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Volume 01, No.5 Pages 22 - 24

4. 理研ビームライン/RIKEN BEAMLINE

構造生物学研究理研ビームラインⅡ(BL44B2)の概要
Outline of the Riken BeamlineⅡfor Structural Biology(BL44B2)

足立 伸一 ADACHI Shin-ichi、小口 拓世 OGUCHI Takuyo、植木 龍夫 UEKI Tatzuo

理化学研究所 放射光構造生物学研究推進グループ The Institute of Physical and Chemical Research (RIKEN) SR Structural Biology Research Group

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1.はじめに

 理化学研究所放射光構造生物学研究推進グループは、理化学研究所内で高いアクティビティーを持つ生命科学研究グループを組織化し、グループの研究成果として得られる蛋白質や蛋白質-核酸複合体等の生体巨大分子を対象として、主にSPring-8のX線を利用した構造解析研究を行うことを目的に設立された。現在、理化学研究所内の4研究室が中心となって放射光構造生物学研究推進グループの運営が行われており、SPring-8でのビームライン建設を含めた活動を行っている。本稿では放射光構造生物学研究推進グループが現在SPring-8に建設を進めている2本のビームラインのうち、偏向電磁石を光源としたビームライン(BL44B2・理研ビームラインⅡ)の概要について述べる。なおもう1つのアンジュレータを光源とするビームライン(BL45XU・理研ビームラインⅠ)については、SPring-8利用者情報No.4を参照していただきたい。

 

 

2.光学系の概要

 本ビームラインは、偏向電磁石から放射されるバンド幅の広い白色X線を白色のまま、または単色化して利用することにより、蛋白質X線結晶構造解析(時間分割解析を含む)およびXAFS解析を行うことを目的としている。ビームラインは図1に示すようにシークエンシャルな構造になっており、タイムシェアリングによりXAFS実験ステーションまたは回折実験ステーションのどちらか一方を使用する。単色X線実験時は、SPring-8標準タイプの固定出射型2結晶分光器で分光したX線を、Ptコートした疑似トロイダル型ミラー(ミラー長1 m)により各実験ステーションの試料位置へ集光する。白色X線実験時は2結晶分光器の第1結晶を光路からはずし、通過した白色X線を疑似トロイダル型ミラーで回折実験ステーションの試料位置へ集光する。したがって実験モードによって、ミラーの上下位置および入射角、曲率半径(Rm)を随時変更する。それぞれの実験での基準設定値は回折実験モードで入射角3.0 mrad、Rm=3131 m、XAFS実験モードでは入射角4.5 mrad、Rm=6792 mである。

 

図1 理研ビームライン2(BL44B2)の略図

 

 

3.実験ステーションの概要

3.1 回折実験ステーション

 回折実験ステーションでは生体巨大分子結晶を対象とし、白色X線(6-30 keV)を利用した短時間データ収集(時間分割測定)と単色X線による通常のX線結晶構造解析用のデータ収集を想定している。白色X線法(ラウエ法)は単色X線法と異なり、露光中に結晶を機械的に回転させなくても積分反射強度が得られる。このためラウエ法では使用するX線強度のみが露光時間を左右することから、時間分割測定に有効な方法である。理研ビームラインⅡで白色X線を用いた場合、試料位置で得られるフォトン数は1015 photons/sec/0.1 × 0.1 mm2/full b.w.程度と見積もられ、0.2 × 0.2 × 0.2 mm3程度の大きさの結晶を用いた場合でも、サブミリ秒程度の露光で回折像を得ることが可能であると予想される。我々はパルスレーザーなどの結晶内反応を開始させるためのトリガーと白色X線パルスを組み合わせることにより、蛋白質結晶内で過渡的に生成する短寿命中間体の結晶構造解析を目指している。図2にラウエ法による時間分割ラウエ測定のためのフローチャートを示す。一般に時間分割測定は、単色法によるデータ収集に比べて、試料調製、反応条件などに関してより厳しい条件設定を必要とし、実験準備により多くの時間と労力が必要となる。本ビームラインではこのような実験準備をSPring-8のサイトで極力サポートできるよう、ビームライン付近に顕微分光による高速結晶内反応モニター、実験室X線発生装置、反応解析のためのHPLC装置、反応開始用の各種パルスレーザー、フラッシュランプ、溶液フロー装置、温度制御装置、暗室等を備える。またビームライン内部にもパルスレーザー、顕微分光装置等を備え、実験室とほぼ同様な装置設定で時間分割ラウエ実験を行うことができる。白色X線利用実験では短時間に大量のフォトンが入射することにより結晶試料に熱的なダメージが加わることが予想されるため、結晶試料を室温から液体窒素温度付近まで冷却する装置を備えている。検出器としてはオンライン型イメージングプレート(IP)検出器を装備している。この検出器は4枚のIPを搭載することが可能であり、時間分割測定時には4枚の連続露光が可能である。(ただしこの場合、読み出しはすべてのIPの露光後に行う。)またラウエデータ処理プログラムとしてDaresbury Laue Suite LAUEGENおよびChicago大学で開発されたLaueViewが使用可能である。通常のデータ測定では、単色X線を用いたデータ収集が可能であり、IPの露光・読み出し・消去を自動化した測定を行うことができる。現在、IPの読取装置の読み取り時間は1枚あたり3分(300 × 300 mm2、100 × 100 μm2/pixel 読み取り時)であるが、読み取り時間をさらに短縮できる見込みである。

 

図2 理研BLIIでの時間分割ウラエ実験のフローチャート

 

3.2 XAFS実験ステーション

 XAFS 実験ステーションでは、主に金属原子を含む生体物質等の希薄溶液試料を対象にしてエネルギー範囲6-20 keVの範囲の測定を行う。測定方法は、主に蛍光EXAFS法を行うが、透過法による測定、蛍光法と透過法による同時測定も可能である。光学ハッチ内の疑似トロイダル型ミラーは集光と同時に高次光除去の役割も同時に受け持つが、SPring-8の場合、臨界エネルギーが28.9 keVと高いため、1枚のミラーでは高次光を十分除去しきれないと予想される。したがって2結晶分光器の結晶のデチューニングを併用して高次光の除去を行う必要がある。XAFS 実験装置は、実験架台、多素子固体検出器、イオンチェンバー、極低温試料槽、コントロール部で構成される。実験用架台上面及び、測定器はビーム軸に平行となるよう基準設定時9 mrad傾いて設置される。実験用架台は、傾斜角を保ったまま昇降が可能である。後方のDiffraction実験ハッチ使用時には、ビームパイプをEXAFSハッチ内に貫通させても、装置のアライメントを崩すことなく架台を下げることができる。また、Diffraction実験ハッチ使用後は、架台を元の位置に上げて再びEXAFS測定が行える。蛍光EXAFS法に用いる多素子固体検出器は、現在のところ機種選定中である。多素子固体検出器の信号処理装置については、数チャンネル分のアンプと波高弁別器が一体化され、一括してデジタル信号処理の行える方式のものを選定したいと考えている。

 

 

4.おわりに

 現在、我々は平成10年度初旬の供用開始を目指してビームライン建設を進めている。また本ビームラインは、蛋白質結晶学サブグループ(代表者/姫路工大理学部・森本幸生氏)との相乗りの形で建設が進められており、回折実験ステーションでのビームタイムの一部が共同利用実験に供される。

 XAFS実験ステーションの仕様決定にあたっては、高エネルギー物理学研究所・放射光実験施設の野村昌冶氏、小山篤氏に多くのご助言をいただきました。また、理化学研究所の井上頼直主任研究員、飯塚哲太郎主任研究員からは理研放射光構造生物学研究推進グループ側からの支援をいただいています。この場をお借りして感謝いたします。

 

 

 

足立 伸一 ADACHI Shin-ichi

昭和39年10月22日生

理化学研究所・生体物理化学研究室

(兼)放射光構造生物学研究推進グループ

〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町SPring-8利用系

TEL:07915-8-1833

FAX:07915-8-0830

E-mail:adachi@postman.riken.go.jp

略歴:平成4年京都大学工学部工学研究科博士課程修了、工学博士。同年日本学術振興会特別研究員、同年10月より理化学研究所研究員。この間米国シカゴ大学Visiting Research Associate。日本生化学会、日本生物物理学会、日本化学会、日本結晶学会、日本放射光学会会員。最近の研究:時間分割蛋白質X線結晶構造解析、金属蛋白質のEXAFS。趣味:スポーツ一般。

 

 

小口 拓世 OGUCHI Takuyo

昭和38年11月9日生

理化学研究所・生体物理化学研究室(兼)放射光構造生物研究推進グループ

〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町SPring-8利用系

TEL:07915-8-1833

FAX:07915-8-0830

E-mail:oguchi@postman.riken.go.jp

略歴:平成7年総合研究大学院大学数物科学研究科放射光科学専攻修了、学術博士。同年理化学研究所協力研究員。日本物理学会、日本放射光学会会員。最近の研究:X線偏光解析装置。趣味:スポーツ一般。

 

 

植木 龍夫 UEKI Tatzuo

(Vol.1,No.4,P30)

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794