Volume 01, No.3 Pages 33 - 34
3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE
高圧構造物性ビームライン(BL10XU)の概要
「高圧構造物性」ビームラインには大柳宏之氏世話人の「XAFS」と超高圧力下の回折実験を目指す「極限構造物性」の二つのSGが参加している。上流にXAFS、下流に超高圧実験の装置を収めた二つのハッチが直列に並び、タイムシェアリングでビームを使うことになる。
光源と光学系
光源にSPring-8標準の真空封止アンジュレータを設置する。磁石列のギャップを変えることと高次光を選ぶことによって、エネルギー範囲5-60 keVをカバーする。この光は標準仕様の2結晶分光器で単色化される。
XAFS(特にEXAFS)では頻繁に1 keV程度の領域でエネルギー走査を行い、また吸収端を選ぶ際には、より広いエネルギー範囲で中心エネルギーを変える必要がある。硬X線領域(5-29 keV)は基本波長と3次光を使ってカバーする。分光結晶にはそれぞれ Si(111)、Si(220)を用いて、磁石列のギャップを制御することによってこれは可能である。基本的な光学系は上記の標準2結晶分光器とその下流に置く可変臨界角平行ミラー(2枚、固定出射位置)からなる簡素なものであるが、技術的なキーポイントはギャップと標準分光器の制御を同期させて行うことである。
超高圧実験ではミラーは使わず、20-60 keVの単色光をハッチ内に置くブラッグフレネルレンズ(BFL)で集光してダイヤモンドアンビルセル(DAC)内の試料に照射する。粉末回折実験が主目的なので、角度発散をある程度大きくしたビームで数多くの結晶粒からの回折を見ることが重要である。単色ビームの約200 μm巾の部分を1 m程度の焦点距離で最小数ミクロンに集める。固定波長の場合には二次元 BFLを使える。異常分散の利用など実験中に頻繁に波長を変える実験では一次元BFLを用い、集光した細長いビームの不要な部分はスリットでカットして試料に当てる。
実験装置
XAFS
効率のよい蛍光検出には現在開発中の超高効率半導体検出器(スーパーデイテクタ)を用いる。実験装置は検出器、計測システム、クライオスタット、制御システムからなり、試料は水平および垂直軸に対して回転できる配置の自由度をもっている。試料面は垂直方向あるいは水平方向でビームに垂直な軸のまわりを精度よく回転できる。このため試料を冷却したまま、偏光依存性を測定することができ、微少角入射の幾何学配置が可能である。スーパーデイテクタは5 × 5 mm2の純Ge素子を1枚のウエファー上に集積したモノリシック型半導体アレイ検出器である。この検出器をアンジュレーターと組み合わせることによって微小な領域の感度を飛躍的に増大させることができる。この検出器はプロトタイプを開発中であり、一足早くフォトンファクトリーで性能評価が行われることになっている。
超高圧粉末X線回折
現在進行中の第一期A計画では粉末X線回折装置を設置する。回折装置自体はシンプルで、BFLをのせるゴニオメーター、ビーム整形用スリットとコリメーター、ビーム強度モニター用イオンチェンバー、 XYZ移動機能をもつDAC・クライオスタット用ステージ、そしてその場読取型イメージングプレート(IP)検出器が、ビームに対して位置決め可能な架台の上に載る。第一期A計画ではアクセサリーとしてヘリウム循環型のクライオスタット、回折計上で計測可能な顕微分光圧力測定システム、試料準備に必要な高倍率実体顕微鏡、IP読取用・データ解析用の2台のワークステーションを用意する。
実験の基本的な考えは、ガス圧駆動型DACを使って可能な限りハッチ外からリモート制御することにある(もちろん通常のDACも搭載できる)。いったんビーム位置が決まったら、DAC内の試料位置の合わせ込み、外部からガス圧を変えての圧力制御、低温実験の場合の温度制御、ハッチ内への光ファイバー導入による圧力測定、回折パターン測定とその読み出しの一連の操作をリモート化することにより露光以外に要する時間を大幅に短縮して8 GeV光の高輝度性を無駄なく生かすことができる。
来年度以降は、第一期B計画では時分割測定を想定した超高感度CCDX線カメラ検出器と3000 K以上の高温+高圧回折実験を可能にするCO2レーザーその場加熱システムの導入、さらに第二期計画では物性測定を目指した高圧単結晶X線回折計の設置を予定している。
以上のSPring-8における超高圧実験計画の多くが、現在、立ち上がりはじめている。圧力のその場測定は物質研の青木グループがすでに実用化しているほか、PFでもBL13B2で物性研八木グループが、 BL18Cで下村氏(PF)が導入している。ガス圧駆動型DACによる低温実験は下村・辻グループ(慶応大)によって先月試みられ、10 Kでの回折パターンの測定と加圧に成功している。超高感度CCDX線カメラの放射光を使った予備実験は一昨年下村・浜谷グループが行い、その有用性を確認し問題点を洗いだした。CO2レーザーその場加熱システムは八木グループがS課題として今年度から実験を始め、すでにレーザーを照射しながらの回折パターンを得ている。さらに、青木・村上(PF)グループが物性測定を主眼にする高圧単結晶回折実験を開始しようとするところである。以上の極限構造物性SGメンバーによる技術開発をふまえた上でSPring-8における今後の計画が遂行されることになる。
浜谷 望 HAMAYA Nozomu
昭和28年1月14日生
お茶の水女子大学理学部物理学科
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略歴:昭和56年東京大学大学院理学系研究科博士課程(地球物理学専攻)修了、1年間ニューヨーク州立大学ポスドク、57年大阪大学教務職員、助手、平成1年筑波大学講師、平成3年お茶の水女子大学助教授、平成6年同教授、理学博士。日本物理学会、日本放射光学会、日本地震学会、日本高圧学会会員。最近の研究:放射光を使った高圧力下の相転移の研究。今後の抱負:自然体で。趣味:いろんな意味で、ワイワイやること。