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Volume 02, No.1 Pages 41 - 42

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第2回生命科学関連技術国際会議報告
The 2nd International Conference on Life Science and Biotechnology

神谷 信夫 KAMIYA Nobuo

日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 利用系グループ JAERI-RIKEN SPring-8 Project Team Experimental Group

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 表題の国際会議が「放射光による生命科学研究の新展開」をテーマとして、11月18日、19日の2日間にわたり、兵庫県先端科学技術支援センター(CAST)において開催された。この会議は兵庫県が、兵庫工業会、播磨テクノポリス財団、高輝度光科学研究センター、SPring-8利用推進協議会とともに主催したもので、国際規模の情報交流により、バイオテクノロジーにおけるSPring-8の幅広い応用の可能性を探ることを目的としている。参加者は2日間でのべ230人にも及び、その数の多さは生命科学分野におけるSPring-8利用への関心の高さを物語っている。

 開会にあたりCASTの千川純一所長から、播磨科学公園都市の開発をはじめとして、SPring-8計画を支援する兵庫県としてのさまざまな取組が紹介された。SPring-8共同チームの上坪宏道リーダーからは、SPring-8の建設が順調に進行していることが報告され、利用開始を目前に控えた現時点において、改めてSPring-8利用の可能性を議論する本国際会議開催の意義が強調された。また企画委員長として安岡則武姫路工業大学理学部長からは、会議を企画した意図とその経過が報告された。

 本国際会議では、放射光を利用した生命科学研究の最新のトピックスが、5人の講演者により紹介された。最初に演台に上ったマンチェスター大学(イギリス)のジョン・R・ヘリウエル教授は、十数年前、ダーズベリ研究所の放射光光源にはじめてタンパク質結晶構造解析用のビームラインを建設し、それ以後現在に至るまで、放射光利用のタンパク質結晶学の分野をリードしてきた文字どおりのパイオニアである。「シンクロトロン放射光と時間分割タンパク質結晶学」と題された講演ではまず始めに、生命科学研究を進める上で非常に有効な放射光の特徴が概説された。これは一般の聴衆を意識した平易で丁寧なものであり、本会議全体にわたるイントロダクションとしての役割も果たすこととなった。ヘリウエル教授は、放射光の波長可変性に基づく新しい構造解析法として有名な多波長異常分散法の開発に携わったばかりか、現在は、タンパク質結晶内で進行する酵素反応を時間分割的に追跡する白色ラウエ法や大角度振動法の開発を精力的に進めておられる。講演では、ヘムやビタミンB12、クロロフィルなど、生体内で重要な役割を担うテトラピロールを合成するヒドロキシメチルビラン合成酵素に関して得られた時間分割結晶解析の最近の成果が報告され、極微なタンパク質内で進行する生命反応を目のあたりにすることができた。

 ワシントン大学(アメリカ合衆国)のウイム・G・J・ホル教授は、「シンクロトロン放射光によるタンパク質構造解析に基づいた医薬設計」と題して、代表的な熱帯病として知られる睡眠病、コレラなどをターゲットに展開している関連タンパク質の結晶構造解析と、その結果に基づくドラッグデザインの実際について講演した。講演の冒頭では現在も多数の死者を出している熱帯病の実情が紹介されたが、ホル教授自身が若いころにユネスコの要員としてアフリカに赴いた体験に基づいて、熱帯病をなんとか根絶したいという熱意に裏うちされて研究を進めておられることに深い感銘を受けた。

 姫路工業大学の吉川信也教授は、「チトクロム酸化酵素の構造と機能」と題して講演を行った。本酵素は細胞呼吸鎖の末端に位置し、酸素を水に還元する過程と共役してプロトンの能動輸送を行う膜タンパク質である。膜タンパク質の立体構造はその結晶化の困難さのゆえにまだ数例しか報告されていないが、それらの内でも本酵素はその分子量の大きさ、分子を構成するサブユニットの数などにおいて群を抜いており、その結晶構造解析にはシンクロトロン放射光の利用が不可欠であった。本研究は結晶化を主に吉川教授が、その結晶構造解析を大阪大学の月原冨武教授が担当して進められたが、両研究グループの絶妙なチームワークには、今後これまで以上に困難なターゲットに挑戦しようとする構造生物学研究者として学ぶべきものが多いと思われる。

 スタンフォード大学(アメリカ合衆国)のキース・O・ホジソン教授は、多くの酵素において活性中心を構成する金属原子によるX線の吸収を利用して、タンパク質内部における金属周辺構造を研究するX線吸収分光学(XAS)の草分け的存在であり、現在はスタンフォード大学の放射光施設の副所長をされている。XASはX線の波長を自由に選択できる放射光の出現によってはじめて実用化された手法であり、「X線吸収分光法による生理活性物質の構造研究」と題した講演では、溶液状態での研究が可能なXASの平易な概説と最近の研究のトピックスが紹介された。チトクロム酸化酵素に関する研究では、先の吉川教授の講演に関連してXAS法とタンパク質結晶解析法の違いと相補性が議論され、興味を引いた。

 ハイデルベルグ大学(ドイツ)のケネス・C・ホームズ教授は、タバコモザイクウイルスや筋肉フィラメントなどにX線を照射した際に得られる繊維回折パターンから構造解析を行う研究を、長年にわたって手がけて来られた。筋肉フィラメントは外界からの神経刺激によって収縮して力を発生させるが、その際にフィラメントを構成するミオシンとアクチンが大きな構造変化を起こすことが知られている。ホームズ教授は、その過程を大強度の放射光光源を利用して時間分割的に追跡する手法の開発者として有名である。また最近は、タンパク質結晶解析の手法も取り入れて結晶化したアクチンとミオシンの結晶構造を解明し、その結果に基づいて筋肉収縮過程をより詳細に追跡している。「筋肉収縮の分子機構」と題された講演では、ご自身の研究生活の全体が手際よく紹介され、そのままイギリスの構造生物学派の歴史をかいま見る思いがした。

 本国際会議では日本語と英語が公用語とされ、双方向の同時通訳が行われた。その通訳者らの優れた能力に支えられて活発な議論が行われ、また裏方の方々の多くのご努力に支えられて、バイオテクノロジーにおけるSPring-8の幅広い応用の可能性を探るという目的を十二分に達成して、本国際会議はその幕を閉じた。

 

 

 

神谷 信夫 KAMIYA Nobuo

昭和28年7月8日生

SPring-8共同チーム利用系/理化学研究所・結晶学研究室

〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町SPring-8

リング棟共同チーム利用系

TEL : 07915-8-1841

FAX : 07915-8-0830

e-mail : nkamiya@postman. riken. go. jp

略歴:昭和56年名古屋大学大学院理学研究科(化学専攻)終了、高エネルギー物理学研究所客員研究員を経て、昭和60年より理化学研究所研究員(結晶学研究室)、理学博士。結晶学会、生物物理学会、放射光学会、生化学会、化学会会員。専門分野:生物構造化学。最近の研究:タンパク質結晶解析のルーチン化。趣味:読書、スキー。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794