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Volume 02, No.1 Pages 43 - 47

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

ビーム物理研究会報告
Report on Beam Physics Meeting

中村 剛 NAKAMURA Takeshi

日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 加速器系グループ JAERI-RIKEN SPring-8 Project Team Accelerator Group

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 (財)高輝度光科学研究センターならびにSPring-8共同チームの主催のもと、11月21、22日の2日間、SPring-8において第1回のビーム物理研究会が開催された。ビーム物理研究会は、ビームについての物理を基礎的観点から議論するための研究会であり、ビームとしてはSPring-8 で研究されているような電子や光のビームから、陽子、重イオン等からなるビームまで多様なビームを対象としている。
 今回の研究会では、発表時間を比較的長くとり十分な議論ができることがプログラム編成上の要点とされていたため、この記事においてもすべての発表について要約することが可能な程度の数となった。以下において、発表者の意図する主題からはずれていたり、または不適切な内容である場合は、そして要約の量が均等とはならなかった点は、ご容赦ねがいたい。また、筆者が単語、内容の説明としてつけ加えた部分がいくつかあることをお許し願いたい。なお、高エネルギー物理学研究所をKEKと表記させていただいた。 
 
電子ビームのエミッタンス測定  鎌田 進(KEK)
 TRISTAN MRの放射光運転における電子ビームのエミッタンスの測定方法についての解析。可視領域の放射光をレンズにより結像させたビーム像の測定による方法では、回折の影響や粒子シミュレーション=光子のトラッキングによる発光点深度等からの誤差の評価。アンジュレータ光の発散角分布測定による方法では、アンジュレータの誤差磁場による軌道のずれのからくる誤差の、やはり粒子シミュレーションによる解析。また、ラティスの非線形磁場によりベータトロン振動数に振幅依存性が生じているが、それによりビームサイズやコヒーレント振動の振幅に応じてビーム内の粒子の振動数の広がりが発生する。この広がりはビームのコヒーレント振動のダンピング時間を測定する事により求まり、ビームサイズを推定できる。これによる方法では、ビームサイズ、コヒーレント振動の振幅に対する非線形磁場からのダンピング時間の評価、測定結果との比較など。 
 
gamma-gamma 衝突とその周辺  遠藤 一太(広島大・理)
 gamma-gamma衝突器とは、日米欧でそれぞれ検討されているTeV級の電子―陽電子リニアコライダー(線形衝突器)を用い、高エネルギー電子ビームにレーザー光をぶつけ、光子を電子で反跳させて電子エネルギー程度のエネルギーを持つ光子を生成、また反対からくる(陽)電子からも同様に光子を生成して、高エネルギーの光子同士を衝突させようという衝突器である。衝突断面積もこのような高エネルギーでは十分に電子―陽電子衝突と競合する程度となり、また電子―陽電子とは異なる反応が期待できる。これについての解説と、必要なレーザー(数百GW、1Jで繰り返し数百Hz―数kHz)について。また、このための基礎実験を広島大に完成する電子周回装置や放射光装置を用いて行う。 
 
プラズマ加速の現状  小方 厚(KEK)
 プラズマ中に高出力レーザーや荷電粒子を入射し、プラズマ中の電子を弾きとばして密度変調することによりレーザー場や粒子の進行方向に対して縦方向のプラズマ波が発生する。この波のもつ電場は数―数十GV/m と従来の加速器の発生する電界に比べて2桁ほど高く、これが加速に利用できればリニアコライダーなどの線形加速器をそれだけ小さくできる。プラズマ波を発生する方法として、プラズマ 波長より短い長さの荷電粒子バンチやレーザーパルスを入射して発生するウェーク場を用いる方法、波長のずらした2つのレーザーを重ね合わせて入射することによりプラズマ波の波長のビートを立て、レーザー場の強いところから電子をはじき出してプラズマ波を励起する方法、そして、プラズマ中の電子を相対論的運動させるほどに強いレーザー場の場合、レーザー強度分布と電子密度分布に正のフィードバックが起こり不安定性が発生、両者の分布に自ら変調を生じプラズマ波が発生する、という現象を用いた方法など種々あるがそれらの解説、問題点、すでに数―数十GV/mの加速勾配が観測されている実験の現状、リニアコライダーの概念設計、最近のレーザー技術の進展など。 
 
光子ビームを用いた電子ビーム冷却の可能性  伊達 伸(SPring-8)
 電子ビームの冷却に対しては、従来、確率冷却、すなわちレーザーや特殊なアンジュレータを用いてレーザーの波長程度のスケールでバンチ内でのtransverse な位置の揺らぎの分布を測定し、また測定に用いた光を増幅してそれによりその分布に補正をかけるようなキックを与えるシステムが提案されてきたが、ここでは、イオンに対するいわゆるelectron coolingすなわち、冷たい電子ビームを熱いイオンビームと併走させてイオンを電子で冷やす手法を、熱いイオンを熱い電子、冷たい電子を冷たい光子へと置き換えた手法について検討した。光子ビームのエネルギーをうまく選んで電子ビームと平行に入射することにより、電子に光子を追突させ電子のtransverseな運動量を奪い、かつそれによるエネルギー損失をおぎなうように電子バンチの進行方向のエネルギーが光子により与えられるようにでき、電子ビームの発散角をトータルなエネルギー損失なしに減少させることができることを示した。ただし光子ビームの光子エネルギーとパワーはどちらも非常に高い値が必要となる。 
 
放射光の干渉実験  高山 泰弘(総研大)
 2つのスリットを通った放射光を干渉させて生じる干渉縞の形状から、KEKフォトンファクトリーの放射光の空間コヒーレンスを測定した。2つのスリットの間隔を変えた場合の鮮明度(山の高さ、谷の深さ)の変化から放射光の空間コヒーレンスが求められるが、空間コヒーレンスに対する電子ビームのエミッタンスの影響を評価することにより電子ビームのエミッタンスを求めることができる。実験では、予想されるエミッタンスより一桁程度小さい値が得られてしまい、今後の検討課題となっている。この実験では1次のコヒーレンスを観測したが、将来は強度相関による2次のコヒーレンスの観測とそれによるビームエミッタンスの測定を行いたい。 
 
コヒーレント・シンクロトロン放射のシミュレーション  高橋 千賀子(KEK)
 バンチ長より波長の短い放射光ではその強度は電子数に比例するのに比べ、それより波長の長い放射光の強度は電子数の2乗に比例するので強い光となり、コヒーレント放射光と呼ばれる。電子バンチを曲げてバンチ長を圧縮するバンチコンプレッサーにおいてこのような光が発生、その光が再びバンチと相互作用して電子ビームのエミッタンスを悪化させる可能性があることが指摘されている。このようなコヒーレント放射光の発生とバンチに与える影響を解析するため、MAFIAのように、電磁場のMaxwell方程式を直交メッシュを用いた差分法で解くことのできる3次元電磁場シミュレーションコードを開発中である。現在、直交2次元でのコードを開発し、理論値との比較等の検討を行った。 
 
High Energy gamma-Beam from Intracavity Backscattering of SRFEL  保坂 将人(分子研)
 分子研の蓄積リング自由電子レーザーを用いて、光共振器内のレーザー場と電子とのコンプトン散乱により十数MeVガンマ線を生成した。共振器内のレーザー場を使うことにより、高収量に必要な強いレーザー場(平均20W@50mA/bunch)、ガンマ線エネルギー可変(自由電子レーザーなので波長が可変)、レーザーと電子の同期やアラインメント不要(自由電子レーザーが発振=これらは既に得られている)という特徴がある。こうして得られるガンマ線の収量、スペクトラムの計算ならびに測定結果。2体散乱なので前方に設け得られたコリメータのアパチャーによりエネルギー広がりと収量は決まるが、エネルギー広がり2%で2×106、10%で2×1010が得られる。
 
 
中エネルギー電子加速器を用いた共鳴遷移X 線源の開発
 栗田 高明(京都大・工)
 高輝度のX線は色々な分野で用いられているが、電子を用いてX線を発生させる方法は、磁場を使ったシンクロトロン放射以外にもいろいろと存在する。そのひとつであり、シンクロトロン放射にくらべて低い、数百MeVの中エネルギーの電子からでも発生することのできるX線源として、電子が誘電率の異なる領域の境界を通過する際に電子の進行方向に対しコーン状に発生する遷移放射(Transition Radiation)がある。そして数―数十ミクロンの膜を多数もちいて、それぞれの膜と真空の境界から発生する遷移放射X線を、このコーンの角度に対しては干渉により強めあう位相になるような間隔で並べれば鋭い単色性をもつX線が生成できる。これにより、数Åのところでは、高エネルギー電子を用いたシンクロトロン放射光と同程度のbrillianceを得ることができ、ビームは使い捨てとなるが、発生機構の効率は同程度であることがわかる。その理論的な解析と、核研ESを用いた実験結果。そして、コーン上に出てくる遷移放射の円筒形ミラー等による収束方法について。 
 
相対論的電子ビームと単結晶の相互作用について  高島 圭史(広島大・理)
 電子ビームが単結晶を通過する際に発生するパラメトリックX線ならびにチャンネリング放射光の実験。電子は静止しているときは等方的な電磁場をもつが、相対論的なエネルギーをもった場合、1/γのLorentz収縮を受け、進行方向にたいしてひらべったくなっている。電子が結晶を通過中に、そのような扁平な電磁場が結晶中の原子をパルス的に刺激することによりX線が発生する。このX線はパラメトリックX線とよばれ、入射電子のもつ電磁場が、X線ブラッグ散乱における入射X線の電磁場に置き換わったプロセスであり、電子の入射角に対しブラッグ条件を満たす方向にX線が発生する。遷移放射に比べて電子エネルギーが比較的低いところでも短波長のX線が発生するが電子エネルギーが高くなると遷移放射が強力となる。パラメトリックX線の発生についてビームの品質、結晶の厚さや温度への依存性を調べた。パラメトリックX線の特徴は多数の原子からの光の重ね合わせとなるので単色性がよいことと、ブラッグ条件を変えることによるエネルギー可変ということ、取り出しの容易さなどが上げられる。強度を上げる方法としては結晶の多層化、電子の循環による再利用がある。またチャンネリング放射光は、結晶のもつ非常に短い周期の電磁場がウィグラーのように電子を曲げて放出される光であり、高いエネルギーをもち単色性がよい。陽電子生成において、結晶とターゲットを用意し、まず電子を結晶に通してチャンネリング放射光を発生、これをターゲットにぶつけて陽電子を生成する方法を用いれば、電子を直接ターゲットにぶつける方法にくらべて(生成陽電子数)/(入射電子数)の比を数倍に増やすことができる。これらの放射光についての核研ESでの実験結果、ならびに広島大に完成予定の電子周回装置を用いた実験について。 
 
擬アイソクロナスリングの持つ可能性  庄司 善彦(姫工大・高度研)
 姫路工業大学では、New SUBARUと呼ばれる1-1.5 GeV の電子蓄積リングを新たにSPring-8の敷地内に建設中である。このNew SUBARU の特徴の一つとして、偏向磁石とは別にそれとは逆に電子を曲げる磁石をdispersion の大きいところに設置し、モーメンタムコンパクションファクターを小さくまたは負にまでコントロールできることがある。このような、擬アイソクロナス(等時性)=モーメンタムコンパクションファクターが0に近づいたリングにおいてどのような現象が見られるかについて考察した。コンパクションファクターはディスパージョン/曲率半径のリング1周についての積分により得られるが、これが1周では0となるように設定しても、場所によって例えばディスパージョンが0でないところで放射光を出した電子は、その放射光のエネルギー分に関してはその周回について半端なコンパクションファクターを持ってしまうことにより電子ビームの時間方向の放射励起が生じ、ビームが時間方向に拡散するという理論的発見をした。
 
短バンチに向けて  中村 剛(SPring-8)
 New SUBARUでは、短バンチの蓄積の可能性を探れるようにリングのラティスパラメータが決定されている。また、高ピーク電流が必要な自由電子レーザーなどの研究も検討されている。ここでは短バンチと高ピーク電流の両立が必要な場合の解析を行った。SPring-8に対して見積もられたインピーダンスを基にNew SUBARUのインピーダンスを見積もり、それによるウェーク場を用いてsingle-bunch不安定性のparticle-in-cellによるシミュレーションを行い、potential-well distortionやmicrowave不安定性による、バンチ長やエネルギー広がりの増大、最大バンチ電流を決定するhead-tail不安定性や、modecoupling不安定性などのtransverse不安定性などの現象を調べた。momentum compaction factorが正の場合には、potential-well distortionによるバンチ長の増大の効果が大きいことやmicrowave不安定性によるエネルギーの広がりが生じないこと。また、負の場合にはpotential-well distortionによるバンチ長の増大は小さいが、microwave不安定性によるエネルギーの増大が、低いバンチ電流から生じることがわかった。 
 
東北大核理研におけるコヒーレント放射実験  中里 俊晴(東北大・理)
 コヒーレント放射光のコヒーレントには2つの意味があり、それぞれに対してコヒーレント放射光が存在する。一つは電子の運動が放射光から見てコヒーレントであることから発生する放射光である。すなわち放射光を発生する電子が共同して位相のそろった波を放出する場合である。電子が個々に放出する光の相対位相は電子の進行方向に対する互いの相対位置で決まるが、電子のバンチ長が光の波長にくらべて十分に短ければ、電子のバンチ長程度の相対位置の違いによる、相対位相の違いは無視できる。この場合、その和となる光の場の振幅は電子数に比例、強度は電子数の2乗に比例しコヒーレント放射光とよばれる。一方、光の波長がバンチ長より短ければ、電子間の相対位相の広がりは光の1周期を越えて大きくなり、個々の電子からの光は0から2πのバラバラの位相の光を放出し、その和の光の場の振幅は位相分布の揺らぎの程度すなわち電子数の2乗根に比例、強さは電子数に比例する。線型加速器からのバンチの電子数が10の7乗や8乗であることを考えると前者、すなわちコヒーレント放射光は後者にくらべて遥かに強力な光である。コヒーレント放射光のこのような性質は光の生成機構には関係なく、シンクロトロン放射からチェレンコフ、遷移放射(TR)などでも観測できる。この場合、コヒーレントな運動を行うことにより、電子もまた、互いの発生した電磁場の影響を受けて減速され、電子エネルギー自体も放射強度が増えた分だけ損失する。
 もう一つは、時間コヒーレンスをもつ光を発生する運動を電子が行う場合である。たとえば、一つの電子が運動中に何度も電磁場を励起し、おのおので励起された電磁場が位相が強めあう重ね合わせになるような場合である。この場合、電磁場を構成する波の数が増え、すなわち時間コヒーレンスが増大し、スペクトル幅が小さくなるとともにそのスペクトルのピークでの強さは励起の回数の2乗となる。これはアンジュレータや前述の共鳴遷移放射、パラメトリックX線やチャンネリング放射光の場合である。この場合には、時間コヒーレンスが増えていることから、コヒーレント放射光と呼ばれる。
 東北大核理研において、世界で初めて、線型加速器からの電子バンチを用いた、強度が粒子数の2乗に比例するコヒーレント放射光が観測されたが、今回の発表では、東北大におけるビームパイプによるコヒーレント放射光スペクトルへの影響の実験についてのべられた。すなわち、ビームパイプが境界条件として存在するが、この境界条件下では、cut-off以下の、すなわち電磁場が存在しえない周波数領域がある。そのような領域の周波数の光は、ビームパイプという境界がない場合には放出されるのに対し、パイプの中では放出が抑制されるという現象がある。これが実験で確認された。
 そして、既に光の波長でバンチされた電子ビームによるアンジュレータ光のような場合には2つのコヒーレント放射の条件が共に満たされることにより(大阪大)、そしてまた、バンチ長より長い波長のコヒーレント放射光に対して、ミラーを用いて光を戻し、バンチと再び相互作用されれば、光は誘導放出となり(光の電場によりバンチ全体がコヒーレントに減速される)、誘導コヒーレント放射となって(遷移放射についてはスタンフォード大)、より強い光が得られる。これらの実験についても紹介された。
 
シンクロトロン振動の方程式およびハミルトニアン  鈴木 敏郎(KEK)
 シンクロトロン振動は、粒子が空洞において加速をうけ、リング中でエネルギーに応じて進行方向について前後の動きをすることにより生じている。空洞はリング中で局在しており従って実際には振動の方程式は、空洞によるエネルギーの変化については差分方程式、振動の位相については微分方程式、独立変数として粒子のリング周上の場所の形で書かれることになる。差分方程式では、空洞でのキックやシンクロトロン振動数が大きくなると、通常用いられているような差分方程式を微分方程式で近似するような解析では表され得なかった色々な不安定領域が生成される。これらを考慮し、かつベータトロン加速による項も含めたシンクロトロン振動のハミルトニアンを求めた。 
 
Longitudinal Beam Dynamics with Ultra-Wide-Band Cavity  森 義治、上杉 智教(東京大・核研)
 大型ハドロン計画(JHP)の大強度50GeV陽子シンクロトロンに用いることが考えられているUltra-Wide-Band空洞の持つ可能性についての発表。Ultra-Wide-Band空洞を用いることにより、大電流リングにおいて最も問題となるcoupled-bunch不安定性の成長率を小さく押さえることができることをシミュレーションにより確認。
 また、Ultra-Wide-Bandなので、ビームに与える電場を非常に短い時間スケールで容易に変化させられるため、蓄積ビームに対する種々のコントロールが可能。たとえば、ポテンシャル壁をこの空洞の電場により設け、以前に蓄積されたコースティングビームと高いピーク電流をもつバンチした入射ビームとをこの壁で仕切ることにより入射時における空間電荷の効果をやわらげるなど。 
 
Dynamics of Beam-Beam Interaction  Y.Batygin(理研)
 理化学研究所の重イオンリングサイクロトロン施設の次期計画として、RIビームファクトリーが計画されている。これは超伝導リングサイクロトロン、そこからのビームにより生成されたRIを加速するブースターシンクロトロン、そして、RI、重イオン、電子を蓄積、衝突させる二重の蓄積リング(DSR)からなる。ここではDSRにおける、2つの衝突、すなわちイオンcoasting-beamのmerging(同方向に走る2つビームを重ね合わせて衝突させる)や電子とイオンの正面衝突での、ビーム同士の電磁場による相互作用を2次元のparticle-in-cellシミュレーションにより解析し、ビーム非線形力学への影響を調べた。また、ノイズ的なビームサイズの変動等からくるビーム同士の非線形キックのゆらぎからの力学的不安定性についても解析。 
 
大強度イオンビームにおけるハロー形成について  池上 雅紀(京都大・化研)
 イオンビームの輸送系でのtransverseな分布において、ビームの粒子が集中している中央のコア部分に対し、その周辺に広がるビームのテイル、すなわちビームハローの存在は、物理的なアパチャーなどの要因でビーム粒子の損失につながりやすい。大強度ビームの場合、ハローの密度が薄くとも大きなビームロスにつながるのでこのハローの形成の研究は重要である。しかし、このようなビームには強い空間電荷が存在しその解析は容易ではない。ここでは、イオンビームの輸送系での挙動を解析するための2次元シミュレーションコードを開発し、それをもちいて色々な分布におけるハローを形成する粒子の生成機構を研究した。とくにビーム輸送系の収束系に対するビーム形状のミスマッチからくるビームエンベロープの振動(breathing mode)からの影響について調べた。そしてハローに対してperiodic-collimator-system(フォーカシングセルごとにコリメータをおく)というスクレーピング法を設置したセルをある以上の数、通過させることにより、それ以降の輸送系ではハローの再生成が生じないことが確認された。
 
 
 今回の研究会は、前述のように発表時間を比較的長くとり、十分な議論ができることを考慮して開催されたため、内容の濃い研究会となった。この研究会は少なくとも1年に1~2回は開催されることになると思われるので、ビーム物理について、どのような分野でもテーマをお持ちの方にはぜひ発表していただけるようお願いしたい。

中村 剛 NAKAMURA Takeshi
昭和34年7月27日生
理化学研究所、プラズマ物理研究室・大型放射光施設計画推進本部兼務
〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町SPring-8
TEL : 07915-8-0853
FAX : 07915-8-0850
e-mail : nakamura@spring8. or. jp
略歴:昭和57年京都大学理学部卒業、昭和60年同理学研究科中退、通産省工業技術院電子技術総合研究所入所、平成元年より理化学研究所。最近の研究:ビームと電磁場の相互作用、特にビーム不安定性、自由電子レーザー。



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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