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Volume 03, No.1 Pages 2 - 9

1. ハイライト/HIGHLIGHT

新春座談会「播磨科学公園都市の近未来」
A New Year Meeting : “Near Future in the Harima Science Garden City”

藤田 俊彦 FUJITA Toshihiko[1]、坂井 信彦 SAKAI Nobuhiko[2]、千川 純一 CHIKAWA Jun-ichi[3]、上坪 宏道 KAMITSUBO Hiromichi[4]、野田 伸雄 NODA Nobuo[5]

[1]兵庫県企業庁播磨科学公園都市建設局長 Hyogo Prefectural Public Enterprises Agency Harima Science Garden City Construction Bureau, Director、[2]姫路工業大学高度産業科学技術研究所長 Laboratory of Advanced Science and Technology for Industry, Himeji Institute of Technology, Head、[3]先端科学技術支援センター所長 Center for Advanced Science and Technology, Head、[4](財)高輝度光科学研究センター理事 JASRI, Director、[5]住友電気工業株式会社播磨研究所長 Harima R&D Laboratories, Sumitomo Electric Industries, Ltd., Head

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司会: あけましておめでとうございます。新年ということで、まず皆様のご紹介をかねて、今年のポイントとなる出来事や、最も力を入れていこうとされているテーマなどについてお話いただきたいと思います。



左から、藤田俊彦、千川純一、上坪宏道、坂井信彦、野田伸雄の各氏

 最初に兵庫県企業庁播磨科学公園都市建設局の藤田局長よりお願いします。昨年の「まち開き」が終わり、今年は「新しいまち作りを進める元年」になると思うのですが、今年の一番のポイントはどういうところでしょうか?



藤田: 「まち開きイベント」が終わって、一般の方々の中にはこの都市の建設等開発は終わりだ、というような認識をされている方もおられるようですが、司会者が言われたように、まち作りはこれからです。これまで、「まち開き」のため色々なことを焦って行ってきましたが、周辺の町との不調和が生じ、この是正に力を入れていく必要があると考えています。現在概成しているのは全体計画の約半分、1000ヘクタール程ですが、今後はこの1工区の残工事と、更に2、3工区の整備を進めてゆきます。ただ、急いで次々に開発を行うのではなく、とりまく状況を見ながら、「進度調整」といいますが、現在少しセーブしている状況です。
 この「まち」は、赤穂郡上郡町、揖保郡新宮町、佐用郡三日月町の3郡3町にまたがっていますが、今まで3郡交流の障害となっていた山の中を開発しこのまちができたため、それが容易になってきました。ただ、その状況に慣れていないということもあり、具体的に生かされるのはこれからだと思います。今年は、この新都市内のSPring-8を始めとする各施設が新住民と一体となり、また、3町が手を取り合ってさらに発展していけるように対応していきたいと考えております。

司会:慣れていないとはどういうことでしょうか?

藤田:昔の「郡」というのは独立した強い地域社会を形成していました。これが急に一緒になって…ということは、我々は歓迎するのですが、それぞれの郡や町の台所事情があり、すぐには一緒になれないという現状があります。この新都市ができたことを契機に、その方向に進めていくのがこの地域全体の発展につながるのではないかと考えています。

司会:新都市を盛り上げていくということを通じて、周辺地域全体の交流がより深められるということですね。

 姫路工業大学高度産業科学技術研究所の坂井所長、研究所としては初めてこの都市に来られるわけですが、これまでの活動の経緯と今後の方向についてお願いします。



坂井:この平成10年度は大学にとってかなり記録に残る年号になると思います。それは、新たな学部、環境人間学部ができるということを踏まえまして、新しい歴史のページが開かれることになるからです。
 高度産業科学技術研究所につきましては、「ニュースバル」というご存知の放射光施設が10年度の秋にはビームがでるだろうということで研究施設が完成し、それに合わせこの都市に研究所が書写から移ってきて、やっと施設、スタッフとも揃うことになります。この研究所設置の発端は平成6年になりますが、光科学技術を中心とした先端的研究をするということを眼目においてスタートしています。当然、学術的な研究もしますが、主旨としては、県下企業との共同研究を進め新しい産業技術の基盤作りをしようということが大きな使命となっており、県が総力をあげて取り組んでいます。ニュースバルでは、リング及びビームラインの2本分の構造物が平成9年度に完成の予定でして、平成10年度にSPring-8のLinacからビームをもらうという段取りになっています。

司会:今年中にはビームラインが2本使用できるということですね。これはもちろん姫路工業大学の研究所が使われることが基本でしょうが、一般の方にも使っていただけるのでしょうか?

坂井:はい、高度産業科学技術研究所としましても、外部ユーザーの利用に対しては課題別の利用専門委員会という外部ユーザを含めた委員会があり、LIGA及びEUVLビームラインに関する活動を開始しています。

司会:利用者の方の関心も高いでしょうから、SPring-8と一体となってうまく運営ができるといいと思います。
 では、先端科学技術支援センターの千川所長、今年はどんな年でしょうか?



千川:新年おめでとうございます。播磨科学公園都市はどんな所かとよく聞かれるのですが、とてもきれいで「日本の奥座敷」だといつも言っています。関東は玄関で、SPring-8は奥座敷、いよいよ今度は「床の間」を作ります。先端科学技術支援センターは今年の10月に増築工事が完成し、そこには企業の研究者も来られます。
 産官学の技術を綜合して新産業を創造するために、産官学の連携ではなく「交配」をします。産官学の交配で新しいテクノロジーを生み出すコーディネイトの役割を先端科学技術支援センターが担ってゆく。それを通して新しい文化を築きたい。それが床の間です。

司会:先端科学技術支援センターの後ろにできる新しい建物ですが、あそこは開放研究室とか貸し実験室のようなものができるんでしょうか?

千川:貸し研究室です。もう、ほとんどが埋まっています。県の方々は埋まるかどうか心配していらっしゃいましたが。

司会:あれは月単位で貸していただけるんですか?

千川:そうです。1カ月、1m2当たり3000円位で、15室程残っています。早く申し込まないと塞がってしまいますね。

司会:それでは上坪先生、昨年10月の供用開始から2、3カ月たちますが、おもしろい成果ですとか、あるいは今年はこんなこととかありますでしょうか?



上坪:おめでとうございます。先程、千川先生が言われました、「床の間」というのも良いのですけれど、私達SPring-8は床の間の飾りものだけではいけないと思っているんですが(笑い)。
 3月までは助走期間というか、試行期間ですが、今回初めて色々とユーザーに使っていただいて、意外と判ったことがあります。まず、マシンがすごく安定している。これはもう驚くべきことで、蓄積電流は20mAですけど、この電流でのライフが60時間から70時間です。1日に2回、朝と夕に1回ずつ電子を入れるとそのままずっと安定でいるということと、それからビームラインではほぼ予想通りの強さの光が出ておりますし、光が非常に細く絞れるという点ではユーザーにとって非常に良い光が出ているんじゃないかと思っています。私達としては、やはり今年の4月からが本番で、そこでどういう良い仕事がでるのかというのがまず第一です。
 今までに出た成果としては、技術的に見ますと、例えば30万気圧、2000℃位までの高温高圧条件の実験が可能になっておりますし、それから坂井先生のところだと、大体300keV位の偏光X線を使った実験が可能となっています。これは多分世界で最も波長の短い領域での実験施設になるのではないかと思っております。それから、先程の高圧でも更に高い200万気圧位までの実験が可能なステーションができております。技術開発の面では、屈折法を使った造影をやりましてとんぼの羽を映したんですが、非常にきれいな絵が撮れました。とんぼの羽というのは小さな網目模様があり、普通のX線造影法だと殆ど写りませんが、こんなに綺麗に写っています。



屈折法(シュリーレン法)によるトンボの羽の造影(3mm×3mm大)

 このような新しいイメージング技術というのは比較的簡単にできますが、これもビームの性能が優れているおかげです。これが一つの新しい将来の研究ツールになるんじゃないかと思っています。蛋白の結晶構造解析もこれまでになく高精度で出来ることが判りました。私は今年中にはいい論文がかなり出せるのではないかと思っています。この前、科学技術庁の研究開発局長と会いましたが、局長が、少なくともNATURE(雑誌)に毎年5つは出して欲しいと言っていました。そこで、5つ出したら局長賞に何か出ますかと。...冗談ですが。
 もう一つ、今年の後半から兵庫県のビームラインとか、産業用ビームラインとかの専用施設が動き出してくるんですね。これは日本の中では今まで全く無かったような使い方で、これがうまく働いてくれると、放射光利用の新しい使い方になるのではないかと思っています。これらの中からも、おもしろい仕事、おもしろい使われ方がどんどん出てくるのかなと期待しています。

司会:新しい研究方法、新しい使い方というものもこれから出てくるのでしょうね。さて、産業界ではということで、産業分野で放射光を既に使っておられる住友電工播磨研究所の野田所長、先日は御社から放射光を使った製品が出たということを聞いておりますが。



野田:はい。私どもでは播磨研究所を94年1月に開設し、機械の据え付け調整が完成したのは94年暮れですから、本格的な利用研究をやりだして丁度3年経ちました。「桃栗3年柿8年」と言いますが、3年経ったら何か成果をあげないといけないということで一生懸命頑張ってきたわけです。私どもの設備は超電導を使ったコンパクトな小型SRです。その利用研究となりますと、当初はやはり分析・解析での利用研究ということで、CTやXPSをやっていました。それじゃなかなか企業の研究所としての評価が上がらない。だからなんとかして物作り、いわゆるプロセスとか加工の方に使えないかと考えたのです。「マイクロマシン技術の研究開発」という国家プロジェクトの中で、SRを使った微細加工(LIGA)というのを提案し開発を進めてきました。先程司会者から紹介がありましたが、私どものHomepageをパッと開いていただくとその成果のこの絵が出てくるんです。
 このアリの持っている物が私どもの開発した世界初めての超音波素子です。アリの目は複眼になっているのですが、その複眼を構成している単眼が10ミクロンから15ミクロン位の大きさです。一方アリの持っています私どもの作った製品というのが、20ミクロン位のセラミックスを丁度生け花の剣山みたいに並べたもので、これがSRを使った微細加工技術で作ったものです。



アリが持つ超音波素子

 何が嬉しいかといいいますと、これが微細化しますと非常に分解能が上がり、お医者さんがこれをお腹に当てまして得られたデータを画像処理すると、腹が白いか黒いかということがハッキリ判る(笑い)、今まで見にくかった臓器がはっきりしてきます。すなわち測定結果として分解能が1桁向上するんですね。今までセラミックスというのは脆い物ですから、100ミクロンとか200ミクロン位しか加工の精度がなかった。それが、SRを使ったLIGAにより10ミクロン、20ミクロンというオーダーまで加工できるようになりました。そういう意味で画期的な製品なんですね。



超音波診断用プローブ

 去年の夏からサンプル出荷し始めましたが、今年はこれを一つ柱として製品化の軌道に乗せられれば、と思っています。

千川:放射光による生産第1号、突破口を開かれたわけですね。サンプルはアメリカにも?

野田:国内からの引き合いが多数ありますが、アメリカの数社からも引き合いがあります。

司会:毎年NATUREに論文5つとか、放射光を使った新しい次の世代のサイエンスというものが出てくる、あるいはこういう新しい製品もここから出てくる。こういうイメージとして、「シリコンバレー」に対して「ルミナスヒル」という言葉が出てきていると聞いています。ただ、ハードはそこそこというところですが、これだけでは「ルミナスヒル」として世界に誇れるのかどうかちょっと分からないように思います。ソフトウェアの面、あるいはネットワークの面とか幾つか重要なことがあるような気がしますが、その辺についてこんなことが大切ではないかというようなことがありましたらどうぞ。

上坪:一番大事な点は、おもしろいアイディアが浮かんだ、これやりたいと言う人がここにすぐ来て実験をやるというような仕組みを如何にして作るか、ということだと思うのですね。これをやれば確実に成功してこれだけの良いデータがとれる、ということも大事ですが、少し失敗してもいいからここで新しいことを生み出したいと言う人に、タイミング良くチャレンジングなことをやってもらうチャンスをどうやって与えるのか、それが重要です。そういったことが課題採択なんかで考えなきゃいけない。国内にとらわれず外国の人も含めまして。
 それから、今までは大学の先生が基礎研究をやると言っていたのですが、さっき千川先生が「交配」と言われましたように、今後は産業界の方を含めて、面白い、将来新しい芽になりそうだというのをもっと色々な所からピックアップし、ここで実験をやることで非常に基礎的な研究に育てて、それを新しい産業技術に結びつけてゆく。大学の先生も産業界の人も一緒になるチーム、そういうものがここでやれると思うのですね。いつも基礎研究は大学、というような考え方をそろそろ止めてもいいんじゃないかという気がしますね。

千川:分野横断型の研究をやりたいと思いますね。やっぱり21世紀というのは総合技術、何をやるにしてもね、ガンの治療をするにしても個別技術では対応できない。ですから色んな技術の総合でいくことになる。SPring-8には色んな分野が集まってくるわけですから、そういう人達でプロジェクトチームを編成し、コーディネイトで新しい分野を創造する「初テク」をやろうと。これまでの日本の場合、産官学の連携とかいっても特許を例にすれば、大学が所有する特許の件数は、アメリカが1800あるのに日本はたった120しかないとか、なかなか「初テク」がないんですね。最先端があるんだけど「初テク」がない。日本のコーディネーターとしては、その「初テク」をやらないといけないと思うんですね。それと「初テク」が出た後は、それを産業界に浸透させることがとても重要です。ライト兄弟が飛行機を発明したとき、500mしか飛んでないんですね。地上1m位の所を滑空しただけです。「そんなのは将来ものにならへん」と笑われる。そういう時に、それをちゃんと「これはものになりますよ」っていう宣伝をしないといけない。産業界に「それは重要なテーマだ」ということを認識してもらわねばいけない。それがコーディネーターの2番目の役目です。3番目は、人集めしてチームを作ってそれを実現していく。

坂井:確かに大学としても、今までの既存の考え方から脱皮していくという時期にきていると思いますね。新しい大学のあり方が何か、というそのあたりを真剣に考えないといけない。特に姫工大の場合には、幸いこういったニュースバルという施設を持ってそこで産業支援をしていく、という立場を持っていますので、平成10年度がスタートとなって議論していくことになるでしょう。
 かたや世界最先端のSPring-8があり、かたや非常に特化された住友さんの放射光施設があるというその間に位置するような施設になるかと思いますので、なかなかはっきりとしたイメージが出しにくい面があるかと思うのですが、私なりに思っておりますのは、放射光というのは要するに「酒」じゃないかということです。酒というのは、酒のために酒を飲むという人もあるかもしれませんが、料理をおいしくするために酒を飲むという酒の役割もあるわけですね。私の感じでは、放射光というのは酒を飲んで食事をうまいものにするとか、酒を飲ませて一言YESと言わせるとかですね、そういう役目が多分にあると思うのです。それからもう一つ、放射光を酒に例える理由は、やはり酒と言っても色んな酒があるということです。多分ニュースバルが造っていく酒っていうのは、これはもう地酒造りに徹する、地元の口に合う酒を造る、それに徹してそこから良い酒を造る、そういう役割かなと思っています。

千川:
日本ではこれまで「産官学の連携」とよく言われてきましたが、本当にシリコンバレーのようにスタンフォード大学を中心にしたようなものは、今までできていませんね。そういうものの例を一つこの地でやってみたいですね。放射光を使って色んな研究をやりながらその練習をやるということです。

野田:それは非常に大事ですね。私どももこの播磨にSR施設を設置するというので、始めは本当に何に使うんだろうと、皆さんから思われましたし、社内でも全くそうだったですね。ですけども、今まで適用されたことがないところにSRを使ったら新しい物が絶対できるとの信念もありましたし、それから、SRの産業利用研究をやりたいために会社に入ったバリバリの若手もいる訳ですね、そういうのが原動力になって必死にやってきたというのが実状です。だけど、話題としてだけの新聞発表をいくらやってもダメですね、何か「モノ」を作らないと。やはり企業の研究所の成果としては目に見える物を作らなければ、とつくづく感じましたね。それが一つでもでき、また二つでもできると弾みがつく。更にSPring-8が稼動されてNATUREには載るわ、色んなことで学会には発表されるわということで土壌がどんどん広がり、切磋琢磨しあって練習問題をどんどんこなしてゆくということになるのでしょうね。

藤田:行政の立場としましても、非常に明るくなってきた感じがするのですが、地元の皆さん方は、さてどんな手伝いができるのかなというような色んな悩みをまだお持ちでしてね。そのあたりは、姫路工業大学のニュースバル計画として産学一緒にやられるということなどで徐々にはっきりしてくるのでしょう。この新しい都市で地元の方にぱっと明るくなるようなものがありましたら、我々も色々とPRしたいなと思っています。

司会:去年のまち開きで「夢サイエンス館」に30万以上の人が集まったと聞いています。これは、このルミナスヒル・科学公園都市に対する、あるいは、ここで行われる先端科学技術に対する地元の期待の強さの表れと思うのですが、それを今後とも維持する方策を何かお考えでしょうか?

藤田:32万8千という人がお見えになったのは、世界一の大型放射光施設を見たいということが第一だと思いますが、今回のイベントは特に子供さん方に喜んでいただきたいというわけで、目で見て手で触れる体験型のパビリオンを設けました。これが非常に功を奏したわけです。最初に言い忘れてましたが、このまちの中に、まだ仮称ですが、「子供科学館」なるものを計画しております。これも、将来を担う、科学離れしているような子供にも何とか興味が持てるような、参加型・体験型のものをと考えています。着手時期は未定ですが、委員会を設け具体化の検討を進めています。全国になく、世界にもないようなものをと考えていまして、それがSPring-8とタイアップできますと更に魅力的なものになるのではと期待しています。

上坪:今、局長さんがおっしゃった「子供科学館」の委員に私も入っています。ここには「子供科学館」がある、SPring-8もあるし、住友電工もあるし、姫工大もある。実際にサイエンスとか研究が行われている所が、そのまま子供達にとって勉強の場とか遊びになるっていうのが、ここならできるんじゃないかと思います。これ位のサイズなら丁度いい大きさかもしれないですね。

坂井:私も大学にいて思うのですが、科学技術というそのものは蓄積されてどんどん増えて行くんですね。ですけれども、上坪先生がおっしゃったように科学する心のようなもの、精神のようなものは、世代が代わるともう一からやり直すようなところがあって、蓄積が難しい。そこでそれを継承する必要があるのですが、まさにそれが大学の教育の使命かなという気がしています。そういうものを肌で感ずる場がここにできてくる、というのはすごく良いことだと思いますね。

上坪:ちょっと話は違うんですが、日本の共同研究で、学部の学生さん達も参加できるというのは他にないのではないでしょうか。ここは大学の先生が4年生も連れてきて実験をやるのですが、昨夜、ある先生と話しをしていましたら、「4年生がここにくると、世界一の所で実験ができるといきいきしている」と言われるのですね。やはりそのようなことは非常に大事で、大学の基礎教育の中でも4年生の卒業実験やるならその一環としてこちらでやってみる、というのはその学生さんにとってすごく良い励みになると思いますね。そういうことが大事で、同じように中学生、高校生、小学生でも、いろいろな所に印象を強くして帰ると、もう1回来てということになりますね。
 それで科学館、博物館ということでは、ここの自然もその中に取り入れて欲しい、という先生がおられました。この辺はね、蛍が結構いるんですよ。蛍って言うのも光ですし、赤い花、青い花、白い花、黄色い花、これらも光です。ここは「ルミナス・ヒル」ですから、これら自然を全部取り込んだ博物館とか、科学館というものがここ科学公園都市にあることになる。これはすごく良いものになると思います。

藤田:自然ということでは、昨年の11月に「どんぐり作戦」を行いました。このまちは、「時間とともに成長する森の中の都市」を合い言葉の1つとし、失われた緑を積極的に自然に帰すことを念頭に整備を進めております。この一環として「どんぐり作戦」を、このまち内だけでなく隣接する3町の小学校児童の参加のもとに展開しておりまして、昨年で4回目となりました。これは、戦前、この地に自生していたコナラなど照葉樹の、ドングリからの苗作りと、その苗を植えてもらうというものです。この作戦の狙いは、将来を担う子供たちに、少しでもこのまちづくりに参加してもらうということだけでなく、自然を大切にするという心を体験しながら学んでもらうことも合わせ持っています。これはとても大事なことと考えておりまして、今後も是非続けていきたいですね。

司会:利用者の方は当然ですが、町の人とか先程おっしゃったように学生さんとか、子供さんとかも集まって新しいコミュニティが出来るといいと思いますね。そういうものを支えるこちら側としては、マシンの提供とか、時間の提供というだけでは、コミュニティ作りというのは多分うまくいかないのでしょうね。

上坪:先程局長がおっしゃいましたが、地元企業と私達がどう関わっていくかという問題が残っているのですね。千川先生なんかもご存知だと思いますが、私達が大学院に入りたての頃は、みんな自分たちが手作りに近いことをやるもんだから、町工場に行って、親父さんとグルになって作ったことが多かったですね。そういう町工場が今非常に強力な、一番先端的なモノを作る会社に幾つかなっている。やはり私達もそういうように、この近所でそういう形を作っていくことを考えないといけない。今までは大きなものを作るので大企業中心にきましたが、これから先は多分そういうことも必要でしょう。精度のいいもの作ろうと思ったら、結構人間の腕が効くようになるもので、「ルミナス・ヒル」は同時に「匠のヒル」にもなる。そういう仕組みもやって頂きたいなと思います。そういう関係をどうやって企業と作っていくかということなんですが、それはやっぱり、何でも良いから少し難しいことをなるべく近所の方と相談して作ってみる、ということですね。そういう風にして、ここの周りに先端的な技術を支える本当の機能ができてくるでしょう。この周りも、姫路まで含めますと結構あるでしょうね。
 それからもう一つ、これは私達の理研の理事の人から言われたのですが、SPring-8にベンチャー・ビームラインを作れって言うんですね。要するに何か面白いことを思いついた人がやってきて、本当にチャレンジングなことをする。そういう意味では、先程千川先生が言われた、CASTの貸し研究室とかも大事でしょうね。そして、研究者であると同時に新しいモノを作るのに情熱を持った先生達を惹きつけるようないい仕組みが作れればと思います。そうすれば、ベンチャービジネスも生まれることでしょう。これが10年、20年続きますとね、かなり立派な色んなものが周囲に集まった所になるのじゃないかという気がします。ここを単なる光を提供するデパートみたいにしてもらっちゃ困るのですね。

千川:人というのがベンチャーを起こす、その人材が大事なんです。ただ、日本ではアメリカみたいに人材を引き抜けないでしょ、終身雇用ですから。そこで、引き抜かないでやるにはどうしたらいいかというと、定年間近のアイディアマンでやりたい目標を持っている人と、ポストドクの若手でチームを組む。高温超伝導とSTMのノーベル賞は、熟年と若手の共同でなされたこともあって、最近、このようなシステムが提案されているようです。物事全体をとらえるのに適している右脳は、年齢とともに経験を積むほどに成長するといわれ、左脳の優れた若手研究者との共同研究が効果的というわけです。まさに総合技術の時代に必要な右脳が最高潮に達した頭脳を、「賞味期限切れ」としてシルバーシートに置いておくのは勿体ないですよ。シルバーシートでなくスーパーグリーンです。研究者年齢の両極端で編成するので、"Super Green Ultra Reserch-age Team"略してSUGUREチームと呼んでいます。
 NHKのテレビ番組「人間大学」で、西澤潤一先生の講義「独創の系譜」で教わったのですが、先生と弟子が別のテーマでノーベル賞を受けた例が71あり、孫弟子も三代続けてもらったのは52例もあるそうです。まさに、「独創の系譜」が厳存しているのです。上田良二名大名誉教授は、「論文の書き方は独習できない」とのご意見でしたが、研究の進め方も独習では時間がかかり、超スピード時代には、最高潮の大先生のもとで数年間価値観の勉強をする、それが若手研究者にも一番良いと思うのです。

司会:ところで、ユーザーコミニュケーションを増やすという点では、一般の関心を引く情報の発信も重要と思います。「まち開き」というものもこういう情報発信の一つでしょうが、毎年開くわけにはいかない。何か定常的に、いつもあそこが光っている、というものがあれば良いと思うのですが。何とか賞を設けて、毎年支援センターで大々的な授賞式をやるなんてのはどうでしょう?

千川:ルミナスヒル賞とか。(笑い) それとね、ネットワークは重要でしょうね。支援センターを播磨科学公園都市全体の情報発信基地と考えてもらって。医学診断などは、ネットワークで病院とつないで、お医者さんがいなくとも、先程上坪先生がおっしゃった新しいイメージング技術で診断ができるようになる。バリウムを飲まなくとも、胃もよく見え、気管支も写る。SR施設はお医者さんがいなくとも患者さんで押すな押すなになりますよ。

司会: 最後に、もう少し長期的な観点より将来展望について一言づつお願いします。

藤田:科学公園都市には色々な要素を加えたいと考えていますが、すべてを持ってくると周辺の町が町でなくなる。このため、役割分担が重要だと思っています。無駄を省き、互いにメリットを得ることが。それもできるだけ広い範囲で。例えば、岡山県では、岡山空港の滑走路を拡張し、海外からの航空便を増やすという計画がある。これが実現し、山陽自動車道で岡山空港と現在工事中の新宮ICロングランプとが結ばれると、1時間位で来れることになり、大阪や関空からよりもっと都合良くなります。これまでは関西方面から如何に早く来るかという観点でしたが、このようにもう少しグローバルな視野でまち作りを考えていく必要があると思っています。

上坪:SPring-8は西播磨に在るだけでなく、東備前にも在るということですね。

野田:21世紀は光の時代。光の中でもSR光、これが手の内にあるのです。SR光ならではという製品やプロセスの開発を積極的にどんどんやっていきたい。今迄は微細加工中心でやってきましたが、色んなもの、千川先生のやっておられたアモルファス物質の単結晶化とか、表面、界面での物性コントロールなど、不可能と思われていたプロセスが出来るようになるでしょう。SRの産業利用は処女地帯だといっても良いし、夢が一杯あるんですね。

坂井:先ほど文化論が出ましたが、「文化」というものはある種の集団が必要です。SR研究者には、同じ価値観や意識を持った人が多数おり、「文化」の素地があると思います。又持続しなければ文化になりません。私は、この「文化」を創ってゆきたいと思っています。

千川:新産業を起こすと同時に、文化を起こすことが重要ですね。新しいサイエンスを中心とした文化ができるといいですね。例えば、免疫は体内で自己と非自己を判別して、非自己を攻撃するものですが、これは「自己とは何か」という哲学的命題と同じで、今、哲学者が生物学の勉強をしているというように、理科と文科の区別が無くなってきた。そして、文化が向上すれば教育が良くなり、教育が進むと経済が発展、豊かになると文化が高まるという成長のサイクルが出来る。発展途上国では、このサイクルを作るのに苦労しています。

上坪:SPring-8の敷地にはSPring-8だけでなく、原研の関西研究所や理研の播磨研究所、兵庫県のニュースバルというように、違うものを一カ所に集めています。これは、世界中の大学やその他の研究所を含め今までと異なっており、全く違ったタイプの研究所ができるということになります。アプローチや考え方の違ったものが一緒になった研究所が出来る。つまり、千川さんもいっておられるように、産官学の連携でなく、まさに「交配」が出来るということで、これをしっかり進めてゆきたいと思います。

司会:新年にふさわしい、チャレンジングなお話をありがとうございました。

藤田 俊彦 FUJITA Toshihiko
昭和17年10月15日生 兵庫県企業庁播磨科学公園都市建設局長
〒678-1201 兵庫県赤穂郡上郡町金出地1503-1
TEL:07915-8-1115 FAX:07915-8-0058
略歴:昭和40年信州大学工学部土木工学科卒業、同年兵庫県土木部計画課入庁、61年日本下水道事業団大阪支社調整課長、平成3年兵庫県伊丹市建設部長、6年兵庫県土木部下水道課長、9年4月より現職。


坂井 信彦 SAKAI Nobuhiko
昭和16年10月23日生 姫路工業大学 理学部 物質科学科教授
〒678-1297 兵庫県赤穂郡上郡町金出地1479-1
TEL:07915-8-0144 FAX:07915-8-0146
e-mail:n_sakai@sci.himeji-tech.ac.jp
略歴:昭和42年東京教育大学大学院修士課程(理学専攻)修了、同年より東京大学物性研究所放射線物性部門助手、52年理化学研究所研究員、同副主任研究員を経て、平成4年より姫路工業大学理学部教授、平成9年より高度産業科学研究所所長併任。


千川 純一 CHIKAWA Jun-ichi
昭和5年10月26日生 兵庫県立先端科学技術支援センター所長
〒678-1201 兵庫県赤穂郡上郡町金出地1479-6
TEL:07915-8-1100 FAX:07915-8-1166
e-mail:chikawa@cast.himeji-tech.ac.jp
略歴:昭和28年京都大学理学部物理学科卒業、35年同大学院修了、同年日本放送協会技術研究所入所、57年同次長、59年高エネルギー物理学研究所教授、60年同研究所放射光実験施設施設長併任、平成3年姫路工業大学理学部教授、平成8年から現職。


上坪 宏道 KAMITSUBO Hiromichi
昭和8年2月7日生 理化学研究所 理事
日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チ-ムリ-ダ-
(財)高輝度光科学研究センター 理事、放射光研究所 副所長
〒678-1298 兵庫県赤穂郡上郡町金出地 SPring-8中央管理棟
TEL:07915-8-0851 FAX:07915-8-0850
略歴:昭和36年東京大学大学院物理系研究科物理学専攻博士課程修了、同年東大物性研究所助手、40年理化学研究所研究員、43年~45年フランスサクレ-原子力研究センタ-外国人研究員、46年理化学研究所サイクロトロン研究室主任研究員、51~56年東大原子核研究所教授、その後再び理化学研究所主任研究員を経て、平成4年同理事、現在に至る。


野田 伸雄 NODA Nobuo
昭和14年2月21日生 住友電気工業㈱
〒678-1201 兵庫県赤穂郡上郡町金出地1431-12
TEL:07915-8-0651 FAX:07915-8-0670
e-mail:noda@okk.sei.co.jp
略歴:昭和40年京都大学工学部電気工学科修士課程修了、住友電気工業㈱に入社、電力事業部製造部長、産業電線部長、電線プラント部長、電力システム技術研究所長を経て現在、研究開発部門支配人兼播磨研究所長。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794