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Volume 14, No.3 Pages 232 - 234

5. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTERS FROM SPring-8 USERS

併用開始10周年記念出版(抜粋)その2 併用開始10周年に想う
Recollections on the 10th Anniversary of the Dedication of the Facility

松井 純爾  Junji Matsui

第二代会長(財)ひょうご科学技術協会   放射光ナノテク研究所   The second President Hyogo Science and Technology Association,Synchrotron Radiation Nanotechnology Laboratory
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 私が利用者懇談会(利用懇)会長の役を菊田前会長から引き継いだのは、SPring-8で初めて放射光が供用に呈せられてからまだ間もない1998年4月でした。ビーム供用とともに利用懇が定常的に機能するまでの菊田会長のご苦労は、いわば光が走り出してから後の会長のそれとは、比べものにならないほど大変なものでした。その当時は会員数が増加の一途をたどる時期に相当しており、私の就任直後には1,200名を越す勢いでした。

 当時の利用懇にはサブグループ(SG)が36もあり、そのうち約20のSGは実際にビームラインの建設・立ち上げに関わり、その後もそれぞれのビームラインに貼りつく形で、SGの発足時の利用形態をまだ維持しておりました。しかしながらユーザーの増大に伴い、一本のビームラインをひとつの研究技術分野に特化して配分することが困難になってきました。そこで、一本のビームラインに異なる分野の研究者が「相乗り」で利用しなければもはやマシンタイムの配分ができそうにないという気運が盛り上がり、配分への柔軟な対応が施設側の要求としても意識され始めました。利用懇におけるSG活動としても、「建設・立ち上げ」フェーズから「利用技術の蓄積と高度化」フェーズへの移行という視点で予算を使わせていただく、という形におのずから変化して行きました。

 就任当時のSPring-8では、まだ長直線部ビームラインの利用はほとんど無く、利用懇内でもこれをどう使うかの方策を考えようという動きが出始めた頃でした。リングの電流値は70 mA(当然まだトップアップ運転はありません)で、かなり安定した運転モードを維持できていましたが、特定目的のための新規ビームライン建設はもはや不可能に近く、施設側からも特徴ある光を前面に押し出したビームライン建設を提示することが求められました。そのような要求に対応して、利用懇もまたSG組織の再編化を余儀なくされました。その結果としては、新規SGは五つ(ランダム系物質のX線散乱、表面電子物性、精密構造物性、X線非線形光学、コヒーレント軟X線)に留まり、SG活動のあり方にやや暗い影が宿り始めた時期でもありました。一方で、SG世話人はSGの運営に努力させられるものの、本人が提案する課題申請は必ずしも採択されず、世話人のフラストレーションとなってきたことから、世話人のあり方についての議論が持ち上がりました。利用懇の幹事会でもいろいろな議論がなされましたが、結局のところ、施設側への「研究課題選定制度」改革提言に加えて、利用懇のSG構成を、「利用課題別にSGを組織する」から「共用ビームラインの建設提案、高度化への協力を主体とするSG」と「特定ビームラインに属さず一定の研究分野への発展を目的にした研究会」とに再編成することを目途として、利用懇会員でかつ実験責任者にアンケート調査を行いました。しかしながら、寄せられた意見は実に多種多様で、これを包括して施設側への要望とするにはあまりにも意見が発散し、これを収束するには至ることなく、前述のSG組織改正に留まりました。

 私が会長に就任した1998年春頃には、産業界からの会員は約15%とかなりの数ではありましたが、SPring-8で実際に実験される産業利用の採択課題比率は4〜7%と極めて低く、欧米のそれに比してやや見劣りする状況でした。しかし幸いにも2000年度から国の「特定放射光施設利用研究支援」のための手当てが始まり、JASRIに産業利用コーディネータと技術指導員を配置することにより、放射光経験の浅い産業界にも門戸を広げる利用推進体制がようやくスタートしました。加えて、いわゆる「トライアルユース」制度が功を奏して、今日では産業界からの課題採択比率が20%にも達し、欧米の放射光施設を驚かせている現状を見ることは、産業界出身者である私個人として大きな喜びとなっています。

 利用懇ではその後、会長が坂田先生、坂井先生に引き継がれ、放射光利用の研究環境が厳しく変化する中で、それぞれの時代の課題に面と向かわれながらご苦労されて参りました。十年の節目を迎える今日、利用懇の向かう先は必ずしも明るくはありませんが、欧米に負けない施設を最大限に生かした研究成果を生み出す研究者集団であることは間違いありません。そのために「利用懇がなし得るアクティビティは何か」ですが、そのための施策としては、現在構成されている研究会活動を活発化する以外あり得ません。新規ビームライン建設の可能性が極めて低い今となっては、既存のビームラインに新しい手を加えて機能アップを狙う以外に発展の道はないでしょうから、そこのところにどう利用懇の研究会がアイデアを注入できるかが焦点となってきます。その際大事なことは、各研究会所属の研究者が、自分たちの研究テーマの展開のみを主張していたのでは何も進まない、ということです。そうではなくて、類似する他の研究会で何が議論され、どうしたいと考えているかについての情報を得て、その上で装置構成的にも費用的にも協力できることは協力し合うことをやらないと、できることもできなくなります。特に、一本のビームラインを複数の研究分野でシェアするようになって以来、ハッチの中の装置なり光学系のブラシアップのためには、それぞれのグループ間での協力と、適度の妥協が必要でしょう。

 SPring-8には、自由電子レーザーの施設がまもなくコヒーレントな光を発する予定ですが、これを機に既存のビームラインの高度化が一層進むことでしょう。そこで展開されるであろう「高速時分割測定」や「コヒーレント光利用」は待ち遠しいテーマですが、一方で既存のビームによる「円偏光」、「PEEM」、「サブミクロンビーム」等の十分な活用はまだこれからです。

 今、世界中の経済状態はご存知のとおりですが、資源の少ないこの国は、材料に付加価値を付け、世界が真似のできない機能を持った新材料やそれらを使った高性能な機器を開発して、世界に売り出し儲けて行く以外、生きるすべはありません。「そういう環境変化は学術分野には関係ない」とする見方もありますが、国からの投資予算や研究費の補助はまともに経済状態を反映します。そんな中、会員の皆様のご苦労は計り知れないものがありますが、今後のご活躍を是非ともお願いいたします。供用開始後十年という節目にあたり、利用懇の前身である「次世代大型X線光源研究会」以来の利用懇関係者のご努力に敬意を表します。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794