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Volume 02, No.3 Pages 35 - 36

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

“夢の光”放射光 ’97(浜松)講演会
Synchrotron Radiation “Yume-no-Hikari ’97” Seminar

林田 敏明 HAYASHIDA Toshiaki

(財)高輝度光科学研究センター Japan Synchrotron Radiation Research Institute (JASRI)

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 放射光関連の科学技術の普及啓発のために、当財団は大阪科学技術センターと共催して、“夢の光” 放射光講演会を全国各地で開催してきた。今回は第6回の講演会を浜松市のアクトシティ浜松研修交流センターで2月8日に開催した。出席者は64名であったが、会場の都合で参加申込みをお断りしたのが 10名以上あったそうである。従来の講演会では地元の教育委員会にお願いして、高校の先生方が参加者の中心であったが、浜松では産業界が熱心で、特にSPring-8とも係わりが深い浜松フォトニクスから多数の参加者があった。
 最初の講演は「放射光で新材料を創る」と題して岡崎国立共同研究機構分子科学研究所の宇理須恒雄教授の話があった。宇理須教授は長年NTTの研究所で放射光による新しい半導体工程の開発を進めて来られ、放射光による光反応プロセスの研究では世界的に有名な研究者である。

 放射光励起プロセスが従来の化学反応と異なる点は、

①利用する軟X線は波長が短いので、超微細加工の可能性を有する。

②物質の電子状態を効率的に励起できるので、多様な光化学反応が期待できる。

③特に内殻電子の励起による化学反応は、特定の結合を選択的に切断し活性化できる。が挙げられ、これを前提にしていくつかの例が紹介された。

 エッチング応用については、放射光励起エッチングとアブレーションについて、実例によってそれぞれの特徴を説明された。放射光励起エッチングではガスの組合わせによって反応が異なってきて、異方性エッチングや材料選択性、さらには高い空間分解能など十分実用性があることが示された。

 CVD応用については、窒化シリコンやアルミの膜形成で、放射光によって反応速度を制御する例が紹介された。エピタキシャル成長の例として、放射光励起ガスソースMBEの成長機構について詳細な解析結果が紹介された。最近注目を集めているマイクロマシン応用についてPZTとテフロンの加工例が紹介された。

 最後に展望について語られた。放射光励起反応の特徴は、内殻電子の励起によるサイトスペシフィック効果であり、ナノ加工の面からもおもしろい問題として、基礎科学と応用技術の両面で発展が期待される。特に新材料創成という観点から、化学反応を制御することにより、従来にない特性の物質の合成が可能であり、今後のおもしろい問題であると結ばれた。

 次の講演は「集積回路用極薄膜を調べる」と題して、富士通研究所の古宮聰主幹研究員の話があった。古宮主幹研究員は長年高エネルギー物理学研究所において半導体の材料評価関係の研究を続けてこられた。半導体産業の歴史は小型化、高精度化によって、如何に多くの機能を一つの集積回路に収容するかの問題への挑戦の歴史である。そこではあらゆる超先端技術を積み重ねてこれを実現するかに研究者は日夜全知全能を振り絞っている。その結果今日の集積回路が実現したのであるが、この挑戦はまだ続いている。その一端を薄膜の評価という側面から紹介された。

 集積回路用の薄膜は主に配線材料としてのシリサイドとゲート酸化膜であるが、その膜厚はそれぞれ 30nm,10nm以下である。シリコン基板は直径30cmを越える大面積になっているが、この面全体に一様に精度よくこれらの膜を形成する技術もさることながら、不純物濃度をppbのオーダーに保って所定の化学的構造を確保することは、全く気の遠くなる話である。

 このような高度の加工工程を実現するためには、試行錯誤では不可能であって、相応の評価法を確立することが不可欠である。このような薄膜の評価法として、X線の全反射を利用する。X線の屈折率は極僅かに負であるから、入射角を0.50程度にすれば全反射が起こり、 X線は表面から数nm程度しか侵入しないので、全反射したX線には極表面の情報だけが含まれる。不純物の濃度を検定するには蛍光X線分析の手法によってppb程度の測定が可能である。化学的構造はX線回折法によって解析できる。これらの手法が実例を交えて紹介された。またX線反射解析によれば、膜厚、密度、表面・界面の凹凸に関する情報が得られ、放射光を利用したときの精度は、膜厚で0.01nm、密度で0.1g/cm3、凹凸で0.01nmに達している。

 集積回路の開発は、微細化の一途をたどり、原子何層分とか、1012個に一個の異原子とかを制御する必要に迫られている。 今後とも微細化の要求が止まるとは考えられず、ますます小さなものを作る技術や材料の開発が求められるが、ますます計測技術が追いつかず、見るのが困難になる。SPring-8がその突破口を開くものと期待していると結ばれた。
 以上2件の講演は、それぞれの分野の先端的成果を紹介されたもので、プロ級の聴講者に感銘を与えたが、主婦を含む今回の聴講者にも十分理解できるように配慮されていた。これはそれぞれの分野の裏表に通暁してなければできないことで、その高水準の研究成果と普及啓発へのご努力に深い敬意を表したい。

 コーヒーブレークの後、放射光とSPring-8に関するビデオの紹介があった。
 最後の講演は、「SPring-8に期待する」と題して、筆者が話をした。まず放射光とは何か、その用途はどんな分野があるかを通説した後、SPring-8建設の現状をOHPによって紹介した。 
 

 
 
 続いてSPring-8建設の意義について述べた。 SPring-8は極めて優秀な研究施設であるが、どんな研究成果があがるかはこれから施設を利用する研究者の力量にかかっている。現在の科学の進歩は停滞気味である。こんな時には過去の科学の総点検が必要であり、既に科学者の間にもそんな声が上がっている。例えばNaClの結晶では、Naの電子が1個Clに移動して、NaとClになっているとは中学の理科の教科書に出ているが、それは確認済だろうか。未確認の事実を見て来たように教えてはいないだろうか。実は近年のX線による精密構造解析によって、平均0.7個の電子が移動していることが確認された。

 もう一つの話題は超伝導である。約10年前高温超伝導が発見されて大騒ぎをしたが、その発現機構は従来考えられていたいわゆるBCS機構ではなさそうだということが最近やっと明らかになった。その新機構発見の切り札になるような実験がSPring-8で出て来るようなら、新しい科学の進歩に寄与することになる。その結果常温超伝導物質が発見されることにでもなれば、社会的経済的な貢献も計り知れない。わたしはそのような活躍をSPring-8に期待したいと結んだ。

 最後に終始熱心に聴講していただいた参加者の皆さん、さらには事務局のみなさんの熱意に敬意を表したい。 
 

林田 敏明 HAYASHIDA Toshiaki

昭和6年9月28日生

(財)高輝度光科学研究センター

〒678-12

兵庫県赤穂郡上郡町金出地1503-1

 TEL:07915-8-0962

FAX:07915-8-0965

略歴:昭和29年京都大学理学部物理学科卒業。昭和35年京都大学大学院理学研究科修了(理学博士)同年三洋電機株式会社入社、太陽電池、熱電素子、LSI、信頼性工学、コンピューターシステム等の研究開発に従事。昭和57年塩屋研究所所長。昭和62年研究開発本部調整担当。昭和63年より関西経済連合会高度技術委員会、大阪科学技術センターなどでSRの利用調査等に参加。平成元年より(財)高輝度光科学研究センターの設立に参加。平成2年(財)高輝度光科学研究センター審議役。平成3年三洋電機㈱退社。平成4年(財)高輝度光科学研究センター理事。平成7年参与。趣味:陶芸・俳句。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794