Volume 02, No.5 Pages 51 - 52
5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第2回SPring-8国際ワークショップ「30 m長直線部」開催報告
SPring-8 International Workshop on 30 m Long Straight Sections
日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 利用系グループ JAERI-RIKEN SPring-8 Project Team Experimental Group
SPring-8の特色の一つに、4カ所の30 m長直線部がある。現在は収束マグネットが設置されているが、将来マグネットフリーとして、30 mのスペースに挿入光源を自由に設置し、超高輝度領域の高い干渉性をもつ放射光を得ることが期待されている。昨年に引き続き今回2回目の本ワークショップは、97年8月9日神戸国際交流会館で開かれ、30 m長直線部の可能性や利用法などについて、前回より一層具体的な議論が交わされた。
ワークショップではまず、SPring-8加速器グループの大熊氏(SPring-8)から、昨年からはじまったSPring-8加速器コミッショニング(試験調整運転)とその成果についての報告があり、続いて田中均氏(SPring-8)からは、30 m長直線部のマグネットフリーラティスの実現について発表があった。マグネットフリーへの移行時に、transientなラティスを一段階設ければ、よりスムーズに移行ができ、またその実現は充分可能であるとのことであった。
SPring-8加速器の報告に続いて、挿入光源と自由電子レーザーに関するセッションに移った。P. Elleaume(ESRF)は、“Design Considerations for a 30 m long Insersion Device”と題して、長直線部に設置する挿入光源について以下のような意見を示した。
●プラナー型のアンジュレータを設置する場合、[放射光輝度/熱負荷]を最適化パラメータとしてみると、長アンジュレータ周期、低一次光エネルギーであるほど有利である。しかし低エネルギーになると、ビームエネルギーの低い他の蓄積リングなどと比較してメリットが少なくなる。
●ヘリカルまたはFigure-8型のアンジュレータは、軸上熱負荷の面から見てプラナー型よりも有利である。また、[放射光輝度/熱負荷]はアンジュレータ周期が短いほどよくなるため、短周期のヘリカルまたはFigure-8アンジュレータが長直線部の挿入光源として優れている。但し、軸外の放射パワーを受けとめられるフロントエンドや、真空槽の設計は不可欠である。
●FEL(Free Electron Laser)も、長直線部挿入光源の候補の一つとして考えられる。熱負荷とゲインの面から考えると、共振器型のヘリカルFELが現実的である。例えば100[eV]でのゲインは67%、レーザー出力は1.6 kWが得られる。SASE(Self-Amplified Spontaneous Emission)については、ゲインが小さいため実現は難しいであろう。
P.Vobly(Budker Institute for Nuclear Study)からは、ビーム軌道とともに偏光状態を切り替えられる “equepotential bus undulator”が、E.Gluskin(APS)からは、永久磁石と電磁石を組み合わせたヘリカルアンジュレータが紹介された。E.Gluskinは、このヘリカルアンジュレータを長直線部に複数台設置して、アンジュレータ間にステアラーを置きピンホールスリットで放射光を受ければ、光軸の傾きを変えることにより、0.3%程度のエネルギー分解能が得られ、利用実験によっては分光器が必要ないであろうと発表した。K.J.Kim(LBL)は、SASEの時間軸と横方向のコヒーレンスについて考察を述べた。蓄積リングのFELでは宮本氏(姫工大)から、SPring-8 サイトに建設中のNew SUBARUのFEL計画の概要について発表があった。横溝氏(SPring-8)は、SPring-8入射用LINACの将来計画として、PXR(Parametric X-ray Source)、LBC(Laser Backward Compton)、Slow positron sourceとともにLINAC SASE計画があることを紹介し、photocathodeを用いたRF電子銃の開発計画などの概要を説明した。筆者は、長直線部に真空封止アンジュレータを導入した場合に、大きな問題となるであろうアンジュレータ内のresistive wallによる発熱問題について発表した。
光学系のセッションでは、宮原氏(学芸大)が高次コヒーレンスという観点から、FELやその他光源を考えた場合どのように表されるかを示した。石川氏(SPring-8)は、時間と空間コヒーレンスの測定法や、X-ray FEL共振器について発表した。2枚の 90°Bragg角ミラーから成る共振器、または4枚のミラーを使用するリング型共振器の構成を示し、ダイヤモンドの完全結晶を用いれば熱負荷の問題をクリアーでき、また共振器内のロスは20%程度に抑えられる。
利用実験の立場からは、まず八木氏(SPring-8)が分光器を使用しないUltra High Fluxビームラインを提案した。高分子生物のX線散乱実験用に、通常の5m直線部のヘリカルアンジュレータを用いた、 Super High Fluxビームライン計画がSPring-8で提案されており、長直線部にこの考え方を延長すれば、スペクトル幅1.3%の超高フラックスが得られるというものであった。また、秋本氏(名大)は、大強度X線を利用したSiフィルムの形成制御について発表した。
最後に北村氏(SPring-8)は、4本の長直線部の内1本は共振器型または種光を用いたFELに、他の3本は長尺アンジュレータに用いたらどうかという案を示した。また、長直線利用やLINACのSASE実験に限らず、通常の利用実験のためにもレーザー技術の確保は必須であり、SPring-8内にLASER施設を設ける重要性について述べた。
SPring-8が稼動しはじめたこともあって、全体として昨年の第1回のワークショップの時よりも、長直線部利用のより具体的な案が出され、活発な議論が交された。SPring-8外の専門家と議論できるこのようなワークショップは、非常に有意義であり、30m長直線部の活用方法についてより広い視野で考えることができる。今回のワークショップの議論を踏まえて、SPring-8は利用者にとってより一層魅力ある実験施設になると思われる。
原 徹 HARA Toru
(Vol.2, No.5, P38)