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Volume 03, No.2 Pages 11 - 12

2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

実験ホール内輸送チャンネルの建設状況(その7)
Present Status of the Transport Channel (No.7)

石川 哲也 ISHIKAWA Tetsuya

日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 利用系グループ JAERI-RIKEN SPring-8 Project Team Experimental Group

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1.はじめに

 平成9年10月に、10本のビームラインで供用運転が開始され、全国の研究者による共同利用が始まったが、ビームライン建設作業は引き続き進行中であり、また新たなビームライン建設計画への対応も始まっている。第I期共用ビームラインの内で、夏期シャットダウン時に若干のトラブルのために最終設置ができなかった25SU及び27SUの挿入光源は冬のシャットダウン時に設置された。25SUでは、ビームライン本体は既に完成しているので、シャットダウン明けからビームを導入して本格的な調整作業が開始される。27SUでは年度内に光CVDブランチを完成させ、放射光導入試験を開始すべくさまざまな準備が進められている。27SUのもう一方のブランチに設置される高分解能軟X線分光器も、平成9年夏から秋にかけて契約作業が行われ、できるだけ早期の完成を目指して準備が進められている。

 理研・原研ビームラインも12月にBL14B1(原研偏向電磁石BL)の試験調整運転が開始され、冬のシャットダウン明けにはBL23SU(原研アンジュレータビームライン)、BL44B2(理研偏向電磁石BL)でも試験調整運転が開始される。また、BL11XU(原研アンジュレータBL)の設置作業も行われる。

 一方で、専用施設ビームラインの先陣を切って兵庫県ビームラインの建設作業がBL24INで行われている。23SU、24XU、25SU、27SUで作業が進行しているため、蓄積リング棟正面のA中央入り口の反対側にあるCゾーンが賑やかになってきている。


2.冬期シャットダウン中の作業

 実験ホール内輸送チャンネルでの冬期シャットダウン中の作業としては、既に供用運転が行われているビームラインで保守点検作業や消耗部品交換作業が行われた他、25SUでの光学系調整作業、24XU及び27SUでの放射線シールド設置作業、44B2及び46XUでの輸送チャンネル設置作業が進行している。これらについては本誌上でさらに詳細な報告が担当者からなされる予定である。


3.新しいビームライン

 まだ実験ホール内作業は開始されていないが、契約作業が進められているビームラインとして、BL11XU(原研ビームライン)、BL16XU/BL16B2(産業界専用施設ビームライン)、BL20B2(中尺共用偏向電磁石ビームライン)、BL29XU(理研ビームライン)、BL44XU(大阪大学蛋白研専用施設ビームライン)の6本がある。一方で来年度予算の政府原案に載っている共用ビームラインとして、高フラックスビームライン、高エネルギー分解能ビームライン、中尺挿入光源ビームラインの3本があり、専用施設としての無機材研ビームライン(BL15XUを予定)も予算政府原案に載っている。来年度から建設を始める3本の共用ビームラインに関してはまだ設置場所は確定していない。

 原研・理研ビームライン及び専用施設ビームラインに関しては一部に関して本誌上で報告されており、そうでないものもいずれ担当グループからの報告がなされるので、ここでは共用ビームライン(BL20B2)の作業状況を報告する。

 BL20B2は、医学利用実験棟に入る中尺偏向電磁石ビームラインであり、平成9年度~10年度の予算で建設が進められている。実験ホール内に、光学ハッチ及び実験ハッチを持ち、シールドダクトで医学棟に放射光ビームが導入された後、2つの実験ハッチに医学イメージングR&D及び単色X線トポグラフィー用の実験ステーションが建設される予定である。既にフロントエンドから実験ステーション機器までの契約作業を終了し、今年の夏期シャットダウン中に据付調整作業を完了させ、秋から試験調整運転を開始する予定である。

 このビームラインでは、輸送チャンネルが蓄積リング棟から出て、屋外を通って医学利用棟に導入され、しかも硬X線が通るため放射線遮蔽上の問題が生じた。今まで蓄積リング内の硬X線輸送チャンネルは、すべて光学ハッチ及び実験ハッチによって覆われた構造としてきたが、200mの輸送チャンネルの全部(しかも途中に散乱体の存在しない)を従来と同じ構造で作ることは、いかにも過剰仕様である。したがって、輸送チャンネルダクトを鉛巻きとし、その表面で一般区域の放射線レベルとなるように鉛の厚さを採ること、及び棟外部に関してはフェンスおよび覆いによって一般者が近づけない構造とすることでハッチによる覆いを回避することとした。また、大排気容量真空ポンプを蓄積リング棟内の出口付近と、医学利用棟内の入口付近に配置することで、屋外に真空排気装置を置くことをやめている。詳細に関しては別途本誌上で報告される予定である。


4.おわりに

 SPring-8ビームラインは、全部で61本の建設が可能であるが、既に1/3以上が既設あるいは計画中となった。これらの多くは汎用的なビームラインであるが、今後第3世代放射光とは何かをより真剣に考えたビームライン計画を進める時期が来たように感じている。



石川 哲也 ISHIKAWA Tetsuya

昭和29年1月12日生

理化学研究所 マイクロ波物理研究室

〒351-0198 埼玉県和光市広沢2-1

TEL:048-467-9327

FAX:048-462-4652

昭和57年東京大学大学院工学研究科博士課程(物理工学専攻)修了、同年日本学術振興会奨励研究員、58年文部省高エネルギー物理学研究所放射光実験施設測定器研究系助手、64年東京大学工学部物理工学科助教授、平成5年理化学研究所客員主任研究員、6年東京大学工学部付属総合試験所助教授、7年理化学研究所マイクロ波物理研究室主任研究員、工学博士。日本物理学会、日本結晶学会、日本放射光学会会員。最近の研究、放射光のための高性能X線光学系の開発。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794