Volume 02, No.4 Pages 18 - 19
3. 専用ビームライン/CONTRACT BEAMLINE
産業用ビ−ムラインの建設について
Construction of the Industrial Consortium BM and ID Beamlines for Materials Research
1.経緯
1991年財団法人高輝度光科学研究センター(以下財団)とSPring-8利用推進協議会(産業界のSPring-8利用推進を目的に設立)の呼びかけで、SPring-8を産業界が有効に利用する方策を検討する研究会が発足した。そして、X線構造解析、XAFS、蛍光X線分析、表面界面構造解析、光化学反応解析、マイクロビームからなる6小委員会に、30社前後の企業が参加して、それらの分野の利用が検討された。
1994年、専用ビームラインの建設利用を目指す方向で、パイロットビームライン検討委員会に引き継がれた。そして、小委員会別に検討した各分野の有効性、利用希望の多寡、建設費用等、計画の具体化のための絞り込みや技術的内容が検討された。その結果、将来の研究開発に有効な材料の評価、物性研究の手段として、XAFS、X線トポグラフィ用に偏向電磁石光源(BM)用ビームラインを、蛍光X線分析、X線回折、マイクロビーム用に挿入光源(ID)用ビームラインを、共同で建設する案に集約された。それと並行して、建設・運用の基本的なルールも検討された。
1996年1月、上記2本の専用ビームラインの建設利用への参加募集が行われた。また、時間的な制約から、専用施設設置計画趣意書が並行して提出され、専用施設検討委員会で審議され、計画が了解された。1996年4月、12社の参加による設立の準備委員会が結成され、ビームラインの設計や費用概算見積等と協定書及び運営の規約などが並行して検討された。
1996年12月、ようやく産業用専用ビームライン建設利用共同体が発足した。発足と同時に豊田中央研究所の追加加入があり、13社と財団(事務局)で正式な活動を開始した。施設側に、最終的な実行計画書が提出され、1997年3月、計画の受け入れが正式に決まり、BL16B2及びBL16INへのビームライン設置が認められた。
2.共同体組織及び協定書
●共同体メンバー:株式会社神戸製鋼所、三洋電機株式会社、住友電気工業株式会社、ソニー株式会社、電力グループ(関西電力株式会社、財団法人電力中央研究所)、株式会社東芝、株式会社豊田中央研究所、日本電気株式会社、株式会社日立製作所、株式会社富士通研究所、株式会社富士電機総合研究所、松下電器産業株式会社、三菱電機株式会社、財団法人高輝度光科学研究センター(事務局)
●組織:研究開発部門の責任者からなる運営委員会を最高決定機関とし、実務的な審議のための専門部会、実行ワーキンググループ、企画・調整のための幹事会を設けている。現在、実務的に活動している人数は、30〜40名程度である。
●協定:財団を事務局とし、13社が共同で2本の専用ビームラインを建設し、運用する。建設運営に係わる資源(資金や人)は、13社が均等に負担し、同等の権利を有する。
3.ビームライン
当ビームラインは、13社にわたる多数の多様な利用が予想される。従って、以下に予定するXAFS、X線トポグラフィ、蛍光X線分析、X線回折の実験が、建設後早期に安定して行え、マイクロビームの開発を並行して行えること、を基本に共同設備としての設計を進めている。現在、仕様検討の最終的な段階にある。また、基本的な実験装置を共同で備えると共に、各社の独自研究のための実験装置の持ち込みを可能とする。
1)BM用ビームライン
XAFSとX線トポグラフィを主目的としたビームラインである。
・エネルギー範囲:3.5〜60 keV
・基幹チャンネル:先行の共用ビームラインと同じ仕様である。
・光学系:二結晶分光器(標準)+後置反射鏡
反射鏡は、XAFS測定での高調波除去のために使用され、X線トポグラフィの実験では反射鏡を使わない。この為、二つの実験モードで光路が異なる。
・輸送部:殆ど標準の部品で構成されている。
・XAFS:透過法、蛍光X線収量法を基本的に備える。但し、詳細は検討中である。
・X線トポグラフィ:高精度な平面波X線トポグラフィ用のゴニオメーター等の計測系を備える。但し、詳細は検討中である。
2)ID用ビームライン
蛍光X線分析、X線回折、マイクロビーム利用を主目的としたビームラインである。
・光源:周期長40 mmの真空封止型アンジュレータ
・エネルギー範囲:4.5〜40 keV
・基幹チャンネル:先行の共用ビームラインと同じ仕様である。
・光学系:二結晶分光器(標準)+前段集光反射鏡
前段集光反射鏡は、主にサブミクロンマイクロビーム形成に利用される。
・輸送部:殆ど標準の部品で構成されているが、一部マイクロビーム用光軸調整の為の機構の設置を検討している。
・蛍光X線分析:微量分析用の基本的測定系を備える。但し、詳細は検討中である。
・X線回折:4軸回折計相当の基本的なゴニオ系を備える。但し、詳細は検討中である。
・マイクロビーム:数µm径以上の光学系はピンホールで実現する予定である。サブミクロン径用の光学系は検討中である。
3) フロアプラン、光学ハッチ・実験ハッチ
放射線防護のためのハッチが重装備になると共に、隣接するビームライン(BL16IN、BL16B2、BL17IN)の間隔が非常に狭く、設計に苦労している。現在、図1に示す案を検討中であるが、ID用と BM用のハッチ間の壁が共通になることやBM用光学ハッチが外部から離れた袋小路になることは避けられそうもない。これらの条件は、建設や保守のみならず、遮蔽計算等の申請やインターロック等、様々な領域に複雑な影響を及ぼす。従って、慎重に検討を進めている。
図1 フロアプラン(BL16XU、BL16B2)
4)建設計画
今年の冬季運休期間から建設作業を開始し、1998年秋にBM用ビームラインの設置完了、1999年初めにID用ビームラインの設置完了を目指している。
5)利用
運営に係わる費用及び業務は、参加メンバーが協力して負担、各社交代で利用する。なお、基本的な実験装置は共同体で備える予定であるが、それ以外に各社独自の装置の持ち込みを可能とする。
最後に、今後とも財団、共同チーム等の施設関係者を始め、各界の多くの方々にお世話になることと思います。ご理解とご援助をお願い致します。
古宮 聰 KOMIYA Satoshi
昭和21年2月21日生
㈱富士通研究所 基盤技術研究所
〒243-01 厚木市森の里若宮10-1
TEL:0462-50-8150
FAX:0462-48-3473
略歴:昭和50年東京教育大学大学院理学研究科博士課程物理学専攻修了、同年より㈱富士通研究所に勤務、光素子用混晶半導体の評価に従事、62年から高エネルギー物理学研究所の専用ビームラインの建設・利用に従事、理学博士。日本物理学会、応用物理学会、日本放射光学会会員。最近の研究:放射光による結晶評価技術の開発・応用。今後の抱負:学術的なオリジナリティーと実利的な有用性の共存? 趣味:スキー、登山、テニス。