Volume 02, No.3 Pages 20 - 22
3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE
11本目以降の共用ビームライン計画について
SPring-8 Public Beamline Construction Plans after the First Ten Public Beamlines
(財)高輝度光科学研究センター 企画調査部 Japan Synchrotron Radiation Research Institute (JASRI) Research and Planning Department
平成9年度後半から供用が開始される10本の共用ビームラインは、SPring-8第1期計画(昭和63年度から平成9年度前半までの期間)として日本原子力研究所及び理化学研究所によって計画され、現在建設の最終段階を迎えようとしています。これらのビームライン計画は、平成5〜7年度に大阪大学菅滋正教授を委員長とする「ビームライン検討委員会」が広く国内の利用研究者から建設計画の提案を求め、国内外のレビュアーからの意見も参考にして取りまとめた原研・理研に対する答申に基づいて選定されました。これら10本のビームライン計画は、SPring-8に全体として30本以上整備する予定の共用ビームラインの最初の計画となります。
供用開始後のSPring-8第2期計画(平成9年度後半からの大凡10カ年計画)においては、加速器複合体及び最初の10本の共用ビームラインの運転・維持管理・高度化と並んで、共用ビームラインの増設が重要な課題となります。また、SPring-8第1期計画が原研・理研による建設の段階であったのに対し、SPring-8第2期計画は、JASRIによる運営の段階となるのが大きな特徴です。このため、原研・理研及びJASRIは、三者共同で供用開始後の2〜3年の間にSPring-8に整備すべき第11〜20番目までの新たな10本の共用ビームライン計画を検討しています。
計画の検討は最初の10本の計画選定の際と同様の方法で行われていますが、昨年度末に新たな「ビームライン検討委員会(委員長:高エネルギー物理学研究所下村理教授)」から原研・理研・JASRIの三者で構成している「特定放射光施設運営調整会議」に対して検討結果の中間答申の骨子が報告されました。本稿では、この中間答申「大型放射光施設に整備する共用ビームラインに係る技術的重要事項の検討評価について(骨子)」を紹介します。
共用ビームライン計画に関する中間答申の骨子
1.検討経過及び概要
平成8年度中に、第11〜20番目の共用ビームラインとして整備すべき計画のうち、SPring-8で実施する緊急性等の高い数計画を取りまとめることとし、選定は、第1〜10番目の共用ビームライン選定の際と同様、広く国内利用研究者から「計画趣意書(Letter of Intent)」及び「計画提案書(Proposal)」の2段階の提案に基づく計画内容の検討評価により実施することとした。
「計画趣意書」の募集に基づき、提案のあった21の計画について検討評価し、7件の計画に対して「計画提案書」の提出を依頼した。(医学利用に関する2件及び回折物性、反応結晶学、粉末・薄膜回折の3件の趣意書はそれぞれ1件にまとめて「計画提案書」の作成を依頼)。提出された7件の計画提案書の内、医学利用を除く6件について、国内外レビュアー12名から計画のオリジナリティー、将来性等に関する意見を聴取し、それらの意見も参考に、SPring-8側から別途提案のあった医学利用R&D中尺BMビームライン計画を含む7件の提案について検討評価を行った結果、6件の計画に高い優先順位を与えるのが適当と判断した。また、医学利用IDビームライン計画については、今後SPring-8側が中心となってR&D及び計画内容の検討を行い、医学利用実験施設に整備するのが適当なビームライン計画を取りまとめることとした。
引き続き、共用ビームライン計画の検討評価を行い、平成9年度末までに、今回答申の計画を含め全体で10計画を取りまとめる。
2.共用ビームラインとして推進するのが適当な6計画の概要
SPring-8蓄積リングに設置可能なIDの数を考慮し、趣意書の募集に当たってはBMの利用計画を歓迎する旨の案内を行い、本年度はBM:3計画とID:3計画の合計6計画を選定した。IDビームライン計画については、放射光の仕様に基づく内容及び名称とし、多様な実験に対応し得るよう配慮した。
なお、最初の10本の共用ビームライン計画の1つとして採択され、軟X 線光化学ビームライン(BL27SU)への併設が検討された「原子物理ビームライン計画」については、必要とするエネルギー領域に対応する他のビームラインに併設するのが適当であり、今後SPring-8側において、専用ビームラインへの併設も含めた計画の調整を行うこととした。
(1)高輝度ビームライン(真空封止ヘリカルアンジュレータ)
分光器を用いないユニークなビームライン。提案された「構造生物学研究用」にとらわれず、汎用の高輝度(高フラックス)ビームラインとして建設。高計数率検出器、放射線遮蔽等に関する検討が必要となる。
(2)赤外物性ビームライン(偏向電磁石)
実験手段としての広がりを確保するためSPring-8に設置するのが適当なビームライン。今後、偏光利用、集光系、固体以外の試料への対応、放射線遮蔽等に関する検討が必要となる。
(3)高分解能ビームライン(真空封止標準アンジュレータ)
非弾性散乱実験を含む高エネルギー分解能を必要とする実験に用いるビームライン。標準型の前段分光器を設置するため、今後、他の科学技術分野から提案される実験ステーションとの併設が可能である。
(4)粉末回折・結晶回折ビームライン(偏向電磁石)
汎用の回折・散乱実験用ビームラインとして建設される結晶構造解析ビームライン(BL02B1)と性能的に同一な第2番目の汎用ビームライン。主に粉末及び結晶回折実験を対象とする。
(5)表面界面構造解析ビームライン(真空封止標準アンジュレータ)
実験手段としてSPring-8に整備することが重要なビームライン。垂直偏光利用について検討する必要がある。
(6)医学利用R&D中尺ビームライン(偏向電磁石)
医学利用実験施設に整備する最初の中尺ビームライン。中尺ビームラインの建設技術、放射光を利用する新しい診断技術・治療技術、新しいイメージング技術等のR&Dを実施する。
参考資料1 「計画提案書」の提出があった共用ビームライン計画(8件)
区 分 | ビームラインの名称 | 提案者 | 光源の型 |
生物・医学 | Medical Application Beamline 1 | 宇山 親雄 | |
Super High Flux Beamline for Structural Biology | 八木 直人 | U | |
Medical & Imaging Application R & D | 石川 哲也 | BM | |
分光 | Atomic Physics Beamline | 木村 正広 | U |
散乱・回折 | Inelastic Scattering Beamline | 田中 良和 | U |
構造 | Surface and Interface Structu | 高橋 敏男 | U |
Crystal Structure Analysis 2 | 大嶋 建一 | U | |
Infrared Spectroscopy | 難波 孝夫 | BM |
(U:アンジュレータ、BM:偏向電磁石)
3.医学利用実験施設に整備するビームライン計画について
医学利用実験施設に整備される中尺ビームラインのうち、BMビームラインについては、2.(6)のとおり、共用ビームラインとして早期に整備することが重要である。一方、IDビームラインについては、BMビームラインの建設と並行してSPring-8側を中心にR&Dを進め、臨床応用試験及びその実施体制をも念頭に置いたビームライン計画を策定し、提案することが重要である。
参考資料2 ビームライン検討委員会委員(平成8年度16名)
高エネルギー物理学研究所教授 | ||
委 員 | 青野 正和 | 理化学研究所主任研究員 |
雨宮 慶幸 | 東京大学工学部助教授 | |
石川 哲也 | 共同チーム研究開発グループ・利用系グループ・ビームライン建設グループ | |
植木 龍夫 | 共同チーム利用系グループリーダー | |
大野 英雄 | 共同チーム研究開発グループリーダー | |
柿崎 明人 | 東京大学物性研究所助教授 | |
北村 英男 | 共同チーム研究開発グループ・利用系グループ・ビームライン建設グループリーダー | |
熊谷 教孝 | 共同チーム研究開発グループ・加速器系グループリーダー | |
古宮 聰 | 株式会社富士通基礎技術研究所主管研究員 | |
佐々木貞吉 | 日本原子力研究所先端基礎研究センター放射光表面化学研究グループリーダー | |
笹本 宣雄 | 共同チーム安全管理グループリーダー | |
佐藤 繁 | 東北大学理学部教授 | |
菅 滋正 | 大阪大学基礎工学部教授 | |
平井 康晴 | 株式会社日立製作所基礎研究所主任研究員 | |
松下 正 | 高エネルギー物理学研究所教授 |