ページトップへ戻る

Volume 02, No.5 Pages 37 - 38

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SRI ’97報告 −挿入光源−
Report on SRI ’97 -Insertion Devices-

原 徹 HARA Toru

日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 利用系グループ JAERI-RIKEN SPring-8 Project Team Experimental Group

Download PDF (77.17 KB)

 

 

 SRI'97では、挿入光源関係でオーラル9件、ポスター30件の発表があった。まずオーラルセッションでは、ESRF、SPring-8、APSなど各施設の挿入光源の現状が報告され、また新しい挿入光源の開発やアイデアなどが発表された。

 ESRFではP. Ellaumeが、これまでに26本の直線部に47台(セグメント)の挿入光源を設置したと報告した。ESRFでは、1つの直線部に最大3台の挿入光源を入れることができる。各挿入光源の周期長は23〜230 mmまで様々であるが、最も多いのは42 mmで全体の1/4を占める。磁場調整は、現在3台同時に行うことができ、また、1週間のシャットダウンで最大5〜6台の挿入光源の入れ替えが行える。挿入光源の年間製作ペースは約10台である。最近では、加速器のビームエミッタンスがσx4 nmrad、σy<0.04 nmradまで向上し、特に垂直方向(σy)はアンジュレータ光がdiffraction limitに近いところにまで到達している。このビームの高輝度化によって、放射光の輝度も数年のうちに1021[photons/secmm2mrad2 0.1%b.w.]台を実現できるであろう。また、高さ10 mmの真空チェンバーを現在計画設計中である。新しい挿入光源開発では、真空封止アンジュレータ、電磁石と永久磁石を組み合わせたハイブリッド型ヘリカルアンジュレータや、永久磁石の形状を最適化しピーク磁場を向上させた3 Tウィグラーを設計製作中である。

 E. Gluskinは、APSの挿入光源の現状について発表した。既に全周の2/3の直線部に計23台の挿入光源が設置され、ギャップはユーザーが自由に操作している。真空チェンバーの高さは現状10 mmだが、将来5 mm高のチェンバーを計画中である。輝度やビームサイズの測定も行っており、計算値と測定値の非常によい一致が得られている。直線部での放射線量の測定では、最大5.5 µradが検出されたが、今のところ減磁等磁石への影響はみられない。新しい挿入光源としては、0.1 keVまでの軟X線領域をカバーする電磁石型ヘリカルアンジュレータを開発中である。

 SPring-8の挿入光源は、北村氏によって報告された。まずSPring-8では、熱負荷の問題を避けるため挿入光源としてウィグラーではなく極力アンジュレータを使用する、というSPring-8挿入光源のあり方が示された。続いて、真空封止アンジュレータの真空システム、磁石のTiNコーティング等に関して発表があり、また、97年5月から始まった挿入光源のコミッショニング(試験調整運転)について、空芯コイルによるギャップ依存のビーム軌道補正、アンジュレータ放射光スペクトル、放射光インターロックなどの測定試験結果が報告された。

 BESSY IIのJ. Bahrdtは、in-houseで製作中の5台のアンジュレータについて、またL. NahonはSuper-ACOに新しく設置される可変偏光アンジュレータについて発表した。Super-ACOの可変偏光アンジュレータは、電磁石を用いたクロスアンジュレータで、円偏光の方向切り替えを10〜100 Hzで行うことができる。

 より新しい話題としては、BNLのP. M. Stefanが真空封止ミニポールアンジュレータについて、ANKAプロジェクトのT. Hezalが超短周期の超伝導アンジュレータ開発についてそれぞれ発表した。BNLの真空封止ミニポールアンジュレータ(周期長11 mm、周期数36)は、SPring-8との共同プロジェクトで開発したもので、磁気回路部分をSPring-8が、真空チェンバー等をBNLが担当し、97年5月からNSLSリングに設置し使用を開始している。発表では2 mmまでギャップを閉めた時の、真空度やビームライフタイムへの影響、磁場からの計算スペクトルと測定スペクトルの比較などが示され、4.6 keVで測定した1次光の輝度は2.8 × 1017[photons/secmm2mrad2 0.1%b.w.]に達した。ANKAの超伝導アンジュレータは、NbTiワイヤーを2重螺旋に巻いたもので周期長3.8 mm、またギャップ1 mmでは最大1 T程度のピーク磁場が得られる。しかし、実際にはビームによる発熱によって、超伝導状態が破られるのではないかという質問もあり、今後のビームテストの結果が待たれる。

 その他、KEKの山本氏は、トリスタンメインリングでのアンジュレータ放射光スペクトルを用いたビームエミッタンス測定について発表した。測定結果は14 nmradと、デザイン値の5 nmradよりも大きく、またマシン側の測定結果ともかなりのずれがあった。その原因についてはまだよくわからないが、アンジュレータ磁場の再測定を行うとのことである。 SPring-8の備前氏は、佐々木タイプアンジュレータで、偏光方向を変化させたときのビーム軌道を、ローカルフィードバックで補正する手法について発表した。

 ポスターセッションでは、各種挿入光源の詳細、磁場測定、磁場計算の手法等の発表があった。

 台湾のSRRCからは佐々木タイプのアンジュレータ、SPring-8からは真空封止標準型アンジュレータ、真空封止垂直アンジュレータ、真空封止8の字アンジュレータ、ツインヘリカルアンジュレータ、楕円ウィグラーなどの各挿入光源の詳細について発表された。分子研と広大では、SPring-8と同じタイプのヘリカルアンジュレータを既に製作使用しており、偏光度のギャップ依存性などの詳しい報告があった。

 磁場計算の分野では、ESRFのMathematicaをインターフェイスとした3次元磁場計算コードや、フィンランドのVTTで開発されたハイブリッドアンジュレータ磁場計算のモデル化(磁石をいくつかのサブブロックに分割して、着磁の不均一性を取り込む手法)が紹介された。

 全体として挿入光源では、ヘリカルアンジュレータに関する発表が多く見られた。最近は、特にヘリカルアンジュレータ放射光の偏光方向を周期的に切り替えることが多く試みられているが、主流はビーム軌道を周期的に変化させる手法と、電磁石型アンジュレータを用いる手法に大別できるようである。アンジュレータだけでなくベンディング放射光でも、ビーム角度を上下に振り、取り出される放射光の偏光方向を変えることがSRRCで試みられている。今後、数10〜100 Hzの周期で偏光方向を切り替えられるデバイスが開発されていくであろう。

 

Lecture Hall での講演

 

 

 

原 徹 HARA Toru

昭和41年5月12日生

理化学研究所大型放射光施設計画推進本部

〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町

TEL:07915-8-0835

FAX:07915-8-0830

略歴:平成元年東京大学工学部原子力工学科卒業、平成4年同大学院工学系修士課程修了、平成7年パリ第11大学大学院博士課程修了。平成2〜3年MIT客員研究員、平成5〜7年フランスCEA博士研究員。平成7年9月理化学研究所入所、現在に至る。理学博士。最近の研究:蓄積リングの挿入光源、自由電子レーザー。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794