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Volume 01, No.5 Pages 4 - 7

2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

実験ホール内輸送チャンネルの建設状況
Present Construction Status of Transport Channels

石川 哲也 ISHIKAWA Tetsuya

日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 利用系グループ JAERI-RIKEN SPring-8 Project Team Experimental Group

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1.はじめに

 平成9年10月の供用開始に向けて、第I期で計画されたビームライン輸送チャンネルの建設は残すところあと1年を切った。放射光利用実験を開始するためには、輸送チャンネルのハードウェアとしての完成・ソフトウェアの完成に加えて、放射線使用施設としての監督官庁の認可が必要であり、このための申請書作成作業が進められている。全体工程は、放射線安全検査等を考慮して作成されるが、発注物品の納入状況を勘案して、週単位での見直しを行っているのが現状である。

 実験ホール内輸送チャンネルコンポーネントの多くは、平成7年度補正予算によって契約され、平成9年度内に最終納期が設定されているが、放射線申請とそれに伴う使用前検査、使用時検査との兼ねあいで、一部を平成8年度内に分割納入して頂いている。8月後半から放射線シールドハッチの建設が始まり、また、輸送チャンネル機器制御用ワークステーション、VME機器類、ネットワーク機器類、一部の実験ステーション機器コントロール用DOS/Vコンピュータ及びI/O機器が既に納入された。

 本稿では、現在までの輸送チャンネル建設の進行状況を中心に報告するが、平成9年2月に予定されている蓄積リングへのファーストビーム到着時までの輸送チャンネル建設計画も併せて報告したい。

 

 

2.金物建設

 輸送チャンネルの構成要素は、第1陣として5月末に、平成6年度発注分のアンジュレータ用・偏向電磁石用各1台の標準二結晶分光器試作機が納入され、光学的方法による動作精度確認、制御ソフトウェア開発、実験室X線源を用いた性能試験等が行われている。その他の機器は殆どが平成7年度発注であるが、10月末に偏向電磁石ビームライン用架台2基が納入され、以後順次11月初旬に下流シャッター、スリット、真空排気ユニット用ビームダクト等の輸送チャンネルコンポーネントの第1陣が納入される予定であり、本格的組み上げ調整作業が開始される。

 組み上げ手順は、放射線使用申請との関連で全体を3つのグループに分けて考えている。第1グループは標準アンジュレータX線ビームラインであるR&Dビームライン(BL47XU)と、標準偏向電磁石X線ビームラインである結晶構造解析ビームライン(BL02B1)を想定している。この2本のビームラインについては蓄積リングの放射線使用申請と同時に使用申請を出すため、平成9年2月にはインターロック系を含めて完成している必要がある。第2グループは生体分子構造解析ビームライン(BL41XU)、核共鳴散乱ビームライン(BL09XU)、XAFSビームライン(BL01B1)、高温ビームライン(BL04B1)であり、ハードウェアとしては第1グループからそれほど遅れずに完成させる予定であるが、安全検査日程等を考慮して、第1グループの使用許可がおりた時点で放射線使用許可申請を行うこととした。理研構造生物学ビームライン(BL45XU)も第2グループと同じ日程で完成させる予定であり、これらの7本のビームラインに関しては平成9年10月の供用開始の時点で完全なオープンを目指している。第3グループはこれら以外のビームラインであり、平成9年夏の蓄積リング運転停止期間中にフロントエンド建設作業や挿入光源設置作業を行い、放射線使用許可申請はビームライン全体の完成後にしか行えないために、平成9年度内の完全なオープンを目指している。

 実際のビームライン組み上げ調整作業は、配線・配管等も含め第1グループと第2グループを一体的に行う。既にこのために理研構造生物学ビームラインを含みR&Dビームラインを除く6本のビームラインに関する組み上げ調整作業の外注契約作業が進行している。R&Dビームラインに関しては組み上げ調整を11月初旬よりインハウススタッフで行い、そこで作業工程等に関わるノウハウを蓄積して、後に続く6本のビームラインのための組み上げ調整要領書を作成する。外注作業はこの要領書に基づいて行われることとなる。ここで作られた組み上げ要領書は作業終了後に形式を整えて、何らかの形で公開する予定である。これは、今後の共用・専用ビームライン建設時に有効な資料となり、輸送チャンネル各種コンポーネントのハードウェアを記述したいわゆる「コンポーネントカタログ」[1][1]「ビームラインの規格化・標準化に関する調査報告書」、高輝度光科学研究センター、播磨(1997)に、建設のためのソフトウェアを記述した本要領書を併せてビームライン建設の規格化・標準化は一応の完成を見るものと考えている。なお、外注による6本のビームラインの組み上げ調整は平成9年1月末に終了を予定している。

 

 

3.光学素子

 SPring-8の光学素子開発の基本的な考え方については、既にStony BrookでのSRI[2][2]T. Uruga et al.: Rev.Sci.Instrum. 66、2254(1995).、本誌の前身であるSR科学技術情報[3][3]黒田雅教他: SR科学技術情報 Vol.5、No.4、8(1995).、放射光学会誌[4][4]石川哲也:放射光 9、413(1996).等で報告してきたが、第三世代放射光光学系での第一関門である熱負荷対策にSiのピンポスト水冷回転傾斜配置二結晶分光器で殆どを対応し、また一部にダイアモンド単結晶を用いることを想定してその大型化・高品質化に取り組んできた。

 回転傾斜配置にSi111反射を用い、5〜40 keVをカバーするためには<111>方向に20 cm以上の長さのとれる結晶が必要となる。また偏向電磁石ビームラインの標準分光器では、一組のSi結晶で5〜100 keVの広いエネルギー範囲をカバーするために、<110>を晶帯軸とするいくつかの反射面を切り替えて利用する可変傾斜型配置の利用が計画されているが、これらのためには<110>を成長軸とするSi単結晶の利用が効率的である。平成7年度にこのような可能性をメーカーに検討依頼したところ、3インチ径ならばFZ法での製造実績があるとの回答を得、第I期ビームライン用分光素子材料として、長さ200 mmのインゴット40本の発注を行い、本年夏に全数納入された。光学素子の製造工程から考えると、更に大口径単結晶が必要となるので、現在4インチ径の可能性をメーカーに打診中である。

 ピンポスト結晶の製作は平成7年度に接合試験を行い、ビームライン用に使用可能な接合歪みの範囲に抑えられる見通しがついた。その後水路設計、マニホールド設計が進み、現在各加工工程でX線トポグラフ等による評価試験を行いつつ、最終的なアセンブル工程に向けた準備を進めている。アンジュレータ用ピンポスト結晶の実機第1号の納入は平成9年2月に予定されており、その放射光ビームを用いた評価結果を踏まえて順次改良を行っていく予定である。

 もう一つの耐熱負荷並びにアンジュレータビーム分岐用の光学素子として、ダイアモンド単結晶がある。近年、不純物量の少ないいわゆるIIAクラスの人工ダイアモンド合成が可能になってきたが、共同チームでは結晶性の向上と大型化に向けての開発研究をメーカーと共同で進め、現在結晶の不完全性による回折線角度幅の広がりが1秒以内でかつ最長辺の長さが10 mm程度のものが合成可能となってきた。これらは、理研構造生物学ビームラインでのアンジュレータビームの分岐や、トリクロメータ[5][5]M. Yamamoto et al.: Rev.Sci.Instrum. 66、1833(1995).に用いられるが、ダイアモンドを使用すると間接水冷却でも十分にSPring-8アンジュレータの熱負荷に対応できる[6][6]H. Yamaoka et al.: Rev.Sci.Instrum. 66、2116(1995).ので、Siピンポスト結晶の進展状況によっては、そのバックアップになることが有り得る。

 全反射ミラーの製作は、フランス・マルセイユのメーカーで行われている。ここは、ESRFに対して、多数の全反射ミラーの納入実績を持っている。平成9年度の早い時期に全数が納入される予定であり、納入後にビームライン調整状況に応じて順次取り付け・調整を行っていく予定である。

 

 

4.制御系・インターロック系

 第1及び第2グループのビームラインの制御のための、ステッピングモータドライバ・コントローラ、VME、ワークステーション等の制御機器は、平成9年1月中旬までに実験ホール内の所定の場所に設置される。挿入光源を含むビームライン制御と輸送チャンネル機器制御を連携して行うためのソフトウェア開発が進められている。ここでの基本的な考え方はネットワークを介した機器制御であり、始めの段階では蓄積リング制御グループが開発している方式[7][7]田中良太郎:放射光 9、193(1996).に沿った物を整備する計画である。現在各種デバイスドライバを中心に作業が進められており、ステッピングモータ制御部分はほぼ完成した。今後引き続いて各種アクチュエータ系、エンコーダ・センサ読み出し系を完成させるとともに、計測機器制御ソフトウェアの製作を開始し、早い段階で一通りのデバイスドライバセットを提供したい。ビームライン制御ソフトウェアは、オブジェクト指向での構造化が進められているが、平成9年1月末までに基本ユニットの整備を完了し、2月以降供用開始に向けた使い勝手の向上と、より高度な機器制御に向けた開発を進めていく予定である。

 インターロック系は、第1グループビームラインについては年内にハードウェアを完成させ、平成9年1月中にフロントエンドを含めた調整試験を行う予定で建設が進んでいる。第2グループビームラインは、ハードウェア設置を平成9年1月中に行い、2月以降に調整試験を進める。ビームライン・インターロック系と蓄積リング制御システム、放射線管理用PLCネットワークとの接続は、1月中に完了する予定である。

 

 

5.おわりに

 SPring-8のビームライン建設も佳境に入り、実験ホール内の風景は日の単位で変化している。最後に10月末の時点でのいくつかのハッチ建設現場、偏向電磁石用ビームライン用架台設置現場、標準分光器内部の写真を掲載しておく。編集部からはこまめな報告を求められているので、次号にも建設経過を報告するが、写真がどのように変わるかに注目していただきたい。

 なお、本稿の準備にあたって、共同チームの木村洋昭、古川行人の両氏にご助力頂いたことに感謝する。

 

 

 

参考文献

[1]「ビームラインの規格化・標準化に関する調査報告書」、高輝度光科学研究センター、播磨(1997)

[2]T. Uruga et al.: Rev.Sci.Instrum. 66、2254(1995).

[3]黒田雅教他: SR科学技術情報 Vol.5、No.4、8(1995).

[4]石川哲也:放射光 9、413(1996).

[5]M. Yamamoto et al.: Rev.Sci.Instrum. 66、1833(1995).

[6]H. Yamaoka et al.: Rev.Sci.Instrum. 66、2116(1995).

[7]田中良太郎:放射光 9、193(1996).

 

 

 

石川 哲也 ISHIKAWA Tetsuya

(Vol.1, No.2, P11)

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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