Volume 01, No.3 Pages 30 - 32

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

高温構造物性ビームラインの概要

辻 和彦

慶應義塾大学理工学部

 

1.はじめに

 高温構造物性ビームラインには、高圧地球科学サブグループ(SG)と高温SGの2つの実験ステーションが設置される。

 高圧地球科学SGは、超高圧高温X線実験により、地球惑星科学を中心とした研究を行う。地球や惑星の内部には構造がある。例えば、地球は中心から、内核、外核、マントル、地殻から成り、マントルの内部には多数の層状構造が知られている。これらは超高圧高温状態にあるので、これらの研究には珪酸塩や鉄などの惑星構成物質の超高圧高温状態の構造、相転移などを調べることが必要である。

 高温SGは、高温高圧X線実験により、超臨界流体や高温液体の構造を中心とした研究を行う。温度と圧力は物質の状態を決定する重要な熱力学関数であり、これらを変化させることにより、物質の性質を著しく変えることができるだけでなく、気体-液体臨界点を越えた超臨界流体や高密度プラズマなどの新しい状態を実現できる。臨界圧力より高圧の超臨界流体では、温度を上げていくと、流体の密度を連続的に広い範囲で変えることができる。また、臨界点近傍では、圧縮率および熱膨張率が発散し密度揺らぎが著しくなるので、臨界点近傍に特有な興味ある物性変化も期待できる。

 

 

2.光学系の概要

 BL04B1ビームラインは、光源として偏向磁石からの白色X線を用い、上流側に高圧地球科学実験ステーション、下流側に高温実験ステーションが直列に設置され、タイムシェアリングにより利用される。図1に高温構造物性ビームラインの概要を示す。X線実験には、検出器としてSSDが用いられる。

 

図1 高温構造物性ビームラインの概略図

 

 

3.実験ステーションの概要

3.1 高圧地球科学実験ステーション

 超高圧高温下における物質の構造研究を放射光を用いて行うためのX線回折装置として、マルチアンビル型超高圧高温装置(図2)が用いられる。この装置は、静的固体圧縮による高温高圧を安定して発生維持すること、および、その中に置かれた試料からのX線回折プロファイルを回折計にて測定し、物質の原子レベルでの構造を解明することを目的としている。

 高圧発生部は、キュービックアンビルプレスの高圧発生部の正六面体を、8個の正六面体に分割し、中心部の角を削り取って正八面体の空間を作り、この中に正八面体の圧力媒体を入れて加圧する二段加圧方式で高圧力を発生する。大型プレスの最大出力は1500トンであり、4本柱で支持される。ストロークは250 mm以上であり、自動および手動での出力目標値設定が可能である。スライドアンビルは、プレスの一軸総荷重を3軸6方押しに変換する(100)押し方式である。アンビルとしては、一段目の先端19 mmアンビルと二段目の焼結ダイヤモンドアンビル、または、一段目の先端50 mmアンビルと二段目の超硬合金アンビルを用いる。焼結ダイヤモンドアンビルを用いたとき、最高圧力40 GPaの発生を目指している。また、試料の加熱のために、最大容量 2 kVAの加熱電源を用い、最高温度2500℃を実現する。

 

図2 マルチアンビル型超高圧高温装置

 

 受光光学系部は、散乱光を鉛直面内で計測する鉛直受光部と、水平面内で受光する水平受光部を備えている(図3)。鉛直受光光学部系は、SSDを±15°回転でき、焼結ダイヤモンド製の正六面体を通して散乱X線を測定できる。水平受光光学系部は、サイドスイベルステージにより、プレス本体の柱の外側で、±10°を駆動でき、正六面体の隙間を通して散乱X線を測定できる。

 

図3 二段圧縮による高圧発生部

 

 プレス本体、鉛直受光光学系、水平受光光学系、入射光学系は、それぞれ独立した移動ステージの上に設置され、0.1 mm/sec以上の速度で移動できる。

 

 

3.2 高温実験ステーション

 実験用ハッチの内側に、流体X線回折用高圧容器を置く。これは高圧ガス発生部と高温高圧部から成り、全体を鋼板製高圧防御壁で取り囲む。これらの全体が放射線防御用のハッチ内に設置される。高圧容器は、圧力媒体としてヘリウムガスを用い、使用最高圧力は2,000 kgf/cm2である。容器内に内熱型のヒータを設け、試料部を1650℃まで加熱できる。容器の外側は、水冷される。容器には、1つのX線入射口と、5つの散乱X線出口がある。

 エネルギー分散型X線回折装置(図4)により、高い臨界点を持つ流体水銀や流体セレン等を対象として、超臨界領域における原子配列を調べる。入射側光学系は、モニターカウンター、4極スリットで構成される。ゴニオメーターの駆動軸は、θ、2θ軸であり、測角範囲は-60°から145°である。ゴニオメーターの試料テーブルの耐荷重は60 kgであり、高圧容器を搭載できる。ステージは、X軸、Z軸の並進移動と、α軸の傾斜ができ、ゴニオメーターの位置調整ができる。

 また、ハッチ内の状態は、ズーム機能付カメラでモニターできる。

 

図4 超臨界流体構造研究用エネルギー分散型X線回折装置

 

 

4.当面の研究課題

4.1 高圧地球科学SG

  • マントル鉱物(珪酸塩)や鉄合金の状態方程式
  • マグマの構造と物性
  • 相転移のカイネティクス
  • 鉱物の変形実験

 

 

4.2 高温SG

  • 超臨界流体水銀の構造
  • 超臨界流体セレンの構造
  • 超高温液体の構造

 

 

 

辻 和彦 TSUJI Kazuhiko

昭和21年3月19日生

慶應義塾大学理工学部物理学科

〒223 横浜市港北区日吉3-14-1

TEL : 045-563-1141 ex.3971

FAX : 045-563-1761

略歴:昭和48年京都大学大学院理学研究科博士課程修了、昭和53 年東京大学物性研究所助手、昭和60年慶應義塾大学理工学部助教授、平成8年同教授。日本物理学会、日本高圧力学会、日本放射光学会会員。

最近の研究:液体金属の構造の圧力変化、四配位構造半導体の高圧相からのアモルファス化。

趣味:連珠、コントラクトブリッジなどのゲームと研究。

 

 

SPring-8/SACLA INFORMATION

ISSN 1341-9668 EISSN 2187-4794