ページトップへ戻る

Volume 01, No.4 Pages 28 - 30

2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

共同利用の検討状況
Present Status of SPring-8 : Utilization of Public Beamlines

植木 龍夫 UEKI Tatzuo

日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 利用系グループ JAERI-RIKEN SPring-8 Project Team Experimental Group

Download PDF (35.96 KB)

 共用ビームラインの建設の現状については、この利用者情報の第2号に紹介されている。ここでは、共用ビームラインの考え方、建設、その利用を中心に現状を報告する。


1.SPring-8の共用ビームライン

 SPring-8施設は科学技術庁の支援のもとに日本原子力研究所と理化学研究所とが協力して建設を行ってきたが、国公私立大学、国公立研究所および産業界の研究者が国内外を問わず利用することを前提にビームライン建設、施設とビームラインの共同利用などの問題が議論されてきた。

 SPring-8蓄積リングは、挿入光源を設置できる直線部が38カ所あり、23カ所の偏向電磁石部からもビームラインが引き出せるように設計されている。それでは61本のビームラインはどのような利用形態を想定して建設されるのであろうか? SPring-8が共同利用を主なる目的として建設される施設であることは、平成6年10月に施行された「特定放射光施設の共用の促進に関する法律」からも明らかである。ビームラインの利用形態は、日本原子力研究所・理化学研究所の両理事長に対する諮問委員会として設置された大型放射光施設計画検討委員会での議論および法律施行にともなう若干の修正の後、以下のように結論されている。


●共用ビームライン(法律では共用施設)

 ビームライン検討委員会の答申に基づいて原研および理研によって建設されるビームラインで、国内外の研究者によって共同利用される。


●専用ビームライン(法律では専用施設)

 施設計画の当初には特定利用ビームラインと呼ばれたビームラインで、大学、国公立研究所、産業界などのグループによって提案され、その費用負担によって建設される。グループがほぼ専有して利用する。


●原研・理研ビームライン

 計画の推進母体である原研および理研が、それぞれの研究所の研究者のために建設するビームライン。

 その他、共同チーム、JASRIなどの研究者や外部の研究者が開発研究に随時、かなり任意の形で使用できる「研究開発」用のビームライン(R&Dビームライン)の設置も施設としては重要であり、マシン診断用のビームラインに加えて別途建設される。


2.共用ビームライン建設

 平成6年度から8年度に2本のアンジュレータ・ビームライン、7年度から9年度に残りの8本のビームラインの建設が進められているが、10本の共用ビームラインは平成9年10月からの施設供用開始時までに実験ステーションをも含めて整備される予定である。共同チーム利用系グループの個別ビームライン建設担当者と外部研究者とでビームライン建設グループを作り建設にあたっている。多くのビームラインでは、外部研究者は主に実験ステーションの建設に係わることとなるが、実験ステーション/ビームラインの建設に直接関わる協力者をお願いしている。建設グループの編成は共同チームと利用者懇談会の間でおこなわれた。

 高輝度光科学研究センター(JASRI)では、実験ステーション建設に参加する外部の研究者が、JASRIで何らか(客員や協力研究員など)のポストを持つことを検討中である。また、ビームライン建設と従来の利用者懇談会のサブグループ会合との間に仕分けが必要となることもあるが、ビームライン建設に関する会合に際しては、播磨サイトの研究交流施設を滞在施設として利用できる。研究交流施設の建物は既に完成しており、9月から60室が利用できる事となっている。


3.共用ビームラインの利用、その手続きと手順

 共用ビームラインの共同利用は、JASRIが一元的な窓口となって運用される。共用ビームラインが完成した時点で、JASRIが加速器およびビームラインを中心に管理し運転することとなっている。JASRI諮問委員会の下に利用研究課題選定委員会をおいて、共同利用に係わる研究課題の募集、選定など基本的な考え方の検討をおこなってきた。並行して、共同利用の手順や利用に必要な手続きの整備などを開始している。JASRIは利用業務部を4月に設置したが、供用のための種々の業務を担当することとなっている。この供用に際して問題となるビームライン使用料の問題も科学技術庁の「航電審」での検討を終わっている(本誌・2号のハイライトの「航電審20号答申について」を参照のこと)。また、共同利用の際に必要な利用・技術支援についてもJASRI内で検討されている。ここでは、これらの検討状況を簡単に説明する。


共同利用の進め方Ⅰ(利用研究課題の応募と審査)

 共同利用は、JASRIによる共同利用研究課題の公募によって開始する。応募を希望する研究者は、SPring-8の各種の手引き、たとえば「SPring-8ユーザーズガイド」や「SPring-8ビームラインハンドブック」など、をJASRI・利用業務部を通して入手する事が出来る。公募は年2回行われることとなっている。ついで、利用業務部に提出された利用研究課題申請書をJASRI利用研究課題選定委員会(Proposal Review Committee,PRC)が審査、選定する。具体的な選定は、委員会の下に5分科会(サブPRC)―生命科学、散乱・回折、XAFS、分光および実験技術・方法の5分科―をおいて開始され、採用される研究課題案が作成される。課題審査の意見とりまとめが委員会の委員長とサブPRCの主査によって行われ、最終的な委員会の課題選定が行われることとなる。課題の採択/不採択の通知、ユーザー登録などの手続きおよび利用日の通知によって共同利用が開始される。

 共同利用のための各種の手続き、出張、研究交流施設利用などを含む事務的な手続きもJASRI利用業務部がおこなう。


共同利用の進め方Ⅱ(共同利用の現場)

 研究課題申請や審査および一連の共同利用のための事務的な処理と並行して、共同利用の現場での支援といった重要な側面がある。共同利用の研究・技術面からの支援はJASRI放射光研究所の「利用促進部門」が担当する。利用促進部門の担当する業務はおおよそ以下のように考えられる。

①利用支援グループ

 共用ビームラインの概要は「SPring-8ビームラインハンドブック」で見られるが、ある実験を行いたいときにどのビームラインを使用することが最適であるかとか、特殊な蓄積リングの運転を必要とする実験の相談などは、利用促進部門の利用支援グループが窓口となる。つまり、共同利用実験を企画するにあたっての相談の窓口である。


②共用ビームライングループ

 このグループには、研究者、技術者およびテクニシャンが所属し、共用ビームラインの建設および日常的な運用を行う。

 共用ビームラインを利用する外部研究者などの日常的な共同利用の支援は、共用ビームライングループをいくつかのビームライン仕様もしくは実験ステーションの特徴に基づいてサブグループ化し、その中の技術者とテクニシャンが中心となって行われる事となる。

 また、利用研究課題選定に際してのビームタイムの配分などを行うときに、共用ビームラインの運用の内容を熟知しているサブグループのリーダーなどが必要な助言を行うことは重要である。


③周辺支援グループ

 共同利用研究には多くの現場でのビームライン周辺の支援が求められる。たとえば、試料周辺機器の現場での細かい手直し、電子回路修理、ネットワークなどに関する支援、オシロスコープなど共通的な測定機器の貸出、ガスの使用、液体窒素の使用、化学薬品など多面にわたることが予想される。これらは、加速器も含めた施設全体の問題として周辺支援グループが対応することとなろう。その対応する支援の内容について現在検討されている。


共同利用に際して利用できる実験スペース

 蓄積リング棟の実験ホールには、共用ビームライン1本毎に測定準備室(40m2、管理区域内)と試料準備室(40m2)が割り当てられている。これらは、共用ビームラインの建設費の中で、測定準備のための機器や試料を作成する機器を充実させて作られることとなっている。また、この2室は実験ステーションから離れて実験を制御するためにも有効に利用されることが期待されている。


4.共同チームおよびJASRI のその他の活動
ビームライン検討委員会

 共同チームのビームライン検討委員会は過去2年以上にわたって活発に活動してきた。第二期のビームライン検討委員会は原研、理研、財団のつくる特定放射光施設運営調整会議の諮問委員会として置かれ、委員長を高エネルギー物理学研究所の下村教授にお願いした。この委員会は、11から20本目の共用ビームラインに関する主に技術的な評価をおこない、建設すべきビームラインを答申することとなる。第一回の委員会では、この10本の共用ビームラインの計画趣意書を公募するにあたっての基本的な考え方を議論した。9月30日を締め切りとして、計画趣意書の公募を学会誌などに掲載している。


利用研究課題選定委員会

 JASRIでは平成9年10月からの共用ビームラインでの共同利用をめざして、利用研究課題の公募を行うこととなった。供用開始から6カ月間は、ビームラインや実験機器の調整段階でもあるといったことから試用期間と位置づけられている。この期間に実行される課題は、どちらかというとテスト実験に重みを置いたものが多くなるであろう。応募の締め切りは来年1月10日で、研究課題の採択/不採択の決定は年度内に行われる予定である。(本誌ハイライト参照のこと)



植木 龍夫 UEKI Tatzuo
昭和15年3月10日生
理化学研究所 生物物理研究室主任研究員
日本原子力研究所・理化学研究所
大型放射光施設計画推進共同チーム
研究開発グループ利用系グループリーダー
〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町金出地
SPring-8 リング棟
TEL:07915-8-1840 FAX:07915-8-0830
(不在の場合は、理化学研究所生物物理研究室
TEL:048-462-1111 ext.3471 FAX:048-462-4646)
略歴:昭和37年大阪大学工学部応用化学科卒業、39年カリフォルニア大学大学院化学科修士課程修了、41年大阪大学大学院理学研究科博士課程中退、同年大阪大学工学部応用化学科助手、43年大阪大学蛋白質研究所助手、45年大阪大学基礎工学部生物工学科助教授、平成元年理化学研究所研究員非常勤主任研究員、大阪大学基礎工学部教授、2年理化学研究所生物物理研究室主任研究員。理学博士。X線溶液散乱法による生体高分子の構造研究に従事。日本放射光学会、日本結晶学会、日本生物物理学会、日本生化学会会員。

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794