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Volume 01, No.2 Pages 29 - 30

6. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

30 m長直線部に関する国際ワークショップ

田辺 敏也、北村 英男

日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 研究開発グループ

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1.はじめに

 1996年4月17〜19日の3日間兵庫県姫路市市民会館で、SPring-8の30 m長直線部に関する国際ワークショップが開かれた。初日は主に加速器と挿入光源について、2日目と3日目はその利用についての報告がなされた。これらの内容について主なものを紹介する。

 

 

2.加速器、挿入光源等

(1)加速器

 SPring-8共同チームリーダーの上坪氏のWelcome Speechの後SPring-8加速器部門長の熊谷氏によるSPring-8加速器施設の主な進頻状況の報告があった。次いで同じくSPring-8の宮原氏が30 m長直線部のBeam Dynamicsの検討及び段階的なCommisioningの方法に関して述べた。この際参加者の多くは初めからMagnet Freeで長直線部を製作することに積極的な意見が多かったが宮原氏はstep-by-stepの安全策を主張した。Coffee Breakの後、KEKの加藤氏がPhoton FactoryのVUV-FELの実験でのリングのLow Energy Operationの報告をした。またESRFのJ.L.Laclare氏がESRFにおけるLow Energy Operationのマシンスタディの内容を報告した。ここでは通常のビームエネルギーの半分以下では不安定性が増大すること、短バンチ化は電流量の増大で消失してしまう点などの報告があった。昼食後SPring-8の中村剛氏のSPring-8におけるLow Energy Operationに関するシミュレーション結果の説明があり、ビームのエネルギー広がりを押さえる為のアイディアなどが出された。KEKの平田氏はエミッタンスの定義にまで遡り、より正確なビームの状態を指定する定義方法等を提唱した。

 

(2)挿入光源

 次にSPring-8の原徹氏からSPring-8挿入光源各種の報告説明があった。SPring-8独自の真空封止型挿入光源は世界の注目を浴びておりESRFでのテストの予定やミニポールタイプをNSFLでテストする予定等が報告された。SPring-8の田中隆次氏がこれもSPring-8独自の8の字型アンジュレーターについて詳細な報告を行った。ESRFのP.Elleaume氏は挿入光源をいくつかに分けて製作する際に問題となる接続部分の新しいPhasingの方法について発表した。それによると彼らの開発した方法では接続部分の長さ方向に対するずれやギャップの変化に対するエラーに対して従来の方法より3倍程度toleranceが上がるとのことで、これにより長尺挿入光源の製作が容易になる。

 SSRLのR.Tatchyn氏はSLACでの研究の成果をもとにSPring-8におけるSelf-amplified Spontaneous Emission(SASE)実験の可能性や磁場をコンポーネントごとに組み合わせて作るField Synthesizerのコンセプトなどを披露した。最後にAPSのE.Gluskin氏が挿入光源全般についての近年における発展の総括と30 m長直線部での軟X線光源用に適した電磁石を用いた偏光度可変型の挿入光源などについて説明した。

 

(3)FEL

 夕食後、DELTAのD.Noelle氏とLUREのM.E.Couprie氏によるStorage Ring FELに関する報告が行われた。Noelle氏に関しては現在稼働間近の施設の状況報告が主であった。Couprie氏からは稼働経験の最も長い施設らしく応用実験での多くの経験を聞くことができた。

 

 

3.ビームライン、応用実験等

 二日目はSSRLのJ.Arthur氏とSPring-8の石川氏からのCoherent Opticsに関する講演で始まった。Arthur氏は実験によっては高い空間コヒーレンスが必ずしも必要では無いこと等を示していた。石川氏は1 km長尺ビームラインを用いたphoton massの測定などの提案を報告した。大阪大学の有留氏はプラズマX線源を使ったX線顕微鏡について話をした。SUNYのC.Jacobsen氏は放射光を利用したX線顕微鏡とその他の応用について述べた。APSのYun氏はX線ホログラフィに関して報告をした。この日の午後はSPring-8サイトの見学ツアーと姫路に戻ってのBanquetで終了した。

 三日目はKEKの安藤氏がTRISTAN・MRで行われた実験に関して報告をした。3カ月程の実験で多くの成果が得られたことからみてMRの実験が終了させられてしまうことが残念に思われる。HASYLABのG.Materlik氏は応用全般に関して多くの例を挙げて説明した。東京大学の菊田氏はMRで行われたX線光子の二次相関関数の測定について発表した。2次のコヒーレンスに関する実験は数少なく、これから多くのアイディアが出てくることを期待させた。同じく東京大学の高橋氏はX線での高調波発生について述べたが、現実には実現は困難である印象を与えた。学芸大学の並川氏はX線を用いたパラメトリック効果について発表した。

 

 ワークショップの総括を行う最終のセクションでは、初めにG.Materlik氏がオプティックスと応用の総括を述べたが、多くの点は各種光源の実現性に関する希望を述べていたように感じられた。Single Bunch OperationとMulti-bunch Operationの希望を同時に満足させる運用などは他の放射光施設でも参考になったに違いない。

 加速器と挿入光源に関してはLBLのK.J.Kimが総括した。X線アンジュレータに関してはSPring-8の加速器性能が現在のESRF並に向上したとすると長直線部を使用することで1022のレベルの輝度が可能という結論に至った。大型放射光施設を軟X線源として使用する有用性が認識され周期長の長い挿入光源でも長直線部により周期数を確保でき1019程度の輝度で非常にビーム寿命の長い光源が可能になる。さらにMulti-Color Undulatorに関しては早い段階から可能である。FELに関してはOscillator型はミラー次第、SASEは現在の加速器の性能ではやや困難である。シードレーザーを使った高調波発生や長単パルス光の生成等も述べられた。最後に光の線幅を減らす手段としてdebuncherを用いて電子ビームのエネルギー広がりを減らす方法などが紹介された。結論としては30 m長直線部の利用を早急に進めるべきとのことであった。

 

 最後は利用者懇談会を代表して並川氏のClosing Remarkで幕を閉じた。

 

 

 

参考 施設名の略称

APS(Advanced Photon Source)

DELTA(Dortmund Electron Test Accelerator)

ESRF(European Synchrotron Radiation Facility)

HASYLAB(Hamburg Synchrotron Radiation Laboratory)

KEK(高エネルギー物理学研究所)

LBL(Lawrence Berkeley National Laboratory)

LURE(Laboratoire d'Utilisation Rayonnement Electromaguetique)

NSLS(National Synchrotron Light Source)

SLAC(Stanford Linear Accelerator Center)

SSRL(Stanford Synchrotron Radiation Laboratory)

SUNY(State University of New York at Stony Brook)

 

 

 

田辺 敏也 TANABE Toshiya

昭和37年3月26日生

理化学研究所 大型放射光施設計画推進本部

〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町

TEL.(07915)8-0835

FAX.(07915)8-1838

E-mail: ttanabe@postman.riken.go.jp

昭和59年早稲田大学応用物理学科卒業、平成2年米国コロンビア大学応用物理学科博士課程修了、平成3年伊国フラスカッティ国立原子物理研究所でφ-factory計画に参加、平成4年理化学研究所入所、レーザー科学研究グループを経て、現在大型放射光施設計画推進本部に所属。加速器とレーザー、放射光等の光源全般の性質の物理研究を行う。米国物理学会Sigma Xi会員。最近の研究:SPring-8挿入光源評価装置の開発。今後の抱負:文系、理系の区別なく理解を深めていきたい。趣味:自動車全般、海外メディア

 

 

北村 英男 KITAMURA Hideo

昭和22年6月23日生

高エネルギー物理学研究所 放射光実験施設光源系

〒305 つくば市大穂1-1

TEL.(0298)64-1171(内線6706)

FAX.(0298)64-7529

昭和45年京都大学理学部卒業、昭和51年8月同大学院修了、同年9月東大物性研助手、昭和55年5月より高エネルギー物理学研究所放射光施設助手、助教授を経て平成2年4月より教授。理学博士、日本物理学会、日本放射光学会会員。最近の研究:挿入光源、自由電子レーザー。今後の抱負:第4世代放射光源の開拓。ピアノ音楽鑑賞、スパイもの、法廷ものビデオ鑑賞が趣味。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794