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Volume 03, No.2 Pages 21 - 24

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

高圧構造物性BL10XU実験ステーションの現状
Current Status of Extremely Dense State BL10XU Experimental Station

石井 真史 ISHII Masashi

(財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門 JASRI Experimental Facilities Divison

Abstract
The outline and the current situation of Extremely Dense State Beamline (BL10XU) which has the high pressure station and the high brilliance XAFS station are reported. After the commissioning on September 1997, a pre-edge peak of K2MoO4 is successfully observed in the Mo K-edge absorption spectrum, indicating the sufficient energy resolution of the monochromatized synchrotron radiation beam at BL10XU. In the high pressure station, perspicuous diffraction patterns under the ultra-high pressure are obtained. New high brilliance XAFS system using the undulator gap control synchronized with the monochromator scanning is described.
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1.はじめに
 BL10XUは「高圧構造物性」というビームライン名からは察することは難しいが、現在ビームラインに高輝度XAFSと極限構造物性の二つのサブグループ(SG)が参加し、最上流の光学ハッチの後ろに各SGによる二つの実験ステーションが直列につながっている。光源には真空封止型の標準アンジュレータを使い、光学ハッチ内にSPring-8標準の分光器を備えて、約5keV以上のエネルギーを得ることが出来るように設計されている。光学系はシンプルであるが、各ステーションでの実験に必要な放射光の最大公約数を取っているという事が出来る。すなわち各ステーション毎に適当な光学素子を加え、一つのビームラインを完成させるような形態をとる。高輝度XAFSステーションを利用する場合には、分光器の後に長さ40cmのダブルミラーを挿入し高次光をカットする。また、20keV以上の比較的高エネルギーの光を用いる極限構造物性ステーションを利用する場合には、ダブルミラーを通さず、実験ハッチ内に設置予定のブラックフレネルレンズ(BFL)により数μmに集光した光を用いる。
 本ビームラインは、昨年ハッチ建設・輸送チャンネル機器の設置・FE立ち上げなどを急ピッチで進め、1997年10月のSPring-8供用開始時にとりあえず最低限の実験を行えるところまで進めたまだ若いビームラインである。従って、部分的に供用開始に漕ぎ着けたとはいえ、今後の課題が山積している。本稿ではこのような状況を含めて本ビームラインの概要を述べることで、単なるビームライン担当者から利用者への情報提供にとどまらず、改善に関する意見交換や、それに基づき建設参加がより活発になる一つの機会になればと考えている。尚、BL10XUの本文概要については極限構造物性SGの浜谷氏による報告(本誌Vol.1,No.3,P22-34)も参照いただきたい。    
 
  
 
Fig. 1 Transmission and optical components layout in the optical hatch of BL10XU. 
 
2.立ち上げの概要
 本ビームラインは、1997年9月の試験調整運転で分光器を通した光を初めて実験ハッチに導入し、その直後に供用開始となった。10月以降は大きく分けて、分光器及びダブルミラーの調整・評価、極限構造物性SGの調整実験、高輝度XAFS-SGの組立調整の三つがタイムシェアリングで進んでいる。
  Fig. 1は光学ハッチ内のコンポーネントの配置を示す。今回の立ち上げ対象となった二結晶分光器とダブルミラーは、光源からそれぞれ37.6mと45.7m の位置に設置した。現在、分光器の結晶はSi(111)を使用している。第一結晶はピンポスト加工による直接冷却結晶、第二結晶は間接冷却の結晶を使用している。ダブルミラーはエネルギーに応じて、Fig. 2に概念的に示すように(a)挿入と(b)非挿入を簡単に選択できる。他のビームラインで高次光カット用に使用している一枚ではねるミラーと異なり、ダブルミラーにすることで分光器後の1430mmの光軸高さから4mm下がった1426mmで定位置出射するように設計されている。
 実験ハッチについては後ろ側のハッチに、極限構造物性SGの超高圧低温X線解析用粉末回折装置を設置してある。この装置は光学ハッチの建設と並行して導入が進められ、現在ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた超高圧下での構造物性の研究のための試行運用が高輝度XAFSに先行して始まっている。また、前側のハッチでは高輝度XAFS-SG のゴニオメータも12月に設置され、供用に向けた組立・調整が進んでいる。
 以下に順を追って、その立ち上げ状況の詳細を説明する。   
 
 
 
 
Fig. 2 Schematic arrangements of double mirror in (a) the low energy region and (b) the high energy region.
 
(1)分光器
 BL10XUではSPring-8アンジュレータBL用二結晶分光器が1997年7月末に光学ハッチ内に設置された。 8月末には分光器の鉛遮蔽が終了し、9月のオフライン軸調整直後に実際に光を通す試験調整運転に入った。Fig. 3に第一結晶のロッキングカーブの半値幅のエネルギー依存性の測定結果を示す。破線は、第二結晶の回折プロファイルにガウス型関数を仮定し、Darwin幅
     Wh =(e2/mc2)(2λ2/vπsin2θB)|Fh
とのコンボリューションから得られる、理想的な二結晶の半値幅の計算値を表す。ここで、(e2/mc2)は古典電子半径、λは反射X線の波長、vは結晶単位胞の体積、θBはブラッグ角、Fhは結晶構造因子である。実験結果は計算値の傾向を再現するものの、その値は1.5から2倍程度である。これは、ピンポスト加工した第一結晶の不完全性に起因すると考えられる。結晶の改善は、SPring-8の分光器(結晶)グループが進めており、今後ユーザータイムを見ながら協力してビームの質の改善に努力する必要がある。
 このような特性の分光器を用いて、K2MoO4粉末の吸収スペクトルの測定を行った結果をFig. 4に示す。この測定では、後述のダブルミラーは挿入していない。図から分かるように、明確なプリエッジスペクトルが観測されている。この系については XAFS BL01B1実験ステーションでの測定結果(本誌Vol.3, No1, P20)がある。それとの比較から、エネルギー分解能は先行のビームラインで得られているものと遜色がないと言える。
 また本題からは若干それるが、Fig. 4のスペクトルはアンジュレータの二次のピークを用いている。偶数次のピークはあまり使われることがないが、奇数次のピークに比べスペクトル幅が広く比較的強度もあるため、アンジュレータのギャップを変化させることなく良好なスペクトルを取ることが出来る。高輝度XAFSステーションでは、アンジュレータのギャップコントロールと分光器の波長の変化を同期させて、強い光で希薄な系のXAFSを取ることを狙っている。この方法に比べ偶数次のXAFSは、ユーザーによって希薄系の極限を求めない場合には簡便な手法となることが期待される。   
 

  
 
Fig. 3 The energy dependence of FWHM of the monochromator 1st crystal rocking curve. The dashed line indicates the theoretical calculation in the case of the ideal crystal. 
 
 
 
Fig. 4 The absorption edge spectrum of K2MoO4.The pre-edge peak is clearly observed. 
 
(2)ダブルミラー
 高次光の除去を目的としたダブルミラーは、ロジウム(Rh)コートの40cmの二つのミラーが一つのキャビネットの中に、上流から鉛直はね下げはね上げの順で並んでいる。ミラーの間隙は2mmである。入射角は二枚のミラーを固定したキャビネット全体を回転させることによって調整する。高エネルギーの光を利用するときのようにミラーを使用しない場合には、キャビネットを水平にすることでFig. 2に示したようにミラーを水平にし、2mmの隙間に放射光を通すことになる。1997年6月末にミラーを納める真空チェンバーを設置し、9月にオフラインでのミラーのアライメントを終了した。分光器調整と極限構造物性の供用期間中はミラーを挿入せずに作業を進め、放射光を使ったミラーの調整は1997年後期第11サイクルから始めている。
 Fig. 5は10.03keVにおける各入射角でのダブルミラーの反射率を示す。破線は理想的なダブルミラーの反射率の計算値を示す。実際には、Rtコートしたミラー表面に凹凸が生じるために反射率は下がってくる。表面粗さに起因する反射率の減少をデバイワーラー因子で近似すると、反射率は実線で示すようになると考えられる。二つのミラーの凹凸の見積もりは干渉計にて行った0.46nmと0.47nm(それぞれ rms)を用いている。図中にプロットした実験結果は、凹凸を考慮に入れた反射率と低角側で比較的良い一致を示すものの、高角側で計算値からはずれる傾向がある。実際の反射率は、理想的な場合(破線)を低角側にシフトさせたようにも見え、完全に特性を説明するためには取り付け精度なども考慮する必要があるようにも思われる。また、アルミフィルターを透過してきた高次光がミラーを挿入することによって減衰することも、定性的な議論の段階であるが確認している。  
 
 
 
 
Fig. 5 The angle dependence of the double mirror reflectance. 
 
(3)極限構造物性実験ステーション
 極限構造物性実験ステーションには、粉末X線回折装置を設置してある。DACで加圧した試料に放射光を集光させ、試料からの回折パターンを自動読み取り装置の付いたイメージングプレート(RAxis4)によって高速データ処理できるシステムとなっている。集光にはBFLを予定しているが、現時点ではコリメータによって切り出された放射光を使用している。4象限スリット、シャッター、アッテネータ、I0モニター、コリメータ、DAC、顕微分光圧力測定装置、IPおよびIP読み取り装置が一本のフラットベッドアーム上に並んでおり、波長に合わせて全体がBFLゴニオメータの回転軸を中心にして2 θ移動できるようになっている。1997年の夏におおまかな設置が終わり、供用開始以後は各機器の光軸調整をおこない、既に高圧下での構造解析が順調に始まっている。Fig. 6は、姫路工業大学の川村、赤浜両氏による、本実験装置によって得られた 2.46GPaの高圧下でのCCl4の回折パターン例である。このように第一段階で良好な実験結果が得られており、BFLによる集光実験やクライオスタットによる低温実験など次の段階への展開を始めている。  
 
  
 
Fig. 6 The diffraction pattern of CCl4 under ultra-high pressure. 
 
(4)高輝度XAFS実験ステーション
 このステーションでは、アンジュレータ光を使ったXAFSを用いて極めて希薄な系を測定することを目的としている。(1)分光器の所でも触れたように、強度の強い奇数次の光は準単色光であり、そのエネルギー幅は通常のEXAFSに必要な約1keVの範囲に比べて狭い。このことは、EXAFSをこの極めて強い光を用いて測定する場合はアンジュレータのギャップコントロールにより中心波長を変化させ、さらにその波長に同期させて分光器を動かす必要があることを意味している。ユーザーPCによりXAFSデータの収集とこの制御を一緒に行う予定である。ギャップコントロールについては、ユーザーにコマンドが正式にはまだ公開されていないが、近い将来の使用許可を睨んでプログラムの作成を進めている段階である。更に一原子層よりはるかに少ないレベルの表面元素等の観測を可能にするため、超高効率半導体検出器が導入される予定である。この半導体検出器は5mm×5mmの純Geを100素子、モノリシック方式で集積する。これは現在作製途中であるが1998年 5月の設置を目指している。またクライオスタット試料台はEXAFSの偏光依存性をとれるように精度の良いゴニオメータの上に設置してあり、その動作チェックが進められている。以上のように、各部に新たな試みが盛り込まれており、今後の立ち上げが期待される。
 
3.今後の課題
 現段階では、BL10XUについてはようやく光が出た段階であり、課題の方が成果よりもはるかに多い。最上流の光学ハッチ関連では、ダブルミラーの立ち上げ・評価実験、ハッチを出てくる光を総合的に見た上での評価が必要になるであろう。極限構造物性ハッチについては、BFLの立ち上げと集光特性の評価、低温高圧実験のためのクライオスタットの導入が当面の大きな課題である。高輝度XAFS実験ステーションについては制御プログラムの問題、100素子の検出器の立ち上げなど、XAFSを一解析手段にとどまらせないための試みが続く。
 最後に、BL10XUの立ち上げに関しては、多くの方々に協力いただいている。紙面の都合で全員を書くことは出来ないが、共同チームの後藤、宇留賀、片山、大石、鈴谷各氏と各部担当の共同チームのグループ諸氏、浜谷(お茶の水女子大)、大柳(電総研)の各世話人の先生方と建設グループのメンバーの皆さんには、この場をお借りして感謝の意を表したい。  
 

石井 真史 ISHII Masashi
(財)高輝度光科学研究センター
放射光研究所 利用促進部門
〒678-1298
兵庫県赤穂郡上郡町 SPring-8 リング棟
TEL:07915-8-0918(PHS 3856)
FAX:07915-8-0830
e-mail: ishiim@spring8.or.jp
略歴:1995年大阪大学基礎工学研究科博士課程(電気工学)修了、同年理化学研究所大型放射光施設計画推進本部、1997年(財)高輝度光科学研究センター。工学博士。応用物理学会、日本化学プログラム交換機構 会員。最近の研究:固体表面の化学、半導体中の希土類ドーパントの挙動、多層膜物理。



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794