No.5に千葉大学の野田先生が詳しく報告をされています。私が関わっているのは、このビームラインに相乗りしている4つのサブグループのうちの化学反応SGです。このSGは、比較的小さな分子の単結晶構造解析の研究者が集まっており、その多くが放射光の利用経験がほとんどありません。小分子の単結晶構造解析は、市販されている回折計で半ばルーチン化されたものが多いのですが、我々はさらに結晶構造をより早く、より正確に、より小さな試料でおこないたい、さらに結晶内分子のダイナミックな動きや化学反応の様子をとらえたいという目標を掲げています。そのためには高輝度で高いエネルギーのX線が必要で、SPring-8の光は魅力的です。我々が実験ステーションで使用している「真空カメラ」は従来の実験室系では困難である10ミクロン程度の単結晶のX線回折実験を簡単に行えるようにするために、結晶を真空容器の中にいれイメージングプレートを容器の内壁に装着することにより、入射および散乱X線の空気散乱を最小限に押さえていることが特長です。11月の実験では、この低バックグラウンドを生かして、一次元金属錯体化合物の単結晶からの非常に弱い散漫散乱を初めて観測することができました。「新しい放射光実験施設の立ち上がりはじめはビームが出るだけで精一杯でとてもデータを取るどころではない」といううわさを聞かされていましたが、10月の供用開始時からビームは安定にでていて、朝晩2回の入射もスムーズで、装置の調整や基本データの収集だけでなく、ついつい実験データをきちんと取ってみたいという欲が出てしまいます。

 平成9年中のビームタイムの実験結果で「第三世代の放射光施設でどんな小さな結晶も強いX線であっという間に構造解析」というような宣伝をしようかと思っていましたが、今のところの正直な感想は「四軸回折計より測定がめんどくさいし時間がかかる。それに思ったよりX線が強くない...」(ばちあたりめが!)なるほど取り出されたビームは 10mm以上の大きさがあり、数十ミクロンの結晶に当てるのは大河の中に立てた竹竿のようなもので、大部分は回折を起こすことなく流れ去り無駄になっているようです。また50keV以上の高エネルギーになると、上流のBe窓や空気による散乱X線がアルミやステンレスの板を簡単に通過して、真空カメラ内のIPを感光させてしまう。経験者の方から見ればたいしたことがなくても、これまで放射光実験施設を利用したことのない者にとっては、初めて経験することがたくさんありました。

 もう少し集光できたら宣伝文句が実現すると思うのですが、モノクロメーターの調整、まだ入れていないミラーによる集光と平成10年度に予定されている100mAでの運転に期待するところです。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794