ページトップへ戻る

Volume 02, No.3 Pages 31 - 34

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第4回 3極ワークショップ報告
The 4th APS/ESRF/SPring-8 Workshop Report

宮原 義一 MIYAHARA Yoshikazu

日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 加速器系グループ JAERI-RIKEN SPring-8 Project Team Accelerator Group

Download PDF (39.00 KB)

 

 

 第4回APS/ESRF/SPring-8の合同ワークショップは4月7、8日ESRFで開催された。出席者はAPS、SPring-8からそれぞれ11、9名でESRFからは約20名あった。加速器関係についていえば、ビーム運転を始めてから極めて短期間に所期の成果を達成したことにより、SPring-8の力量が認識されたことは個々の会話で感じられたことで、有力なパートナーが現れたとして歓迎されている。APS、ESRFともビーム性能が上がるにつれて、マシン系、利用系で着実な技術的進歩が見られる。そのなかでも今回特におもしろいと思ったのは、新型のRFライナーとX線収束装置である。ESRFでは真空チェンバーの内側につけるRFライナーとして、ソックス型編み目状のものを開発した。また、アルミ棒に一列に穴をあけただけの簡単なX線収束装置を開発した。以下に当日のメモを見ながら概略を報告するが、正確を期す場合は別途確認していただきたい。(コミッショニングの詳細については本誌別項参照)

 

 

1.マシン関係

 APS、ESRFともマシンは順調に運転されている。APSでは昨年7月から正式なユーザー利用モードになっている。陽電子ビームが100 mA、8時間毎の入射で運転されていて、ユーザー利用率は80%強である。マシンのチューニングやビーム診断の時間が減り、RFエラーや諸電源の起動の割合が増えている。陽電子ビームは400 MeVの小型リングに一時的に蓄積してからシンクロトロンで加速し、7 GeVリングに入射されるが、小型リングでビームサイズが十分に縮小しているので、7 GeVリングには10-7の純度で単バンチ運転が実現されている。通常、純度向上のために行われているRFクリーニングはAPSでは行われていない。(Shenoy, APS)

 

 ESRFではビーム電流200 mA、寿命53時間、エミッタンス4 nmrad、1%カップリングで定常的に運転されている。単バンチ運転のほかに1/3fill や2/3fill と1〜4バンチを組み合わせた混合運転も行われている。1〜4バンチ運転はビーム電流5〜7 mA、寿命7時間である。ユーザー利用時間は96%まで向上している。これまで1.5 m単位の挿入装置が44台製作設置された。(Y. Petroff, ESRF)

 

 SPring-8の入射器と蓄積リングのコミッショニングについて、それぞれH. YokomizoとY. Miyaharaが報告した。

 

 APSではトップアップ運転のために引き続き準備研究を行っている。入射効率は90%以上で、100 mAでビームラインのシャッターを開閉したとき、ガンマ線量で2倍の違いがある。蓄積ビームへの影響や、挿入装置の磁化にたいする影響を調査中である。ビーム電流変化を今年0.1%に、再来年に0.01%に抑えることを企図している。(J. Galayda, APS)

 

 電子ビームの軌道補正はビーム位置モニター信号をもとに0.0001 - 50 Hzの範囲で数秒毎に行い、30ミクロンの揺れを10ミクロンに抑えている。これは DSPを用いた補正電磁石の制御により、空芯コイルでアルミチェンバー越しに行われている。(L. Emery, APS)

 

 RF空洞ではチューナー部に発熱と脱ガスの問題がある。チューナーのセンタリングが悪いためであるといっている。また、RFカプラーのセラミック部のマルチパクタリングを抑制するためにこれらの再設計を行っている。(J. Jones, APS)

 

 ESRFではリングの直線部にエネルギー分散を許容することにより、エミッタンスを当初の6 nmrad から3.8 nmradに下げたが(1996)、さらに3.0 nmradに下げる予定(1997)。従来、アンジュレータに対しては、ベータ関数は10〜20 mと大きくするのが常識的であったが、磁極ギャップの縮小に合わせて、2.5 mに小さくした運転を昨年末から行っている。これにより、ビーム寿命15時間が25時間に伸張し、輝度も増大した。(A. Ropert, ESRF)

 

 ビーム寿命は1/3fillではガス散乱とタウシェク効果で決まっている。2/3fillにするとビーム寿命が伸び(190 mAで40 h)、入射時間も短縮され、ビームの安定性もよい。単バンチ運転(15 mA、7 h)では、規格化クロマチシチーを0.5にするとビーム不安定(head-tail効果)が抑制される。しかしバンチ長は約3倍の73 psに伸びる。単バンチビームの純度はRFクリーニングにより10-7を得ている。混合運転では 1/3fill 部が0.6 mAであるので、RFクリーニングで単バンチの純度を上げるには、入射時に単バンチの純度を上げる必要がある。このためRFガンを検討する。(J. L. Revol, ESRF)

 

 ESRFでは当初からバンチ間結合不安定性があり、1/3fillによるRF空洞電圧の変調で抑制を行ってきた。敷居値は1/3fillで約180 mA、full fillで約100 mAである。これはシンクロトロン振動数の広がりによるランダウ減衰で説明できることは当初から言われていたことであるが、改めて解析的に示された。現在2/3fill運転も行っており、またfull fill運転を望むユーザーもいる。このため今年の夏、5セル空洞4台を6台に増大して、振幅変調をかける予定。(J. Jacob, ESRF)

 

 真空チェンバーのべローの内側につけるRFライナーに関しては、以前、ESRFで16バンチ運転のとき発熱脱ガスのトラブルがあり、改善の努力がされてきた。すなわち蛸足状に広がったベリリウムカッパーを外側から一個のスプリングのかわりに二個でおさえたが、16バンチ200 mAでガス圧が10-6 Paまで、温度が160度まで上がった。新しい試みとして、直径0.5 mm程度のステンレス線に銅または銀をメッキしたものを編み目状に編んだソックス構造のものを試験したところ、温度上昇、脱ガスとも見られないという優れた結果が得られた。現在、ビーム結合インピーダンスをテストベンチで測定している。(J. M. Lefebvre, ESRF)

 

 APSでは同材質で蛸足状(厚さ約1 mm、幅約5 mm)のライナーを内側から相手側にはめこむ様式のものを試験したところ、100 mA、10〜30バンチで52度まで温度が上昇した。(J. Jones, APS) ちなみに、SPring-8では当初、APSと同様に、ただしテーパーをつけて、蛸足状のアルミ合金を内側からはめ込む方式であったが、外側からくわえる方式に変更された。

 

 APSの光ビームによるビーム診断によれば、20 mAの単バンチ運転でバンチ長(30 ps)が60 psに伸びる。またビームサイズは20分位の周期で変動するのが見られる。これはRF空洞の冷却水温度の変動と一致する。今後エミッタンス測定等X線によるビーム診断をおこなう。(A. Lumpkin, APS)

 

 挿入装置に関するX線ビーム位置モニターの大きな問題は、挿入装置光と偏向磁石光が重なるために識別しにくいことであるが、DSPによるプログラムにより、ギャップを変えたときのX線のビーム位置を5ミクロンの精度で校正できた。校正関係はマシンの運転モードと挿入装置の状態に依存するのでデータベースを作る予定。(T. Kuzay & D. Shu, APS)

 

 

2.挿入装置関係

 APSの挿入装置はいろいろなタイプを含めて約20台製作設置された。磁場調整においては位相エラーを3度以内に抑えた結果、ガスおよび単結晶の分光器で得られた放射光のスペクトルは10〜40 keVの範囲で計算値とよく一致する。磁場の積分強度は20例について水平方向で10〜60ガウスcm、垂直方向で20〜100ガウスcmである。

 楕円偏光ウィグラーは垂直磁場の永久磁石と水平磁場の電磁石を結合したもので、磁極数16、最小ギャップ24 mm、最大水平磁場1 kGを10 Hzで発生する。励磁電流は1 kA。

 挿入装置の磁化は放射光や電子ビームの衝突で1年間で10 G減少した。

 円偏光用挿入装置として、楕円偏光ウィグラーと同様の結合型のものが開発されている。特徴は水平磁場発生用として水平方向に開口した4極磁石を用い、真空チェンバーの挿入を容易にしている。

 また超伝導磁石によるミニポールアンジュレータも開発された。周期長10 mm、全長1 m、ギャップは3.6 mm固定、最大磁場1.3 Tである。ビーム入射時は装置全体を水平に移動して、口径の大きい真空チェンバーに入射する。(E. Moog, APS)

 

 SPring-8では11台の挿入装置を製作中である。

 SPring-8で標準となる真空封止型の挿入装置は昨年夏、ESRFでビーム試験が行われた。その際、ギャップ7.9 mmでビームロスが始まり、5 mmで全てロスした。ステンレス製の磁石カバーの外側上流部が一部溶解していた。原因は偏向磁石の放射光軸のズレおよびカバーと磁石列の剥離による熱伝導低下と推定された。対策として、ステンレスの代わりに熱伝導の良い銅メッキしたニッケル薄板(厚さ50ミクロン)を使用することにした。

 NSLSとの共同研究で周期長11 mm、周期数27、最小ギャップ3 mmのミニポールウイグラーを開発した。(H. Kitamura, SPring-8)

 

 ESRFでは4.5 mの挿入装置を3分割している。分割した挿入装置による放射光の位相関係を正しく保つために、終端磁極の磁石列を工夫した反対称位相調整法を開発した。測定された放射光のスペクトルは計算値とよく一致する。この方法はすでに公表されているが、今回更に永久磁石と鉄心の結合型挿入装置にもこの方法を適用した。ただし、ギャップによる位相変化が大きいために調整は容易でないという。

 左右円偏光用として高速切り替えの挿入装置が開発された。これは永久磁石と電磁石を結合したもので、切り替え速度は500 Hz、最小ギャップは16 mmで、今年6月磁場測定の予定。(J. Chavanne, ESRF)

 

 APSもESRFも挿入装置の磁極ギャップを縮小するために、真空チェンバーは内径8〜10 mm、外形10〜12 mm、横幅50 mmのものを実用化している。APSのはアルミ合金製で、横のスリットを介してNEGポンプでガス引きをしている。ESRFでは銅メッキしたステンレス製で、冷却だけで、ガス引きはない。設置前に400度で15日間ベーキングしたという。いずれもビーム負荷時に10-7Paの真空度を得ている。(N. Rouviere, ESRF)

 

 

3.光学関係

 T. Kusay(APS)は、mass flow meterを介して窒素ガスをフロントエンドに導入し、フロントエンド各部の圧力上昇を観測するshockwave testを紹介するなど、APSにおけるフロントエンドの稼働状況および特性を報告した。J. C. Biasci(ESRF)は、現在進行中のdiamond windowの試験結果、polished Be windowおよびdiamond filterで構成されるcoherent transmission用光学系を紹介した。S. Macrander(APS)は、coherent transmission 用光学素子の製作、評価用装置として、現在使用中のdouble crystal topography、large sputter deposition system、TOPO surface profiler等を紹介した。J. Baruchel(ESRF)は、phase sensitive topographyをめざすlong topography beamline(BLID19)を紹介し、talbot effectにもとづくcoherent transmission用光学素子の評価方法について報告した。

 

 A. Snigirev(ESRF)は、Al(3%Mg)製およびBe製のcompound refractive lensをもちいてX線の収束を行い、焦点広がり3.17ミクロン(19 keV)、2.5ミクロン(9 keV)の集光を実現したことを報告した。 P. Ellaume(ESRF)は、アンジュレータ光のcentral coneのimaging およびfocusingに関して、30 keVにおいて0.12 mm × 0.058 mmの集光を達成したことを報告した。N. Yagi(SPring-8)は、pin-post冷却Si単結晶モノクロメーターの開発状況について報告した。

 

 

4.検出器関係

 M. Suzuki(SPring-8)は、multiple CCD X-ray detector計画およびmicrostrip gaseous detector計画について報告した。J. Morse(ESRF)は、CCD型X線検出器を4方向から読み出し、59 msの読み出し速度を実現したことを報告した。M. Thomas(ESRF)は、IPの高速化の可能性について、また、S. Wakatsuki(ESRF)は、MAR Research製のCCD型X線検出器について報告した。G. Mourou(CUOS)は、100 fsレベルで動作するjitter freeのstreak cameraについて、また、F. Schotte(ESRF)は、サブピコ秒オーダーでのX線回折測定について報告した。R. Dimper(ESRF)は、X線検出器から5 Gbyte/dayに達する計測情報が発生していることを指摘し、20 Gbyte/dayに対応できるNICE system(Network Interactive Computing Environment)の整備について説明した。

 

 

5.研究協力

 APS、ESRF、SPring-8で研究協力を行うものとして、以下のテーマが提示された。

 

5-1 マシン、挿入装置関係

 a)セラミック表面のマルチパクタリングを抑制するためのRFカプラーの改良

 b)横方向モード結合不安定性抑制のための早いフィードバック法の開発

 c)蛸足法やソックス法等のRFライナーの開発

 また、情報交換を密に行うものとして、以下のものが挙げられた。

 a)RFガンの開発(高純度の単バンチビームを得るために)

 b)コミッショニング時の脱ガス速度

 c)ピンホールによるX線電子ビームエミッタンスモニター

 d)ベータトロン振動のカップリングの抑制(現在APS 2%、ESRF 0.7%)

 e)バンチ間結合不安定性(APSでは100 mAでも見られない)

 f)真空封止型アンジュレータ(ESRFで1台設置予定)

 

5-2 光学関係

 a)フィルター、アブソーバー、ウィンドウのための高熱負荷物質の開発

 b)0.1 nmスケールのなめらか表面のミラーの開発

 c)コーヒーレンスの測定と擾乱の抑制

 d)高純度、巨大単結晶ダイヤモンドの開発

 

5-3 検出器関係

 以下について定期的な会合と情報交換を行う。

 a)検出器の開発およびデータ取得と処理

 b)検出器の実行性能および利用者の使いやすさ

 

 

 当ワークショップのOHPのコピーが近くESRFから配布される予定である。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794