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Volume 03, No.1 Pages 27 - 29

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

Highlights in X-ray SR Research報告 −全般、材料科学分野1−
Report on the Highlights in X-ray SR Research – General, Material Science1-

佐々木 貞吉 SASAKI Teikichi

日本原子力研究所 大型放射光開発利用研究部 JAERI Dept. of Synchrotron Radiation Facility Project

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1.概要
 シンクロトロン放射光の発見50年を機に、SR50が、ESRFの主催、ヨーロッパシンクロトロン学会などとの共催で1997年11月17日~20日、フランス・グルノーブル市において開催された。会議の趣旨は、50年間の実績を踏まえて利用が開始された第3世代放射光により、磁性、高圧、イメージング、soft-condensed matterなどの分野で、どのような放射光科学が展開され、計画されているかを討論しようというものであった。参加者は、ヨーロッパを中心に330名、日本から約10名であった。本会議は、招待講演53件(日本人1件)、ポスター発表137件(夕方以降)で構成され、11月19~20日には本会議に並行して「構造生物シンポジウム」も行われた。前後して、X散乱と磁性(11/15~16)、ID19によるイメージングと高分解能X線回折(11/22)、高圧下の結晶構造(11/22~23)などのワークショップも開催された。地元開催、供用開始4年目ということもあり、ESRFからの発表が目立った。

2.基調講演
 本会議の基調講演トップは、Prof.Batterman(コーネル大) による「A 50 Year Tour Through Synchrotron Radiation」であった(MO-A1)。この中で、SRは1947年、GE社の70MeVシンクロトロンにより世界で最初に観測されたものであることが紹介された。1940年代初頭よりベータトロン内で電子が制動輻射によりエネルギーを失うことは知られていたが、配管が金属製であったため、1947年のガラス製パイプを用いたElder等の実験まで確認出来なかった。制動輻射が確認されて間もない1948年、Schwingerが放射光スペクトル理論を発表している。これが、今日においても放射光スペクトルはもちろん、絶対強度、角度分布などで極めて有用であることはよく知られるところである。1952年、Tomboulian等はSRビームラインを建設して、気体、金属、合金等のX線吸収スペクトルを発表し、これらの成果が1970年以降世界各地で始まるストレージリング建設につながることを紹介した。
 2番目の基調講演者Dr.Filhol( ESRF) は、「Performance of the 3rd Generation Synchrotoron Radiation」において、稼働中の5施設(ESRF、APS、SPring-8、ALS、ELETTRA)の他、2002年までに稼働が予定される6施設の第3世代放射光施設について、それぞれの特徴を紹介した(MO-A2)。これらの施設に共通する特徴は、挿入光源による高輝度化、低エミッタンス化(数nm・rad)などの他、電子ビームの位置安定性(水平方向で数10μm以内、垂直方向で10μm以内)であることを指摘した。なお、ESRFは設計値6GeV、100mA、6.2nm・rad(水平方向)に対し、現在6GeV、200mA、4nm・radで稼働しているとのことである。

3.材料科学1(磁性、電子物性)
 磁性研究は、第3世代施設による放射光科学の重要課題の一つである。磁性を担うスピン電子は、円偏光励起の選択則に従うので、偏光X線が照射される。磁性に関連し、実験7件、理論3件の招待講演がなされた。バルク試料の他、物質表面、超薄膜など、さらにはアクチノイド化合物への応用が紹介された。X線吸収や光電子放出の磁気円二色性(MCD)、スピン分解分光、X線磁気散乱、コンプトン散乱などの手法で解析されるが、招待講演の中から注目すべきいくつかの発表を記す。
 X線による磁性研究は、中性子による磁性研究と相補的関係にあることはよく知られるところである。Blume(BNL)は3 d 金属や4 f 金属のσ ( X線)/σ(中性子)は10-4 ~10-6 であるものの、放射光の場合共鳴励起が可能であること、輝度が大きいこと、スピン磁気モーメントが決定できるなどのため、今後ますます磁気散乱研究が増える傾向にあると予測している(MO-A3)。しかし、磁気相互作用において、中性子、X線では異なる特徴を有する。ケースバイケースで適切な利用法を考えるべきである。
 3d遷移金属、4f電子系などは、軟X線領域においてそれぞれ2p→3d*、3d→4f*の強い双極子遷移を起こす。また、スピン-軌道相互作用により2p1/2と2p3/2、3d3/2と3d5/2のように分裂し、これらの内殻準位はそれぞれ6~18eV、17~50eV分離する。双方の内殻準位を個別に共鳴励起すると、磁性に関するより詳細な情報が得られる。Dr.Chen(SRRC、台湾)は、SRRCのドラゴンBL(150~1500eV)で最近観測された3d金属、MBE膜、強磁性合金、希土類化合物などの軟X 線吸収MCDの結果を発表した(MO-A4)。表面深さ方向に対する感度は、部分電子収率法(PEY)で10Å、全電子収率法(TEY)で100Å、蛍光収率法(FLY)で1000Åになること、超薄膜では垂直方向、水平方向について磁気異方性の存在が知られているが、10原子層程度でこの異方性が消失することなどを示した。また、MCDと光電子顕微鏡(PEEM)との組み合わせ、MCD・PEEM像における時分割測定などの観察例を示し、磁気ドメイン成長過程、磁化メカニズムなどを微視的レベルで理解できる可能性を紹介した。
 現在、ESRFでは28本のビームラインが共同利用に提供されている(MO-A2)。これらの内、ID12のHELIOS I(0.5~1.6 keV、3.8×1013、円偏光、ビームサイズ2.2mm×2.2mm、ドラゴンタイプモノクロ)が軟X線研究用に公開され、MCD実験で利用されている。この実験ステーションにおいてDr.Goedkoop(ESRF)等は、GdxNiy合金についてMCDのスピン分解光電子分光実験を行った(MO-A8)。通常、Gd(4f7 5d1)と3d遷移金属との合金は強磁性を示し、磁性は主にGd4f電子が担う。一方、GdxNiy合金はx、yを変化させると強磁性のみならず反強磁性をも示す。MCD測定の結果、Ni3d磁気モーメントがx、yの広い範囲で生き残っていることが示された。Ga4f→Ga5d→Ni3dの電子スピン相互作用が起こるためであろうとされた。この研究は、MCDとスピン分解光電子分光の組み合わせから、非磁性体の電子スピン状態に関し詳細な知見を与える可能性を示唆する。第3世代放射光光源を利用することで可能となる研究の典型例である。
 UPd2Al3は磁性(TN:14K、0.85μB)と超伝導性(Tc:2K)が共存する重い電子系であり、電子物性の観点から注目される。Dr.Hiess(ESRF)等は薄膜試料におけるU3d3/2, 5/2→5f*(3.5~3.7keV)の磁気散乱実験において、膜厚依存性、温度依存性などを測定し、磁性は主にU5f電子によること、磁気秩序は表面(約40L)で発生し、これが試料内部へ発達すること、薄膜のTNはバルクより5K程低いことなどを示した(FR-A1)。重い電子系U1-xNpxRu2Si2についても磁気モーメントを求めるなどの実験を行っている(MO25)。5f電子系の電子物性に対する理解が進むであろうとの印象を与える。
 Prof. Kisker(Heinrich-Heine大、独)は吸着系、MBE膜などの光電子MCD、スピン分解光電子分光を発表した(MO-A5)。この中で、酸化物GMR系として知られるLa0.7Sr0.3MnO3(1900Å)/SrTiO3のEF近傍がマジョリティスピンのみから成り立つhalfmetalであること、Cu薄膜についての3p-XPSに有限のMCDが観測されるなどの、最近発見された電子物性分野のトピックスを紹介した。La0.7Sr0.3MnO3は、磁性体のhalf-metalとしては最初のケースとなる。また、閉殻構造であるためMCDが期待できないCuにスピン偏極が観測されたことは、MCD異常が新しい現象の発見につながる可能性を示す。
 磁性以外の電子物性に関する発表では、Prof.Sawatzky(Groningen大、オランダ)がhigh Tc、GMR系、近藤電子系などで見られる磁気秩序とともに軌道整列の重要性をGoodenough系酸化物(CrO2など)を例に結晶場理論で説明した(MO-A6)。orbitronの概念を導入することで電子物性異常をかなりよく理解できることを示した。Dr.Brookes(ESRF)等はESRF ID12で行った軟X線発光のMCD測定において、多層膜、合金など二次元物質のEF近傍についても、スピン分解できることを明らかにした(MO24)。
 アクチノイドサイエンスを進めるための専用ビームライン(BM光源、3~35keV、Be窓付き)建設がESRFにおいて進められている(TU37)。ドイツのForschungszentrum Rossendolfが建設を進めているもので、通称ROBLと呼ばれ、1998年9月の利用開始を目指している。実験ステーションには、185MBqまでの非密封RIを利用できるグローブボックスを設置し、XAS、蛍光X線分析などの実験を予定しているとのことであった。超ウランを含む非密封RIを扱うことになるため、電気系、排気系などを二重系統化し、これらを自動切換できるように工夫していた。 
 
佐々木 貞吉 SASAKI Teikichi A.



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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